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「……本当に、あたしが来て良かったのか?」
日常を謳歌する人々の営みが満ちる公園にて、雪音クリスが慚愧と共に今の己の待遇についての是非を問う。
「当たり前だよ。響さんもクリスが来るのを楽しみにしてるんだから」
「イリス……」
親友であるアイリス・フェイルノートとの和解を経て数日。二課に保護されたクリスは、これまで起きた数々の特異災害への関与が疑われる身ではあるが、アイリスの懇願と風鳴弦十郎の計らいもあり元凶と思しき謎の女性“フィーネ”に関する事情聴取の後に監視や発信機等の対処のみで二課保護下のもと、こうして特別に外出を許可された。
そして今日。これまで幾度となくすれ違って来た少女たちは、鉄火の舞う戦場を介さずにお互いをより深く理解する為の機会を得た。
「あんたは良いのか? こう言っちゃなんだが、この前まで武器を向け合った相手だろ」
親友であるアイリスの赦しを得たクリスであるが、それはそれとして同じく今日と言う日を共に謳歌せんと同行している風鳴翼に、本当に納得できているのかと問いかける。
「互いの仲を深めるのに是非はないとも──まあ、私も立花に変えられた身の上ではあるのだけどね」
「……そうかよ。物好きな奴らだ」
二課に保護され数日。アイリス以外の同年代の少女たちとの逢瀬は、雪音クリスの心に凪のような穏やかさを齎していた。
「クリスちゃーん!」
「んぐっ!? おまっ、いきなり何抱きついてやがる!?」
残った待ち人を待つ彼女の身体を、暖かな抱擁が包みこんだ。
立花響。いずれ世界を救う少女の太陽が如き慈しみが、クリスに向けられる。
「──本当に良かった。こうしてクリスちゃんも一緒にいられて」
「お前……」
これまで幾度となく不和により戦いの運命を課せられてきた彼女だからこそ、今こうしてかつて敵であった少女と平穏平和な逢瀬を積み重ねられる時に喜びを感じていた。
慈しみを伴い自分の名を呼ぶ日輪に、アイリスとは違う安らぎを感じると同時にクリスは次に、あの日自分に啓示をくれた小日向未来に視線を向ける。
「……よかったな。仲直りできて」
「うん。ありがとうクリス」
立花響と共に在る陽だまりの存在。
あれ程までに儚く散りかけた契りはしかし、先日の一件を経てより強固な繋がりとなった。
──嗚呼、素晴らしい。
友情を育む少女たちの逢瀬を赫い瞳に煌びやかに映しながら、蛇が悶える。
自分が介入した事で起こった波紋は広がり、こうして一足早く戦姫たちの相互理解が成された──その事実が、彼女を満たして仕方がない。
「それじゃあ行きましょうか。アイリスもお腹が空いた頃合いでしょう? ほら、手を握るわよ」
「むっ。子ども扱いしなくても私は大丈夫だよ翼さん」
「ダメよ、実際子どもだもの。人混みで逸れないようにしないと」
時刻は正午を回ろうかと言う頃合いにて、翼が一団を先導し、この中でもいっとう幼いアイリスの手を握った。
まるで姉妹の戯れ。自身を子ども扱いする年長者に対して、不満を漏らす幼子の可愛らしい駄々も呑み込む翼とアイリスの関係性は、一朝一夕では成し得ない信頼を想わせるものがあった。
「……」
「? どうしたのクリス?」
そんな己を突き刺す並々ならぬ視線を察し、アイリスがクリスに問いを投げる。
ちくりと、クリスの胸を嫉妬心が穿った。
自分以外にあれ程までに心を許す唯一無二の親友の姿に、彼女もまたいじらしく愛らしい感情を抱えている。
「──わっ」
「……イリスはあたしのだ」
