転生腹黒幼女は装者たちを曇らせたい   作:靉靆 

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愛を胸に

 

 

 美しいものを見た。

 血を吐きながら私のために歌う防人の姿。 

 友人としての私に憎悪を向けられ翳る魔弓の姿。

 

 そして今──この世界の主人公が、絶望に打ちひしがれ慟哭をあげている。

 

 嗚呼、なんと美しき哉。これぞまさしく至上の絶景。私の望んだ楽園(パライゾ)に他ならない。

 

 大丈夫。大丈夫。貴女たちならやれるはずだよ。

 人を助けよう。人類を導こう。世界を救おう。

 貴女たちに、それができない筈がない。

 

「──翼!」

 

 愉悦に蕩ける私を、益荒男の一声が現実に戻した。

 時は進む。歩みは止まらない。

 混沌と化した戦場の跡地に、“最強”が辿り着く。

 

 二課の司令、風鳴弦十郎が致命に近い傷を負った風鳴翼の名を呼ぶ。

 

「あ、ぁ……わたし、は……損なったのか」

 

 私の側で、風鳴翼が血の涙を流しながら私を見る。

 あぁ! 嗚呼! なんて綺麗なんだろう! 

 命を燃やして! 全てを懸けて! 私と言う哀れな存在を救おうと足掻く一振りの絶刀! 

 愛おしくて仕方がない。映像で見るよりもずっとずっと美しいその血に塗れた顔が見れただけでも、この身を襤褸襤褸にした甲斐があると言うものだ。

 

「おじさま──あとは、頼みました」

「翼ァ!」

「翼さん!」

 

 防人が、倒れ伏す。

 信頼を預けるに値する“最強”に、己の後始末を懇願して。

 

 さて、めちゃくちゃ美しいものが見れたし私は満足も満足である。

 人類最強のやべー奴こと弦十郎さんも翼さん優先で私に関わってる暇もないから逃げるなら今だ。

 あとはクリスちゃんの所に行って素知らぬ顔で甘えよっと。

 

「──緒川、翼を頼む」

「御意」

 

 ──ん? 

 “最強”が、懐刀の忍びに翼さんを託して私に向き合ってる。

 待て。待て待て待て──なんで此奴が此処にいる? 

 原作では車で櫻井了子(フィーネ)と共に戦場に現れた風鳴弦十郎が折れぬ防人の意思を聞いてそこで今日の舞台は終幕。そのはずだ。

 

 櫻井了子(フィーネ)は側にいる。

 それはそれとしてOTONAその2こと忍者の緒川さんが即行で現れたと思ったら翼さんを抱き抱えて即行で離脱しやがった。

 

「託したのだな、俺に。ならば──果たさねばならん」

 

 “ぞくり”と、背筋に怖気が走った。

 これまで蹂躙してきた雑魚(ノイズ)とも違う、圧倒的強者。

 聖遺物の欠片(シンフォギア)とも違う、私と比肩するどころか一部凌駕する身体能力(スペック)

 

 逃がさない。逃がすものかと──最強が、私ただ一人を対象に全ての神経を尖らせている。

 

 やっば。ガバったなこれ。

 えっ、逃げられるかなこれ? 飛ぼうとした瞬間即足とか掴まれて確保されそうなんですけどこっわ。

 

「アイリス・フェイルノート」

「──なまえ、知ってたの?」

 

 最強が、私の名前を呼ぶ。

 えぇ……さっき顔出ししたばっかなんですけど。

 

「先程聞かされたばかりさ──二課の情報網と頼れる仲間のお陰だとも。君が顔を晒した時点で、急ピッチで過去の行方不明者等の資料を漁ってもらった」

 

 うおっ。すっごい優秀。

 どうにか逃げられないかと手段を模索する中、風鳴弦十郎が頭を下げた。

 

「謝罪をさせて欲しい。二年前の惨劇、その渦中にて君がその鎧を手にしたのは偶然であり、紛れもなく我々の不手際であることは疑いようもない」

 

 そしてそのまま、謝罪の言葉を垂れる。

 

 ……ふっざけんなこの状況でも逃げられるビジョンが全然浮かばないんだけどどんだけマジなんだ貴方。

 原作だとクリスちゃんにすら不意突かれて逃げられてただろ。

 

 捕まるのは、論外だ。

 もう原作中盤に差し掛かる状況だし別にフィーネのいる二課に身を寄せても問題ないが、それじゃあ今の傷つき翳る絶好に熟れたクリスちゃんに関わる時間がなくなっちゃう。

 

 それは、あまりにも()()()()

 

 あの子の絶望を、私が手ずから蒔いた心の傷を間近で愛でられないのはすっごくすっごく嫌なのだ。

 

「我々は君を“保護”したい。どうか、この申し出を受け入れてくれないだろうか」

 

