転生腹黒幼女は装者たちを曇らせたい   作:靉靆 

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人の形をした者

 

 

 

 何もかも掌から溢れていく。

 大好きなパパとママを殺されたあの日。

 大切な友だちを自分の手で傷つけたあの時。

 

 失いたく無いものばかりが消えて、欲しいものがあたしから遠ざかってく。

 

 今ではもう身体を疾る電流にしか、他者との繋がりを感じられない程あたしは色んなものを溢してきた。

 

『良い事クリス──痛みだけが、人と人とを繋ぐ唯一の絆なの』

 

 あたしとイリスを引き離したフィーネが憎くて、だけどもうあたしに残された唯一の繋がりに依存しちまう自分自身の弱さがもっと大っ嫌いだった。

 融合症例やデュランダルの奪取だって戦争を潰すための力を欲したのもそうだが、フィーネに見限られて見捨てられるのも怖かった。

 そんなどっち付かずなあたしの弱さがイリスを裏切ったんだって理解していても、最後に残されたこの繋がりを断ち切る勇気があたしにはなかった。

 

 

『いたいよ、クリス』

 

 瞼を閉じると、傷んだ夢を見る。

 空想に現れるイリスは、あたしの心の弱さが映し出したただの幻影なのか。

 

『どうして……? いたいよ……やめてクリス……』

 

 腕を捥ぎ取られたイリスがあたしに縋る。

 脚を切り落とされたイリスがあたしを呼ぶ。

 内臓を溢して、眼球を落として、骨が砕けて突き出たイリスの姿を──毎晩、夢に見る。

 

「──っ。ぅ……ぉぇ」

 

 

 そんな後味の悪い明晰夢から目を覚ます。

 イリスと別れてからずっと、こんな酷い夢ばかり見ちまう。

 あの夜ノイズに身体を貫かれながら戦うイリスの姿が怖くて仕方なかった。

 あの日あたしに裏切られても罵倒の一つも言わず泣きそうな顔をして逃げるイリスに感じた罪悪感は、今でもあたしを蝕んでる。

 

 ごとり、と。ベッドの中に違和感を感じる。

 布団を捲れば、鎧が──ネフシュタンの鎧が何故か其処にあった。

 

 分からない。分からない。分からない。

 なんでこんなもんが()()()から毎晩あたしの許にあるのか、皆目見当もつかなかった。

 

 フィーネに聞いてみれば、あいつはそんな事知らないと言いながら興味深そうに鎧を見た。

 

『聖遺物の中にも、天上の意志めいたものを持つ類もあるわよ。古今東西で語られる魔剣や聖剣にそう言った伝承はよくあるでしょう? ──模造品なれど()()もまた、貴女に何かを伝えようとしてるのかもね』

 

 ふざけんな。それがあの胸糞悪い悪夢(ユメ)だと?

 

 なんでイリスの傷つく姿を見なきゃならない。

 なんでイリスの苦しむ姿を見なきゃならない。

 なんでイリスの悲しむ姿を見なきゃならないんだ!

 

 怒りをぶつけたくても、憎しみを込めたくて理由を探しても──最後に浮かぶのは、あたし自身がイリスを裏切ったあの日だった。

 

『いやだよ……私は、クリスと戦いたくない』

 

 あぁ……全部。あたしがなにも変えられないくらい弱いせいだ。

 煤で穢れた手を握ってくれたあいつに、結局なにも返してやれなかった。

 

「お前に逢いたいよ、イリス」

 

 蛇に絡め取られた運命を呪いながら、あたしは今日も“痛み”で繋がる絆という名の毒に身を浸す。

 

 

 

 

 

 █

 

 

 

 

 ──あー、暇すぎる。

 

 二課に与えられた一室で過ごすこと数日。私は退屈極まる現状に嫌気がさしてきた。

 

 二課に保護されたのは失敗だったかなぁ……でも翼さんの復活を間近で見るにはこのタイミングがベストだったしなぁ。

 

 次の転換点まで日は短いとは言え現状特に絶望させ甲斐のあるポイントも運命の揺らぎもそれほどある訳じゃないから、これまでの激動の日々を思い返すとなんだか灰色の刹那に辟易としてしまう。

 

 そんな虚無に耽る割合が多くなった今の私にとって唯一の楽しみは、夕暮れ前のこのひと時だった。

 

「ア・イ・リ・スちゃーん!!」

「わっぷ──いきなり抱きつかないでよ、響さん」

 

 バタンと勢いよくドアが開けられたと思えば、私の小さな身体をお日様がギュッと抱きしめた。

 そう、我らが主人公立花響である。

 

