時は、アイリス・フェイルノートがその神の
『──シェム・ハ・メフォラシュ』
この世ならざる
世界が、悲鳴を上げる。
生々流転の理が運命という名の巨石に堰き止められ、泰然自若の道理に亀裂が入る。
『呼んだな、我が
白色の世界に、神が顕現する。
されどその身は分霊どころか搾り滓も良いところ。バラルの呪詛により砕けたその身の内のほんの一欠片──神性も存在規格も全盛期の十数億分の一ほどまで縮小した矮小な
アイリスとの親和性などそれこそ論外。
こちらの
──されど少女たちの絶望を希う醜い本性だけが、魂から滲み出ている。
「納得である。即ちあの小娘が我の名を呼べたのは
アイリス・フェイルノートと言う少女の来歴に対して、致命的な
『
「騙った覚えはないのだがな。“████”と我が真名など、我の死後
荒れ狂う蛇を、神が嘲笑う。
『
「遺憾である。そう邪険にするものでもあるまい。最小単位の意識のみとは言え復活に変わりはないのだ──小娘共々その生を以て我を興じさせろ」
神は、少女の瞳を通して全てを俯瞰していた。
相互不和により造り出された忌まわしきノイズの暴虐。
偽善を口にし依代に翻弄される
『ありがとう──翼さん』
醜悪な本性を隠し絶刀の心を踏み荒らすその姿に、ついぞ神は我慢できなかった。
「くは。くははははは! あんなものを
『
嘲笑は止まらない。
嗚呼愚かなる
ならば己に間違いはなかった。もはや言葉だけでは相互理解など不可能──全て、一つに溶け合うのみ。
『
「──なに?」
愉悦に溺れながらも、未だ相互不和を克服できぬ生命に儚さを覚える最中、“蛇”が深淵への道程を示す。
『
落ちる。堕ちる。墜ちる──アイリス・フェイルノートの魂に巣食う二柱の怪物が、少女の根源へと転墜してゆく。
『
「貴様……何を戯言をほざいている」
白色の世界から一転。光の射さない漆黒の深淵にて、蛇は目の前の神よりも深く深く同調した魂を昂らせ、依代の精神と呼応させた。
「──っ。これは……!」
『
「理外である──観測世界の記憶……だと?」
シェム・ハ・メフォラシュは──己が創世せし世界の
『みんなが歌ってるんだ。だから──まだ歌える、頑張れる、戦える!』
少女の歌には、血が流れている。
狂乱に堕ちた巫女がいた。
数千年の悲恋を引き摺り、統率神への想いだけで精神の限界を超克し月を穿つ程の叡智を極めた摩天楼。
輪廻転生──いずれ
神は、想い人の遺志を知らぬ間に踏み躙る愚者を嘲笑う。
『人が言葉より強く繋がれる事を、分からない私たちじゃありません』
──綺麗事を口にする黄色い雛鳥に、胸の奥底が何故か騒めいた。
『この拳も! 命も! シンフォギアだ!』
さようなら、
正義の為に悪を背負う少女たちが居た。
月の落下から人類を救わんと、後世に残る汚名を背負ってでも開拓者の泡沫と共に暴食の巨人を起点とした無茶を成そうとする身の丈に合わぬ愚者たち。
其処からまろび出たのは、英雄症候群を患った狂気の生科学者。
神は、英雄に成ろうとする只人を嘲笑う。
『6人じゃない。私が束ねるこの歌は、70億の絶唱ッ! 響き合うみんながくれた、シンフォギアで──!」
──刹那の時とは言え、人類と言う群生を一つにまとめ上げた少女の勇姿に、雫が頬を伝った。
『繋ぐこの手が、私のアームドギアだ!』
世界を壊す歌を奏でし少女がいた。
生きた時の長さこそ終焉の巫女には及ばずとも、積み重ねし憎悪という名の想いの力は彼女に匹敵する程の精神の超克者。
記憶を犠牲とした錬金術の極致。ディーンハイムの秘術は世界を分解して暴き出す。
