私の名前はアイリス・フェイルノート。転生者である。
転生者と言っても、前世の記憶はほぼすり減っていて思い出せる事は少ない。
そんな穴だらけの記憶の中で唯一鮮明に思い起こせるもの──それがこの世界の物語、戦姫絶唱シンフォギアだ。
美しいものを観た。
唯一の想い出。伽藍堂な俯瞰者たる私に残された全て──このシンフォギアと言う美しい英雄譚の世界にて、始まりの序曲たる惨劇に居合わせた己の幸運をこれでもかと想う。
溢れ落ちる涙と慟哭。
絶望の最中にて煌めく人間讃歌。
片翼の死に絶望する防人の姿が今も瞼の裏を駆け巡る。
脳を焼かれる程に美しい光景を目の当たりにして、『私』の今生に於ける渇望と宿願が此処に定まった。
──彼女たちの絶望が観たい。
綺麗な泣き顔、残酷な現実に胸を穿たれるその悲哀溢れる少女の姿をもっともっとこの目に焼き付けたい。
──彼女たちの立ち上がる姿を観たい。
だけど、ただ絶望に沈むだけの
苦しくても、辛くても、どんな困難が待ち受けようとも彼女たちは立ち上がり、奮起し、試練を踏破しなければ行けないのだ。
狂乱に堕ちた巫女を理解し、正義の為に悪を成す少女たちと共に怪物を打ち倒し、憎悪に歪む破壊者を
あぁ、まさに至上の英雄譚。
愛を胸に歌を紡ぐ奏者たちの絶望と悲哀は、最果ての結末があるからこそ光り輝くのだと私は知っている。
だから──そう、
そんな私にとっての人生の目標。
装者たちの絶望と希望に満ちた物語を観ようと定めた決意から数ヶ月──なんかもう普通に心が折れそうだった。
「あんたが死ねばよかったのに」
教室での一幕、顔も名前もあんまり覚えてないクラスメイトから浴びせられる悲痛な罵詈雑言。
油性ペン越しの憎悪に塗りたくられた机。
上履きに仕込まれた画鋲のせいで足が痛い。
いじめである。子供ならではの純粋な悪意と非現実的なノイズによる惨劇という刺激により箍が外れた少年少女たちの悪意は、私に集まっていた。
事の始まりはライブの惨劇後初の登校日。
姉とは違い
『なんで◼️◼️くんが死んで……あんたが生き残ってるのよ!』
確かこんな感じの事を言われたんだったか。
多分好きな子が私と同じライブ会場でお亡くなりになったのだろう、南無三。
まあそこからは結構メンタルに刺さる精神攻撃のオンパレード。
単純な暴力だけなら
いやぁ。原作知識で一応ライブの生き残りに対しての風当たりは覚悟してたけど……うん、普通にキツいですこれ。
えっ、原作ビッキーこれにずっと耐えてあの光属性なの? 凄すぎない?
グレビッキーもよくあの捻くれ具合で済んでるな……普通ならギア覚醒から闇堕ち一直線でしょこれ。
日本人離れした容貌。と言うか実際海外から移住してきたから当たり前なのだが、そう言った学校と言う名の閉鎖世界にて明らかに違った“個”である事も村八分の一助になってしまってるのだろう。
ライブの惨劇での被害者には日本の国庫から補填があり、それ故に私だけじゃなく家族にも迫害の余波は及んでいる。
「っ。なんとか言いなさいよ!」
無視無言。憎悪を孕んだ干渉に対して無関心を貫いても相手の気が晴れる訳もなく、直接的な暴力を振るわれるのも珍しくはない。
教師は止めてくれないのか? と思ったが駄目だった。
なんでも彼方のお子さんもライブの惨劇に巻き込まれて亡くなったらしく瞳には悪感情と嘲りを含ませながら傍観者に徹してる。うわつっら。
まあこんな原作に一雫分の波紋も起こさないような悲劇については割愛しよう。
いつもの如く懲役数時間の日々の学校生活をなんとか耐え、私は我が家に帰る。
「──ただいま」
