転生腹黒幼女は装者たちを曇らせたい   作:靉靆 

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悲哀の雫が頬を伝う

 

 

 

「私は、響の友達でいられない」

 

 胸の奥が、チクチクと痛む。

 大好きなお日様。私にとって誰よりも何よりも大切な親友に吐いた言葉と瞳を潤わせる響の姿に、自分自身の心が痛むのを感じる。

 

 嘘はもう嫌だ。隠し事なんてしてほしくない。

 互いに互いを理解して、溶け合って、なんでもない日常を一緒に歩んで行きたかった。

 

 大体の事情は、あの後やって来た人達の説明で納得はできた。

 分からない事だらけだけど、全部分からない訳じゃない。

 

 あぁ、だから想う……どうして響なの?

 

 あの子はもう、十分に苦しんだ。

 ただ生き残っただけで石を投げられる日々。色んな人から心無い言葉を浴びせられる日々。

 そんな地獄を乗り越えてあんなにも暖かい笑顔を咲かせる響が、私の知らない所で自分の身を危険に晒していることに、きゅっと胸が苦しくなった。

 

 人知れずノイズと戦う非日常。

 流れ星の約束すら果たせない程に、遠くへ行ってしまう大好きな親友。

 

 隠し事をされたのだけが原因じゃない。

 そんな響の背負うものを理解できなかった事が、何よりも嫌だった。

 

「──響」

 

 大切なお日様の名前を、呼んだ。

 涙が、雨に紛れてこぼれ落ちる。

 嫌だ。嫌だよ。響と言葉を交わせない日々が辛い。

 だけどもう口から出た絶交を取り消すだけの余裕も、私の心になかった。

 

 あぁ、響……私は貴女に──。

 

「──ぅ……ぁあ」

 

 そんな私のぐちゃぐちゃな心は、突如聞こえた呻き声に掻き消された。

 

 その呻きを、不審に思う。

 私がいるのは人通りの少ない通り。そして音がしたのは、その通りでも人は寄り付かないだろうと思う程に暗い裏路地だった。

 

「──イリ……ス……」

 

 雪の様に真っ白な女の子が、誰かの名前を呼んで倒れていた。

 

 

 

 

 █

 

 

 

 

『大好きだよ──クリス』

 

 時間が止まればいいと思った。

 何よりも大切で愛しい刹那。あの一瞬の為なら何を犠牲にしても良いと思える程に、イリスの綺麗な笑顔があたしの胸を高鳴らせる。

 

 寄り添う日々。触れ合う肩。小さく滑らかな手があたしの頬をそっと撫でる。

 月を見上げて愛を謳った。

 霧に包まれた朝日を浴びながら微睡んだ。

 黄昏に淡く照らされたあいつの髪はまるで宝石みたいに綺麗だった。

 

「う……ぁ。イリス。イリス……っ!」

 

 名前を呼ぶ。

 あたしの心をぐちゃぐちゃにして止まない大切な名前を。

 あぁ、本当に喪いたくないものだって分かってた筈なのに──あたしは、それを裏切って手放したんだ。

 

『──裏切り者』

 

 幻聴(こえ)が、聞こえた。

 パージした筈の鎧。そのほんの小さな欠片が、ぽとりと裾からこぼれ落ちたと共に、イリスの姿と声で()()が瞼の裏に朧げに浮かんだ。

 

 鎧……そうだ、鎧だ。

 フィーネから託されたネフシュタンの鎧の模造品。そう聞かされて纏った()()は、どうしようもなく悍ましい代物だった。

 

『気持ち悪いなぁ……()()()()を纏って興奮するなんて、クリスは変態さんなのかな?』

「……ぅ」

 

 なんでこんなもんを見ちまうのか、終ぞ分からない。

 目が醒めても見続ける悪夢に、吐き気がした。

 ついこの前あたしを罵倒してたイリスの姿をした()()()じゃない。

 

 今まであたしに愛を囁いてくれてたみたいな優しい言葉遣いで、イリスが私を蔑む。

 

 ごめん。ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい──どれだけ謝っても、心は晴れない。

 煤と血に塗れたこの手が、怖くて仕方がない。

 親友の肉片を好き勝手弄んだ穢れた自分自身の血潮が、掻き毟り出してやりたいほど憎かった。

 

