歪なあり方を吼えるネフシュタンの少女。
既視感が、また蘇る。
「何故その鎧を身に纏っている」
今にも斬りかからんとする己の中の跳ね馬を抑え自制し、怒りを堪えて防人としての本分を果たさんと私は問いを投げかけた。
もし、その答えが人々に災いを齎すものであれば、奏の死を穢すものであるとすれば今度こそ私は自分の中の鬼を抑えきれないと自覚する。
「風鳴、翼」
凶剣が、私の名を呼ぶ。
アーティストとしての風鳴翼か、それとも二課の先陣として人界を防人る風鳴翼のどちらの側面を認識しているのか、その一言のみでは判別はつかない。
「そうだ、ツヴァイウィングの片翼。風鳴翼だ──今一度問うぞ。
「不始末? ふふ、あは。アハハハハハハ!」
夷狄が嗤う。
狂った様に。実際に狂っているのだろう。
この歪極まる状況でただ純粋な抜き身の殺意をその身に纏わせながら、少女は年不相応の狂気に身を浸している。
「──あァ?」
「っ!」
やがて、凶剣の嗤いが止む。
一節にも満たぬ言の葉に乗せられた感情は、途方もない赫怒だった。
眼前にて剣を構える私から顔を逸らし、ネフシュタンの少女は残党のノイズに殺意を剥き出す。
『██████』
「おォォッ██████!!」
もはやそれは人の発する言葉ではなく、獲物を喰らう獣の慟哭。
その身の丈を優に超える大剣を担ぎ、少女は私の存在を蚊帳の外にノイズを滅する。
「死ね──死ね! 存在して良いと誰が言った!?」
完全聖遺物の圧倒的なポテンシャルにより炭素の塵と化すノイズの群れ。それでもネフシュタンの少女は止まらない。
塵屑を、踏み荒らす。何度も何度も何度も何度も──既に命脈を絶った怨敵をそれでも赦してなるものかと、漆黒はノイズの残骸をその小さな足で踏み潰した。
激情に駆られ振るう剣は、やはり流派や教えを感じさせぬ我流の凶器。
それどころか一片の才すらもその動きからは感じられない。
歩様も、四肢の動かし方も、関節の操作も、剣の持ち方すら全てが素人のそれ──だが少女から放たれる凶悪なまでの殺意が、それら全ての戦術的要素を嘲るかの如く彼女自身を一振りの“
──『これがアタシの力! ノイズをぶっ殺すアタシのシンフォギアだ!』
過ぎる既視感。その正体についぞ気づく。
この子は、奏だ。憎悪に溺れてノイズを滅ぼすための
誰かの為に歌う素晴らしさに気づく前の片翼。私に温もりを与えてくれる片翼となる前の復讐者──それが、この少女の正体なのではないだろうか。
「……あぁ。なんだっけなァ、鎧がどうとか」
ふと、狂気を薄れさせた声色で少女がぐるりと首を回し
そして反芻するは先ほど投げかけた私の問い。その鎧を纏う事についての意図、想いを語れと言う私の促しに、ネフシュタンの少女は答えた。
「
「──あ゛?」
思わず、自分でも信じられぬ程に感情の籠った声が漏れた。
今まで人々を防人る為に戦ってきたのが嘘だと思える程に、純然な殺意が漏れ出す。
無駄だとせせら嗤った──その鎧の為に散った命を。
奏の献身を、勇猛を、悲哀を無駄と嘲るか!
「貴様!」
剣を、振るう。
ギアのエネルギーを纏った技としてではなく、純粋な殺意に身を任せた刀の一振り。
赦すものか、赦すものか、赦すものか。
その尋常ならざる在り方にいっ時の情念を覚えようとも、私の怒りはそれを優に塗りつぶす。
もはやこれは防人の在り方に在らず、人斬りの鬼、悪鬼の心持ちで抜き身の剣を少女に振るった。
「
「──なっ!?」
されど、凶剣はこの一振りを拒絶しない。
まるで恋人の抱擁を受け入れるが如く広げた両腕、無抵抗なその小さな体に、
不味い、止められない。このままでは──!
己の決断で成した一振りだと言うのに、過ぎるのは一瞬の後悔。
例え激情に身を任せた一撃であろうとも、
すぱん。と、
頭の天辺から股下にかけての一閃。紛れもない致命傷。
「……ぁ。ちが、ぅ」
防人として
気持ち悪い。気持ち悪い、きもちわるい。
刀越しに手に残った感触が脳にこびりつく。
半分に欠けた
発育途中の小さな胸、痩せ細った胴。そこから臍下までばっさりと疾る一閃が、鎧ごと
ぁ、うぁ──なんで、こんな。
「──気にしなくて良いよ。どうせ全部
声が、聞こえた。
俯いた視線を上げれば、致命を負った筈の少女がなんとなしと言った風に言の葉を紡ぐ。
傷が癒えていく。
否。そんな前向きな言葉で片付けられる現象ではなかった。
痛々しく少女の素肌を蛇の鱗の如き紋様が広がるその有様は治癒ではなく回帰。この世の摂理に反するかの様に人としての在り方を取り戻していく姿に、“ぞわり”と背筋が凍る。
「なんで、こんな“化け物”が生きてるんだろうなぁ」
ばけ、もの……?
