転生腹黒幼女は装者たちを曇らせたい   作:靉靆 

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寄り添う日々

 

 

 その運命に、私は介入しなかった。

 響き渡る覚醒の鼓動。

 少女を守るために胸の歌を唄う立花響。

 

 そして、かつての片翼が有していたガングニールを纏う彼女に対して並々ならぬ情念を抱きながらも防人としての本分を果たしノイズを滅する風鳴翼。

 

 やがてその戦場に残るのは、二人の歌女(うため)

 

 傍観者に徹するそのひと時は、絶望の坩堝を望む私の心に満足感を与えてくれた。

 なにより突如現れた片翼の形見を纏う少女に対して困惑や憎悪と言った色んな感情をぐちゃぐちゃにした瞳を向ける翼さんの不憫さが愛おしい。

 

 そう、今の私は傍観者。だって私が介入するまでもなくこの時期の二人は拗れに拗れて不協和音を奏でるのだから──あっ、翼さんがキョロキョロと周りを見渡してるね、私のこと探してるのかな? 可愛いね♡

 

 

 ──覚醒の鼓動から一夜明け、また一夜。

 

 

『──巫山戯ないで! 戦う覚悟(アームドギア)を持たぬ貴女が、奏の何を受け継いでると言うの!?』

 

 はわわわ。原作からして曇らせギスギスの供給がつよい。

 

 覚醒の夜と同じく、気配を殺し超感覚の視力と聴力で“戦姫絶唱シンフォギア”を生で鑑賞する。自分の手で彼女たちの運命を捻じ曲げるのも素敵だが、それと同じくらいこの世界に刻まれた脚本通りに物語を綴る彼女たちを観るのもまた一興。

 

 誰かの為にと戦場に馳せる立花響を認めることのできない風鳴翼の悲哀が、すれ違う夜に響く。

 

 さぁ、此処からも原作通り。怒りに震える翼さんがビッキーと戦うと宣い天ノ逆鱗を……ん? 

 

『私は絶対に、貴女を認めない』

『翼さん……』

 

 あぁ、“原作”から少し変化が起こっちゃったか。

 多分私を直接斬っちゃったのが影響してるのかな。翼さんが目に見えておとなしくなって暴力的な手段じゃなく言葉で徹底的な拒絶をビッキーに押し付けてる感じになってる。

 

『私……自分が全然ダメダメなのは分かってます。だから! これから一生懸命頑張って──』

 

 あっ。地雷踏むわこれ。

 

『奏さんの代わりになってみせます!』

『──っ!』

 

 ぱん、と。頬を叩く音が聴こえた。

 立花響が唖然とし、風鳴翼が一筋の涙を溢す。

 

「──すっごい眼福」

 

 ビッキーは絶対、そんな非道い意味でその言葉を吐いた訳じゃないと私は分かってる。

 誰よりも心優しくて、自分の存在を顧みないあの子だからこそ、掠れる記憶の中で自分を救ってくれた天羽奏に対しての憧憬と敬意を抱いてさっきの宣誓をしたのだろう。

 

 だけど翼さんからしてみれば、自分にとって人生を変えてくれた相棒にして恩人とも言える片翼を貶されたと感じたのだろう。

 

 すれ違う夜。交わらない二人。

 言語は同じはずなのに心から通じ合えない人の業。まさにバラルの呪詛が刻んだ悲劇だ。

 

 その悲劇が、私にとっては心地良い。

 近い将来あの二人が戦場にて肩を並べ認め合うからこそ、現在(いま)の不協和音が私の“癖”を満たしてくれる。

 

「さて、それじゃ行こっか」

 

 次に原作が動き出すのは一月後、流れ星が空に満ちる悲哀の日──それまでは少し、ノイズ戦はお休みしよう。

 

 いつも通り二課に悟られない為の備えとして鎧を半休眠状態まで出力を下げ、監視カメラ等の網にかからない様に裏路地や下水を通って街外れまで駆ける。

 

 アスファルトの大地を駆け、生い茂る林を通り抜け、人の気配を感じさせない森へと向かう。

 

 辿り着いたのは、()()()()

 側に広がる綺麗な湖の畔に、月が美しく反射する。

 爛々と咲く花々を愛でながら、私は“待ち人”の許へと歩みを進める。

 

「こんばんは。月が綺麗だね、クリス」

「よう。遅かったな──イリス」

 