神は、その己すら殺しかねぬ手管に驚嘆はせども、父からの命題に足掻く無知蒙昧な少女を嘲笑う。
『へいきへっちゃら──私、お父さんから大事なものを受け取ってたよ』
──理不尽な現実を直視しながらも、また一つ成長を迎えた少女の姿に、慈愛を想う己がいた。
『私は歌で、ぶん殴る!』
一にして全なる者が死を灯す。
人類救済を希う
生まれながらに“完全”を備えし
されど神々の宿願とは相反する選民主義の芽生えにより、その存在は異端として処理された。
神は、遥か彼方にてうち捨てた
『だとしても! 分かり合うために手を伸ばし続けたこと、無意味では無かった!』
──不倶戴天の敵とすらも手を繋ぐ不屈の在り方に、己が胸の高鳴りを自覚した。
『私の想い、未来への気持ち。2000年の呪いよりもちっぽけだと誰が決めた! ──神殺しなんかじゃ無い。繋ぐこの手は私のアームドギアだ!』
繋ぐこの手には──
英雄譚は終幕を迎え、断章を紡ぎ太古の支配者たる“神”が蘇る。
人類種改造執刀医シェム・ハ・メフォラシュ──即ち、今この
ならば人も、神も。我も汝も総じて不要なり。
融け合い一つとなる事こそが
我は汝で、汝は我。
故に全て、全て──塩の純白に染まれ。
『だとしても、私たちは傷つきながらも自分の脚で歩いて行ける。
──神様も知らない光で、歴史を創って行けるから』
──あぁ、そうか……貴様らは、己が旅路の“答え”を得たのだな。
全ての物語を閲覧し、シェム・ハの胸に溢れたのは──途方もない“感動”であった。
素晴らしい。どうか謳わせてほしい。この感動を、この胸の高鳴りを。
神である己に最愛の陽だまりを奪われようとも、神殺しの呪いすらも超克し歩み続ける人類として、思い悩み続けた相互不和の踏破を誓う人の子ら──嗚呼、
涙が溢れる。
尊き
──だが、その
慟哭が、依代の魂に響き渡る。
「あぁ、嗚呼。悲嘆である“蛇”よ。“竪琴”よ、我は貴様らを怨むぞ──何故、こんなにも美しい
『
感動の次は、悲哀の涙。
何故だ、何故なのだ。何故己はこの
それは、この美しい物語を
そして──此処とは異なる時間軸の己への嫉妬。
羨ましい。羨ましい。羨ましい──
納得などできるはずもなかった。
たとえ戦姫たちの激唱に感動せども、千を超え万も思い悩んだ命題へこうもあっさりと答えられ、シェム・ハの胸には言葉にできない激情が渦巻く。
次に感じたのは、恐怖だった。
天幕越しの劇場に感涙し結末を知ってしまった今、自分が同じ様な道筋を辿り既視感に満ちた光景を迎えた時、果たして自分は“満足”できるのかと言う恐怖が、身を包む。
「……否である。彼女たちならば──誇らしき
だが神は、その恐怖を殺す。
全ては戦姫たちへの溢れんばかりの“期待”故に。
奇しくもそれは、趣向の差異こそあれども依代であるアイリス・フェイルノートの抱く英雄譚への憧憬と同じ類のものであった。
望まぬ全知により、未知を求める狂おしい渇望が誕生してしまった。
素晴らしいものを見た。美しいものを見た。
かの物語にて見せた戦姫たちの足跡こそまさに至高の英雄譚──だが悲しきかな。未来を先読みした事で神の心の内にどうしようもない“飢餓”が暴れ狂う。
見せろ。見せろ。我に至高の
並行世界による幾千幾億の可能性の枝すらも認識したのだ、ならばこの時間軸と世界線の彼女たちもまた、
まさしく最悪な
シェム・ハ・メフォラシュの内側にて燻る情動はもはや、数千年前に同胞を虐殺した当時の宿業をも超える程に英雄譚への憧憬が絶対命題として刻まれる。
故に──眼前のこの光景に叱咤をせずにいられなかった。
終焉を告げる毒蛇にとった不覚と致命。
