最強のエースパイロット…の陰でしれっとスコアを伸ばすとある一般隊長のお話 作:Yura0628
『敵部隊との距離、さらに近づく!接敵までおよそ160秒!』
「さぁ来やがれ…」
俺は操縦桿を握る手に力を込め、敵NamedであるNemesis隊の情報を確認していた。
(Nemesis隊…ロイヤル航宙軍が開示している情報だと、正式名はロイヤル航宙軍第7試験戦闘飛行隊、星海暦99年にプロトタイプ兵器の試験を行う部隊として発足、その後各地の戦争に参加、星海暦110年、アルファベスタの戦いでルーシ連邦のNamedを撃墜したことで新たなNamed部隊として発表か…)
その後も各地で多大な戦果を上げ、今の名声を獲得するに至ったようだ。
(って、今欲しいのはそんな情報じゃねぇ!ええっと、確か連邦の機密データベースにあったはず…これか、国防省Named分析課データファイル!)
俺の見つけたデータファイルには膨大な情報が記録されていたが、今は呑気にそれらを眺めている暇はない。即座にNemesis隊のデータを探して俺の権限で閲覧出来る戦闘記録等から彼らの戦闘スタイルなどの情報を抽出、部隊に共有する。
「全員データを確認したな!ハクバ隊は俺たちの後方に展開、支援を頼む!ツルギ隊各員は
そんな俺の言葉に、部下達だけでなくハクバ隊のパイロット達も、これから始まる戦闘に対して恐れを微塵も感じさせないような声で応えた。
(士気は十分だな…後は
『接敵予想まで後30秒!既に敵の射程圏内だ、各員警戒せよ!』
「よし、構えろ!来るぞ!」
俺の言葉に防御を担当する部下達はシールドを構え、その後ろでは他の機とハクバ隊が射撃体勢に入る。なぜ今撃たないのかはもう分かるだろう。
そして敵機体がズーム無しでハッキリ見えるようになり、俺たちの緊張が最高潮に達した時……………敵部隊が分離した。
「…なに!?」
『な!?』『っ!?』
俺達に動揺による硬直はほとんど無かった、敵が分離するのもパターンの一つにあったからこそだ。
だが、ほんの数秒に満たない時間でも、Namedの前で隙を見せるとはどういうことかを俺達は知ることになる。
…突出した角付きの敵機が目の前から消えたかと思うと、防御担当であるツルギ4の両腕が消失し、そのコンマ数秒後、後方のタンチョウが1機爆散する。
それでも呆然としている暇などない、そんなことをすれば次にやられるのは自分だ。
それが分かっているからこそ、俺達はそのタンチョウには目もくれず敵の機影を追う。分離した2機が俺達へ攻撃することなく艦隊へ向かったことを知らされるが、そんなことを気にしている余裕は俺たちには無い。
損傷したツルギ4をある場所へ退避させる最中、数秒でタンチョウを葬った角付きのHF…Nemesis隊の隊長と思われる敵機が再び反転してこちらに向かってくる。その動きを確認した俺は反射的に指示を出した。
「!!各機射撃開始!敵の機動を限定しろ!」
いかにNamedといえど、粒子砲を無視して向かってくることは不可能だ。そしてそれを利用しない手は無い。
そして俺の指示により各機から一斉に粒子砲が放たれる。
『こっちにきてくれてありがとうな!』
もちろん放たれた粒子は悉く躱される…が、敵機が躱した先にはツルギ2がビームソードを抜刀し待ち構えていた。
それでも敵機は慌てた素振りを見せずにツルギ2のビームソードを自身のビームソードで受け止める。
『ちっ!後退するぞ!ぶちかましてくれ!』
攻撃を受け止められたツルギ2は機体の力比べになる前に全速で後退、敵機のみがその場に残されることになる。俺達はそこへミサイルや粒子砲を全力で撃ち込んで巨大な爆発を発生させた。
これでやったか…などと思うことは無い。Namedをこの程度で仕留めることは
俺達は一切警戒を緩める事なく黒煙を睨み続け、敵機に備える。
そしてやはりと言うべきか、黒煙の中から一条の光が飛び出し、俺のシールドを焼いた。さらにそのビームの影響で黒煙は急速に拡散を始め、次第に敵機の姿があらわになる。
「だろうな…」
黒煙が晴れた先、赤いツインアイがこちらを睨んでいた。
血を思わせるその色は、怒り、憎しみなど様々な感情を孕んでいるように見える。
だが、今更気にすることなどしない。今はただ敵を堕とす事にだけ集中する、集中しなければならない。
(足を止めた…今が好機…!)
