いや本当に最高だったよ相棒。才能あるね君、一緒にこの業界でトップ目指さない?
『
脳内に響き渡る私の半身とでも呼ぶべき声と会話する。
原作と言う運命が開始してから鮮明に聞き取れる様になり、意思疎通すら可能となった声──ネフシュタンの鎧はまさに、私の相棒だった。
原作には存在しない筈のその中身。間違いなくこの完全聖遺物は確固たる意志を有していたのだから、当初の私は驚嘆したモノだ。
そんな私とネフシュタンの最高コンビが凄惨な真実をクリスちゃんに告げた翌日、私は二課本部の一室で以前よりも強固な軟禁状態となっていた。
うん。まあ仕方ないね。いくら弦十郎さん達が子どもに優しい大人と言えども流石に昨日みたいな常軌を逸した暴走は看過できなかったみたいだ。
だけど今は、そんな不自由すらどうでも良いほどに私は昂っていた。
嗚呼、特にクリスちゃんの絶望に満ちた顔と悲痛なまでの
最愛の親友を裏切り! 何も知らぬまま力を利用し! 悍ましき肉片を纏いその真実を告げられる! なんて素晴らしくも悪辣なシナリオだろうか!
愛しい白銀の少女の蒼白になった顔を思い起こしながら、故に思う。
さぁ、早くこんな試練を乗り越えて。
立花響との語らいで手を繋ぐ仲間を得て、父と母への尊敬を取り戻し、月を穿つ破滅を食い止めながら自分の
『
……? 何言ってるのかなネフシュタン──彼女が、
『
びっくりしたなぁ……いきなり意味の分からない事を言わないでくれよ相棒。
英雄だよ? 勇者だよ? 世界を救って人類を導いて神すらも言葉と歌で説得して、神様も知らないヒカリと答えを導き出して新たなる相互理解への道を得た彼女たちだよ?
『
分かってない分かってない分かってない! 分かってないなァ!? 君は彼女たちを全く理解できてない!
立花響は迫害され続けた理不尽な現実やどんなに苦しい逆境に見舞われようとも敵とすら手を繋ぎ陽だまりへの愛で二千年の神殺しの呪いすら超克した! 小日向未来は最愛のお日様と共に神が思い悩んだ命題に答えを出して最後には約束の流星を眺めて胸の想いを伝えた! 風鳴翼は呪われた血の運命に争い本当に敬愛すべき父を想い片翼との刹那を胸に歌女としての責務を果たした! 雪音クリスは血と硝煙に塗れた悪夢と罪悪感に溺れながらも大切な仲間や夢を見つけ父と母の夢を引き継いだ! マリア・カデンツァヴナ・イヴは狂気的な環境で肉親を失おうとも世界を救うと言う大義のためなら悪の名を背負い正義を成さんと狂い哭いた! 暁切歌は愛おしい月と共に大義を抱え己の生誕すら不明瞭な身の上であろうとも他者を想う優しさと共に自己を犠牲にした! 月読調は愛おしい太陽と共に同じく大義に殉じ空っぽな記憶を持つ身でありながらも真に愛すべき
彼女たちが! シンフォギア装者が!
──だから最後に彼女たちは、逆光と共に虹の輝きを迎え未来への
『
ふむ、やっぱり休眠の時期もあったとは言え数千年も前から活動してるとなると人とは違う価値観を持ってるのかな?
私と記憶を共有し、あの美しい
全シリーズを何度も何度も
ならば分かるはずだ──彼女達こそ、この世界に於ける不朽不滅の
『
そんな相棒との対話に思考を割く最中、ガチャリと私を閉じ込めていた一室の扉が開けられた。
視線を向けると其処には──愛おしい絶刀、風鳴翼が来訪していた。
「……アイリス。具合はどうだ?」
ここに閉じ込められる事はや1日。こうして私の元へ表情を曇らせ訪れる翼さんへ昂る感情が止まらない。
ビッキーは今頃未来さんに絶交を告げられて呆然としてるのかな? うわすっごい見たい! 大好きな陽だまりとすれ違って涙するビッキー見たい!
あっ♡でも翼さんが心配そうに私の事見つめてるのも良い♡
これから聖遺物に身体を好き勝手されて罪悪感に狂った幼女がもっと曇るから一緒に翳ってね♡
と言うわけでネフちゃん後はよろしくね!