「翼さんは最後の診察に行ってるから、今日は私がアイリスちゃんを独り占めだよー!」

 

 あ〜。光属性陽キャのハグ気持ち良い〜。

 

 あれから毎日翼さんの他に私の部屋を訪れる立花響。

 再びの邂逅にお日様のような笑顔を見た時、胸が高鳴った。

 

 クリスちゃんや翼さんほど深く関わることができず与えられた心の傷も前者に比べてそれ程と言えども、あの胸を穿つ現実をそれでも受け入れて原作通りに光の道を歩む彼女に──翼さんに感じた感動を思い起こした。

 

 というか私が介入しなくてもバンバン曇るし翳るしギスるんだよねビッキー。その度に復活して光属性満開のお日様スマイル見せてくれるの本当に大好き。

 

「良かった。アイリスちゃんが二課に来てくれて」

 

 どこかほっとした様な面持ちで私を抱きしめたままビッキーが囁く。

 

「……別に、二課なんて私は信用してないよ。翼さんと響さんは違うけど」

 

 返すのは否定。言葉の節々に懐疑と憤怒を混ぜ、目を伏せ憂いを見せる。

 私のその様子に、彼女は表情を翳らせた。

 

 

「──なんで響さんは、あの人たちの事を信じられるの?」

「アイリスちゃん……?」

 

 嗚呼、そうだな。故にこれは次の運命までの()()()()

 だが彼女との今の繋がりを蔑ろにする訳でもない。

 ただ、この立花響が私の俯瞰してきた主人公(えいゆう)へと辿る道を順当に歩んでいるのかの確認。

 

「そもそも響さんが戦場(いくさば)にいる事自体がおかしいよ」

 

 悪魔(わたし)の紡ぐ堕落の蜜に、どうか耐えてくれ立花響。

 

 二年前の惨劇により日常を壊され望まぬ運命を課せられた貴女には、その重圧から逃げるという選択肢があるはずだ。

 その原因となった二課──或いは、その背後にある組織体系こそ不安の塊。

 特定の職員及びオペレーター。そして二課司令の風鳴弦十郎と間違いなく人格者と呼べる人々こそいるが、そもそもこの組織をかつて率いていたのは護国の鬼、風鳴訃堂。そこかしこに策謀という名の闇の残滓を感じる。

 

「貴女はただの被害者。戦わなくて良いの」

「それは……」

 

 瞳を潤わせ、懇願する様に手を握る。

 いずれ世界を救い、人類を導き、神すらをも納得させ繋いでゆく素晴らしき御手に礼賛と尊敬を抱きながら。

 

「私のように憎悪に溺れる事なく自分を保って、人でいられて、大切な日常を謳歌する資格がある──だから響さんが戦場に立つ必要はないんだよ?」

 

 甘い毒を一筋、私は垂らそう。

 知っているとも、立花響。貴女は何度挫けようとも立ち上がる不屈の主人公──されど今は、成長を果たしたとは言え未熟の残る黄色い嘴。

 

 シンフォギア3期(GX)にて父親から大事な薫陶を受けた立花響に比べてまだ、貴女の精神(こころ)には隠し切れない“脆さ”がある。

 

 何よりも大切な陽だまりに秘密を打ち明けられずすれ違う今の貴女になら、この毒はその心に深く深く染み入るはずだ。

 

 ……確かこの時のひびみくってビッキーが未来さんの誘いを断って翼さんのお見舞いに行った所を未来さんが偶然目撃するとか言うドロドロな関係性真っ只中なんだよね。なにこの昼ドラ?

 

「やっぱり。アイリスちゃんは優しいね」

 

 握った手を、握り返される。

 あったかいお日様の様にぽかぽかと私を包む両の手には、確かな意思が籠っていた。

 

「最初はね、あの日命を落とした沢山の人を思ってたの。生き残った私が、せめてその代わりになりたいって」

 

 二年前の惨劇。それにより零れ落ちた命を思い戦場に立つ歪な在り方を、立花響は語った。

 

「でも今は、自分の意思で誰かを助けたいんだ! いつまでも守られた事を負い目に思いたくないから!」

 

 そしてその在り方を顧みながらも、今は過去を振り返らず前を突き進む。

 だけどただ彼方に追いやるのではなく、その双肩に背負いながらも不朽の求道を彼女は歩むと語った。あぁ──これを尊ばずして何を尊べば良い?

 

「だから、私はアイリスちゃんとも手を繋ぎたい」

 

 これで未だ、主人公(えいゆう)の雛形だと?

