世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第154話 狼煙は上がれど

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「ロードよ、着くぞ」

 

 ん、都か。

 

「んーっ……と。よく寝た。どんな感じ?」

「歓待の用意は万全のようだ」

 

 ふむ?

 

「おー、これは確かに万全」

 

 距離にすれば数キロ先、抑えた今の速度でも三十秒とかからず到達できる辺りの草原に、一万を超える兵が並んでいる。巨大な砲台も数えるのが馬鹿らしくなるくらいにはあるね。

 なるほど、今の人の身体能力なら、数メートル規模の兵器でも容易く運用できるか。

 

 その後ろに隊列を組んでいるのは、魔法部隊かな?

 なんだか新時代初期を思いだすなぁ。

 

「まあ、予想通りだね」

 

 何しろ、隠れる気の一切ない白昼堂々とした進軍だ。進軍、って言って良いかは兎も角として、空をこれだけの巨体が飛んでいたらどれほどの遠目からでもよく見えるだろう。

 虎憲(フーシェン)たち解放軍が官軍であると示すために正々堂々、威風堂々と攻め入ることが必要なんだそうな。

 

 なんてのんびり眺めていると、爆音が聞こえてきた。同時に無数の大砲が火を噴くのが見えて、人の背丈ほどはある鉄塊が飛来する。

 

 とりあえず、(いかずち)で迎撃。避けるまでも無いんだけど、万が一にでも兵たちの乗る籠に当たったら大変だから。

 おー、綺麗な花火だ。炎色反応もなにも無いけれど、火薬が詰まってたみたい。

 

 再び爆音。第二射か。

 まあこれもげいげ……いや待った。ちょっと思いついた。

 

「んー、こんな感じ?」

 

 魂力の支配域を広げて、ちょろっと働きかける。

 いつも魔法の防御でする情報の抽出と拡散を、既存の物理現象そのものにも行えるかどうかの実験だ。

 

 力学的エネルギーだったり慣性だったり、或いは空間の連続性だったり、あの砲弾を防ぐための抽出情報にはいくつか選択肢がある。

 とりあえず順番に試していってるけど、どうも上手くいかない。手ごたえらしき何かは感じているから、不可能なことではないみたいなんだけど……。

 

「今の私じゃまだ無理、か」

 

 大迷宮クラスの神を圧倒できる程度じゃ足りないらしいね。

 まあいいや。一先ず迎撃っと。

 

 砲弾の後ろから炎の魔法が壁のようになって飛んできてるけど、こっちはいつもどおり魂力支配による無効化で対処する。

 兵たちは、夜墨が対処してくれたか。周辺の大地がせり上がって彼らを閉じ込めている。

 

 これで兵士たちを降ろしたら、一旦は彼らの戦いを見守る段だ。

 

「あれが宮殿を囲う壁だね。さっさと降ろしてあげようか」

 

 都の上空に入ると、眼下から人々のざわめきが聞こえてくる。巨龍への恐怖、かと思ったけど、拝んでいるような声も多い。これをただの信仰故のものと見るか、はたまた救世主への祈りと見るか。

 

 いや、私の考えることじゃないね。

 

 宮殿からの攻撃は、無し。待ち受ける算段かな?

 街の方に被害が出るのを嫌ったんだろう。

 

「降ろすよ!」

 

 城壁に沿って飛ぶ夜墨が兵たちの入った籠から手を放す。虎憲たちの入ったものだけ後だ。

 着地の衝撃は魔法で殺す。脱出の隙は、壁方向だけに向けて籠そのものを爆発させることで潰す算段だ。

 

 うん、ここまでは予定通り。案の定籠の入口を狙っていた敵兵も、爆発の衝撃でひるませられた。

 

「結界用意!」

 

 牛音(ニヨウイン)の声がその能力によって反対側の兵たちにまで届く。

 

「起動せよ!」

 

 壁に沿って半透明の膜が出現し、宮廷をその内に閉じ込めた。目的は、万が一にも都に被害を出さないようにすること。逃げ出した兵による混乱だったり、流れ弾だったりを危惧したこれは、数百人の解放軍兵士によって生み出されたものだ。

 

 私の目から見ても、強度は十分。少なくとも、私と皇帝が対峙するまではその役割を果たしてくれるだろう。

 

「それではお二方、お先に失礼する」

「うん、頑張って」

 

 皇帝以外は任せるって約束だからね。

 虎憲たちの飛び降りたのを確認して、籠は消滅させる。

 

「おっと、忘れてた」

 

 一つ、餞別を贈ろうと思っていたんだった。

 

 対象は、突撃の号令を待つ千の兵たちと、その将たる皇子三人。

 彼らへ向けて、精神保護とステータス強化の魔法を発動する。

 

 精神は、あれだ。そういう魔法対策と、熱くなりすぎて不必要に恨みを買わないように。後々を考えたら、無意味に殺さない方が良い。

 

 今みたいな非常時に考えることじゃないんだけどさ、まあ、私がついてるから。

 

 それに、虎憲には象徴としてもう一つ渡したものがあるし。

 

「突入せよ!」

 

 その虎憲の声が上空まで響く。彼の手には、白を基調として柄に金色の玉が嵌められた青龍刀が一振り。

 

 皇帝の方は……、動く気なしか。

 いつかの配信で見た黄の衣をまとって、ひと際大きな宮殿からなだれ込む解放軍を睥睨している。

 

 あ、目が合った。手でも振っておこう。

 あら、また視線戻しちゃった。まあいいか。

 

 私もしばらく観戦だ。彼らはどれくらい上手くやれるかな?

 

「さて、お手並み拝見っと」

 

 

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