『
とりあえず君の方の人格を表に出すからなんか良い感じに翼さんのメンタルにダメージ与えておいてね。
イメージとしては二期中盤で翼さんがビッキーの身体の異常を知った辺りくらいの曇り加減でお願い!
あっ、後は私がもう暴走しないって良い感じに言い訳もしておいてね。
監視はともかく流石に最終決戦まで監禁はキツいから。
『
あー、そういえばネフちゃんはツヴァイウィングの歌で励起したんだっけ。やっぱりそう言うのに恩義とか感じちゃうのか。
原作の君は普通にラスボスに調教されて片翼曇らせまくってた恥知らずだけどそこんとこどうなの?
『
でもその関係性も俄然燃えるから早くネフちゃんのドロドロな愛憎渦巻く快演見せて♡
『
そう言いながら昨日もだけど最終的には承諾してくれるよね君。
私のこと好き過ぎない? まあ私も君のこと大好きだけど。
『
『……哀れだな“蛇”よ。我に憐憫を抱かせるとは大したものだ』
『
……? 独り言かなネフちゃん?
そんな事よりも早く私の
『
自分の意識を奥底に沈める。
まるで特等席で映画を鑑賞する様な心持ちで、私は身体の自由を蛇に明け渡した。
「なんだ。誰かと思えば貴様か、絶刀」
一瞬にして、空気が変わった。
嘲笑を溢し万象を睥睨する超越者の眼光は威圧を伴いながら少女に向けられ、声色に含まれた愉悦はまるで上位者の戯れ。
矮小な人の世を俯瞰するが如く、理を外れた異端が私の肉体を依代として静かに君臨する。
「貴様は……!」
「くひっ。愛しのアイリスじゃなく残念だったなァ──忌々しい横恋慕め」
……うん。やっぱ君才能あるよ。昔やってた?
『
█
少しずつ、正した筈の歯車が狂い始める。
戦場にて後にその姿のみを見せ謎の手管で鎧を回収した、雪音クリスに関係すると思しき金色の色彩を纏う謎の女。
異なる狂気の側面を見せた少女に表情を翳らせる叔父様を始めとした二課の面々。
戦士としての成長と引き換えに大切な刹那と友の信頼を失い途方に暮れる立花。
そして──蛇の毒に侵され悶える、アイリスの姿。
『彼女が豹変した時、聖遺物の波形やエネルギーの質共に変化があったわ』
この一室を訪れる前に櫻井女史より聞かされた考察を思い起こす。
『この数日で見せた少女としての素顔でも、戦場で狂う剣士としての側面でもない──
私や立花の感じたアイリスの違和感を論理的に説明する櫻井女史。
聞けばあの豹変によってアイリスの纏うネフシュタンの鎧は、その性能を格段に上昇させシンフォギアなど比較にならぬエネルギー効率と出力を両立させていたという。
私の“影縫い”で動きを止められていたのが奇跡に近しいと、そう櫻井女史が仰る程にあの時のアイリスの姿をした
故に、その正体についてもある程度の察しがついていた。
「くひっ。愛しのアイリスじゃなく残念だったなァ──忌々しい横恋慕め」
「……っ」
そんな我々の心を乱して止まない“蛇”が、またもやアイリスの身体を好き勝手に扱っていた。
目元まで伝う蛇の鱗。赫に混じった翡翠の色彩。縦に伸びた爬虫類の如き瞳孔。
巫山戯るな──そんな言葉がついて出そうになる。
あの日のアイリスの涙を知るからこそ、再びこの蛇がアイリスの自由を奪っていると言う事実に憤怒を抱く。
「勘違いするな。肉体の主導権はあくまでも我がモーセにある」
「なんだと?」
一瞬の沈黙の後、蛇が信じられぬ戯言を口にした──奴の語る『モーセ』とは、アイリスの事で相違ないのだろう。
「あの時は友との久方ぶりの逢瀬に心根の弱った隙間を狙ったからなァ。今は無論、合意の上で
「……その言葉を信じろと?」
「貴様が
蛇が、殺気と共に動いた。
右腕を前に突き出して鋭利な爪が備わった籠手を顕現させるその姿を認識し、私も条件反射の域で後ろに下り此方も反撃の剱を纏わんと聖詠を歌う為口を開く。
その瞬間──漆黒の籠手に包まれた右腕を、アイリス自身の生身の左腕が押さえた。
強く。この強硬な手段に出ようとした腕を止める為と言わんばかりに、ギチギチと音を立てながら蛇の狂気を押し留めている。
「妬けるなぁ? そんなにこの
独り言──ではないのだろう。
蛇が、アイリスに語りかける。内に存在するあの優しい少女へと、先程までの揶揄う様な態度とは違った不満を漏らす様な面持ちで。
「嗚呼分かったとも。了承したよ我がモーセ──命拾いしたな、絶刀」
一拍置いて、蛇が右腕を下げ爪を尖らせた籠手を掻き消した。
そしてその態度こそ、内なるアイリスがこの蛇を制御している証左であるとひとまずの理解ができる。
しかしそうなれば、一つの疑問が私の脳内をよぎった。
「……ならば何故アイリスが出て来ない」
「“合わせる顔がない”──だとよ。くひっ、年端も行かぬ幼子を泣かすとは罪な女だ」
また、揶揄い甲斐があると言った風に蛇が嗤う。
苛立ちで歯軋りを鳴らす。赫怒に身を焦がし瞳が血走るのを自覚する。
巫山戯るなよ外道が、貴様だろう。貴様のせいでアイリスは──!