 どれだけ私を昂らせてくれる!

 どれだけ私に()()をさせてくれる!

 

 これから訪れる試練を! 苦難を! 絶望を! 貴女は繋ぐその手で乗り越え進むのだな!?

 

 貴女はこの先(かつて)、自分は英雄なんかじゃないと語る(語った)

 だが、違う。貴女こそ英雄であり光の道を歩み進む勇者なのだと、私に誇らせてくれ。

 

「そっか──強いね、響さんは」

 

 紛れもない本心を言葉に込めて、私はこの世界の“主人公”を見つめた。

 

 故に、そうさな──先ずは愛おしい陽だまりに秘密を抱えながらその求道を貫いて、すれ違い、最後には至高の結末に至ってくれ。

 

 

 

 

 

 █

 

 

 

 

「随分とご機嫌ねぇ」

「別に。貴女には関係ない」

 

 英雄譚に微睡みながら、傲慢な蛇は相対す。

 相手は終焉の銘を持つ先史文明時代の亡霊──今はその本性を隠し二課所属の技術主任として仮初の立場を演じる、櫻井了子。

 

 二課に保護され、メディカルチェック等の診断を受ける事を義務付けられたアイリスは、この数日で装者たちのみならず櫻井了子ともほぼ毎日顔を合わせる事となっていた。

 

「相変わらず素っ気ないわねー! 翼ちゃんと響ちゃん以外にはずっと塩対応なんだから」

 

 保護されて数日。相も変わらず装者以外には決して心を開かない少女の姿に櫻井了子はため息を吐いた。

 

「翼ちゃんに言ってた“友達”の事についても弦十郎くん気になってたわよ? 貴女さえ良ければ二課の権限で探して仲を取り持ちたいって」

 

 瞳に、フィーネとしての感情が僅かに宿る。

 十中八九アイリス・フェイルノートの語る“友達”とは自身の手駒である雪音クリスに他ならず、彼女の正体どころか今の自分の根城やフィーネとしてソロモンの杖を携えた自分の姿まで知られた身としては、当初アイリスが二課を訪れたと聞いた時は変装してるとは言えさしもの彼女も肝を冷やした。

 

「貴方たちなんかに、話したくない」

「……あらら。嫌われたものね、二課(私たち)も」

 

 ──此奴が二課の面々を微塵も信用してないのは僥倖か。まあ、いずれにしろクリスもあの城ももう直手放す代物ではあるがな。

 

 アイリス・フェイルノートが“大人”を全く信用していない事に、フィーネは僥倖を覚えると同時にあれ程までに凄惨な来歴を辿り一応の元凶とも言える二課に身を寄せるとなればその懐疑心に満ちたありようは不思議ではないと、彼女は納得する。

 

「それにしても吃驚(びっくり)ね。だって映像で見た時と全然違うんだもの。“あの”アイリスちゃんと性格が」

 

 凶剣としてのアイリス・フェイルノートを話題に出す。

 ノイズに対して見せた暴虐性の極致。

 自傷を恐れず、自罰を課し、憎悪と赫怒を振り撒き世界への罵倒を吼える漆黒の鎧武者。

 

 ネフシュタンの鎧を身に纏う彼女、融合症例として立花響よりもさらに深度の深い一体化を果たしたアイリスはフィーネにとってまさに至上の観察対象。

 

 実験材料(サンプル)として“腑分け”することは今や不可能とはいえ、二課最新鋭のメディカルチェックを用いた検査にこうして直で対面する事によるメンタルチェックを利用した融合症例が齎す精神状態への影響の調査は、彼女にとっても悪くない時間であった。

 

「“あの”アイリスちゃんはもう出てこないのかしら?」

「分からない。翼さんともうあんな戦い方はしないって約束したし──でも私の中の凶剣(わたし)は多分、“奥底”でこう言ってる」

 

 その一言を皮切りに、雰囲気が変わった。

 今までも対応に棘のある幼女であったが、もはや今の彼女の様相は先ほどまでの可愛らしい子供の駄々に留まらない。

 皮膚に浮かぶ蛇の鱗が腕を伝い、首から頬まで侵す。

 まるで爬虫類の如く縦に伸びた瞳孔。元来備わる赫の色彩に翡翠の彩りが加わり、妖しく揺らめいていた。

 

「死ねよ貴様ら。塵屑だろう?」

「──っ」

 

 齎されるのは、絶死の宣告。

 剥き出しの犬歯、世界を呪い殺さんばかりの眼光。

 声色に乗せられた感情は、漆黒の赫怒。

 

