世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第153話 子守歌には凱歌の響きを

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 解放軍の拠点に戻ると、虎憲(フーシェン)たちは既に準備を終えて整列しているところだった。白昼の森に作られた広場には千と数百の兵たちが列を成していて、圧巻の光景だ。周囲には彼らを運ぶ籠も並べられているから、その気になればものの数分で出立できるだろう。

 

「待たせたみたいね」

 

 皇子たちの横に降り立って一応詫びる。

 

「いや、用意の整ったばかりだ。問題ない」

「そう」

 

 ぶっちゃけ彼らを待たせようがどうでも良いのだけど、士気が下がって無駄な死人が出るのはつまらない。利用させてもらったのだから、相応の結果を返さなければ龍としての矜持にもとる。

 

 さて、進軍の(とき)を招くのは大将たる虎憲の仕事だ。助っ人に過ぎない私はもう少し静観させてもらおう。

 そう思って、彼を一瞥する。返事は首肯が一つのみだが、意図は伝わったらしい。

 

「長い、長い悪夢だった」

 

 静かな語り出し。しかし不思議とよく通る。

 

「世界が変容して数年、我が父は当時指導者であり自身の父であった男を謀殺し、その血塗られた玉座に着いた」

 

 つまりは、簒奪者か。国家主席ではなく皇帝を名乗っている以上、何かしらの経緯はあるだろうと思っていたけど、思った中で一番過激なやつだったね。

 

「我らの艱難(かんなん)は、辛苦は、その時より始まった。父は暗君となり、新たな理の中で我らの糧を、喜びを、根こそぎ己がものとした」

 

 現皇帝がその座についてまず行ったことが強権によるspの強制徴収というのは、旅の中で聞いていたことだ。彼が龍となったのは皇帝になった後って牛音(ニヨウイン)から聞いているし、そのspを使ったのだろうとは考えている。

 

「そして幾百年、この中国を闇に閉ざした」

 

 虎憲はそこで一度言葉を止めて瞑目する。

 

「だが! それも今日までだ!」

 

 カッと目を見開いた虎憲から発せられた覇気が熱となり、兵たちに伝わっていくのを感じる。なるほど、彼はやはり、王の器なのだろう。

 

「時は来た! 悪夢から覚める時が! 薪に臥せ、胆を舐める日々で培った力で、安息を掴み取る日が来たのだ!」

 

 虎憲の声に呼応して兵たちの得物を握る手に力が籠る。彼らからの熱気はここまで届くほどで、これまでどんな思いを抱えて来たのか、嫌でも分かってしまう。

 

「恐るることは無い! 我らには白き祖龍神の加護が付いている! 今こそ、悪帝鳳龍(フォンロン)を討つのだ! さあ、(ともがら)たちよ、出陣の時だ!」

 

 続けて兵たちの鬨の声が上がり、大地を揺らす。士気は十分。

 すぐさま狼戦(ランチヤン)牛音(ニヨウイン)が指示を飛ばして、兵たちを巨大な籠へ乗り込ませる。続けて彼ら皇子と幹部陣も別の小ぶりな籠に乗り込んだ。ここからは、私たちの仕事だ。

 

「それじゃあ夜墨、よろしくね」

「ああ」

 

 夜墨が元の大きさに戻って籠を持ち、舞い上がるのに私も続く。普段ならすぐに彼の頭上で寛ぐところだけど、その前に寄り道だ。

 

「少しお邪魔するわ」

「ハロ殿か。歓談にでも来てくださったのか? ならば茶の用意をさせるが」

 

 虎憲のこれは、冗談でもなさそう。

 

「それはまた機会があれば。確認に来ただけ」

「残念だ」

 

 大げさに肩を竦めて見せているけど、分かっていた答えでしょうに。つい、呆れた視線を向けてしまう。

 しかしそれも一瞬。彼の表情がすぐに真剣なものになったのを見て、こちらも倣う。

 

「兵たちは一部の精鋭を除き、宮廷の周囲に布陣する。逃げ出した者を捕えるためだ」

 

 無関係な住人たちに被害を出さないための保険かな。虎憲らしい。聞いている宮廷の広さを考えたら、彼らも突入させた方が良いだろうに。何せ、小さな町が一つ入る程度はあるんだから。

 

「突入する部隊は我ら皇子の指揮の下、宮廷内を制圧する。あちらに残った兄弟たちの妨害はあるだろうが、これら全て、我々に任せてもらいたい。代わりに」

「私が皇帝を討つ、と」

「そうだ」

 

 細かいことを言えばもっと色々あるのだろうけど、大筋はそんなところか。私が迷宮に潜っている間に詰めた作戦だ。彼らの考えられる限り、抜かりの無いようにしてあるだろう。

 

「理解したわ。ありがとう」

 

 私は彼らを見守りながら適当なタイミングで皇帝のところに行けばいいだろう。一応は教え子になるのだし、成果くらいは見てあげるつもりだ。

 

 それじゃあ上に戻ろうか。

 

「茶の一杯も飲んでいってはくれぬか」

 

 本当にお喋りがしたいらしい。好きなのは知っていたけど、こんな時までなんだ。

 まあ、そんな面倒なことする気は無い。後ろに名残惜し気な気配を感じながら、さっさと外に出る。

 

 さて、都までは人の足で何か月とかかる道のりだ。籠に弱っちい兵士たちを乗せてる以上夜墨も本気では飛べないし、まだ数時間はかかるだろう。

 

「夜墨、着いたら起こして」

 

 それまでお昼寝でもしていよう。

 さあさあ、皇帝はどれくらい、私を楽しませてくれるかな?

 せめて私の留飲が下がる程度には頑張って欲しいね。

 

 

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