しかし、ここで怒りに身を任せた所でこの現状が好転する訳でもない。
むしろ目の前の存在は外道なれど体は正真正銘アイリス・フェイルノートのもの、無闇に戦闘の選択肢を取らなくて良いのならそれに越したことはない。
「貴様は、一体何者だ」
「見当はついてるのだろう? 全く無意味な質問をする。まあ今は気分が良い……答えてやる」
疑問を吐露する私に、蛇が嘲笑を溢しながら己の正体を口にした。
「かつて
ネフシュタン……それは、彼女の纏う鎧の名。
立花と同じ融合症例としてその身に巣食う聖遺物。
櫻井女史より事前にこれらの考察は耳にしていたが、実際に元凶から答え合わせをされれば困惑する自分がいたのも事実だった。
「
「紛い物の尺度で
蛇が、アイリスの肉体でまたも嗤う。
ネフシュタンの鎧。彼女の纏う聖遺物が今表に出ている人格だとすれば、アイリスの今までの凶行や精神の歪みは、此奴のせいで──。
「勘違いするなよ絶刀。元来、
「っ」
そんな私の思考を読むようにして、蛇が釘を刺した。
「今まで
知りたくもない事実ばかりを、この外道は垂れ流している。
ああ、ならばやはり……アイリスの歪みは、怒りは、憎悪は、他ならぬ二年前の惨劇によるものだと言うことになるのか。
私の不始末が今もこうしてアイリスを苦しめていると言う事実に、あの日彼女を抱きしめながら宣った誓いが脆くなっていくのを感じる。
「だがそんな人と獣の間で揺れ動く愚かしさもまた、愛おしい」
そんな私を他所に、蛇は狂言を回し続ける。
語ったのは、愛。
声色に嘲りや愉悦の色が薄れてゆくのを感じる。
「あぁ、不変の真理と不朽の未来を垣間見し我がモーセ──
「貴様は……」
恍惚とした表情で、蛇が
……なぜだ。何故そんなにも純粋に“愛”を語れる!
他ならぬあの時、アイリスを傷つけた貴様が! アイリスの体で彼女の友に手を出した貴様が! その子への愛を語るな!
