転生腹黒幼女は装者たちを曇らせたい   作:靉靆 

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甘い蜜に誘われて

 

 

 

「俺から戦い方を学びたいだと?」

「はい! 弦十郎さんなら何かすっごい武術とか知ってるんじゃないかと思って!」

 

 先日の翼さんの絶唱と、もう一人のネフシュタンの少女、そしてアイリスちゃんとの一件を経て私は弦十郎さんの自宅を訪ねていた。

 

 ぐちゃぐちゃになりそうな心を、しゃんとし直す。

 奏さんからの形見(シンフォギア)を受け継ぎながら未熟な自分が、恥ずかしくなった。

 あの日悲しそうに飛び立つもう一人のネフシュタンの少女と血涙を流しながら倒れる翼さんの姿が、忘れられない。

 

 

 そして──あの子の事も。

 

『石を投げられた。蹴られて、殴られて『人殺し』だって後ろ指を指された──なんで“今”なの?』

 

 アイリス・フェイルノートちゃん。

 あの後二課から教えられたのは、彼女が()()()()惨劇の生き残りだって事だった。

 今でも、あの頃の辛い記憶を思い出しちゃう。

 割れた窓ガラス。塀いっぱいに貼られた罵詈雑言。学校での突き刺す様な視線──そして、帰って来ないお父さん。

 

 それでも私が立ち上がれたのは、未来のおかげだった。

 優しくてぽかぽかする、私の陽だまり。

 大好きな帰る場所としていてくれる未来の温もりが、私を私でいさせてくれた。

 

『信じない信じない信じない信じない! お前らなんか信じるもんか!』

 

 あの子は、私だ。

 陽だまりに出逢うことのできなかった私。一番苦しい時、辛い時に誰にも心を開けなかった私の“もしも”なんだ。

 

 救けないと。

 

 あんなに小さい子が、涙を流して良い訳がない。あんな辛い思い出ばかりに溺れて良い訳がない。

 

 あんな酷い目に遭って良いなんて、そんな現実絶対許さない。

 今も眠っている翼さんの為にも、あの子を救けられるくらい強くならなくちゃ。

 

「響君の覚悟は伝わった──言っておくが、俺のやり方は厳しいぞ」

「はい!」

 

 私の覚悟を汲み取ってくれた弦十郎さんが、力強く応えてくれた。

 

 待っててください、翼さん。

 

 私はもう、何もできないままで居たくない。

 

 

 

 

 

 █

 

 

 

 

 ──これからの運命にどう介入すべきか。

 

 あれから数日。腕の中に感じる愛おしい白銀を愛でながら、私は想いを巡らす。

 

 デュランダルの移送。これからのストーリーで一つの区切りとなる事柄があるとすれば、これが当てはまるだろう。

 風鳴翼の戦線離脱を機に立花響は戦場に立つ覚悟を決め、風鳴弦十郎に師事しそれと同時に陽だまりとの心の距離はどんどん離れていく。

 

 だけどいまいち、食指が動かない。

 原作に刻まれたひとときは余すことなく尊い英雄譚ではあるが、それはそれとして今こうして二課に捕まりかける前の心残りだった雪音クリスの曇り顔を間近で愛でられた身としては、もう一人の装者と紡いだ運命を強く強く求めてしまう。

 

 風鳴翼。愛しい絶刀。

 美しい散り様を見せた彼女のことを想うだけで、身体が(ほて)ってしまう。

 今頃は彼岸の境界で天羽奏から訓示を受けている頃だろうか? 

 

 あぁ。嗚呼! 楽しみだ! あの絶望を乗り越え希望を吼える彼女を見るのが、今から楽しみでしょうがない! 

 

 

「──イリス」

 

 名前を呼ぶ。

 愉悦に耽る私を、雪音クリスの声が現実に引き戻した。

 

「どうしたの、クリス?」

「……別に。ただ呼んでみたくなっただけだ」

 

 クッソ可愛いなこの生き物。

 

「ふふ。そっか」

「……ごめん。ごめんな……イリス」

「あっ、また謝った。この前の夜からクリスなんだか変だよ?」

 

 あの夜から数日。こうしてクリスの罪悪感を刺激しながら寄り添うのもすっかり日常の一つとなっていた。

 私が“あの夜”の事を口走る度表情に翳りを見せるクリスに笑みが溢れる。

 

 歪な関係であると自覚してるにも関わらず私を突き放すことのできない今の雪音クリスの弱さが、ただ愛おしい。

 

 うん、もうそろそろかな。

 あとひとつ、ふたつ程この時系列で蒔いた種はある。

 それにアイリス・フェイルノートの正体を知ってしまったと言う罪悪感と私への甘えに脳が痺れるような快感を覚えるが、こうしている間にも原作の時は進みどんどん歩みは加速していく。

