世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第99話 虎穴に入らずんば

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 巨人と獣人の王に詫びの連絡だけ入れて、急ぎ北陸へ飛ぶ。

 順当に行けば、吸血鬼たちが負ける筈が無いんだけど、なんだろうね、この感じ。

 

 ウィンテさん達からの連絡は、まだ無いか。

 

 遠見の魔法を使って戦場の辺りを覗いてみると、何故か吸血鬼側が苦戦しているようだった。

 まさか、ウィンテさんの家族を攫われた?

 

「……いや、どっちにも見えない?」

 

 両陣営トップの声を拾ってみる。

 

「まだ見つからないのか! 急げ、女王のお顔を我々が曇らせるなど、あってはならない!」

「どういうことだ。まだ人質は取れてねぇのに、やけに消極的だな。こっちに入り込んでコソコソしてる奴らも、攻撃はしかけてこない……」

 

 吸血鬼側は中野にウィンテさんの家族がいると踏んでいて、中野側はそれを把握していないのか。

 様子から察するに、私が訪れた時にはもうウィンテさんの家族は居なかったんだろう。

 

 それが旅行ならいいけど、仮に第三勢力でもいれば更に面倒な事態になってるって事だ。

 

 吸血鬼側が積極的な攻勢に出られないのは、既に中野側が確保している可能性も考えているんだろう。

 

「ねえ夜墨。これ、吸血鬼達は凌げると思う?」

「……無理だな。想定以上に中野側の兵が強い。見ろ、二十人が相手とは言え、魔蟲の祖が苦戦している」

 

 本当だ。

 アラニアはウィンテさん配下の最高戦力なのに。

 

 どこから連れて来たのか、中野側にはまだ兵がいる。

 このまま押し切られて街まで来られたら、ウィンテさんの友人は殺されかねないね。

 これは、吸血鬼的には敗北に等しいだろう。

 

「本当に、不自然なくらい強いね」

 

 一応正気ではあるみたいだから、いつかのゴミ、絶影君みたいな薬は使ってないだろう。

 あのデメリットを克服したドーピング薬ならあるかもしれないけど。

 

「ゼハマの関与、か……」

「あり得るな」

 

 通り過ぎようとしている眼下の東北をちらりと見る。

 

「ん? 甲府の方が動き出した?」

「あちらは明らかに正気ではないな」

 

 妙な気配を感じて南の方に視線をやると、甲府の兵たちが中野の支配地域に向けて進軍を開始した所だった。

 その目は血走っており、飢えた獣のような雰囲気を感じる。

 

 吸血鬼側に連絡しようにも、彼らにだけ伝える手段が今は無い。

 指揮してる人たちのSN知らないし。

 

「とりあえず、中野の兵を減らそうか。それで伝わるでしょ」

「そうだな」

 

 後ろの方を狙って、私って分かりやすい攻撃……。

 ブレスか雷だけど、まあ、ブレスかな。

 

 距離があるし、二秒ほどチャージを――

 

「ちっ!」

 

 私だけを囲むように、紫色に輝く正十二面体が展開される。

 幾つもの正五角形が組み合わされたそれは次第に外界との繋がりを遮断していき、私を閉じ込めようとしていた。

 

 相当な強度だ。

 完全に閉じてしまえば、私でも脱出に幾らかの時間を要するだろう。

 

 今なら即座に破壊できるけど……、ここは敢えて乗ろう。

 虎穴に入らずんばだ。

 

「夜墨! あんまり地上を壊したらだめだよ!」

「ロードが望むなら」

 

 夜墨に命令が伝わるのを確認すると同時に結界は閉じ、完全に外界から遮断された。

 辺りが闇に包まれて、この空間の境界ばかりが暗紫色にぼんやり光る。

 

 魂力の対策までしてあるらしく、スレッドどころか配信も出来ない。

 

 こんなことが出来るのは、最上位の強者くらい。

 これで確信したよ。

 やっぱり、今回の火事にはゼハマが介入してる。

 

「とりあえず、出ようかな」

 

 圧縮されるような感覚があったから、外界とは時間の流れが違う可能性がある。

 入念な事だ。

 

 夜墨は夜墨で、私を閉じ込めたやつらの一部に足止めされてるだろうし。

 

「なんだかんだで魔族って強いからなぁ」

 

 保留にしていたブレスのチャージを再開。

 念のために十秒くらい溜める。

 

 込める情報は、結合の破壊で。

 ちょっとざっくりだけど、大丈夫でしょ。

 

「ガァッ!」

 

 暗闇を白の閃光が切り裂いた。

 それはすぐに暗紫の境界に衝突し、数秒ほどバチバチとスパークしながら拮抗した後、正五角形をいくつか打ち砕いた。

 

 思った以上に頑丈だったね。

 まあ、行こう。

 

 私の遊び相手になってくれる人たちが、外で待ってる。

 

「出て来たか、人龍」

 

 亀裂を潜ると、そこはだだっ広い岩の洞だった。

 横にも縦にも広い空間で、たぶん、迷宮内。

 

「まさか本当に出て来るなんて」

 

 そんな殺風景な場所で私を出迎えてくれたのは、明らかに魔族な人たち五人。

 皆触手が有ったり複眼だったり足が腕になってたりで、こうして並ばれると気持ち悪い。

 

 種族の特徴は幾らか残ってるかな。

 右から元で竜人男、エルフ男、何かの妖怪女、鷲獣人男、それから多分人間女。

 

 妖怪は気配で判断したから、何の妖怪だったかは分からない。

 

「まだ手遅れって言うには、早いのよね」

 

 ふむ、相変らずスレッドは使えないけど、間に合ってはいるみたい?

 

「つまり、やらなきゃか。あー嫌だ嫌だ」

「仕方ないでしょ。あの方の命令よ」

 

 というか、右から順番に喋ってるのは何なんだろう?

 声と顔を一致させるためって、複数人で通話アプリ使ってるわけじゃないし、関係ないか。

 

「やるって、貴方たちで私の足止め?」

 

 なんかこのまま彼らだけで喋ってそうだったから、勝手に参加してみる。

 

「そういう事だ。人龍、八雲ハロ。殺しても良いとは言われているがな」

「ふーん。とりあえずさ、一つ確認」

 

 これの為に態と捕まったからね。

 ちゃんと聞いておかないと。

 

「ここにウィンテさんの家族がいるって事でOK?」

「そ、オーケー。それを知った所でアンタにはどうしようもないけどな」

 

 自信満々だなぁ。

 余程腕に覚えがあるようで。

 

「あいつら捕まえておくだけであの憎らしい吸血鬼の女王を好きに出来るのよ? 足止めで終わらせる訳ないじゃない」

 

 ん?

 

「僕的には一晩くらい相手して欲しいなぁ。可愛いし」

 

 んー?

 

「気持ちわる! あまり調子に乗ると痛い目を見るから」

「そうよ。適当にぐちゃぐちゃにするくらいにしておきなさい。あの顔とか」

 

 いやいや、待て待て。

 一応確認くらいはした方が良い。

 

「貴方たちは、つまり、ウィンテさんの家族を人質にしてウィンテさんを隷属、支配すると?」

「あー、まあ、そういう事だな」

「ちゃんと契約も結ばせるわよ」

 

 そっかそっか。

 思わず声が低くなる。

 

「つまり、ウィンテさんの自由を奪うんだね」

 

 その言葉を口にした瞬間、普段周りを威圧しないよう抑えていた魔力が、噴出した。

 

 

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