世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第135話 ずっとこっちで良いのにな?

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「と、ちょっと重くなっちゃったね。基本的にはこれまでと変わらないから、安心して。ただ、前よりちょっと手段を選ばなくなっただけ」

 

 カメラの位置を調整しつつ、くるっと振り向いて両手を広げ、おどけて見せる。

 これは配信者としての矜持的なもの。自由にやってなお残ってくれた人たちくらいは、楽しませなきゃね。

 

「とりあえず、引き続き街を探そうか」

 

『ういうい』

『まあ、グロいのに関しては今更だし』

『無差別殺人って訳じゃないしね』

 

 ふむ、並んでる名前はいつものコメント欄だね。たぶんだけど。

 昔あったサイトみたいに、アイコンとかあれば覚えやすいんだけどなぁ。

 

『正直、戦争もしてるから今更悪党が死ぬとこ見たくらいでって感じ。』

『それな。ごそっといなくなったのって中国人たちじゃね?』

『あー、なんか昔ながらの生活してそうな雰囲気だったね。旧時代の感覚での昔ながらだけど』

『魔族もいるしな、あいつら一応元人間だろ?』

 

 そっか、今の日本だとそうだよね。戦争してない地域だって、魔物たちと戦ってれば人死には珍しくない。初期のほぼ動物と変わらないような魔物なら兎も角、聖戦時のスタンピードを生き残ったやつらの子孫は、人間たちからすれば強力だ。

 魔族に関しては、半ば私がそう仕向けたようなものなのに忘れてたよ。ほぼゼハマの思惑だって事もあるんだけど。

 

 まあいっか。進もう。道っぽい地形もちらほら増えて来たし、そろそろ町も見つかると思うんだよね。

 

 それから人の気配を捉えたのは、十分も経たない頃だった。町まではそこから更に三十分以上歩いたけど。

 ここまでの所で、迷宮に関わりそうな強い魔物の気配は感じていない。たぶん、まだ迷宮側が制限された状態か、解除されて間もないんだろうね。日本の場合も、制限解除からスタンピードまで三年くらい猶予があったし。

 

『町、ていうか村だなこりゃ』

『人はちょいちょい見えるね。似たような服ばっか』

『服はそんなもんだろ。それよか塀とか村を囲う物がほぼ無いのが気になる』

『どっちかといえば新しそうな建物が多いな』

『あっちで湯気出てるのなんだろ?』

 

「感じる気配は二百くらいだから、まあ村だろうね。簡単な柵がちらほらあるだけなのは私も気になってた」

 

 なんか、村の外の脅威をあまり想定してない造りなんだよねぇ。やっぱりスタンピードはまだ起きてないっぽいかな。完全に抑えてるにしては、文明レベルも低いし。

 パッと見た感じ、近世くらいかな? 機械らしい機械は無さそう。

 

「湯気の方、行ってみようか。美味しそうな匂いしてるんだよ」

 

 この匂いには私も覚えがある。お腹も空いてきたし、ちょうど良い。

 

 私に気が付いた村人たちが奇異の目を向けてくる中、村の中を進む。時折怯えたように視線を逸らすのは、配信を見ていた人たちなんだろう。こそこそ話も聞こえてるけど、気にしなくて良いかな。

 

 それ以外は、笑顔の多い村だね。凄く平和。

 ただ、豊かって訳ではなさそう。

 

『おばちゃんが何か作ってんのね』

『なんか活き活きした村』

『ちょうどハロさんの頭が被って見えん』

『せいろっぽいのが沢山見えた 肉まんか何かじゃない?』

 

 肉まんもあるね。他にも色々。

 これは点心をテキトーに作ってるって感じかな?

 

「こんにちは。この点心は売り物?」

 

 聞きながら、点心が見えるようにカメラの位置をずらす。おばちゃんの顔には黒線でもいれとく? 今の私ならそれくらいの介入はできちゃうし。

 

『なんか、うん』

『なんかいかがわしくなった気がする』

『ハロさんの横顔!』

『これ、無駄に高度な事してると思うんだけど、ちょっとシュールだな』

『つまり本当に無駄に高度なんだな』

『肖像権保護は偉い』

 

 うん、無駄無駄言わなくていいんだよ?

