世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第151話 前座、で良いんだよね?

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 二百六十二階層。剣を構えた戦神と奥の龍蛇を一太刀で切り伏せ、近くに潜む何かへは(いかずち)を落とす。

 

 二百六十五階層。降り注ぐ矢を風で散らす間に夜墨が天へと駆け、大きく加減した息吹で地上をなぎ払う。

 

 二百六十九階層。空中のあらゆる粒子に直進方向の力と本来以上に強力な慣性という情報を与え、その方向の全てを吹き飛ばす。

 

 あらゆる階層の敵を断末魔を上げる暇すらも与えないままに処理して、足は止めない。酷く広大な迷宮ではあったけど、そうして攻略すれば予定通りの三日ほどで二百七十階層まで辿り着けた。

 

 今居る大迷宮の最下層だろうここは、これまでの例によって白く濡れた花崗岩の洞窟内だった。正面には重厚で黒い金属の扉がある。刻まれている装飾は、中国の大地にそびえる山々と巨大な河川だ。そこにひっそりと梅の花が添えられていて、どことなく雅な雰囲気を醸しだしていた。

 

「何がいると思う?」

「龍だな」

「やっぱり?」

 

 夜墨も同意見か。道中の敵からもそんな気はしていたけど、確信した理由は別のところ。まあ、同じ龍としてその存在を感じ取ったのかな。出雲大迷宮で八岐大蛇(やまたのおろち)と対峙する直前に感じたような、何とも言えない予感がするんだ。

 

 そうでなくたって中国で龍は特別な存在だ。歴史上の人物が神格化しがちな文化の中にあって、不動の地位にある。中国神話の創造神も、今のように巨人とされる以前は龍として語られていたって言うし。

 

「これで皇帝より強かったらどうしようか」

「その時はその時だろう」

「まあね。言っても私が拍子抜けして終わるだけだし」

 

 あり得ない話でないのが困るところだけど。あの皇帝には少し気になるところもあるし。兎も角、報復が主目的ではあるにしても、多少は楽しみたい。

 

「まあ、入ろうか」

 

 重そうな扉に手を当てて、そっと押す。確かな質量を感じさせながらもそれは静かに開いて、この迷宮を守る守護者と私たちを対面させた。こちらをぎろりと睨んでいるのは、案の定の龍だ。

 

「大きいね。夜墨とどっちが大きいかな?」

「さあな」

 

 扉の先の、遙かな大地。門に描かれていたような光景の中心に、巨龍はいた。青い鱗の青龍だ。

 感じる力は、なるほど、確かに大迷宮を守るような最高格の神にふさわしいものがある。とはいえ、力の総量では伊邪那美(いざなみ)さんに並ぶほどではないかな。

 

「油断はするなよ」

「うん、分かってる」

 

 分かってるさ。

 力の総量なんて、私たちのレベルになるとかなりの幅が誤差になってしまう。能力の相性やその使い方の方が大事だ。もっと言えば、魂力の支配域をどれだけ奪えるかが大事だ。

 

 たしかに今の私なら、伊邪那美さんやあの巨龍相手に力押しでの魂力の支配をすることもできる。けど、私はその状態から伊邪那美さんに勝ったし、鬼秀も私の喉元へ歯牙をかけた。

 

 傲りはしても油断はしない。龍たる私が油断なんてする訳がない。ましてや、相手は大迷宮の最下層を守るような神で、私たちと同じ龍なのだから。

 

 改めて、下すべき敵を見据える。夜墨と同じくらいに巨大で、桜色の瞳の青龍。私が門をくぐり、境界を超えて守護者の間に入るのを待つソレは、やはりなんとなく低い空の下でとぐろを巻いている。

 

「じゃあ、遊ぼうか」

 

 そして私が己の領域に入ったと判断した瞬間、天へと舞い上がり、高らかに開戦の咆哮をあげた。

 さて、新たなる龍の祖として、古きには退場願おうか。曲がりなりにも、神の座を継いだんだからね。

 

 まずは挨拶だ。さっさと正体を教えて貰おう。この場を守っていて、ただの青龍なんてことがあるはずないし。

 

「夜墨は見ててね」

「ああ」

 

 地を蹴り、青龍の頭を目指す。

 あたかも自分の方が偉いとでも言うように上空を舞ってるけど、勘違いも甚だしいよね。ってことで、脚を一振り。魂力の支配域を敢えて一対一に保ちながら、眉間を狙う。

 

 これを阻んだのは、どこか黒っぽく細い木の枝だ。それがいくつも折り重なってたわみ、私の蹴りを受け止めている。

 

 梅、春を告げるもの。そして最高位の青龍。なるほど。

 

 中国神話でそれならば、きっとこいつは創造神の子がひと柱、春を司る存在、青帝青龍王なのだろう。東の天帝なら、この場にいても不思議はない。考えるべきは、その子が十干であるという部分がどれだけ彼の能力に反映されているかかな。今のが龍器の力とも限らないわけだし。

 

 青帝青龍王であるだろう魔法行使がブラフである可能性は、考えなくて良い。考えても仕方ないし、そもそも私たちと同じ龍がそんなつまらないことをする訳がない。

 

 とりあえず、この邪魔な木は燃やし尽くしてしまおう。受け止められた足を起点に雷を発生させ、燃焼に関わる情報と共に解き放つ。もくろみ通り梅の盾を破ったそれは、そのまま青龍の顔面を焼いた。

 

 当然、この程度では大したダメージにならない。鬱陶しそうにこちらを睨む青龍へ睥睨を返し、足を振り抜いた勢いのままに身体を回転、彼の鼻っ面に右足を叩き落とす。

 

 もの凄い勢いで落ちて長い身体を波打たせ、地をゆらす青龍。追撃はしない。ただの挨拶だからね。

 正体も分かったし、挨拶もした。次は、格の違いを教えてあげよう。

 

 (ことわり)が私の変化先を龍に選んだ理由、とくとご覧あれってね。

 

 

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