最強のエースパイロット…の陰でしれっとスコアを伸ばすとある一般隊長のお話 作:Yura0628
襲撃は一見静かに、しかし大規模に開始された。
先立って惑星更科のインフラ、防衛、治安維持、気候制御システム等に根を張っていた各種ウイルスが一斉に起動。更科の統合管理部は大混乱に陥る。
『回路遮断急げ!侵入されるぞ!』
『カウンタープログラム起動確認。迎撃を開始!』
直ちにカウンタープログラムが起動し迎撃を開始するが、相手のウイルスが既存のものと共通性が極めて少ないこと。また大和連邦領の内部に位置する更科は侵攻の危険性が低いため、本格的なカウンタープログラムが配備されていないこともあり、対処が後手後手に回ってしまった。
やがて各システムを食い荒らしたウイルスは、飯山教導基地内のある場所を目指す。
『マズいぞ…!』
ある場所とは、飛宙開発実験団の統合管理システム。そしてその先にある、各種試作兵器。
試作兵器故、独自の防衛機構を持たないこれらは瞬く間にウイルスの制御下へ降る。
『各Xナンバーとのデータリンク喪失!』
『フィードバックは!?』
『ダメです!』
各試作兵器を制御下に置いたウイルス群は、彼らを目覚めさせ、ただ一つの命令を出す。
-破壊せよ-
と。
《X-526 起動》
《X-231 起動》
《X-682 起動》
『こちら飛宙開発実験団!全Xナンバーがウイルスにハッキングされ起動した!直ちに防衛部隊を…ガッ!』
飛宙開発実験団区画が火の海になるのに、そう時間は掛からなかった。
だが襲撃はこれで終わらない。
大和連邦領には、各惑星を基点として全宙域に指向性WDAが展開されており、領域内での航行は、WDAの影響を受けず厳重な防衛がなされているワープゲートを通過するか、事前に航行計画を提出し、WDAを一時的に解除して貰わなければならない。
よって大和連邦所属艦艇以外が、領域外からいきなりワープ航法で襲撃を行う事は不可能である。
ならばこの基点の一つを司る更科の防衛システムがダウンしたらどうなるか?
…答えは一つ。領域外からワープ可能なWDAの空白宙域が生じる事になる。
もちろん空白宙域が生じるのは更科周辺のみであるため、国家自体が危機に陥る事はない。それでも地方統合艦隊クラスならば襲撃を行う事ができるのも事実だ。
『軌道上に所属不明の艦隊捕捉!規模は地方統合艦隊クラスです!』
『駐留艦隊に対応させろ!』
『ですが巡洋艦以下しか居ない駐留艦隊には荷が重いです!』
『そんなこと言ってる場合か!』
統合管理部が混乱の渦中に在る中、数的不利な駐留艦隊と所属不明艦隊の交戦が開始される。
……結果は言うまでも無いだろう。駐留艦隊は全滅し、所属不明艦隊の軌道降下を許すこととなった。
『どうすれば…!』
星系内の他の惑星からも援護の艦隊が向かっているが、数はたかが知れており撃退されるのは目に見えている。
希望があるとしたら別星系からの救援だが、この星系にはワープゲートが存在しない上、ウイルスはなんとWDAを復旧させたためそれも遅れる事は明らか。まさに詰みと言った状態に、統合管理部の人間達は絶望することしかできなかった。
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大和連邦本星 大和連邦航宙軍総司令部
ハクトと画面越しで今後の作戦概要を確認していたカグヤの元へ、その知らせが届く。
「カグヤ元帥!惑星更科がサイバー攻撃を受けています!」
「…なんだと!?一歩遅かったか…!」
唇を噛むカグヤを画面越しに一瞥したハクトは、報告してきたカグヤの部下に質問した。
『クッ…カウンターハッキングをこちらから行えるか?』
「既にサイバー軍が動いています!ですが相応に時間はかかるかと…」
『いや、まずは場所の特定だけで良い!急がないと大変なことになるぞ!』
「ッ場所だけなら既に割り出されています!」
そう言って部下が提示した座標を見て、カグヤとハクトは頷きあう。提示された座標が惑星軍が捉えた場所と完全に一致していたからだ。
『やはり情報は正しかったようですね』
「あぁ、予め待機させておいて正解だった。よし、秘匿軍全部隊の指揮権をハクト・サカイ、貴官に譲渡する…思いっきりやれ」
『了解』
そのまま通信を切り、カグヤは部下へ次の指示を出す。
「カラタの拘束準備を急げ!今なら間違い無く更科のデータを持っているはずだ!惑星管理省管轄である統合管理システムの情報を防御副大臣の奴が持っていれば、無断アクセスで拘束出来る!」
「了解しました!」
部屋から慌ただしく出ていく部下を見送り、各情報が表示されるモニターをカグヤは睨みつけるのだった。
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時は少し巻き戻り、惑星更科中央都市 日野
「えーっと、次はあの店ですね」
「まだ回るのかよ…」
「え?荷物持ち了承してくれたのは教官ですよね?」
「それはそうだが」
「なら情けないこと言わないでください。頼んだのはこっちですけど…」
「………………」
富嶽に敗北して数週間。俺はシノノメと更科最大の都市、日野へ買い物に来ていた。まぁ荷物持ちとしてであって決してデートなどでは無いが。
だが…女性の買い物の長さを見くびっていたかもしれないと若干後悔している。
荷物持ち用のロボットを使ったり、店舗から基地へ配送して貰えば良いと思うかもしれないが、謎の拘りがあるのだろう、シノノメは首を縦に振らなかった。
レイにしごかれているシノノメの息抜きも兼ねて、頼まれた俺は仕方なく荷物持ちをしていると言うわけだ。
「全く…機体に乗っている時と印象の差が大き過ぎますよ…」
「うるせぇ、俺はパイロットだからこれで良いんだよ」
「良くないと思います…」
とまぁこんな感じで平和?な昼下がりを俺とシノノメは過ごしていた。
「……ッ!?なんだ!」
俺達の耳に突如飛び込むサイレンの爆音。ポケットに入れた統合端末からもアラームが鳴り響く。視線を周囲へ向けると、道行く人々も足を止め不安そうな表情で辺りを見回していた。
「何が…!レイか」
状況を確認しようする俺の端末へレイから通信が入る。
『隊長!緊急事態です!更科の管理システム全体がサイバー攻撃を受けダウン。更に軌道上で駐留艦隊が所属不明艦隊と交戦を開始しました!』
「はぁ!?ここは大和連邦の深部領域だぞ!?どうやって…」
《緊急事態発生 所属不明勢力が武力攻撃を開始しました 市民の皆さんは直ちに最寄りのシェルターへ避難してください》
サイレンに混じり、避難を勧める放送が流れた。状況は思ったより深刻なようだ。
「‥教官。急いで基地に戻りましょう」
「いや、ダメだ。インフラがダウンしてる。戻れない」
『一先ず隊長達はシェルターへ!まだ情報が錯綜して…ブツッ』
「レイどうした?おい?クッソ…」
民間通信網もダウンしたか。こんなことなら軍用無線を持ってこればよかった。
仕方なく端末をポケットへ入れ、シノノメの方を見やると彼女は呆然と上を見上げていた。
つられて上を見上げた俺の視界の映るのは、無数の赤い光点。大気圏へ突入するナニカ。
「あれは…!」
轟音と閃光。都市近郊の防衛砲台が砲撃を開始したようだ。だが当たるものは少なく、みるみるうちに光点は近付いてくる。
咄嗟に俺はシノノメの手を取り、言葉を発した。
「走るぞ」