自分の宝を取り返すように、アイリスの空いた左腕をギュッと抱き寄せた。
「無論。奪うつもりなどないとも──この子の友達でいてくれてありがとう」
「はぁ?」
しかし、対抗心を滲み出したクリスへ向けられた翼の瞳には、まるで子どもの成長を見守る母親のような慈愛が籠っていた。
むしろ感謝を述べるその在り様に、思わずクリスは間の抜けた声を出してしまう。
激動の中に存在した確かな刹那。
尊く平穏なそのひと時。
其処からは、普通の少女が送る様な当たり前の日常の始まり。
カフェで談笑し、流行りの甘味に舌鼓を打ち、ブティックにて愛らしい幼子を着せ替え人形としたショッピング。
レジャー施設で遊戯にのめり込み、青春を謳歌する子らなら当然嗜むであろうカラオケでの一幕。
遊んで、語って。互いに互いを少しずつ理解し合う素晴らしい時間が流れていく。
最初は慚愧を想いながらこの集まりに億劫となっていたクリスも、やがて立花響を始めとする少女たちの人の良さに絆され、アイリス・フェイルノートへの依存とはまた違った友情を育むことができた。
まるで絶望の渦中にて花開く桃源郷。
今こうして目の前で笑顔を見せる彼女たちの一瞬は、これまでの苦悶があったからこそ輝いて見えるのだと思えば素晴らしいものとして感じられた。
──楽しい! 転生を自覚してから初めて普通の女の子みたいな日を過ごしたけど、すっごく良いな
醜悪な本性を内に潜めた蛇もまた、この平穏な日を謳歌していた。
『
──早くこの子達の絶望と希望の勇姿を見て、もう一回デート回挟んで整いたい。
『
やがて、日が暮れ始める。
橙色の日差しが未だ人の世を照らす黄昏時にて、少女たちは最後に街を見渡せる程の高台へと訪れた。
「今日は貴女たちに、これを渡したかったの」
「これって……」
4枚、ひらりと風に靡くチケットを手渡した。
「私の復帰ステージだ。急遽参戦させてもらう事になってな──立花たちには、いの一番に報せたいと思ってた」
「翼さん、此処って……」
「……立花とアイリスにとっても、辛い思い出がある場所だな」
チケットの裏に記載されたライブ会場の詳細に、一瞬響が表情を翳らせる。
無理もない。その場所こそ全ての運命が始動した約束の地。
ライブの惨劇にて捻じ曲げられた今平穏を改めて実感する場としては、皮肉な巡り合わせと言えた。
「──ありがとうございます」
「!」
しかし、響はその申し出に感謝を述べる。
「いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えて行けます。そうですよね翼さん!」
「響さんの言う通りだよ翼さん。だからお願い。どうかあの日の凍みる痛さを塗り替えるほどの歌を聴かせて」
「──そうだな。そう在りたいものだ」
ささやかな赦しを此処に。辛く苦しい雌伏の時をすぎた絶刀の懊悩に、今こそあの日の被害者である少女たちは寄り添う。
「なんで、あたしもなんだ……?」
そんな赦しと同時に、クリスが困惑を言葉にする。
目の前の二人とは違い風鳴翼と自分の因縁は惨劇を元にしたものではなく、何よりも──未だに歌を好きになれないクリスにとって、その誘いはあまり気乗りできるものではなかった。
「雪音夫妻のことは、私も叔父様から聞き及んでいる──御二方とも素晴らしい御仁であったと」
「……っ。お前に何が分かるってんだよ!?」
あえて踏んだ、心の地雷。
親友との和解や新しく知った平和な人に世に心を溶かされようとも、歌で世界を平和にする使命を帯びながらも戦災により焦土の地獄へと堕ちた愛しい両親について言及され、クリスは激昂する。