「……ふむ。少し喋り過ぎたか──
目元まで伝っていた鱗が、奥深くへと沈み消えてゆく。
それはおそらく、表出していた蛇の人格が裏へと戻る証左なのだろう。
「お前のではない。
「──あ゛?」
最後に私の心を乱しながら、蛇は消えた。
「ぅ、ぁ……つばさ、さん」
「っ……無事か、アイリス?」
先ほどの傲岸不遜な態度とは違う、怯える様に私を見る少女が表に出た。
まるで親に叱られるのを怖がる幼子の様な面持ちで、アイリスは揺れ動く瞳を私に向けていた。
「ネフシュタンの言ってる事は……本当だよ」
一瞬の躊躇の後、アイリスが胸の内を吐露する。
「全部私が選んだの。狂って堕ちて壊れて、ノイズを潰せれば後はどうでも良い──ずっと、そう思って剣を振るってきた」
まるで罪を告白する罪人の様に、アイリスの懺悔は止まらない。
狂い堕ちた剣士。凶剣としてのアイリス──あれも紛れもなくアイリス・フェイルノートの一面なのだとこうして直接言われてしまえば、彼女を抱きしめたあの日の様に狂気を告解する悲哀を感じてしまう。
「でもね、私はそんな時にクリスと出逢ったの」
しかし暗闇に満ちた狂気の中で、アイリスは一筋の光を語った。
「本当は誰よりも優しくて傷つきやすい私の親友。あの子といる時、初めて痛み以外で
あぁ、今なら分かる。何故
大事な友人、雪音クリス。この一年半で凶剣としてのアイリスしか私が知り得なかった間にも、彼女は心安らげる理想郷をとうの昔に見つけていたのか。
……少し、嫉妬してしまうな。
「こんな化け物と友達でいてくれるクリスが大好き。
こんな人でなしに優しくしてれる翼さんが大好き。
こんな穢れた手を握ってくれた響さんが大好き」
愛を謳う。小さな少女が物語を綴る様に、狂気と正気の二側面にて得た友愛を、私に歌ってくれた。
「──なのに、全部めちゃくちゃにしちゃった」
されど次の瞬間には、愛を謳った唇は罪悪感に震えてしまう。
あぁ、やめてくれアイリス。そんな顔をしないでくれ……私は貴女のそんな顔を見たくはない。
貴女の幸せを、貴女と貴女のお姉さんに約束したのだから。
「もう私には……ネフシュタンしかいないの。この“怒り”を理解してくれて、後押ししてくれる
「違うぞ! ……っ。違うのアイリス。貴女は悪くないの」
「でも、でも私がノイズを殺したいのも……ノイズを操る人も憎いのも本当の事なの……っ」
涙を流し震えるアイリスの裏に、先の嗤う蛇を幻視する。
己のものだと
柔い素肌をザラザラと鱗が傷つけ、牙より垂れた猛毒が静かに彼女を犯してゆく。
ある種依存めいた強迫観念をネフシュタンの鎧に抱くアイリスと、そうなる様に仕向けて来たのであろう毒蛇。
たとえ凶剣としての憤怒と憎悪がアイリス由来のものであっても、彼女の友人である雪音クリスを傷つけたのは貴女じゃない。
あの蛇だ。あの蛇が悪辣な罠を張りアイリスの退路を断っている。
なんと言う悲劇だろうか。怒りと共に、まるで想い人を目の前で娶られるかの様な倒錯した情景に頭がどうにかなってしまいそう。
あぁ……眩暈がする。巫山戯るなよ邪悪の徒め、その子の尊厳を踏み躙るなど赦せるものか。
「アイリス」
此処で甘い言葉を紡ぎ、アイリスの依存を自分に向けさせる事はきっと容易いのだろう。
しかしそれではダメだ。そんな弱みにつけ込んだ偽善などそれこそあの魔鎧の言っていた自己満足でしかなく、アイリスは真の意味では救われない。
故に──嗚呼、故に。その役目を果たせるのは私じゃない。
なんという事だ。護ると誓っておきながらこの無様か。癒すと宣いながらこの有様か。
私は未だ、何も救えず導けてはいない。それが何よりも忸怩たるものであり、悔しくて仕方がないのだ。
「待っていてくれ、アイリス」
「翼さん……?」
「必ず、
抱きしめる。強く、強く。あの日の様に。
彼女の欠けた心を埋めるには、未だ役者が不足している。
親友との別離に涙する立花。
諸悪に与する雪音クリス。
きっとこの子の傷を癒すには彼女たちの優しさが必要だと、己の無力さと共に感じながら──私はただ流れる時と沈黙の空気の中で、アイリスの小さな身体を抱きしめた。
⚫︎ネフシュタンの鎧
幼女の性癖に順応できてないけどそれはそれとしてカス幼女の事は好きなロリコン。翼さん推しだけど肝心の翼さんからの好感度は地の獄。
⚫︎風鳴翼
目の前で無機物にNTRもどきをされるとか言う変なシチュエーションで怒髪衝天。
ビッキーも幼女も曇ってて覚悟がガンギマリ中。
⚫︎雪音クリス
フィーネにぽいされるので次回で地獄みたいな曇らせが確定してる子。
助けて未来さん。
⚫︎立花響
陽だまりに秘密がバレて曇り空。