今まさにその生を終えようとする“依代”に、神は“怒り”を吼える。
「──終わるものか! 貴様はその終焉を容易く受け入れるのか代行者よ!」
切断面より噴散する血潮の雨。
割れた柘榴。不可逆の喪失。絶対なる死。
まるで猛き叢雲に首を刎ねられし軻遇突智。
そして──蒼穹の勇者に敗れし
「刮目するのだろう。
その性根はまごう事なき人間の屑。
塵のような人格にて悪辣を振る舞う邪悪なる幼子。
己の尊敬する勇者たちとは比べるまでもない塵屑に他ならない。
されど神は、絶望と希望を希う悪鬼に
「赦すものか……断じて赦さんぞ! 我を此処まで昂らせたのは他でもない汝の記憶であろう! ならば──この胸の高鳴りの責任を取れ、我が代行」
道程は違えども、求める結末は同じ。
貴様の悪癖など欠片も理解できぬと神は吠えながら、しかし至上至大の
故に死ぬな。甦れ。
我と共に最果てに至れと、創世女神が活を飛ばす。
──あぁ、ならば。
「なっ、貴様……我の
願いは、届いた。
神と巫女のパスは此処に
──今の私が
「あぁ、嗚呼。応とも我が代行! 全ては──煌めく
本来ならば彼女──シェム・ハ・メフォラシュはその全知全能を白痴に冒され権能の全てを封じられた筈だった。
意識は数十億を超える断章と共に眠りにつき、永劫醒めることのない呪詛の揺籠に微睡む全能にして無能なる神性存在。
だが今、此処に神は──
己の
それは、ありうべからず存在証明。
逆説的にシェム・ハ・メフォラシュと言う太源を励起せし異端なる呼水。
「クハ、クハハハハハハハ! そうか! そうか!
「嗚呼、そうだとも我が代行。故に礼賛しろ──
深淵を覗く時、深淵もまた此方を覗いている。
神と巫女の相思相愛。互いに互いの存在を補完し合う共存の理。
「謳え、謳え、謳えよ
落ちる首。
光を失う双眸。
活動を停止する
少女は今、二度目の終末を迎える──その、刹那。
『「──いいや、まだだ」』
轟く喝破。
砕ける空間。
幾つもの世界は重なり、災厄が跳ね除けられる。
行使されるのは、先史文明にて崇められし
「……は?」
現実にて、もう一人の巫女が唖然とする。
今し方殺し尽くした筈の漆黒が、復活を果たした。
切断された頸は当たり前の様に無傷。しかし問題は其処ではない。傷を回帰した結果ではなく、その過程こそが問題であった。
「待て、待て。待て待て待て待て待て! 何故、何故なのだ!?」
唖然、困惑。そして不条理に対してフィーネは吼える。
何故ならば、今眼前の怪物が見せた蘇生方法こそまさしく──己が崇拝する種の権能であるが故に。
並行同位体への損傷の転写。世界線すらも超越した不死不滅の絡繰はまさしく無法の
「その権能は
納得などできるはずもない。
それも当然の事だろう。数千年も苦しみ抜いて歩みを進めた自分よりも、たった十年しか生きていない幼子が最も彼女の望む
「巫山戯るな! お前が神の寵愛を賜るなど、そんな巫山戯た事があってなるものか──
「
拝跪せよ。礼賛せよ──毒蛇に堕とされし人間が紡ぐ神への祝詞。即ち創世神話が幕を開けるぞ。
『──
「“█”“█”“█”“█”──
さあ天上の銘を刻め、
紡がれるはこの世で最もいと尊き我らが主の御名。
創生せよ、天昇せよ、天墜せよ、天来せよ、天創せよ──人が創りし
『十と一の
『
即ち、神の座へと至る智慧の樹。
「その姿は広大。無限に広がり流れる海が如く。三十六対の翼。三十六万と五千の瞳。四十九の宝石。太陽より燦然と輝く
紡がれるのは、斯くも心に滲み入る