「あたしは……歌が嫌いだ。何も救えないし変えられない。パパとママもあんな夢の為に死んじまった──いい大人が、夢なんて見ちまうからそうなる」
「クリスちゃん……」
夢想家で臆病者──両親の夢をそう吐き捨て、クリスは力を求めた。
戦争を起こす不埒を潰し、力を持つ者を更に上位の力で捩じ伏せる修羅道こそが真に世界から争いをなくすのだと信じて。
たとえ巫女に裏切られ残酷な真実を突きつけられようとも、彼女の抱いてしまった渇望はそう簡単には変えられない。
今でも瞼の裏にて焦土に灼かれる両親の姿を夢に見る。
大切な月の如き麗しい白銀を抱きしめていないと押し潰されそうなほどに、雪音クリスはこの世界と全てを奪う戦争を憎んでいた。
「確かに、直接
「けど、結局パパとママはあたしを置いて──」
「それでも貴女は愛されていたのでしょう? たとえ煉獄の辛苦を味わおうとも、遠い想い出は決して嘘でないと自分自身で分かるはず」
確かに存在した筈の愛を、翼は語る。
「言葉で全てを語りきれないのは百も承知よ。だから貴女にも私の歌を聴いてほしい──ご両親の素晴らしい夢を、微力ながら証明したいの」
両親の想いを歪な形で受け取ってしまったクリスの考えを是正する事は、歌女である自分の責務だと強く想いながら。
█
こうして原作とは違う情景を目の当たりにすれば、私と言う異分子の起こした影響をこれでもかと自覚する。
翼さんのライブ──原作ではビッキーが直前に出現したノイズへの対処に当たり鑑賞することの出来なかった舞台であるが、おそらく雪音クリスが二課に保護されフィーネが目的を前に大々的に動く必要がなくなったからなのだろう。
クリスの保護と同時期から
もしかしたら弦十郎さんがクリスに正体を聞いて今頃は原作同様に泳がせてる最中かもしれない。
「ほらアイリスちゃん! もう直ぐ翼さんの出番だよ、ペンライトのつけ方教えてあげるね!」
楽しみで仕方ないと言った風なビッキーの声で思考が現実に戻る。
学業の補習により遅れはしたが、こうして翼さんの歌を観ようとライブ会場に意気揚々とやってきた彼女と共に私たちは、このコンサートの大トリである歌姫の登壇する舞台を揃って待ち侘びていた。
立花響がいて、小日向未来がいて、雪音クリスがいる。
嗚呼、なんて素晴らしいひとときだろうか。先日経験した
そして何より、風鳴翼のあの宣誓だ。
争いを憎み歌の力を信じない悲運の少女に、旋律を歌い上げその素晴らしさと夢の尊さを教えようと力強く語る彼女の勇ましい姿が、何よりも素晴らしかった。
やがて、ステージの幕が上がる。
今日一番の歓声が沸き上がり、否応にも私の心も跳ねて跳ねて仕方がない。
麗しき歌女が、世界にその歌を届ける為の一歩を踏み出す。
歌を、唄う。
一節ごとに奏でられる旋律は観客の心をこれでもかと掴み離さず、皆が熱に浮かされ風鳴翼の歌と一挙手一投足を見逃してなるものかと尊き歌声を拝聴する。
『抱きしめてこの罪を……両手すりぬけてゆくプロミス
お願いMy star……どうか今、旅立つツバサの風をAh奏でて』
「あいつ、あんな顔もできんのか……」
目に映るのは数万の人々に対して笑顔を振りまきながら歌う、防人としてでなく
偽りなど一切ない。心の底から歌を愛していると確信できる程に美しい笑みに、クリスは見惚れたのだろう。
『さぁStarting! 始まるシンフォニー
伝説は此処からと、この光のLiveはシンクロニシティ』
うおおおおおおおおお!!!!! つ・ば・さ!!!!! つ・ば・さ!!!! つ・ば・さ!!!!!
