またいつもの日々。朝早く起きて、雛見沢から興宮に自転車で降りて、電車に乗り学校に行く。
「魅ぃちゃん!一週間ぶり!」
「まっさか再会がこんなに早いとは思っちゃいなかったよ。おはよう、レナ。」
みんな違う高校のため出る時間、降りる駅、帰りの時間が合わず駅で会うことはなかった。だが今日初めて駅でレナと魅音は会い、レナは嬉しそうに、魅音は少し驚いた様子で挨拶を交わした。
「いつもこの時間…じゃないよね?」
「うん、実は今日は早く出たんだ。魅ぃちゃんはいつもこの時間なの?」
「そうだね。ちなみに詩音は今からあと五分くらい後。」
「詩ぃちゃんは駅から近いからね。朝のんびりできて羨ましいなぁ。」
「いや、あいつはギリギリまで寝てバタバタするタイプだよ。」
登校時刻の話から朝来たら何をしているか、とだんだん話が広がっていく。分校の頃を思い出しなんだか懐かしい気持ちになる。五凶爆闘(最終的には六凶爆闘になったが)の時に感じた懐かしさとはまた別物だ。
「ねぇ魅ぃちゃん。」
「何、レナ。」
「今日夕方もここで会える?」
レナのその質問に魅音は笑顔で答えた。
「もちろん。今日は部活ないし。」
「そっか、良かった!じゃあここで四時半待ち合わせでいい?」
「うん、わかった。」
丁度その会話を終えた時、電車が興宮の駅に停まった。乗ろっか、と声をかけ、二人は学校へと向かった。
「ごめんレナ、待った?」
「ううん、さっき来たとこ!」
急いで電車から出てきた魅音を見てレナはくすりと笑う。一生懸命走ってくれる魅ぃちゃんかぁいい、と。魅音は首を傾げたがなんでもないよ、とレナは答えた。
「ちょっとね、魅ぃちゃんとお話ししたいことがあってね。」
「ほぉ?なんだろうねぇ?」
少しおちょくるように魅音は言った。二人は無料の駐輪場に自分たちの自転車をとり、押しながら歩いた。
「んで、話って?」
「…魅ぃちゃんはさ。」
さっきまでの元気はどこへやら。慎重な面持ちでレナは言葉を紡ぐ。
「圭一くんのこと、好き?」
「…え?」
魅音は面食らったような顔をして、その場に立ち止まった。確かに圭一はレナの方が女の子らしくて好きだろう。でもまさかレナも本当にその気だったとは。あの質問をしてきたということは…レナも圭一に気があるという証明でもある。魅音は察した。
「まさか!圭ちゃんとは仲良しな男友達、くらいで。あっちも私を男としか見てないよ。」
「魅ぃちゃん、嘘つかないで。」
レナがピシャリと言い放った。けらけらといつもの調子で笑っていた魅音の表情が一瞬にして不安そうな顔になった。
「私は、圭一くんのことが好き。ずっと不鮮明だったこの感情が恋だって、気づいたの。魅ぃちゃんも、圭一くんのこと好きなんだよね?」
レナは立ち止まった魅音の目をじっと見つめた。魅音はというと「あ」とか「えっと」とか頼りない声ばかりあげて、この空気に耐えられない様子だった。
「魅ぃちゃんも圭一くんが好きなら、私は正々堂々勝負がしたい。魅ぃちゃんが嘘ついて私と圭一くんが恋人になるのは嫌。」
「…っ」
「今日は、答えるのが難しい?」
レナはそう尋ねた。魅音は小さくこくりと頷いた。
「ごめんね、急にこんな話して。でも、答えが決まったら、電話でもなんでもいいから教えて欲しいな。」
「…うん、わかった。」
いつもの魅音ではない。不意をつかれた時のしおらしい魅音だ。レナはそんな様子を見て少し申し訳なくなりながらも「帰ろっか」と自転車にまたがり言った。
「ただいまぁ。」
レナは誰もいない家で声を響かせた。父親はあの女性とは別れ、仕事探しを始めた。そして環境の良い就職先を見つけられたようで、楽しそうに仕事に行く。だからこの家の沈黙は決して重いものではない。でも。
「レナ、酷いこと言っちゃったな。」
玄関に腰掛けて、ひとり俯く。きゅ、と制服の擦れた音がする。圭一を意識したのは、最初から。圭一が越してきてすぐだった。なんとなく「圭一くんは特別」という意識はあったが「恋愛対象として圭一くんが好き」と自信を持って言えるようになったのは、学校の友達からの助言があったからだった。また、魅音に宣戦布告のようなものをしたのは、彼女の想いに気づいていたからだ。魅音は圭一が好き、というのは分校の時から分かっていた。なのにこっそりアタックするのは、ずるいと思った。結果的には魅音を困惑させた。傷つけたかもしれない。