先程まで動き回っていた敵機が足を止めた…このチャンスを逃すわけにはいかないと思った俺は指示を出す、そして……目の前の敵機に遮られた。
「各機一斉『初めましてというべきかな、ツルギ隊、そしてハクバ隊の諸君』っ!?!?オープンチャンネルだと…!?」
通信機から響く低い男の声、こいつはまさか…
『私はNemesis隊隊長、バートランドだ。君たちの戦いに敬意を表する。まだまだ戦い足りないが、通常部隊がNamedの私相手に物怖じせず戦ったのは感嘆に値する』
(貫禄のある声なことで)
突然話しかけてきた事に訝しみながらも俺達は男の声に耳を傾ける。もちろん銃口は向けたままだ。
そしてバートランドと名乗った男は俺たちにある要求を突きつけてきた。
『さて、そんな君たちに私から要求する事はただ一つ、
「何?」
降伏だと?こいつらは俺たちの殲滅が目的じゃ無いのか?
『1分ほど待つ。賢明な回答を期待する』
(っ…切りやがった。なんだってんだ一体?)
『隊長、どうします?』
「どうするも何も、降伏するんだったら最初からやってるっての…くそ、おいソウルキーパー!聞こえてただろ!ヒビヤ艦隊はどう決断する、俺たちはお前らに従うぞ」
俺は苛立ちを感じながらソウルキーパーに尋ねる。艦隊に向かった2機も、今は攻撃を停止しているようだ。
『…………降伏は、しない。死んでもハクタカを守るのが俺たちの役割だ。分かってるだろ』
静かな調子でソウルキーパーは答える。まぁ当然の回答だ。それに降伏の打診はこれが最初じゃ無かったはずだ。とすると、この要求はバートランドの独断である可能性が高い。
もちろんNamedのパイロットにかなりの権限が与えられている事はよく知っている。俺達を生かしておくことも容易だろう、だが、俺達は自分の命より優先すべきものがある。そしてその優先すべきものを、[ハクタカ]を、王国の上層部が放っておくはずがない。俺達が[ハクタカ]の不可侵を要求したところで、いや、仮にバートランドが王国の上層部に訴えたとしても、希望は薄い。
ならば、降伏するメリットなどない。
『時間だ。回答を聞こう。』
「………悪いが、俺達には命よりも大事なものがあるんでな。降伏は断らせてもらう」
『………………残念だ。では、貴君らを殲滅させてもらう』
そう落胆したような声でバートランドが告げると、目の前の敵機が再び動き出した。
敵機は圧倒的な速さで俺達の囲いを抜け出し距離を取ると、小惑星の影を上手く使いながら再び向かってくる。
「総員備えろ!あと数分持ち堪え−−何!?」
刹那、俺の目の前から敵機が消える、否、消えたように見えた。センサーの追尾速度を超える垂直機動を行った敵機は下から急速接近し…俺を捉える。
この時反射で機体を捩らせていなければ、俺は死んでいただろう。
「っ!?!?」
そして敵機が真横を通過した瞬間、コックピットディスプレイに機体の損傷を表す警告が出る。それと同時に左半身の各システムにエラーが生じ、機体を動かすことが困難になってしまった。
俺自身は慣性制御システムが働いた事により、ビームソードで切り付けられた衝撃はほとんどない。
だが、機体の損傷がかなり酷いことを察した俺は即座に損傷評価センサーに表示される情報から機体ダメージを確認する。
(クソ…!左脚部及び左腕外装に損傷、左ウイングスラスターは完全に脱落、推力低下20%…最悪だ!)