 私の名前を呼ぶその声に、隠し切れない嬉々を感じる。

 誰にも語らぬ秘密の友人として私は、雪音クリスとの蜜月を共にした。

 

 

 

 █

 

 

 

 始まりは偶然だった。

 ソロモンの杖を起動させる為に歌って、フィーネに痛めつけられながらイチイバルの練度を高めるための厳しい訓練を課せられる日々の中であたしはアイツに出逢った。

 

 普段はどっか別の場所へ行く事が多いフィーネ。

 痛みを与えられる日常から解放される時間の中で、あたしは森に囲まれた城から外に出る。

 

()ぅ……」

 

 鞭で打たれて赤く染まる肌を冷やす。

 痛みだけが人と人を繋ぐ唯一不変。フィーネの吐く独特な価値観を受け入れ始めてた頃のことだった。

 

 がさがさと、森の方から林を掻き分ける音がした。

 

「──っ」

「わっ。やっと出れた」

 

 森から出てきたのは、あたしよりもずっとちっさい子どもだった。

 あたしと同じ白い髪に、まるで血の様に赫い眼の色が目立ってしょうがない。

 

「……誰だよ、お前」

 

 警戒心を隠さず問いかけた。

 お世辞にも今のあたし達がやろうとしてる事は往来で胸を張って宣伝できるものでもねぇ実験の数々。

 争いを消すための力……その為にノイズを操るソロモンの杖を起動してるんだ。後ろめたい理由の一つや二つはある。

 

「えっと、迷子」

 

 首を傾げて、人形みたいにそいつが答える。

 

「そうかよ、ならとっとと回れ右して真っ直ぐ歩け。そっからなら直ぐ先に道がある」

 

 そんなあたしの突き放すような一言に一切動じず、そいつはあたしの隣に座った。

 

「……おい」

「帰りたくない」

 

 悲しそうに目を伏せる子どもがいた。

 家出でもしたのか、なんて聞く気にもなれず結局あたしは隣に座るそいつを言外に許した。

 

「フィーネ……同居人が帰ってくるまでは勝手にしてろ」

 

 なんでだろうな──隣に座るひとりぼっちなこいつが、いつかの自分と重なって見えた。

 どうせフィーネは城を空けることが多いし、帰ってきても城の一室でよく分かんねえ実験をしてるか偶にあたしを痛ぶるだけ。

 ならそんな日常にひとつ変わった事が起きても良いかと、あたしは自分の気まぐれに従った。

 

「アイリス・フェイルノート。私の名前だよ、“イリス”でも“アイリ”でも好きに呼んでね」

 

 それから、イリスは決まってこの畔に訪れた。

 朝も昼も夜も関係ない。時間の擦り合わせもなく、あたしが偶の休息に此処に来るとイリスは現れて隣に座って身を寄せる。

 

「雪音クリス。あたしの名前だ」

 

 間近に感じる他人の体温が、悪くなかった。

 交わすのはちょっとした雑談。何が好きか、月や星が綺麗だとか、他にはあいつが花畑で作ってきた花冠を被せに来るだとかそんな特筆する事もない“日常”が其処にはあった。

 

 過ぎゆく日々を指折り数えて。フィーネ以外の誰かと過ごす優しい時間に“人生”を感じた。

 

「私、クリスのこと好きだよ。初めての友達だし、お姉ちゃんみたいで一緒にいると心がぽかぽかするの」

「はぁ!? おまっ、何恥ずかしい事言って……!」

 

 恥ずかしげもなくそんなちょっせぇ事を言うアイツに、だけども悪い気はしなかった。

 痛みだけが人を繋ぐ。いつもフィーネが言ってたそんな道理を打ち砕く様なアイツ……アイリスとのひと時は、あたしの心に安らぎをくれた。

 

 そうだな──悪くなかった。

 

 

 

「流れ星?」

「うん。今日の夜すっごい綺麗なのが見れるんだって」

 

 朝の日差しを霧が遮る畔で、いつもの様にあたしとイリスは身を寄せ合う。

 

「一緒に見よ?」

「あー……今日、か」

 

 物珍しいイリスからの誘いに、歯切れが悪くなっちまう。

 

「今日は……駄目だな。ちょっと“野暮用”がある」

 