 多分もう此処まで来たならどうせ断っても実力行使だろうなぁと思うぐらい覚悟がガンギマリしてる。怖すぎる。

 翼さんを曇らせるために行ってきた舐めプが今になってこんな形で自身の首を絞める事になるとは……。

 

「“保護”? “確保”じゃなくて?」

「っ」

 

 よし、とりあえず精神攻撃しよう。

 

「お母さんが泣いてた。お父さんが苦しんでた。お姉ちゃんが怒ってた──全部ぜんぶ、私と貴方たちのせい」

「それは……」

「石を投げられた。蹴られて、殴られて『人殺し』だって後ろ指を指された──なんで“今”なの?」

 

 あっ♡私の言葉にビッキーがトラウマ抉られて涙目になってる♡可愛いね♡

 

 

「巫山戯ないで!」

 

 風鳴弦十郎。貴方が良い人だとは知っているとも。

 少女たちの英雄譚を支えながらも、時には己の不甲斐なさを恥じる高潔さも私は知っている。

 だから全部利用させてもらおう。どうせ殆ど事実だし。

 

「信じない信じない信じない! お前らなんか信じるもんか!」

「……返す言葉もない。全ては俺の不徳の致す所だ。“君たち”に酷な運命を課せて来た事を幾ら懺悔しても、それでは足りないだろう……だが! 我々が今の君の無事と平穏を防人りたいと言う事実は信じてほしい!」

 

 ひえ……鋼の意思すぎるんだけどこのOTONA。

 

「風鳴翼を使い潰して、私と同じ“被害者”を利用してるくせに?」

「──!」

 

 ちらりと、涙を流し震える立花響に視線を寄越す。

 

 初めて、決意を灯した益荒男の瞳に翳りが見えた。

 やっぱこれだよね。本来銃後(じゅうご)で護られるべき少女たちが前線で命を削り慟哭をあげている。

 これは紛れもない事実で、風鳴弦十郎が最も罪悪に咽ぶ要素だと私は知ってる。

 

 果敢なき哉。あの外道が言ってた通り、それが貴方の弱点だ。

 

 もうひと押し。致命となる相手の欠陥を責め続けて隙を見つけ私は私の楽園に戻ろう。

 

「私たちであんな“実験”をして、大切な刹那を奪って──そして今度は、私から自由を奪うの?」

 

 貴方もいずれ立ち上がるのだろう。彼女たちと同じく英雄になり得る資格を持ちながらもそれを行使することのできない不自由の使徒よ。

 だから今は、罪業に溺れて私を見逃せ。

 

「あぁ。(こた)えるな、これは……だが、()()()()と翼は言った」

 

 マジか。踏み耐えたぞこの人。結構キツイ事言った気がするのに全く隙ができてない。

 

 握られる拳。もはや交渉の決裂と無駄を悟ったのだろう。

 不本意極まるがこのまま私を見逃すくらいなら心を殺して捕えると言った面持ちだ。

 

 ならば最早(もはや)、言葉は不要。

 

「抜かせよ、阿呆が。死の間際までその戯言を吐いてみろ」

 

 凶剣としての二面性を、再発させる。

 この一年半で作り上げた仮初の人格(ペルソナ)

 完全聖遺物との親和性の極致を用いて暴力性を極限まで引き上げた側面を、表に出す。

 

「死ね。死ね──果てて滅びろ」

「その暴虐も、我々が君を救えなかった証左なのだろう──故に、此処で君を止める。君はもう立たなくて良いんだ」

 

 大剣を担ぐ。殺気を溢す。

 完全聖遺物ネフシュタン──それを纏っている筈なのに、目の前の化け物を倒せる自信が未だに湧き上がって来ない。と言うか実際これ纏ったラスボス相手に終始優勢だったんだよね原作のこの人。

 

 まぁ、良い。勝つまでやればいずれ勝てる。

 

 既に完治した身体を動かし、相対する私たち。

 

 

 

 ──それを遮るように、立花響が両の手を広げ立ちはだかった。

 

 この世界の中心と、目が合う。

 

「やめて……もう止めてよ! 同じ人間なのにどうして争わなくちゃいけないの……?」

 

 よっしゃナイス! サンキュービッキー! 