『あはっ。本当に可愛(きもちわる)いなぁ……ねえ、もっとその絶望に沈んだ顔を見せて?』

「ごめん、なさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい──っ」

 

 気持ち悪い。吐き気が止まらない。

 こんな幻覚を見ちまうのも、そんな事であたし自身の罪から逃避しようとする心の弱さも、何もかもが嫌になって消えたくなっちまう。

 

 

「──本当に使えない子ね。まさかお使いの一つも満足にできないなんて」

「……フィーネ」

 

 ぐちゃぐちゃになる頭の中に、幻聴とは違う肉声が響いた。

 蹲る私を、フィーネがまるで塵屑を見るような目で私を見下してる。

 あぁ、ああ……やめてくれフィーネ。そんな目であたしを見ないでくれ……もう、あたしには何もないんだ。あんたに与えられた繋がり以外、もう何も……!

 

「……これで、良いんだよな?」

 

 クソったれな現実で、せめてもの逃避を口にする。

 親友を裏切った。力を利用した。ソロモンの杖を目覚めさせてこの手を血と煤で穢した──全部、全部あたしの望んだ争いのない世界を創るための犠牲だ。

 

「あんたが言うように力を持つ奴らをぶっ潰していけば、いずれ世界から争いはなくなるんだよな……?」

 

 だから、口にして欲しかった。

 あたしのやってる事はいずれ実を結ぶのだと。

 たとえ今こうして地獄の季節で悶えようとも、いつか悠久の常春でイリスと争いのない世界で笑い合える日が来るんだって……そう、言って欲しかった。

 

 あぁ……こんな様でもまだ、イリスに赦して貰えるのを期待してる自分が嫌になる。

 

「くく、ははっ。アハハハハハハっ! ──あぁ、貴女は何処まで愚かなのかしらね。クリス?」

 

 だけど、そんなあたしの願望(ネガイ)を虚仮にする様にフィーネが嗤う。

 

「──そんな訳ないじゃない。貴女のやり方なんて、争いの種を一つ潰して新たに二つ、三つとばら撒くだけよ」

「……は?」

 

 続く言葉に、あたしの中の時間が止まった。

 惚けるあたしをそれでもフィーネは嗤い続ける。

 

 ──なんだよ、それ。

 

 あんたが……あんたが言ったんじゃないか!

 世界から争いを無くすにはこの方法しかないんだって!

 力を持つ奴をぶっ潰す事でしか真の平和は訪れないって言ったのは他でもないあんただろう!?

 

「犠牲は、どうなるんだ? 今までソロモンの杖(ノイズ)のせいで死んでった人たちの命は、あたしとイリスのこれまでは一体……!」

 

 溢れそうになる涙を食い縛りながら、あたしはフィーネに問い掛ける。

 一年前にあたしが起動させたソロモンの杖。ノイズを操るその魔杖のせいで沢山の人たちが大切な日常を奪われた。

 あたしとイリスの愛おしい日々すらも、互いを想い合う関係すらも陵辱しやがった忌々しい聖遺物。

 

 その全部に意味がないってんなら、あたしは今まで何を──。

 

「大人はね、嘘つきなの。貴女もよく知っているでしょう」

 

 ぽろぽろと、何かがこぼれ落ちて行く。

 心から溢れた罪悪感。頬を伝う涙。

 もう、何も理解したくなかった。

 

「──この身を(よろ)え、青銅の蛇(ネフシュタン)

 

 けど、そんなあたしを知ったこっちゃないと言わんばかりに時計の針は進む。

 手を翳したフィーネの身体に、ネフシュタンの鎧が纏われる。

 

 ──巫山戯んな。お前が、お前が()()を……イリスを好き勝手に扱うな!

 

「……っ! フィーネッ!」

「嗚呼、そうか。確かお前はこの鎧の出自を漸く知ったのだったな」

 

 ぼとりと、フィーネが何処からともなく取り出した()()()がこぼれ落ちた。

 

「これを模った際の()()()だ。奴とお前の関係性は随分とまぁ──滑稽なお題目ではあったな」

「ひっ……」

 

 地面に落ちたのは、人の手だった。

 グロテスクな断面が赫赫しく煌めいている。

 あの日イリスの姿をしたなにかに見せられた割れた柘榴みたいなそれに、あたしは小さな悲鳴を漏らした。

 

『大好きだよ、クリス』

 

 感じたのは、既視感だった。

 