これでも死んでないだけまだマシだと言われるかもしれない、しかし、システムエラーで動けない今、次は確実に落とされる…
(……いや、まだだ!)
まだ俺は死んでいない、ならば、
そしてそう思考する俺の耳を、ツルギ2とハクバ1の怒号が貫いた。
『隊長機中破!ツルギ7は隊長を援護、ツルギ9、14、16は俺と共に奴を追うぞ!』
『ハクバ隊各員!ツルギ隊の死角を潰す!目標、周囲の小惑星群、一斉射ーーーーー撃てっ!』
そんな彼らの声は、今の俺にはとても力強い励みとなった。
彼らの声に応えるべく機体を立て直そうとする俺に、ツルギ7が通信を繋いでくる。
『隊長、落ち着いて機体を立て直してください、周りは俺が見ています』
「悪いな、ツルギ7」
『いえ』
短い会話でツルギ7は通信を切ってしまった、相変わらず寡黙な奴だ。
さてそんなツルギ7の援護の元、俺はシステムを再起動し、損傷した左腕と左脚部の修復を開始する。
ヤブサメ改を始めとした新鋭機種に装備されている量子装甲は、損傷しても形状ガイドとなるフレームが破壊されていない限り、攻撃で飛び散った量子を再び誘引し完全に同じ性能を取り戻すことができる。そして物にもよるがその修復速度は、
《外装再構築開始、構築完了まで12秒》
「よし、修復完了まで約10秒だ。援護を頼むぞ」
『了解』
だが、そんな量子装甲にも修復を行うときは形状ガイドとなるフレームを動かすことができないという、明確な弱点が存在する。
その弱点を敵機が見逃すはずもなく、ツルギ2達の追尾を振り切った敵機が再びこちらに向かってきた。
『ツルギ7!敵機がそちらに向かった!』
『了解……………絶対に止めて見せる…』
ぐんぐん距離を詰めてくる敵機に対して、ツルギ7は数発の牽制射撃の後、近づいてきた敵機に対して極至近距離からのシールドチャージを試みる。
だが敵機は、ツルギ7のシールドチャージが当たる寸前に機体を捻って易々躱すと、ビーム砲をツルギ7のシールド裏に向けて放った。
『かかった』
「…やれ、ツルギ7」
ビームに撃ち抜かれたかに見えたツルギ7だったが、爆発による眩い光は起こらず代わりにツルギ7の蒼いバイザーとビームソードの光が閃いた次の瞬間…………敵機のビームライフルが切断されていた。
さらにツルギ2達も追いついてきて敵機は俺への接近を断念、離脱を余儀なくされる。
『外したか』
「だがビームライフルを破壊したのは大きい、各機は他の遠距離武装に注意しつつ積極的に攻撃を仕掛けろ!」
『ツルギ2了解。ツルギ7…感謝する』
『…………感謝を述べるのは敵機を退けてからにしろ』
『ハハッ、言ってくれるじゃねぇか…隊長、いけますね?』
「あぁ、もちろんだ」
ツルギ7のおかげで修復は完了、システムの再起動も完了。万全とまではいかないが…十分やれるはずだ。
そこへさらに、ソウルキーパーから希望の知らせが届く。
『戦闘中の各機!味方艦隊到着まであtグッ!?くそ…味方艦隊到着まで後1分だ!それまで絶対にくたばるんじゃないぞ!』
彼のいるヒビヤ艦隊も、2機のNamedに攻撃されて撃沈された艦は一隻もいないようだ。彼らが奮戦している今、俺達が軽く蹴散らされる訳にはいかない。
「ツルギ隊各員、多くは言わない…行くぞ」
『『『『了解』』』』
『ハッ、俺たちも負けていられないね』
『そうですね』
(お?ハクバ隊も何やらやる気になったようだな)
Namedと相対してるはずなのに、いつの間にか俺たちの間にあった恐怖と絶望は薄れていた。
勝つことはできない、だが負けることもないと、不思議とそう思えた。