 

 生じた一瞬の間隔。争いを嫌悪し仲介に入る立花響の善性に気を取られる弦十郎さんを他所に、私はネフシュタンの飛行能力をフルに発揮する。

 

「──ッ! 待て!」

 

 一拍遅れて弦十郎さんが跳躍する。

 人外の身体能力だがもはや間に合わない。このまま対流圏ギリギリまで飛び立つ私を悔しげに見つめながら、やがて彼は重力に従って落ちて行った。

 

「……危なかった」

 

 多分、あのライブ以降一番焦った瞬間だった。

 相対した瞬間分かるOTONAのプレッシャー。

 重圧と責任をその双肩に背負いながらも無尽の意思が、彼を彼たらしめていた。

 

 思考を切り替え、私の宿願を思い起こす。

 絶望に満ちた装者の姿。

 最後の最後に未来への至高の結末を迎える彼女たちが踏破すべき、試練の時。

 例え私と言う異物がその水面に波紋を起こそうとも、彼女たちならやれる筈だ。

 

 希望を胸に、歌の力を信じて、世界を救う。

 

 その過程で喘ぐ彼女たちの慟哭が、私を満たす。

 

「だから今は、もっと美しいものを見せて」

 

 ネフシュタンの鎧を解き、()()()に降り立つ。

 爛々と咲く花を愛で、あの美しい湖の畔へ私は向かう。

 

 

 

「ぅ……ぁ。ぐっ……」

 

 痛みに喘ぐ少女の声がした。

 嗚呼、()い。

 鎧を脱ごうとも、今の彼女の服の下は侵食する蛇に侵され苦悶を覚えているのだろう。

 櫻井了子(フィーネ)は未だ二課のメンバーとして戦場の後処理に参加している為、彼女が帰ってくるまで地獄のような痛みに耐えなければならないのだ。

 人であるが故にそれは貴女を蝕む。けれども貴女はその鎧を手放すことが出来ない。

 

 今はまだ、全てを奪う争いと何も齎さない歌を憎むただの少女なのだから。

 

「──クリス?」

「ぁ……イリ、ス」

 

 声をかける。畔で蹲る愛おしい魔弓に。

 するとクリスは、まるで刑の執行を待つ罪人のように懇願と罪悪感を入り混じらせた瞳を私に向け、震えていた。

 

「どうしたの? すごく苦しそうだけど……」

「っ。なんでも、ねえ……」

「でも──」

「なんでもねえって言ってるだろ!」

 

 無垢な少女を演じる私に、クリスは怒声を浴びせる。

 一瞬の空白の後に自分が何をしたのか自覚したのだろう。クリスは悲痛に歪む顔で涙を流していた。

 

「ぁ。ちがう。ちがうんだ……」

 

 彼女の頭の中には、今なにが駆け巡ってるのだろう。

 ソロモンの杖を起動した後悔? 

 友人である私を騙し続けなければいけない罪悪感? 

 戦争のなくならないこの世界への悲哀? 

 残酷なまでに翳る運命への絶望? 

 

 聞かせてほしい。貴女の慟哭を──それを求めて、私は生きているのだから。

 

「大丈夫だよ。クリス」

「っ」

 

 無理やりに、手を握る。

 すべすべと柔い手を、ギュッと力強く愛を込めて。

 

「だめ……だめだイリス。あたしに触れないでくれっ……あたしなんかに優しくしないでくれ!」

 

 ぽろぽろと、涙が零れる。

 まるで宝石のようなその絶望の証左を指で掬って舐めたくなってしまう衝動を必死に抑えながら、私はクリスの友人としてのアイリス・フェイルノートを演じる。

 

「大丈夫。私は此処にいるから──貴女を想って、貴女に尽くす私が、此処にいる」

「ぁ──」

「だから泣かないで。大切な友達が辛そうにしてる所なんて、私見たくないよ」

 

 嘘だよ。もっと見せてもっと輝いて。

 溢れ落ちる貴方の涙を私だけに見せてほしい。

 いつかその想い出をモノクロームとして歌い上げるその時の為に、今は目一杯自分の罪業に溺れて。

 

 ソロモンの杖を起動させた貴女の罪を。

 フィーネの駒として外道に与した貴女の罪を。

 貴女にとっての友人を騙し続けるその罪を。

 

 今はただ想い、溺れましょう? 

 

 

「ごめ、ん……ごめんイリス……ごめんなさい……っ」

 

 

 私の胸で泣く貴女が、(いと)おしい。

 

 

 






幼女「〜〜〜〜〜〜〜♡(ゾクゾク)」


⚫︎アイリス・フェイルノート
 吐き気を催す邪悪。
 装者3人の曇り顔が一気に見れてご満悦。

⚫︎風鳴弦十郎
 化け物。人外。ラスボスを倒しかけるやべー奴。
 外道幼女の一番の天敵と言っても過言ではない。

⚫︎立花響
 トラウマ掘り起こされて泣いちゃった。
 でもイカれ幼女と人類最強の間に立って仲介するくらいにはぶっ飛んでる人助けの狂人。メンタルは全然へいきへっちゃらじゃない。

⚫︎雪音クリス
 幼女レビュー:レベルの高い合格点を超える泣き顔をオールウェイズ出してくれる。こんな試練乗り越えて2期で教室モノクローム歌おうね♡
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