「…この想いをなかったことにすればいいのかな。」
そうすれば大団円。みんな幸せ。でも独占欲が働いてしまって、ダメだった。
「いやな、私…。」
ポツリとそう呟いて、レナはゆっくりと重い身体を動かし始めた。自らした行動に罪悪感を覚えつつ弁当を洗う。その時ふとレナの頭にとある言葉が浮かんだ。
「悩みがあるなら、仲間に相談する…か。」
誰に?魅音や圭一は勿論ダメ、沙都子や梨花に?いや、今後集まったときに気まずくなりそうだから控えたい。学校の友達だと「気にするな!」と言われて話を流されてしまうのがなんとなく目に見えている。親身になって聞いてくれる人…残ったのは。
「あっ。」
レナは一人の女の子を思い出した。電話番号は前聞いたことがある。教えてもらってからかけたことは一度もないが。もう先を越されてるかもしれないけど、あの子なら話くらいは聞いてくれるだろう。そう思い、レナは自室に向かった。
『はい、園崎です。』
「も、もしもし。詩ぃちゃん。」
『あらレナさんじゃないですか。初めてかけてくれましたね。』
ふふふ、と可愛らしい笑い声が聞こえる。レナの緊張が少しずつとけていく。
『で、何がありました?』
「あ…詩ぃちゃんにはお見通しかぁ。」
『何があったかも見当はついてますよ。というかさっきお姉から聞きました。』
詩音のその言葉にレナはやっぱり?と返した。魅音が悩んで相談する相手として真っ先に挙がるのが詩音だ。多分詩音のところにすぐさま電話して話を聞いてもらったのだろう。
『フェアじゃないのは嫌いです。勿論話は聞きますし、レナさんが望むのであれば私が出来る限りのアドバイスもしようと思います。』
「え?いいの?」
『お姉にアドバイスしちゃいましたし。学校のお友達でなく私を頼ったのにはなんらかの理由があると思いますから、存分に頼ってくださいな。』
この場にいたのなら、ウインクでもしているんじゃないだろうか。そんな軽く、でも心強い言葉にレナは安堵した。
「私ね、魅ぃちゃんにあんなこと言っちゃって…傷つけちゃったかなって、まずすごく後悔してるの。」
『気にしなくていいですよ。お姉がやっと動くきっかけにもなりましたし。』
「そ、そうなのかなぁ?」
『大丈夫ですよ。お姉、そんなヤワでもないですし。』
双子の妹が言うならそうなのだろうけど…やっぱり不安は拭えなかった。
『あとレナさん、敵の心配する前に自分の心配をするべきですよ。まぁ圧倒的にレナさんのほうが有利でしょうけど。』
どういう計画を?と尋ねられたがレナは黙り込んでしまった。
「け、計画…何も考えてない、な。」
『いいですか、レナさん。毎日のように会えなくなった今、意識せず振り向いてもらうのは困難です。振り向いてもらうように、さりげなく、自然に。そう自然に!ドキッとさせる振る舞いをするんです。』
なんで自然を二回言ったんだろう。レナは首を傾げたが受話器越し、その疑問は伝わっているわけもない。
「どうしたらドキッとしてもらえるかな、かな?」
『そうですねぇ、レナさんはギャップ狙いというよりは…ドジっ子の方が良いかもしれませんね。』
「ど、ドジっ子?」
『はい。ドジっ子ってあらゆるところでハプニングに巻き込まれるので、目が離せないじゃないですか。そこを狙うんです。ついでに俺がいなきゃダメだな、と思わせることも可能です。』
「そ、そっかぁ!すごいね、詩ぃちゃん!」
自然にそんなことができるだろうか、という不安はあるが、レナは幾度となく圭一に助けてもらっている。ドジをたまにしでかすのも今に始まったことじゃない。違和感はないだろう。
「どうして詩ぃちゃんはそんなに詳しいの?」
『うーん、学校で色々聞くから…ですかね?あとは雑誌とか。』
「へぇ〜。」
『これくらいで大丈夫ですかね?』
「うん。…あ、この相談事は魅ぃちゃんには。」
『提供した情報はお姉には伝えません。でも相談を持ちかけられて、話してアドバイスしたという事実は伝えておきます。』
詩音が魅音に対して何をしたかを最低限しか聞いてないのと同じで、魅音にも最低限しか話さないつもりらしい。詩音の平等のこだわり様にレナは感心した。
「わかった。ありがとうね、詩ぃちゃん。また相談してもいい、かな?」
『はい。いつでも相談受付中ですよ〜。』
「ありがとう!」