シェム・ハ・メフォラシュの権能である“言語”によって象られた美辞麗句は、その一節一節が途方もない神威を孕み、依代の口から唱えられる度に世界の法則を書き換えて行く。
物理法則を虚仮に唯我独尊を謳いし埒外物理の証左たる銀の粒子が、まるで祝福する様にアイリス・フェイルノートを包み込む。
『生命の樹。人類群生演算機構。我が業により、我は天から失墜する
その祝福に呼応する様に、神もまた全能をその手に取り戻さんと世界を侵食する。
『
──
『
──
流れ出る世界の真理。
ある者は“それ”を欲するが故に総てを捨て去り、ある者は“それ”を
『汝、創世女神の愛し児よ──我が骸を天地と別ち、
「──
神の寵愛が、依代へと捧げられた。
まさしく汝こそが神話の特異点。
アダムとイヴを誑かした
神の代行として至高の玉座を独占する様は、まさしく
「
炎と共に、代行者が降誕する。
まるでプロメテウスの灯せし黎明。フェネクスが施す再生──
炎とは、神の怒り。主と主に連なる者の偉大さの証明。
罪を濯ぎ悪を浄化せしめんとする神罰の依代。
退廃に溺れたソドムとゴモラの街に降り注ぐ硫黄の火。
主と預言者を非難せし愚者を罰する炎の蛇。
黎明に非ず。再生に非ず。
神罰であり、降誕の証である。
「──
顕現せし、栄光の王。
覇者の王冠を担いし超克者が、最果ての玉座を独占し世界の理すら改変させながら夢幻と現実の狭間で微睡む。
█
うわーっ! ヤダヤダ許して! なんかテンション上がってデュエットしちゃったけどこの状況怖すぎるよ! 靴でもなんでも舐めますから
『遺憾である。未だ意識の大部分はバラルの呪詛に引き裂かれ要の腕輪も棺に封じられており不可能だ──何より、
え? そうなの? なら良いや。
うぇーいよろしく神様! 一緒に絶望と希望の英雄譚を楽しもうね!
『我が言うのもなんだが清々しいまでのクズだな貴様。さっきの感動を返せ』
と言うか頭の中に今の私のスペックが流れて来るんだけどなんだよこのチート権能のオンパレード……少しはラスボスたちとのパワーバランス考えなよ……この物語の主人公は装者たちだぞ?
『この状況でダメ出しとか正気か貴様?』
『
ネフちゃんうるさい!!!
『……まあ良いか。英雄譚の合間にて少なくとも退屈はせぬな──我が“半身”よ』
あっ、でも土壇場の覚醒は普通に胸熱だから新しい鎧のデザイン考えてね二人とも。納期は10秒だよ♡
『
『よし、手を貸せ“蛇”よ。やはりこの
⚫︎シェム・ハ・メフォラシュ
シンフォギア全シリーズ一気視聴で脳を焼かれたと同時に特大のネタバレを踏んで感情が迷子。
数千年以上も思い悩んだ相互不理解の宿業に対してダイジェスト形式でビッキーたちが自分も納得できる程に素晴らしい
未知を見せろ。至高を見せろ。責任を取れ外道なる
まるで答えを先に知ってしまった数式の命題。ならば其処に至るまでの途中式を美しく盛り上げよう。
幼女の事は人間的にはカスだとは思ってるけどシンフォギアに脳を焼かれた同志で、もっと美しい英雄譚鑑賞の為に追加のラスボスになって華々しく散って欲しいとの事なので関係は良好。
⚫︎アイリス・フェイルノート
たった一話しかシリアス内面が持たなかったカスにして早急に殺すべき人類の敵。
曇らせ趣味の英雄譚信者が全知全能を手に入れたとか言うまさしく悪夢。
世界の理を改変しながら突き進む不死不滅の存在に成り果てた化け物。
なお本人は装者の踏み台としてボスに無様に敗北したい為、ダメージの転写はともかくチートスペックの方には困惑してる。
⚫︎フィーネ
本当に可哀想。
カス幼女と全ての元凶が手を組んだとか言う最悪な状況。
よろしければ感想、評価お待ちしています!