『
おお! やっぱりネフちゃんにも翼さんの良さが分かるんだね! いやーライブ最高! 翼さん最高! これからも沢山絶望させるから乗り越えて英雄譚を魅せてね♡
『
奏でられる激唱は、このライブの観衆の心を一つにしていた。
ちらりとクリスちゃんに目を向ければ、彼女も観客たちと同じようにがっしりと視線が翼さんに釘付けになってる。
ライブの熱に浮かされる彼女の瞳には──何処までも澄んだ、憧憬に近いものが感じられた。
「クリスのお父さんとお母さんは……こんな風に世界を変えたかったのかも」
「パパと、ママが……?」
やがて終幕を迎える風鳴翼の復帰ライブ。
ビッキーも未来さんも最高のステージを特等席で見られた事に感涙する中で、私もクリスちゃんに囁いた。
『さぁAmazing奇蹟起こそう 震えるくらいでいい
たぶんそれだけの 物語なんだ信じてMy road』
「”歌で世界を平和に“──このライブにいる皆も、何もかもがバラバラなのに一つになって”歌“を聴いてる……それって、とっても凄い事なんだよ」
有限のライブ会場と無限の世界に違いはあれども、何もかもが異なる
「今の私は、もっと沢山の人に歌を聴いてもらいたい。言葉は通じなくても、歌で伝えられる事があるのなら──世界中の人に歌を届けたい」
──素晴らしい。
雪音クリスの禊と共に、風鳴翼の贖罪も此処に完遂される。
片や失いかけた尊い夢を再び使命として受諾し、片や悲哀に塗れた己の来歴を涙と共に拭い去り世界へ羽ばたく宣誓を成す。
涙するなと言う方が無理だろう。
昂らぬ方が嘘というものだ。
「──だって私はこんなにも、歌が好きなのだから」
「あぁ、これが……パパとママの──」
あれ程まで私に狂い壊され絶望していた彼女たちが、立ち上がり
「たった一つの我儘だから、どうか聞いてほしい。許してほしい……っ」
ああ、嗚呼。あぁ! 綺麗だ! 美しい! 尊い!
『
そうだとも相棒! この瞬間に彼女は片翼からの赦しを得た!
幻影であるものか! 幻聴であるものか!
愛故の奇蹟が此処にはあるのだ! あぁ、素晴らしきかな
『仲良いな貴様ら』
「──なぁ、イリス」
片翼の誓いに脳を灼かれ、お日様と陽だまりの営みに眼球を潤す私を、クリスが呼ぶ。
その顔には先日までの迷子の子のような途方に暮れた様相ではなく、力強い決意が見て取れた。
「夢が出来たんだ……こんなあたしにも、夢が。だから、もし全部終わったら……一番初めにイリスにあたしの
涙が、止まらなかった。
貴女たちはどれほど、私の心を穿てば気が済むのだ?
依存の毒で溶かした私のクリス。きっと、貴女の心の内では私の存在が今も多くを占めている事だろう。
そんな中でも、自分の根源を見つめ直し貴女は風鳴翼の歌を通して両親の夢を垣間見た。
素晴らしい成長だ。感動的な模範解答だ。貴女は紛れもなく、利用され続けた罪人から勇気の一歩を踏み出したのだろう。
「ありがとう、クリス──大好きだよ」
「あぁ、あたしもだ。イリス」
故に狂い哭け──貴女たちの末路は“英雄”だ。
⚫︎アイリス・フェイルノート
相変わらず一番良い空気吸ってる幼女。
ネフシュタンと一緒にペンライトぶんぶんしながらライブでテンション上がってた。
⚫︎雪音クリス
幼女に対して親密度が限界突破。
それと同時に覚醒防人にライブに招待されて光堕ち。
⚫︎風鳴翼
現時点でいちばんのメンタル強者。
折れても鍛えて強くなる剣の鑑。
⚫︎立花響
陽だまりと仲直りしてクリスちゃんも仲間入りで翼さんのライブも鑑賞とかいう今が幸せ絶好調。
なお最終決戦での曇らせ濃度が一番ヤバい主人公な模様。