一瞬、剣鬼と化した私に対する罵倒かと身構えるも、そうではないと察する。
自嘲を孕んだ声色が、少女自身を“化け物”だと自覚する様に悲哀を唄った。
「ねぇ」
「ひっ」
目庇が半分に砕けた“化け物”の片目と、目が合う。
もはや先ほどまでの怨讐に塗れた復讐者としての在り方とは似ても似付かぬ破綻者の容貌。
少女の瞳に存在した筈の狂気は消え去り、暗い闇と“諦め”の感情がこもっていた。
「貴女なら、私を殺してくれるの?」
「──ぇ」
意味が分からなかった。
もはや人格の乖離を疑うほどの変わり様。あれ程までに雑音の滅尽を願っていた筈の復讐者が、今度は自分の死を願うかの如き発言に面を喰らう。
哀しい瞳をしていた。
赤色に煌めく瞳。綺麗な宝石な様でいて、その奥底には
沈黙が夜に溶け込む。
殺せる筈もない。こんなにも狂った少女を、こんなにも
「……まぁ良いか。じゃあね、風鳴翼」
答えぬ私に興味が失せたのか、夜の空へと消えゆく少女。
分からない。分からない。分からない。
最後まで私の心をぐちゃぐちゃにしながら、彼女は飛び立って行った。
『──翼! 無事か翼!?』
「ぁ、おじさま……」
インカムから、此方を心配する司令の声が聞こえた。
だけど今の私にこの凄惨な胸の内を説明する余裕はなかった。
「ぅ──ぉぇ」
嗚咽と共に、胃の中の内容物を吐き出す。
つんとした酸っぱいにおいが、鼻腔を通った。
少女の小さな
理解したくない。あの狂気にもう触れたくない──だけど最後の最後に見せた“救い”を求める瞳だけは、ずっと脳にこびりついていた。
あぁ。嫌だよ──助けて、
█
“ネフシュタンの少女” “サクリスト:N”
特異災害対策機動部二課にてそう呼称される事が決定されたあの子は、あの夜以降必ずと言っても良いほどノイズ襲来の現場に現れた。
『殺す。殺してやる。一片も残さず死に絶えろ雑音がァッ!』
凶暴にして凶悪。
ノイズを討ち滅ぼす凶器として、彼女は全てを斬り伏せた。
それだけならまだ良いのだろう。ノイズに対して並々ならぬ因縁を感じさせる事は何も不思議な事じゃない。
その身に纏うネフシュタンの鎧とライブの惨劇に関与しているかと謎は多く残っているが、彼女のノイズに対する殺意は紛れもなく本物だった。
問題は──その、戦いぶりだった。
一体どう言う絡繰か私たち二課よりも早くノイズの襲来を察知する彼女。後手に回る二課の戦力たる私が
『死ね。死ね──良い気になるなよ屑どもが』
血が滴る音がした。
肉が裂ける音がした。
骨が砕ける音がした。
満身創痍。完全聖遺物というポテンシャルの塊とシンフォギア以上の出力装置を身に纏いながら、彼女は常にその身を痛めつけていた。
『あアアァァッ████████──!』
殴られ、抉られ、切り刻まれ。
殴り、抉って、切り刻む。
砕かれ、突き刺され、圧し潰され。
砕き、突き刺し、圧し潰す。
まるで自傷行為。
千切れかけの腕で大剣を振るい、砕け散った脚で踏み躙り、裂けた口で噛み砕く。
「やめて……」
彼女は止まらない。
地獄の様な惨劇を作り上げながら自分の身体を痛めつけ、戦いの終わった静寂にて肉体の傷を回帰させて空へと飛び立つ。
その度に二課の面々は悲痛に顔を歪ませ、少女を保護せんと奔走している。
「お願い──!」
貴女はどうしてそこまで自分を苦しめるの?
初めて出逢った夜の事ばかりを想ってしまう。
『──貴女なら、私を殺してくれるの?』
何故自分を痛めつけるのか。
その答えはあの日の懇願に隠されているのだろうか。
「もう、やめて」
人を斬った感触とあの夜の問いだけが、ずっと頭から離れない。
後方腕組み外道幼女「見て♡翼さんが罪悪感やら色々でぐちゃぐちゃになってるよ♡かわいいね♡早く克服して英雄譚見せて♡」
⚫︎アイリス・フェイルノート
とりあえず適当に闇深ワード喋ってノーガード舐めプしてるだけで中身は『翼さん曇らせてえなぁ』ぐらいしか無いスカスカクズ。一度天ノ逆鱗食らった方が良い。
⚫︎風鳴翼
可哀想な装者ターゲット1号。
戦場に現れてはほぼ自傷行為な戦闘を続けてる外道幼女に毎回メンタル削られてる。
原作だと2期以降のこの人はマジで強すぎるのでほぼ1期序盤か5期中盤しか曇らせデバフチャンスがないとか言う強キャラ。