「赦すものか、その存在の一片すらも」

 

 殺す。殺す。殺してやる。

 濃密なまでの殺意にフィーネは瞠目する。

 消えただと? 冗談を言うな。お前の狂気(さつい)は微塵も衰えず其処に存在してるではないかと、終焉の巫女は数千年の輪廻においても異端に尽きる殺戮の権化に言葉を失う。

 

「苦悶の雑音(こえ)をあげながら死んで()け」

 

 最後の一節。小さな口から黒き情動が発せられたのを皮切りに、凶剣がアイリス・フェイルノートの表層から姿を隠した。

 

「あの子と別れて、“今の私”が意識の殆どを占めてるの……でも、もう一人の凶剣(わたし)は心の奥底で蠢いてる」

「二重人格……解離性人格障害かしら?」

 

 櫻井了子の問いに、アイリスは首を横に振る。

 

「違う。ネフシュタンのお陰で形になっただけで“これ”も紛れもない私自身。コインの裏表じゃなくて混ざり合った白黒の絵の具。ノイズに全てを滅茶苦茶にされた私の抱いた原初の渇望(いかり)──だと思う」

 

 ──聖遺物との融合。精神状態の不安定さ。立花響も微かに見せていた暴走の前触れ……か。

 

 アームドギアの形状や特性が装者の心象に大きく左右されるように、聖遺物と精神状態は密接な関係性を持っている。

 怒りや恐怖といった負の感情が影響を齎すのであれば、アイリス・フェイルノートは間違いなく暴走を引き起こすに足る赫怒と憎悪を常に抱いている──ならば、今まで見せてきた暴虐はネフシュタンとの相互作用によるものかと、フィーネは結論づける。

 

「はい。それじゃあ今回の診察も終わりっと。一応安定剤も出しておくわね」

「……貴方たちから出された薬なんて飲みたくない」

「保護された当初とは偉い変わり振りね貴女。どれだけ翼ちゃんに変えられたのよ。まっ、これも私の仕事だから仕方ないのよー、それじゃあね。アイリスちゃん」

 

 黙って席を立ち医療室から退室するアイリスを見届け、やがて櫻井了子(フィーネ)は終焉の巫女としての己を表に出す。

 

 

「公的には立花響に続いて認定された融合症例第二号──それも前者より深度も身に沈めた聖遺物も桁違い。まさにこの世に現存する“奇蹟”だな」

 

 ひらりと、フィーネは一枚のレントゲン写真を取り出す。

 アイリス・フェイルノートの検査結果。しかし、彼女のそれには一つたりとも異常は見つからなかった。

 立花響のように心臓の欠片が蔓のように身体を侵食しているわけでもない、()()()()()()()()()()()()()()姿()にフィーネは思わず瞠目した。

 

「“生きた聖遺物”とかつて評したが、まさかここまでとはな」

 

 内臓も、骨も、肉も、血も、皮も──全てが人間の形をしている。故にその恐ろしさを、フィーネは肌で感じ取っていた。

 

「人の部分など微塵もありはしない。聖遺物により人の形を保っただけの化け物。唯一残されたその心もまた、完全聖遺物の引き起こす共鳴作用により歪められていると言ったところか──嗚呼、なんと(うつく)しい」

 

 いずれ自分も至る末路を先読みし、歓喜を興す。

 

 

人類(ヒト)が、遠い過去より施されし呪縛より解き放たれ」

 

 欠片(ピース)は揃った。

 完全励起を果たしたソロモンの杖と不朽不滅(デュランダル)

 完成を目前に控えし月を穿つ荷電粒子砲(カ・ディンギル)

 そして、二人の融合症例により完成へと近づいた己と模造品(ネフシュタン)の融合理論。

 

「再び真なる言の葉で語り合う為に。“その時”は、もうすぐそこ……!」

 

 狂信者は、己が数千年の渇望の成就を夢見る。

 

 

 






鎧『████████████(そんな事一言も言ってないぞ)


⚫︎アイリス・フェイルノート
 ビッキーにも脳を焼かれてるカス。
 クリスちゃんの純情を弄んでおきながらひびみくつばのデート回に混ざろうとか考えてる。

⚫︎立花響
 幼女にとっての英雄。勇者。主人公。
 この後原作通り陽だまりとすれ違う。
 
⚫︎雪音クリス
 あれから毎晩毎晩R-18G状態の友達が夢に出てきてSAN値が削られてる。全部幼女が悪い。


 

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