世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第175話 気分転換タイムってことで

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 気がつけば、石のブロックを積み上げた小部屋にいた。薪になった村人達も、村そのものも、何もない。当然おっちゃんもいなくて、私とファウロスだけが存在している。

 

「大丈夫?」

「えっ、あ、……はい」

 

 痣はしっかり残ってたから聞いたんだけど、うん、これは私に怯えてるやつだ。彼もさっきの村人達が、実体がある幻に近しいもの、というのは分かっているはずだ。だとしても、人の姿をした存在を何の躊躇もなく消し炭にした相手なんて、普通の人間からしたら怯えて然るべき対象だろう。

 

『なかなか胸くそだったな』

『怪我はちゃんと残ってるんだな』

『ていうかなんか地雷ふんだんか』

『久々にキレハロさん見たな。龍の逆鱗だっけ?』

 

 逆鱗、とファウロスの呟く声は、少し震えている。

 んー、まずったかな? まだしばらく一緒に潜らないとなのに、やりづらくなるかも。

 いやまあ、彼にどう思われようと気にしないけど、面倒くさいことが増えるのは勘弁してほしい。

 

 仕方ない。少し気分転換を挟もうか。

 っと、その前に傷を治してあげよう。

 

「――っ!」

「治療するだけだよ。そのままじゃ痛いでしょ?」

 

 うぅむ、これは重傷。

 とりあえず、内出血やら裂傷やらをさくっと治してあげるか。さくっと、ただしゆっくり時間を使って。お話もしておいた方が良いだろうから。

 

「悪かったね、驚かせてしまって。……私たち龍には逆鱗っていうのがあってね、それに触れられると、抑えきれない激情に駆られてしまうんだ」

 

 わざとゆっくり治しながら、できるだけ穏やかな口調を心がける。

 

「といっても物理的なものではなくて、精神的な部分にあるものなんだけど。私の故郷だと、昔は地雷だなんて言い方をしてたやつだね」

 

 コメント欄には今も使ってる人がいるけど、最近の子が使ってるのは見たことないかな。

 

「私の場合は、私自身や、大事な人の自由を不当に害されること」

 

 龍になりたてのころは不安定で、見知らぬ女の子のことにも怒りを覚えてしまっていたんだけど。

 

「だからまあ、ファウロスやイリニちゃんに怒るなんてことは、まず無いと思うよ」

 

 ファウロスは一瞬視線を彷徨わせた後、やや目を伏せて、すみませんと漏らす。弱々しく小さな声だったけど、私の耳にはそれで十分だ。

 まだ内心、いくらかは怯えているだろう。今ので彼の恐怖を取り去れるだなんて思ってはいない。ただ、言葉にする必要はあると思ったから。

 

 実際、怒ることはないだろう。直接的な害意は知らないけど、私の自由を害するような事になる未来は見えないから。それに、ファウロスなんて私からすれば子供みたいな年齢なんだし、多少の粗相は気にならない。なんて思ったら、つい頭に手を置いてしまった。

 

『あっ! ずるい! ハロさんの頭なでなで!』

『うお、ダーウィンティーさん』

『相変わらず強火くさいな』

『微笑まれたのまでは許しましたけど、それは流石に看過できません!』

『え、微笑んでたの?』

『なんで画面に映ってない表情分かってるんだこの人』

『ウィンテさんだから』

 

 あー、うん、本当になんで分かるんだろうね? 他の部分の動きも見えない角度だったよね?

 これはまた百合板が加速するかも。ていうかアレもいつまであるんだろう?

 

「えーっと、ダーウィンティーさん、すみません?」

「ほら、ファウロスが困惑してるから」

 

『ぐぬぬ、庇われまでして……! いやでもハロさんが言うなら……』

 

 ファウロスの方から助けを求める視線が。急になんなんだコイツって感じよね。

 まあ、ウィンテはわざとやってくれたんだろうけどね。空気を変えられるように。何割かは本気だと思うけど。なんかプライベートスレッドの方で帰ったら私にもしてくださいって来てるし。

 

「はい、それじゃあこの話は終わり。まだ先は長いんだし、さっさと出発するよ」

 

『はーい』

 

 うむ、素直でよろしい。

 さて、気分転換タイムの本番はここからだ。

 

「ところでファウロス」

「はい?」

「空、飛んでみたい?」

 

 きょとんとする彼の手を引き、次の階層に歩かせる。九十一階層は木がずいぶん減っていたなんて喜びはおいておいて、着物を情報として魂力の内にしまう。なんかファウロスが慌てる気配が伝わってきたけど、魔物の気配は感じないので放置。

 

 さて、この魔法を使うのはいつぶりか。何度やっても肉体の変化する感覚は奇妙なものだね。視覚的にも、身体を動かさないままに頭上にあった枝が近づいてきて、そして遠ざかるのだから、やはり奇妙だ。

 

『今日来て良かった』

『龍の姿もあったんだ』

『久しぶりに見ましたね。子供のころ以来。』

『やっぱ綺麗だなー』

 

 振り返ると、ファウロスが口を開けたままポカンとしていた。瞳に映っている白い影は私だ。真っ白な鱗に真っ白な鬣を持った、金眼の龍。自分でその姿を見たことは無いけど、突然顔見知りがそんな姿に変わって見下ろしてきたら、そりゃあ呆けてしまうか。

 

「ほら、乗せてあげる」

 

 一番前の腕を下げてやる。頭に乗せるのは、百歩譲っても鬼秀までだ。

 声も出せないまま恐る恐る足をかける彼の表情には、期待が五割ってところか。ファウロスも一児の父とはいえ、男の子だね。

 

 ようやく乗り込めたね。普通の人間にはあの高さも大変だったか。まあ、周りに対衝結界くらいは張ってあげよう。風を感じられる程度の弱ーいやつ。

 

 ん、なんかコメント欄にうらやましがる声がたくさん。って、ウィンテは乗せたことあるでしょ。しかも特等席。ほら、コメント欄でもツッコまれてる。

 

「それじゃあ行くよ。しっかり捕まってて」

「は、はい!」

 

 この緊張は私への恐怖からではないね。よきよき。

 さて、空の旅の始まりだ。

 

 

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