最強のエースパイロット…の陰でしれっとスコアを伸ばすとある一般隊長のお話 作:Yura0628
「走るぞ」
「り、了解!」
シノノメの手を取った俺は、避難誘導に従って大通りを全力で走り始めた。
悲鳴を上げながら走る群衆の中に呑み込まれるが、下手に逆らう事はせずそのまま移動を続ける。
「ッ!今のは…」
5分程走った後、轟音と共に地響きが起こり視界の隅に何人かが転倒する様子が見え、同時に放送が流れる。
『都市近郊に不明勢力が降下しました。防衛部隊が戦闘を開始しています。危険ですので、市民の皆様は最寄りのシェルターか、屋内に避難してください』
不明勢力がこの都市に降下したか。だが日野を制圧したとて軌道エレベーターにある統合管理部には辿り着けん、ならこの星を掌握することが目的では無いな。
不明勢力の目的は一体何だ?
わざわざこんな深部領域までやってきたんだ。決して軽い目的では無いはず。
現状最も考えられるのは飯山教導基地だが、あの基地が大和連邦の新兵養成機関として占める割合は1%にも満たない。ここを失陥させても大打撃にはなり得ないだろう。
などと思考を巡らせながらもひたすら走る。今はまずシェルターに避難する事が優先だ。軌道上から砲撃も飛んできてる、急がないと。
すると突然、シノノメが走りながら上方を指差し叫んだ。
「教官!左上方!」
「は?おいおい…」
視線の先、ビルの屋上に1機のHFが佇んでいた。灰褐色の見たことの無い機体。エンブレムにも心当たりは無く、今の俺達がどこの勢力の機体か判断する事は出来ない。
ただ分かるのは、コイツが砲口を群衆に向け今にも発砲しようとしている事だ…!
「クソッ、伏せろ!!」
瞬間、甲高いビーム砲の音が響くと共に熱風が地面に伏せた俺とシノノメを襲う。
伏せたまま顔を上げると、俺達の前を走っていた群衆が消え去り、代わりに火山の火口のようなモノが出現していた。
「やりやがった…!!」
民間人への故意の発砲…て事はコイツら正規軍じゃ無い、武装勢力か!!
国際条約で軍人から民間人への故意の発砲は固く禁じられている。仮に1件でも発覚すれば自国どころか世界の公的機関全てから制裁を受けるほど、今の世界は民間人を戦闘に巻き込むことへ忌避感を持っている。
だと言うのに数百人単位の民間人をコイツはわざと殺した…各国の秘匿部隊だったとしても民間人虐殺を行う明確なメリットがない。やるならもっと大規模かつ効率的にやらなければ精々安全保障上の不安を国民に植え付けるだけだ。
これらを考慮すると襲撃を行った不明部隊は武装勢力で間違いない。
「だったらシェルターも安全じゃねぇな」
もしこの武装勢力が虐殺目的なら進んでシェルターを襲うはずだ。HF携行のビーム砲程度なら耐えられるが軌道上からの艦砲射撃は流石に無理だ、と言うか艦砲射撃などハナから想定しておらず、艦隊戦力を持っている武装勢力の方が異常と言うべきだろう。
「なら逆に人が集まらない場所に行った方が良いか」
「教官、さっきから1人で何を呟いて…?」
「シノノメ、一旦シェルターに退避するのはやめだ。連中の目的がただの虐殺テロだった場合、今よりも状況が悪くなる可能性がある。今から俺達が目指すのは、あそこだ」
そう言って俺は今いる場所から300m程先のビル型空港を指差した。
「あの空港には民間に輸送用として払い下げられたHFが駐機してる。搭乗して基地に向かうぞ」
「なるほど、分かりました」
「よし立て、行くぞ」
そうして立ち上がり再び走り出すが、軌道上からの砲撃は苛烈さを増し、更にHFによる無差別攻撃で更科最大都市である日野は地獄の様相と化していた。
「マズイ!!」
無論俺達も影響を受けないはずが無く反対側に砲撃を受けたか、真横のビルが倒壊してくる。
「走れ走れ!!」
「分かってます!」
シノノメを急かしビル本体の倒壊範囲からなんとか逃れるが、瓦礫の落下はより広範囲に及ぶ。
嫌な予感がして後ろ上方を振り返った瞬間、1m超えの瓦礫が飛んでくるのが見えた俺は、左手に埋め込まれた歩兵用小型衝撃砲を起動。裏拳で瓦礫を思い切り殴り付けた。
《インパクト》
機械音声が腕から響くと同時に青いエネルギー波が瓦礫を吹き飛ばし、俺は難を逃れる。
大和連邦軍の如何なる兵科の人間にも埋め込まれる歩兵用衝撃砲だが、極めて射程が短い上、アーマーを装備すると使用ができないため歩兵戦闘で用いられる事はほとんどない。
だが基地襲撃を受けた際整備兵などが少しでも抵抗したり、今のような状況下では意外と役に立つものだ。
「シノノメ、衝撃砲を起動しておいた方が良い。今は暴発の危険より瞬時に出せる方が…」
「……ッ!」
「…言うまでも無かったか」
その後も危うく爆発に巻き込まれかけたり、ビルの下敷きになりかけたりしながらも
俺達はなんとか目的の空港へ辿り着いた。
入り口を破壊して中に入ると既に全員避難したのか人の姿は見えず、様々な物が床に散乱しているだけだった。
「エレベーターはだめ…ならしょうがない」
エレベーターは止まっていたため俺達は非常階段を登り、屋上ハンガーへ。
「………危なかったな」
ハンガーに入った俺達の前には、無傷の〈紫電〉が1機佇むのみで他の駐機スポットには機体は停まっていなかった。
だが、まだ問題はある。
「さてと…
紫電は単座運用される事前提で設計されているため、コックピットは狭くシートも1つしかない。幸い非常時に展開できるシートはあるがそちらでは操縦が不可能だ。
だからこそ、自分の命を預ける事になるため俺はシノノメへ聞いたのだ。自分で操縦するか?と。
逃げる際恐怖からか殆ど黙っていたシノノメだが、流石にこれには口を開く。
「…私が後席に座ります。操縦は教官が」
「…分かった。任せろ」
一瞬本当に良いのか聞き返そうと思ったが、彼女の表情に浮かぶ信頼を感じ取り俺は操縦を引き受ける。
その後すぐ俺達は紫電に接続されている配線やチューブを手分けして切り離し、コックピットへ乗り込んだ。
「ほらこれ被っとけ」
「これは?」
「転がってたヘルメットだ。何もないよりマシだろ」
「ですが教官の分が「大丈夫だ、気にすんな」…了解」
シノノメにヘルメットを渡し、俺は各システムを確認。
(操縦系統は火器管制以外は紫電改とほぼ同じか。なら行ける)
心の中で安堵の息を吐くと、俺は紫電のメインシステムを起動した。
「紫電、起動」