 

 デュランダルの一件を経れば、いよいよお日様と陽だまりが翳りすれ違い風鳴翼が目醒めるのだ。

 とりあえず最終決戦で私が華々しく散って装者たちが曇る所も見たいからクリスちゃん以外の好感度も稼がなきゃ。

 

 ──だけどその前に、消化しておくべき()()()()がある。

 

「なぁ、イリス。実は──」

「っ。危ない!」

 

 揺れる瞳を私に向けるクリスを、押し倒す。

 ひゅんと真上を通過して、ノイズが槍の様に地面に突き刺さった。

 あぁ。()()()()、あれが私と言う餌に食いついた。

 

「灯台下暗しとは、まさにこの事だな」

 

 現れたのは、黄金。

 黄金律を宿した肉体。黎明を見定め終焉を看取る金色の双眸。

 紡ぐ言葉は悪意に満ちた甘言。蓄えた知識は人類の進化を促す深淵の叡智(ブラックボックス)

 数千年の悲恋を引き摺る巫女──フィーネが、ソロモンの杖を携えて其処にいた。

 

「フィーネ!?」

「全く。どんな逢瀬に耽ってるのかと思えば真逆(まさか)()()が相手とはね。趣味が悪いにも程があるわよ、クリス」

 

 さあ、雪音クリス。これが私の贈るもう一つの絶望だ。

 何を決断する? どんな道を歩む? 

 気になって気になって仕方がない──さあ、貴女の英雄譚を此処に示してくれ。

 

「クリス……どう言う、ことなの?」

「──っ」

 

 くつくつと湧き上がる嗤いを堪えながら、クリスに問いかける。

 

「お願いだ……やめてくれフィーネ! こいつはあたしの大切な……大切な、友達なんだ」

 

 そんな私を悲しげに一瞥し、フィーネの許へと駆け寄りクリスは懇願する。

 やめてくれと。お願いだと。己が唯一得た温もりを傷つけないでくれと。

 

「やめる? 何を言ってるのかしらね──貴女が、()()を捕えるのよ」

「ぇ……」

 

 巫女が、甘言を唱える。

 

「争いをなくすのでしょう?」

「ぁ……あ、ぁ」

 

 そうだ、雪音クリス。お前の宿業の原点を思い出せ。

 

「火種を潰して力を持つ者の道理を更に上位の道理で捩じ伏せる。その為に貴女はこの杖を起動させた」

「いや……やめてっ」

 

 自覚しろ、己の罪を──今の貴女は、誰よりも何よりも美しい。

 

「人に仇なす殺戮の意思。ノイズを召喚し操る魔杖。自覚なさい、クリス。これを目覚めさせた時点で、貴女は自分の夢の為に他者を轢殺する罪人よ」

 

 さぁ、覚悟を決めろ。今の貴女は巫女に仕える殺戮の走狗。

 闇を晴らすにはまだ早い。人の温もりを信じ切るには役者が不足している。

 愛しい人(モン・シェリ)──お前の絶望は、此処からだ。

 

「これは、貴女の始めた物語でしょう?」

「うぅ゛ぅ゛……っ!」

 

 うわすっご。めちゃくちゃ的確にクリスちゃん傷つけるワード吐いてるこの巫女さん! 見習いたい! 

 

「──この身を(よろ)え、ネフシュタン」

「……うそ」

 

 素晴らしい。罪悪感と使命感の入り混じったその表情(カオ)に見惚れてしまう。

 雪音クリスの原点。戦争をなくす為に巫女へ依存した彼女は、鎧を纏う。

 

「約束してくれ。フィーネ」

「何かしら?」

「あいつを捕まえても絶対に何もすんな。手を出すな──アイリス・フェイルノートは、あたしのもんだ」

「──ええ。それが貴女の望みなら」

 

 嘘つけ。貴女漫画版と公式の裏設定で融合症例(ビッキー)捕まえたら解剖する気満々だったじゃないですか。

 

「なんで……どうしてあたしなんだ! どうしてイリスなんだ!?」

 

 覚悟を決めてもやはり、理不尽な世界への慟哭は止まらない。

 サンキューフィーネ。さすが恋煩いで数千年も暗躍してきただけあるね。

 もう最高です貴女。師匠と呼ばせてください。

 

「あたしたちはこんな事の為に出逢ったってのかよ……っ」

 

 そうだよ♡バラルの呪詛とか関係なく私の純度100%の愛だから早くこんな友情ごっこを踏破して繋いだ手だけが紡ぐものを見せて♡

 