 頬を撫でる滑らかな手の平。

 血で穢れたあたしの手を優しく握ってくれた小さな手。

 そして、こんな裏切り者に差し伸ばしてくれた月の様な最愛(あいつ)の手。

 

 煌びやかな想い出ばかりが脳裏を過ぎる。

 それと同時に()()()の言ってた事が揺らぎ様のない現実だと、こうして証明されるのにまた、吐き気が込み上げた。

 

「そして荷電粒子砲(カ・ディンギル)は完成したも同然──もう、貴女に固執する必要もないわね」

 

 閃光が、目の前で散った。

 ソロモンの杖の力が振るわれ、ノイズが現れる。

 

 其処にあるのは、大好きな親友の身体を弄び、あたしにとっての罪の証を好き勝手扱うフィーネの姿。

 

 あぁ、なんだよこれ……こんな光景の為にあたしは戦ったってのかよ! イリスを裏切ったってのかよ!

 

「そろそろ、幕を引きましょうか」

「……っ。ぁ、うわああああああぁぁっ゛!」

 

 この目を背けたくなる様な現実に、あたしはただ哭き叫ぶ事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 █

 

 

 

 

 

 目覚めると、そこは知らない場所だった。

 

 何も考えられない程ぐちゃぐちゃになりながらも命からがらフィーネから逃げ延びて、暗い路地裏でぶっ倒れてた最後の記憶と当てはまらない程に明るいこの場所に、布団を被せられたからか温かい感触がした。

 あたしは上半身だけを起き上がらせて呼吸をするたびに痛む肺を押さえ、息を整えながら周りを見る。

 

「どこだ……ここ?」

 

 目が醒めてから思っていた事が、つい言葉に出る。

 今まで冷たい鉄柵しか知らなかったあたしでも、ここが“普通”の民家ということはなんとなく分かった……問題は、どうしてあたしがこんなところに居るのかだ。

 

 誰かが助けてくれたのか? だけど……都合よくそんな“お人好し”が現れるもんなのか?

 あんな所に傷だらけでぶっ倒れてたあたしを助けるなんて、そんな──。

 

「──良かった。目が覚めたのね」

 

 考え事にのめり込もうとしたその時、襖を開ける音と一緒に声が聞こえた。

 目を向ければそこにいたのはあたしと同じくらいの年齢の、白いリボンを着けた女の子だった──何故か、その子に既視感が過ぎる。

 

「汚れてたから着替えさせてもらったの。それとこれ、洗っておいたから干しておくね」 

「お、おう……」

 

 あたしの着ていた服が外に干されるのを見て、漸くあたしは今着ている服が自分のものじゃないことに気づいた。

 なんだこれ……胸元に名前……?

 

「小日向……?」

「ごめんなさい。私の体操着しかなくて」

 

 今まで味わった事のない類の親切に、困惑するあたしがいた。

 

「大丈夫? なんだか辛そうだけど……」

「──っ」

 

 助けてくれたその子の心配する様な声に、あたしは自分が酷い表情(カオ)をしてるのを自覚する。

 

「ぅ、ぁ……!」

 

 一拍置いて、涙が頬を伝った。

 さっきまでの地獄の様な現実に、理解が漸く追いついて感情が胸の奥底から溢れちまう。

 

 あたしが目覚めさせたソロモンの杖を使って争いの火種を生むフィーネの姿。

 纏う鎧はイリスが今まで戦ってきた傷そのもの。

 

 そしてそうなったのは全部、あたしのせい。

 

 パパとママの夢を踏み躙った自分が、大好きなイリスの尊厳を貶め続ける自分の所業が──あたしの胸を、残酷に穿った。

 

 

 

 

 






模造品「あ〜美少女の曇り顔最高〜……ん、あれ? なんだこのおばさん!?」


⚫︎ネフシュタンの鎧(偽)
 幼女の肉片越しに残留思念的なのが取り憑いたカス2号。呪いの装備。何も考えてない愉快犯。好きなモノは美少女の曇り顔。英雄譚? なにそれ?
 本体ならともかく曇らせ趣向しか引き継いでない薄っぺらクズなのでこの後普通にフィーネの化け物メンタルに捩じ伏せられて分からされた。
 幼女に自我があると知られたら確実に曇らせの種として再利用される厄ネタなので早急にデュランダルと対消滅すべきカス。


 
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