『おかえり』と、か細い母の声が聞こえた。
父は家族を養う為非難囂々の視線と会社で持て余すような扱いをされながらも仕事に励んでる。
塀や壁に刻まれた罵詈雑言の落書きに精神を疲弊させ居間でぐったりとした様子の母を一瞥し、私は姉と共有してる自室への階段を登った。
「……おかえり、“イリス”」
戸を開ければ、先に帰宅していた姉が私を出迎える。
あの惨劇の日。私と一緒にライブに行った姉は、決して癒えることのない傷を負っていた。
ひらりと、右腕の通っていない袖が揺れる。
私とは違い惨劇で目に見える
つまりこの実家への不条理な仕打ちの原因はほぼ無傷で生き残った私にあると言う訳だ。うん、ごめんね本当に。
まあこんな感じで我が家も別の意味で地獄である。
母はどんどん痩せ細って限界状態。
父は村八分にされながらも心を削りながら会社に通い続け──姉は、どうしようもない“嫉妬”に狂いそうな自分を必死に抑えてる。
どうしてお前はなんともないのか。
どうして自分はこんなにも苦しいの。
どうしてお母さんとお父さんはあんな辛い目に遭わなきゃいけないのか。
多分。姉の中ではぐるぐるとそんな事ばかり巡ってると思う。
瞳に映る陰鬱な感情は、当事者である私にとって十分感じ取れる悪感情だから。
あぁ、あぁ──
学校生活で出会う有象無象とは違う──血を分け、共に育った姉妹が突如訪れた非日常に狂い曇るその姿は、この世界の
思わず歪みそうになる頬を自制しながら、私はいつもの様に姉の介護をする。
『お姉ちゃん。お着替え手伝うね』
『お姉ちゃん。ご飯は私がよそってあげるよ』
『お風呂大変でしょお姉ちゃん? イリスが体洗ってあげるね』
側から見れば、麗しい姉妹愛に映るだろう。
惨劇により後遺症を負った姉を思い、学校での苦難に耐えながら血を分けた姉妹を思う妹──だけど姉は、
そして
「なんで……! なんでイリスなのよ!」
ぱん、と。頬を叩かれる。
目を血走らせながら、過呼吸一歩手前の荒い呼吸を繰り返しながら、姉は憎悪の篭った瞳で私を睨んだ。
「私は、私はこんなに辛いのに。なんでイリスは……!」
姉は、私が学校でいじめを受けているのを知らない。
私がそれを隠しているからだ。
土に汚れたランドセルを毎日綺麗に拭きあげ、痣と血に塗れた身体を
『今日は友達と遊んだの』
『授業で描いた絵を先生に褒めてもらったんだ』
『体育の授業で好きな子とペアを組んだの』
『
全くの嘘出鱈目である。別に家族や姉に心配をかけないために健気に振る舞ってる訳じゃない──ただ、
「お母さんも、お父さんもあんなに苦しそうなのに!」
夢を捥がれた少女が狂い哭く。
理不尽だと、不公平だと。
ただ日常を謳歌している実妹に対する嫉妬で、自分を抑えきれてない姉の姿に上がりそうになる口角を必死に抑えた。
「イリスのせいだ! イリスのせいで私は、私たちは──ぁ」
ふと、姉が我に返った。
怒りで塞がる視界の端で、涙を流す
「お姉、ちゃん……?」
嘘泣きである。
ヤバいめっちゃ楽しい。
姉はカタカタと歯を慣らし頬を打った左手を震わせ、憎悪に染まっていた瞳には“後悔”が滲み出す。
「ごめ、ごめんね……っ。ごめんねイリスっ」
覚束ない片手で、ギュッと私を抱きしめる。
くふ。
あはっ。
笑みが、溢れた。
惨劇の前はあれ程までに家族を愛し、妹の良き手本になろうと絢爛な笑みを咲かせてきた少女が他ならぬ私の手で絶望の坩堝に堕ちていると言う現実に、臍下あたりがむず痒くなる。
「ごめんっ。ごめんね……ごめんなさい……!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん──イリスは、大丈夫」