 勿論“野暮用”の内容は言えない。

 融合症例──立花響。あたしは今日そいつを攫う為に街に繰り出さなきゃ行けない……ノイズを伴って。

 血に汚れた手を幻視する。

 ソロモンの杖を起動させたせいで奪われてく命を、イリスとの日々の中で意識しちまう。あたしに寄り添うこいつの肩を抱き寄せる事すら、今はできない。

 

「……そっか。ごめんねクリス」

 

 悲しげに目を伏せるイリスの姿に、胸が痛む。

 ちくしょう。あたしは……いつの間にこんなに弱くなっちまったんだろうな。

 

「いつか一緒に、流れ星見ようね」

「……ああ。いつかな」

 

 イリスの真っ赤な眼にはあたしの弱さが見抜かれてる様で、それがどうしようもなく怖かった。

 

 

 

 

 

 █

 

 

 

「ア゛ぁ゛あ゛████!!!」

「ひっ」

 

 そして──その夜。あたしは化け物に出逢った。

 流れ星の約束を蹴ってまで向かったフィーネからの命令。

 其処で融合症例と風鳴翼を相手にしたあたしはノイズを放って、“奴”が降り立った。

 

『いいことクリス。異分子(イレギュラー)だけは相手にしない様になさい。貴女の纏うネフシュタンの原典(オリジナル)なのもそうだけど──“アレ”は決して、ノイズに連なる者を赦さない』

 

 夜を迎える前に、フィーネの言ったことを思い出す。

 完全聖遺物ネフシュタン──あたしが今纏ってるのは、その模造品だとフィーネは言った。

 

 舐めるな。あんたの役に立って見せる。あたしならやれる。

 

 イリスというあたしにとっての心の畔を見つけた今でも、やっぱりフィーネに見捨てられる事も見限られる事も怖かった臆病なあたしは、そんな心持ちでこの戦場(いくさば)に足を踏み入れた。

 

「お前が!」

 

 化け物が、あたしの許へと来る。

 ちっさいその身体の倍近くある剣を担いで、バルベルデで見てきたクソッタレどもが可愛く見える様な狂気を振り撒きながら、憎悪を吠えた。

 

「お前が!」

 

 ノイズに対する憎しみ。そしてそれを操るあたしに対しての怒りが、辺りに満ちた。

 ノイズを差し向けても関係ない。大剣で潰しながら歩みを止めないのもそうだが──攻撃を全て躱さず突っ込んでくるその異常さに目眩がした。

 

 槍の様に突撃する鳥型ノイズの急襲に身体を穴だらけにしながら。

 身体の一部を爆弾として相手にぶつけるぶどうノイズの攻撃に身体を焼きながら、人型ノイズに腕を、脚をへし折られながら“化け物”が傷を再生させ突撃する。

 

 狂ってる。狂ってやがる。

 同じネフシュタンを纏ってるからあたしには分かる。傷を再生する度にどうしようもない痛みが走り鎧が身体を侵食するはずなのに、アイツはそんなの知った事かと言わんばかりにあたしに向かってきた。

 

「──お前がァ゛ァ゛ッ゛!!」

 

 戦争を憎むあたしと同じ様な“憎悪”を纏った()()に迫られる中で、何故だか──イリスと約束した流れ星に眼を奪われた。

 

 

 







幼女「クリスちゃんチョロ可愛いね♡ 流れ星と一緒に心の傷刻んでやるから覚悟しろよ(豹変)」


⚫︎アイリス・フェイルノート
 戦争ぶっ潰す純情ウーマンのクリスちゃんを幼女の見た目と演技で堕とすカス幼女。さっさとスーパー懺悔タイムした方が良い。

⚫︎雪音クリス
 被害者その3。
 距離の詰め方バグった幼女に迫られて即堕ちしたチョロイン。化け物と敵対しながら幼女の肉片特級呪物纏ってる不憫な子。
 
⚫︎風鳴翼
 今の所原作通り。
 ビッキーに対する対応がちょっと変わったくらい。
 1ヶ月も幼女が戦場に現れないから何処かで行き倒れてないかとめちゃくちゃハラハラしてた。久しぶり会えてホッとしたけど在り方がなにも変わってないのでやっぱり曇る。

⚫︎立花響
 今の所原作通り。
 毎シリーズ曇らされては復活する光属性の塊。
 とりあえず翼さんの自爆絶唱とイカれ幼女と曇りまくるクリスちゃんのトリプルパンチを食らう事が確定してる。

 
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