世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第119話 いよいよ決戦だ

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 目的の最終階層に着いたのは、予想より少し早い、空が茜に染まる直前くらいの時間だった。

 

 守護者の部屋の前、うずうずする気持ちを抑えて、一時間後に配信を開始する旨の告知を出す。

 その一時間で食事を済ませ、往きの高速飛行機で消耗した僅かばかりの体力を回復させる。ついでに準備運動も少し。

 

 そんな風に過ごしていたら、一時間なんてすぐに経つ。

 

「時間だ。お腹は、落ち着いてる。調子の悪いところも無し」

 

 コンディションを一つ一つ、声に出して確かめる。

 せっかくの機会に、私が万全じゃないなんて勿体ないから。

 

「さて」

 

 配信画面を出し、設定に間違いがないことも確認。

 カメラは正面。問題無し。

 

「始めますか」

 

 配信開始ボタンを押すとともに、最盛期、私が八雲ハロと名乗るようになった頃のような勢いで同接者数が増えていく。

 

 まだまだ増加の勢いが落ち着く様子は無いけども、待ってる余裕はないかな。

 それはたぶん、今配信画面の前にいる人たちの多くも一緒。

 

 だから――

 

「うん、もう良いや。ハロハロ、八雲ハロだよ」

 

『ハロハロ待ってた!』

『ハロー。よっし生き延びたぜ!』

『こんハ、ひっ、ハロさんが分かりやすく笑みを・・・!?』

『こんにちは、初見ですー』

『ハロハロ! うん、分かりやすくワクワクしていらっしゃふ。レア笑顔だ』

 

 前回死にかけ言ってた人達もちゃんといるね。

 良かった。

 

「今回の配信は、言うまでも無いよね?」

 

『うむ』

『イザナミ様にリベンジだ!』

『昨日に続けて神殺しが見れるのか』

『この時代に生きてて良かった。ていうか長命種になって良かった』

 

 コメント欄が凄い勢いで流れていく。

 スレッドを使うようになる前の検証と議論を思い出すスピードだ。

 

「募る話はあるかもしれないけどさ、ごめん、ちょっともう我慢できない」

 

『ダメ、とか言ったら殺されそうなのでどうぞ行ってきてください!』

『頑張れー!』

『酒の準備は万端だぜ!』

『行ってらっしゃいー。……↑死にかけじゃなかったっけアンタ』

『おう死にかけよ! 最後だから孫に飲ませてもらってる』

『お、おう……』

『間に合った! ハロさん頑張ってください!』

『頑張りや』

 

 ん、ウィンテと令奈。

 諸々終わったかな?

 

 いっそう不甲斐ない姿は見せらんないね。

 

 カメラを後ろへ回し、魂力の注連縄(しめなわ)に封じられた、観音開きの白木の扉へ手をかける。

 

「それじゃ、楽しもうか」

 

 口角の更に上がるのを自覚しながら、一気に開く。

 

 途端、黒に染まる視界。

 不意打ち、だけど扉よりこちらへは来ないことは分かっている。

 

「まったく、手荒い歓迎だ、ね!」

 

 手の内に顕現させた愛槍を縦に振るい、漆黒の炎を切り裂けば、奥に見えるのは、この国の頂点の一角。

 

 天津神(あまつかみ)神代七代(かみよななよ)が一柱、伊邪那美命(いざなみのみこと)

 

 伽藍堂(がらんどう)に落ち窪んだ瞳で私を見返す姿は、女神と言うにはあまりに(おぞ)ましい。

 薄暗く広大な洞窟の中央、唯一あるボロボロの木の床に彼女は鎮座する。

 白の着物にはどす黒い血が滲んでおり、本来であれば美麗なはずのそれが、死人(しびと)のような青白い肌を隠していた。

 

 唯一、女神らしいのは長い射干玉(ぬばたま)御髪(おぐし)だけど、亡者の姿で髪ばかり美しく艶めいているのが不自然で、余計に不気味に感じられる。

 

 いや、そんな見た目なんてどうでも良い。

 今私の身体を震わせているのは、そんな表面的なものじゃない。

 

 その奥から発せられる、圧倒的なまでの神威。

 絶対強者の気配。

 

 対峙するのは、これで三度目。

 だけれど、この身を震わすその気配に慣れることは出来ない。

 

 むしろ、彼女の力を正確に測れるようになった分、震えはより大きくなっている。

 

 ああ、なんて、なんて――

 

「なんて楽しそうなんだろう! アハハっ!」

 

『ハロさん、こんな声で笑うことあるんだね……』

『偶にな、あるんよ。具体的には相手が超絶強敵な時とか』

『ハロさん、今すごい獰猛な笑みを浮かべてるんでしょうねー。羨ま悔しいです』

『ああ、そうだろ、いや待てなんだ羨ま悔しいって』

『やっぱウィンテネキはハロさん狂い』

 

 流れるコメント欄を無視して、断った黒炎の先へ飛び込む。

 上段から振り下ろした槍は、新たに生まれた漆黒の炎を切り裂いて、伊邪那美さんを飛び退かせた。

 

 今のはまあ、玄関のチャイムを鳴らしたようなもの。

 彼女の領域にお邪魔するよと伝えただけの攻撃。

 

 という訳で、お邪魔しよう。

 特訓の成果を見せてあげる。

 

 

 自分の周囲だけに留められていた魂力の支配領域を、一気に広げる。

 黄泉の女王の国を切り取り、奪えたのは、だいたいこの空間の五割ほど。

 

 つまり、純粋な支配力ではほぼ互角になった訳だ。

 前回は自分の周囲数メートルが限度だったのに。

 

 うん、二人のお陰だね。

 

 ん、伊邪那美さんの警戒度合いが上がったか。

 当然だよね。

 

 じゃあ、次は挨拶だ。

 挨拶は大事。

 これからたっぷり遊ぶ訳だし。

 

 せっかくだから、前回のお返しをしておこう。

 

『うぉっ、すげー連射。雷に炎に、金属の槍か?』

『マジで雨だな。目がチカチカする』

『イザナミ様はイザナミ様で、全部撃ち落としてるの流石過ぎる』

『なんか全部同じ種類の魔法で迎撃してね?やば』

『今回は俺らでもまだ分かるレベルだな。今だけだと思うが』

 

 百、千と単純な魔法攻撃をひたすら撃ち込む。

 黒と赤、白と黒がそれぞれぶつかり、薄暗い洞窟内を照らす。

 

 時折混じる火花は、金属同士がぶつかった時のものかな。

 

 まあ、単一現象の情報しか込めてないから、規模は小さいし特攻がある訳でもない。

 支配領域も、一対一から動かない。

 

 ただの挨拶だからね。

 これで戦況が動くなんて、互いに思ってはいないだろう。

 

 前回されたことのお返しに、何かを期待するわけがない。

 うん、よし、それじゃあ、本番といこう。

 

 全力全開の、本気の時間。

 私が私に枷をつけなくて良い時間だ。

 

「いくよ、元女神さん」

 

 もっと私を、自由にしておくれ。

 

 

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