「告白をされてしまった!!」
「お、おめでとう…でいいのかな?」
「おめでたくねぇ!絶対一人は悲しませることになるんだ!俺のせいで!」
圭一は悟史の病室に入るや否や大声で近況報告を済ませてしまった。その勢いに悟史は少し圧されながらかける言葉を探す。
「絶対一人はって…二人から告白されたんだ。すごいね圭一は。」
「う…確かに悪い気はしないが。」
「魅力的な人だって思われてるってことだよ。」
「そうなのか?」
悟史は曇りなき目でうん、と答えた。その目からお世辞ではないということを感じた圭一は、少し嬉しそうにそうか、と返した。
「でも、問題はここからなんだよね。」
「そうなんだよ。どちらかを選べなんて…二人とも大切な仲間で、返事次第ではこれからの関係にヒビが入って…てのが怖いんだよ。」
圭一はそこまで言って俯いてしまった。悟史にも圭一の気持ちは伝わった。二人とも、言葉が見つからず沈黙が続く。その時悟史が何かを思いついたように「あ」と声を出した。
「想像してみたらどうかな。」
「想像って…レナ、または魅音と付き合ったとしてってことか?」
「うん。圭一にとってしっくりきた方が相性がいいってことにならないかな。」
なるほど、と圭一は頷く。すると付き添いの看護師が声を上げた。
「キスしたいと言われて嫌じゃなければ誰とでもある程度はやってけると思いますけどね。」
「は?!」
ギュンっと音がしてしまいそうなほど勢いよく圭一は看護師に視線を向けた。悟史も目を丸くして看護師を見た。
「えっ、私そんなに変なこと言いました?」
「俺らはまだまだ純粋な高校生なんですって!!!」
「…本当に?入江先生の趣味にある程度の理解と共感を示してるのに純粋…?」
看護師が冷ややかな視線を圭一に送る。圭一は抗議し、悟史は苦笑いをしていた。
「おはよう、圭一くん!今日はおねむさんかな、かな?」
レナは圭一の様子を見てそんなことを言う。夜更かしをしたから確かに寝足りない。レナの洞察力を前に隠し事はできない。
「寝癖ついてるよ、とかしてあげるね。」
レナはそう言って鞄から櫛を取り出す。そして優しくとかしてくれる。そんなことをしていると電車がやってきて。
「乗ろっか。あ、寝癖直ったよ。」
優しい笑みを浮かべて圭一の手を引く。そして一緒に電車に乗る。
_甘ったれてて、少し恥ずかしいが、そんなやりとりをしそうだ。そんな想像。
この後すぐに魅音との想像はしなかった。なんとなく浮気してしまった気分になり罪悪感があるから。しかし悟史のアドバイスでなんとなく未来を想像してみたが、悪くない。でも、看護師が助言してくれたことは、恥ずかしさも勿論だが、なんとなく想像できなかった。ゴロンと自室の布団の上に寝転び思考を巡らす。
_俺はどっちと付き合いたいのか。
_いや、そもそもどちらかと付き合いたいのか?
二人の告白は圭一にとって特別なものだということは言うまでもない。だがこれまでが友達で、仲間で、相棒で、親友で、という関係だった以上どちらかを恋人として見れる自信がなかった。かといってなんとなくで、付き合ってればいずれ好きになるだろうという思考にはなりたくなかった。沢山悩んで、迷って告白してくれたはずだ。そんな二人に真剣に向き合わない、または向き合えないのなら付き合う資格なんてないと圭一は思った。
最初に意識したのは魅音だった。レナによく言われていた「かぁいい魅音」を見つけた。でも思春期の男子にとってそういうときめきは女子がよくイケメンに言う「かっこいい」に近しいものなのではないか。その疑問が浮かんだ。恋か疑い、詩音の助言で答えを出す前に、告白されて。改めて物事を時系列に並べていく圭一は、混乱していた。自分は魅音に恋をしていたのか?そんなことはなかったのか?
また、圭一には後ろめたい過去がある。レナも魅音もそれを知ったら軽蔑するだろう。圭一は一方的にレナの過去を知ってしまっているが、二人は圭一の過去を知る由もない。こればかりは誰に聞いたとしても答えは返って来ない。圭一は真剣に頭を悩ますことにした。
「やっほー、圭ちゃん。」
魅音は待ち合わせ場所に圭一より先についていた。きっと二人のデートの時には雛見沢や興宮ではない場所になるだろう。茶化されるのが嫌だから。
「ホビーショップ行ってさ、沙都子たちにお土産買おうよ。部活の道具も沙都子たちはもうやり慣れただろうからさ。」
せっかく外に出るならと、そんなことを言うんだろう。仲間想いなやつだ。外で何をしようかと会話をする。魅音ならレナほど気を使わなくてもやりたいことが一致する気がしているが…そんなことを誰かに言おうものなら殺される。でも気は合うだろう。行こうぜ、と手を引いてやるとポッと顔を赤くしてしおらしくなって引かれるがままになるのだろう。
_なんだかそれも悪くない。
読んだこともない恋愛小説を漁り、友達からの恋愛談を聞き、一ヶ月ほどが過ぎた。だが圭一は答えを出せずにいた。みんな新しい出会いなのだ。物語も、友達の恋愛談も。昔からの知り合いが結ばれることはない。昔からの仲だからそういう目で見れないのだと。自分はどうなのかと幾度も自問自答したが、答えは出ない。どちらかを恋愛対象として見るのは難しい、と理解するのには十分な時間だった。
「…ってわけだ。」
「そっか…」
「それって前原さんの中で答えが出たってことですね。」
悟史は少し悲しそうに、看護師はやっとかと言わんばかりの表情で圭一の下した決断へ反応した。
「でもどちらかを傷つけるのも嫌なのに二人を傷つけるは…でも嘘で付き合いたくない!」
「圭一、納得はできていないんだね。」
「我儘というか、馬鹿なこと言っていることは理解しているんだが…」
圭一は珍しく落ち込んでいる。圭一でもそんなことがあるんだ、と悟史はその様子を意外に思いながらも真剣に考えていた。
「でもさ圭一、それをレナと魅音に言えば分かってもらえるんじゃないかな?」
「え?」
「傷つけるのは嫌だ、でもそれでどちらかを選んでもう片方を傷つけたり、嘘で付き合って傷つけるのは嫌だ。だから選ばない、選べないって。」
その言葉を聞いて圭一は魅音が言った言葉を思い出した。気持ちを無碍にしない、だから待ってる、と。悩んだ末の結論がこれなのだとしたらそれを誤魔化さす相手に言う。それがレナと魅音に残す傷を最小限にする方法なのではないか?そう圭一は思った。
「ありがとな、悟史。覚悟が決まったぜ。」
「力になれたなら、よかった。」
悟史は嬉しそうにふわりと微笑んだ。真剣に向き合ってくれる悟史の優しさに圭一は改めて感謝の意を示した。