ごめんなさい全然大丈夫じゃないです。
笑いを堪えるのがちょっと限界かも。
──ああ。彼女たちも、
█
静まり返った夜の闇に、私は目を覚ます。
涙で目を腫らした跡がくっきりと残る姉の眠りに身を任せている姿を確認し、私は二階にある自室の窓から飛び降りた。
もはや日課となった夜の散策を開始する。
──今日こそは、
ある出来事を待ち侘びながら私は夜の街を駆ける。
靡く疾風の如く、人間の範疇を超えた人外の速度で私は闇に紛れて都内を渡る。
どうやら私の身体の
融合症例──主人公である立花響、そしてラスボスであるフィーネが成り果てた存在であるそれに、私は至っていた。
鎧を纏わずとも生身で(おそらく)OTONA並みの人外身体能力を発揮し、しかも厳密には聖遺物は励起させていないので二課の探知にも引っかかっていない。
目を瞑ると感じる──あの蛇が、私のこの身の内を這いずり廻ってるのだと。
拍動が加速し、血液に鎧の残滓が駆け巡るのを感じる。
視力は夜空の星々を精密に観測できるほどに鋭く、聴力は数Km先の喧騒を聞き分け、嗅覚は狩りに興じる狼の如く鋭く冴えている。
そんな人離れした身体能力をフルに活用し──私は、
───████████████
「──!」
聞こえた。聴こえた。
感じた。その存在を──蒙昧たる
「あぁ、漸く来たか!」
夜空を駆る。
衝動に身を任せ、来るべき運命の始動に脳が痺れ鼓動が脈打ち、血が沸く。
駆けて、駆けて、駆けて──私は、電波塔の天辺から眼下のノイズを見下ろした。
「さぁ行こう、
虚空に身を任せ堕ちる。
重力に従い落下する己の身体。あぁだけど、これはあの日の様な絶望に身を任せた落下じゃない。
転墜しろ。天墜しろ。████の御心と共に──斯くやあらん。
「
纏うのは、あの日出逢った運命。
完全聖遺物ネフシュタンの鎧──漆黒に染まった鎧を纏い、大剣を手に私は降誕する。
……やっぱ君原作と姿違くない?
真っ黒だ。真っ黒である。この白髪赤目美幼女の特徴をこれでもかと塗り潰さんばかりの真っ黒アーマーだった。
と言うかなんだこのでっかい剣。
……まぁ原作でもクリスちゃんとフィーネで装いも違ったしこんなもんだろう。とりあえず今はこれからの曇らせ絶望道中にて最も大事な決断をしなければならない。
『████████』
「煩い」
襲い来るノイズを斬り伏せながら思考に耽る。
そう、これからの展開における重大な
私自身の装者に対する外面をどうするか。
この命題はこれからの目標にとって重要なポイントとなるのだ。
ちなみに二課に保護して貰って味方キャラは論外だ。
ここが並行世界だったり2期以降ならともかくこの時期に
さて、カエルみてえな姿のノイズを串刺しにしながら、戦姫絶唱シンフォギアに於ける敵キャラを思い起こす。
フィーネ。初期のF.I.S組。ドクター・ウェル。キャロルちゃん。サンジェルマン。アダム。シェム・ハ。
私にとってこの中で参考すべきキャラは──キャロルちゃんだ。
憎悪に溺れ、父からの命題を歪め、復讐に生きる悲しい錬金術師──彼女の在り方は、装者たちを曇らせる絶好のファクターだった。
なんなら
つまり私がこれから
とりあえず原作開始前は暗い過去を思わせる意味深なセリフを呟きながら翼さんを曇らせたいなぁ。と思いながら、私は炭と化したノイズの残滓の上に
ライブ前に姉がお小遣いで買ってくれた髪飾り。しかも市販品じゃなくてオーダーメイドのこの世で姉の分と二つしかない特注品だ。
偽装工作、ヨシ!
