世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第112話 素材検分ですよ?

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「ほい、ただいまっと」

 

 地上付近まで降下した夜墨(やぼく)の上から飛び降りて、直接玄一郎(げんいちろう)さんの家の庭に着地する。

 出迎えてくれたのは、彼を手伝う四人の精霊たちだ。

 

「おかえりなさいませ、龍神様、皆様方。玄一郎は居間で休んでおります。ご案内しますね」

「うん、お願い」

 

 火の精霊のお姉さんに連れられて、今朝も通された部屋へ入る。

 玄一郎さんは炬燵で菓子受けを前に置いて茶を啜り、(くう)を真剣な眼で睨んでいた。

 

「戻ったで」

「ずいぶん早かったな」

「そりゃあね」

 

 百五十年前の私でも倒せた相手だ。

 この三人で苦戦するはずがない。

 

 とは言え、出発してから数時間もせずに戻ってくるのは非常識な部類か。

 

「で、モノは?」

「これや」

 

 令奈(れいな)が自身を象る魂力から実体化させた酒樽で、古木の床が鳴る。

 蓋を円く切って開けると、中から芳醇な米と酒精の香りが漂ってきた。

 

「コイツが……。スゲェな、馬鹿みてぇな魔力密度だ」

「余ったら飲んで良いよ。いや、飲んでから作業に移ってもらった方が良いかな?」

 

 強引に飲んだ者の魂、即ち魂力の器を強化するものだからね。

 

「有難い。依頼にはこの半分もあれば十分だ」

 

 なんだろう、表情も声音も特別変わったわけじゃ無いのに、すごく嬉しそうな気配を感じる。

 仲良くなれそう。

 

 ……二人とも、そのジトッとした目は何かな?

 私悪いことシテナイ。

 

「早速もらおう。一緒にどうだ?」

「じゃあ遠慮なく」

 

 いつの間にやら精霊のお姉さんが柄杓とコップを持って来ていて、そのまま注いでくれた。

 ちょっとお行儀悪いけど、四つん這いでそれを受け取りに向かう。

 

 元の位置には、戻らなくて良いか。

 

「私はやめとくわ」

「私も遠慮しておきます」

 

 あら、勿体無い。

 これ美味しいの、二人も知ってるのに。

 

「そない強い酒、真っ昼間から飲めるかいな」

「私たちは特別お酒に強い種族ってわけじゃないですからね?」

 

 それもそうだ。

 度数で言えば五十は超えてるだろうし。

 

 玄一郎さんも納得したらしくて、頷いている。

 

「それじゃ私たちだけで。乾杯」

「ああ」

 

 互いに(さかずき)を軽く掲げてから呷り、グビグビ喉を鳴らす。

 引いたような目で見てくる目が二対ほどあるけど、まあ気にしない。

 

 うん、美味しい。

 なんて舌鼓を打っていると、横で同じように呷っていたドワーフの魔力が膨れ上がった、

 

「精霊たちも飲みなー?」

「そうしろ。必要だ」

「では、お言葉に甘えて」

 

 精霊たちはそもそもアルコールが毒にならないから、酔いはしない。

 けれど味は分かるし、コレに含まれた膨大な魔力の影響も受ける。

 

 酔えないのを勿体ないと思う人も居るかもしれないけど、精霊たちにはそういった欲自体あまりないからね。

 

「先に飲んで良かったでしょ?」

「ああ。これなら、考えていた最高のモンが作れそうだ」

 

 あと美味しいもの食べたら気分上がるしね。

 

「ただ、ちと気が荒いな。黒龍様の(たてがみ)を使ったとしても、とんだじゃじゃ馬になっちまう」

 

 ふむ。

 確かに、この火酒が孕む魔力はかなり荒々しい。

 八岐大蛇(やまたのおろち)の気質が影響してるのかもしれないけど、これが情報として入り込んだら扱いづらくなっちゃうだろうね。

 

「どうにか鎮めるか、せめて力の方向を整えてやらないけん」

 

 ふむふむ。

 出雲弁久しぶりに聞いたな、じゃなくて。

 

 コレを鎮めるかぁ。

 伝承に(なぞら)えるなら、素戔嗚(すさのお)さん由来の何かが良いのだろうけども。

 

 そんなものあったっけなぁ……。

 

「あっ」

 

 良いものあるじゃん。

 上手くいくかは知らないけど、ものは試しってことで、ほいっ、ちゃぽーん。

 

「おお、効果覿面(てきめん)

 

 あっちこっち向いて暴れ回っていた魔力が、目に見えて落ち着いた。

 

 訝し気に玄一郎さんの見つめるのは、酒の底に沈んだ紫の宝玉。

 大きさはビー玉や十円玉の直径よりも一回り大きいくらいだ。

 

「この紫玉(むらさきだま)は何だ」

宗像三女神(むなかたさんじよしん)のドロップ品」

「あの時のか……」

 

 宗像三女神は素戔嗚さんの剣から生まれた存在だ。

 八岐大蛇の気を鎮めるにはうってつけだろうって思ったら、案の定だったね。

 

「鎮まり切っとるな。導くような力も感じる。方向性も与えてやったが良いかもしれん」

 

 ふむ。

 女神自身の権能が影響してるのかね。

 

 方向性を与えるってなると、まあ令奈の情報が入れば良いかな。

 あとは適当に上手くやってくれるでしょう。

 

「……血あたりか?」

「コレでええか?」

「……話が早すぎるな。助かるが」

 

 うん、令奈さん、方向性もーくらいでスパッと指切ってたね?

 流石です?

 

 飲む分だけを取り分けて、作業用に令奈の血を落とす。

 それだけなら綺麗な(くれない)(ぎよく)だけど、火酒の中へ落ちるとすぐ溶けて、その色を失ってしまった。

 

 同時に、火酒の中の力がひとつ方向に渦を巻く。

 三女神の遺した神器は、間違いなく彼女の望む方向へ導いてくれているらしいね。

 

「あとは、俺の仕事だ。次はいつ来れる?」

「一週間は無理やな。それ以降なら調整出来るで」

「そんな直ぐにはできん。そうだな、二週間後に一度来てくれ」

 

 調整の為だとはいえ、二週間でも早い気がするけどね。

 素材が素材だし。

 

「送る?」

「ええよ」

 

 ふむ。

 じゃあ()()()まで新武器お披露目はお預けか。

 

 ()()為に作ってるんだろうし、彼女の完成度なら、()()なると思う。

 

 何にせよ、話は纏まったね。

 色々名残惜しいけど、この辺でお暇しようか。

 

「ほな玄一郎はん、よろしゅう」

「ああ」

 

 彼ならきっと、面白い鉄扇を作ってくれる。

 

 それはそれとして、今度お酒持って遊びに来ようかな。

 ガッツリ人付き合いする気は無いけど、今の世界の仕組みについて、職人の視点を知りたい。

 

 決して、お酒を飲む口実が欲しいわけではない。

 無いったら無い。

 

 まあ、伊邪那美(いざなみ)さんに勝った後の話。

 今は兎に角、特訓だね。

 

 

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