「大っ嫌い。大っ嫌いだ! 戦争も! 歌も! この世界も!」

 

 涙を流しながら、彼女は嘆く。

 そして棘鞭を振るった。速度と重量を感じさせる一撃を私に向けて。

 

「──なっ!?」

 

 私はそれを、避けずに受け入れた。

 地面を何度も跳ねる私の身体。服を切り裂き裂傷が脇腹を走る。

 流れた血の分だけ、貴女に涙を流してほしい。

 

「なんで、鎧を纏わないんだよ!? 憎いんじゃないのか!? あたしはお前を騙して──!」

「いやだよ」

「!」

「私は、クリスと戦いたくない……」

 

 とりあえず爆弾発言落として帰るねクリスちゃん。

 ちゃんと罪悪感を抱きつつも全部乗り越えてフィーネから離反してビッキー達と手を繋ぐんだよ。

 

「ぁ……! いやだ、待ってイリス──!」

 

 くるっと回れ右して森を突っ切る。

 鎧を纏わずとも私の身体能力は人外のそれ。

 動揺し尽くしたクリスと鎧を纏ってないフィーネや雑魚ノイズを躱して逃げるのは簡単だった。

 

『──うわああああぁぁぁ゛!』

 

 森を駆ける中で聞こえる慟哭が、ただ心地良かった。

 

 

 

 駆けて、駆けて、森を抜ける。

 もはや酷使しすぎて鈍った痛覚が微かに異常を知らせる脇腹辺りを撫でながら、私は大木に寄りかかった。

 

『██████』

「落ち着けよ青銅の蛇(ネフシュタン)。この傷は彼女の絶望が紡いだ証だ──もう少し、このままでいさせてくれ」

 

 声が、聞こえる。

 私の中で這い摺り廻る蛇の声。

 私だけにしか聞こえない、もはや何度幻聴かと疑ったか分からないその雑音(ノイズ)に耳を傾けた。

 

 原作には存在しない筈のその機構に、最初は戸惑った。

 

『██ ███ ███████』

「なんだ、嫉妬か? それとも()()()()()()を相手にむざむざと逃亡を選んだのがそんなに屈辱的だったか」

『████ ████ ██』

「あー、煩い。また████の御心か。私は預言者(モーセ)なんて高尚なものじゃないと言ってるだろう──ただ、この世界の未来と真理を俯瞰者として識っているだけだ」

 

 私の曇らせ道中で無くてはならない唯一の相棒であり、()()も私の事を認めてくれている。

 ただ、それでも被造物なりにプライドがあるのだろう。

 よりにもよって()()()()()()()()()なんて言う出来損ないを相手に戦うどころか逃げの一手しか打たなかった事にさぞご立腹らしい。

 

「──大体なぁ、████とは言うが()()()()()()その明示的な名前(シェム・ハ=メフォラシュ)で良いのかそれ? 原典が色々と反映されてるとは言え名前と所業が唯一神と創世女神の良いとこどりになってるぞ。なんなら北欧神話も混ざって人類改造執刀医なんてヤバい異名付いてるし」

『……。█。█████████』

「え? “やっちまったなお前”ってどう言うこと?」

 

 返事は、返ってこなかった。

 この1ヶ月で随分とお喋りになったと思ったけどどうやらまだシャイらしい。まあいっか。

 

「さて、“次”はどうしようかな?」

 

 名残惜しさを感じながら、脇腹の傷を治す。

 蛇の鱗のような紋様が一瞬現れては消える情景を見るたびに、自分が人間を辞めて行ってるのだと自覚しながら──私は、街へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

『呼んだな 我の咒を 刻んだな 我の所業を』

 

 

 

 

 

 







⚫︎アイリス・フェイルノート
 致命的なやらかしに気づいてない。
 死んだ方が良いクズから世界の為に即刻殺さなければならない存在にランクアップした。

⚫︎立花響
 めちゃくちゃ心が折れそうになったけど復活して原作通りOTONAに弟子入りした光属性の塊。幼女がその場に居たらにちゃりながら英雄讃歌謳ってた。

⚫︎雪音クリス
 二重に正体バレイベント踏んで幼女の被害者ダービートップを独走してる不憫な子。

⚫︎風鳴翼
 お休み。奏さんの三途の川メンタルケア教室に通ってる最中。


 
⚫︎█████████████
 人類に刻まれたコード。ブラクラ。×ボタンのない広告。
 存在自体がバグな幼女がよりにもよって『言語』を力とする神の真名を口走ってなんかバグった。一応本体は封印されてるけど幼女の中でネフシュタンの鎧と同居人やってる。

貴様今我の名前を呼んだな?

 
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