索敵諜報優秀な二課ならこれだけで持ち主が分かるだろう。念の為家から持ってきた自分の靴とかバッグも近くに捨ててなんか
やったねお姉ちゃん♡貴女の大好きな妹ちゃんは喧嘩したその夜に家出してノイズに炭にされちゃったよ♡これで家族への迫害も無くなるね♡
「……まだかな」
近い将来芽吹くであろう曇りの種を蒔き、独り言ちる。
ノイズが現れてから十数分──もうそろそろ現れるであろう戦姫を、今か今かと待ち侘びる。
「
運命が、私の許に舞い降りた。
█
愛機と共に、
あの忌まわしき惨劇から数ヶ月──未だ癒えぬ片翼の喪失を胸に私は、ノイズ襲来の報せに身体を固まらせながらも防人としての責務を果たさんと心を殺した。
「……奏」
あぁ、それでもやはり。この残酷が胸を穿つ。
逢いたいよ、奏。私を独りにしないで。
もっと歌いたかった。もっと共に戦いたかった。
人を捨てたこの身に溶け込む貴女の優しさと温もりがただ、恋しい。
『無理はするな翼。避難誘導は既に一課が済ませている。お前は控えても──』
「っ……否。この場に剣を携えているのは私ただ独り。手弱女の如く怖じるつもりなど毛頭ありません!」
『──そう、か』
インカム越しに伝わる叔父様……司令の気遣いを無碍にする。
そう、私だけだ。奏はもういない。ノイズから人々を防人る剣は、もう私ただ独り──。
『ノイズ襲来の現場から新たなるアウフヴァッヘン波形を検知! なっ、これは!?』
司令室から聞こえる
オペレーターの1人である藤尭さんの困惑に満ちた声と共に、インカム越しに伝わるほど場が騒然となる。
一体何があったのか。私が問いを投げかけるよりも先に、司令が声を荒げた。
『ネフシュタンの鎧……だとォ!?』
その一言に、私の中の時が止まった。
ネフシュタンの鎧──ツヴァイウィングの片翼が捥がれる契機となった、その完全聖遺物の名前に。
硬直、困惑、疑問。その果てに私が抱いたのは、“怒り”だった。
「……巫山戯るな」
ぽつりと、溢れるのは赫怒の情念。
ノイズ襲来の現場に
「巫山戯るなっ!」
即ち、かの存在こそライブの惨劇に重大な関わりを持つ夷狄であるのではないかと言う疑念。
都合よく完全聖遺物の励起実験にてノイズが現れるなど、そんな偶然があって良い訳がない。
当たらずとも遠からずとも、あの日消え失せたネフシュタンの鎧が今またノイズと共に現れたのだ。因果を疑うなと言う方が無理がある。
フルスロットルで愛機を
「
纏うは剣。風切る如く。
有象無象の踏破すべき
そして、漆黒に染まる鎧を身に纏った1人の少女。
思わず、面を食らってしまった。
想像していた“敵”とは違う。私よりも小さく痩躯なその少女。
一見すれば守るべき銃後の少女であるが。纏いし鎧と負を詰め込んだ様なその在り方は、一筋の“覚悟”を感じさせた。
「やらないと……私がやらないと」
か細く、ネフシュタンの少女が呟いた。
そして次瞬。己と同じく紛れもない“怒り”を圧に乗せて、少女は叫んだ。
「
憤怒の凶剣──奴に抱いた印象がそれだった。
憎悪を吠えながら、怒りを剣に乗せながら彼女は既に朽ち果てた
型も無ければ、流儀もない。
ただその身に流れる激情だけを糧に振るう狂気の剣。
感じたのは、既視感だった。
「貴女は……」
声を発する。
鎧の少女もこちらの存在に気づいた様で、バイザーに隠れたその顔を此方に向けた。
「……いや、貴様は何者だ」
並々ならぬ事情を感じさせるその様相。
しかし私もそれは同じ事。
少女の“怒り”に呼応するようにして、私も“怒り”を抱き剣を向ける。
ネフシュタンの鎧──その忌物を纏う者を、私の欠けた心が赦せる筈もなかった。
「応えよ! その鎧を以て何をするか、そして──貴様が何者であるか!」
そうだ今目の前にいるのは紛れもない夷狄。
私が
やがて。覚悟を決めた私をじっと見つめた少女が、大地に剣を突き刺し口を開いた。
「死に損ない」
歪んだ己の在り方を、凶剣はただ答えた。
⚫︎アイリス・フェイルノート
カス。外道。クズ。愉悦部。
装者たちを曇らせる前に予行練習感覚で姉に決して癒えない心の傷を負わせる吐き気も催す邪悪。
装者たちに対してはハッピーエンド至上主義だけど姉は別に曇ったままでいっかとなってる化け物。
⚫︎████・フェイルノート
被害者その1。
惨劇前は純粋で心優しい女子高生だったのに外道妹のせいで常時曇り空。
これ以降夜な夜なあの日消えた妹を思い出のヘアピンを手に探してるらしい。
多分あと1回か2回くらい出番があるけどモブなのでそこまで別に重要ではない。
⚫︎ネフシュタンの鎧
なんか原作と違う具合に変質した鎧。
真っ黒鎧にバイザー装備でなんかでっかい剣が付属している。
イメージはセイバーオルタの第一再臨。
⚫︎風鳴翼
外道幼女の最初のターゲット装者。
ネフシュタンの鎧を相手にして修羅道防人モードに突入。