 

 それは置いておいて、おばちゃんに怯えた様子は特にない。配信見てなかった側かな。

 

「ああ、あんた、さっきの。売り物って訳じゃないよ。畑の男どもに持ってくもんさ」

 

 あれ、見ててこの反応だったんだ。

 

「ふーん。もし余裕があるならだけどさ、一つ貰えない? お代は払うからさ」

「ああお代なんていらないから、持ってきな。ここまで沢山歩いたろ?」

 

 あら、この笑顔は押し切りづらい。うーむ、しかし、ただで貰うのもなんか悪いね。めちゃくちゃ裕福そうだっていうなら兎も角。

 

「んー、じゃあ何か手伝うよ。力には自信があるしね」

 

 人間よりは。

 龍の中で比べてはいけない。夜墨しか他の龍は知らないけど、けっこう頑張って漸く体力Sってたぶん、龍の能力値じゃない。ふっ、目から汗が……。

 

「そうかい? じゃあこれ持ってくの手伝っておくれ。普段は娘に手伝わせてるんだけど、今ちょっと出ててね。どうしようかと思ってた所なんだよ」

「ん、了解」

「畑に着く位に出来上がるから、あんたも向こうで食べな」

 

 というわけで、並んでる蒸籠をいくつか両手に抱える。おばちゃんは熱いよって忠告してくれたけど、私には平気そう。

 

「あら、ホントに力持ちだね。私の分が一つしかないじゃないの」

「まあ、点心代の代わりだからね」

 

 感心した様子のおばちゃんについて歩き出しながら、カメラの位置も戻しておく。迷宮の時よりカメラの位置に気を遣うから、少し面倒だね。

 まあ、暇っちゃ暇だから良いんだけども。

 

「そうそう、男どもからなんか言われても気にしないでおくれよ。女の子があんなこと言われたら、もう正当防衛だよ」

 

 ああ、なるほどね。そういう風に思う人もいるか。

 正直、その辺はあまり気にしてなかった。寿命故になのか、生殖に関わる本能が薄いみたいなんだよね。

 気持ち悪いのは気持ち悪いけど、嫌悪するほどじゃない。人の吐瀉物とか見てうへってなるのと同じくらいの感覚。

 

 私にとって相手がその程度の存在だからってこともあるかもしれないけど。

 

 なんて考えてたら、小さな気配がわらわら集まってきた。

 

「あ! おばさん! 点心俺もほしい!」

「ずるい俺も!」

「あれ、お姉ちゃんだれ?」

 

 と、子どもたちか。おばちゃんを囲んで楽しそう。私の方にも少し。

 無邪気で良いね。ついにやけそうになっちゃうよ。

 

「ああ、分かった分かった。人数分はやれないから、仲良く分けるんだよ」

「はーい!」

 

 まったく、なんて言ってるおばさんの目は優し気に細められてる。なんか、一時間弱前のやりとりとの落差が酷いなぁ。ずっとこっちで良いのに。

 

「おばちゃん、私の分も半分あげちゃって」

「いいのかい? 助かるよ。この子たちは食いしん坊だからね」

「えー! 食いしん坊じゃないもん! でもお姉ちゃんありがと!」

 

 うん、ずっとこっちでいいのに。

 

 わーわーと退散していく子どもたちに、他の村人たちも笑みをこぼす。なるほどね。

 たぶんだけど、さっきの野盗たちはこの村の人間じゃないんだろうね。

 

「良い村だろ?」

「だね」

「この辺は都から遠いからね」

 

 おっと?

 これは、このまま映してたらマズイかな?

 

 さすがにこの村へ災禍を齎すのは、私も本意じゃない。まだ昼下がりだけど、閉じようか。一旦音消してっと。

 

『ん、音が消えた?』

『ハロさん聞こえないよ?』

『この手の配信トラブル懐かしすぎる。』

 

「ほんとに気楽なもんだよ。この辺までは皇帝の軍もなかなか来ない」

 

 セーフ。皇帝本人すら見てる可能性があるのに、今の言葉はまずい。

 と、コメント欄にも説明いるね。コメント欄の方には思考だけで入力できないから、夜墨にお願いしよう。スレッドは思考をそのまま入力できてよかったよ。

 

『ロードより伝言だ。「ごめんねー、国境跨いでるからか、色々干渉したからか、調子悪いみたい! 今日はこのまま終わるね。また明日!」』

『おっふ』

『これがチーターの 末路、、』

『仕方ない。おつおつー』

 

 よし、これでオーケー。配信終了っと。

 これで安心して情報収集が出来る。

 

 さてさて、何が飛び出すかな?

 

 

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