世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第189話 狂乱の前に

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 さて、それじゃあさっさと二百一階層に……、いや、その前にご飯だね。楽しくて忘れてた。

 私はまあ平気だけど、ファウロスはちゃんと食べた方が良い。あの調子じゃ、次の十階層分はもたないよ。

 

 守護者の間の前室に続く扉は、閉じたままだね。寝てるかな?

 どっちにしろこっちの部屋は酒の匂いで辛いだろうし、私が戻ろっか。

 

「ファウロス、生きてる?」

 

 一応扉を開けたままにしておいて、っと。

 ……ふむ、返事が無い。ただの屍のようだ?

 

 うん、ぐっすりだね、これは。限界も近かっただろうし仕方ない。

 その間にご飯作っちゃおうか。胃に優しいもので。配信は、まあつけっぱなしでいいでしょう。

 

 ――よし、こんなものだね。塩味は自分で調整してもらおう。

 

「う、ん……」

「あ、起きた?」

「ハロ、さん……?」

 

 寝ぼけてら。水だけ渡して、これ皿に盛っちゃおう。

 

「ありがとうございます。……それは?」

「ん、卵がゆ。お腹に優しいよ」

 

 風邪引いたときとかにいいよね、これ。今回の材料は少し、いや、かなり贅沢かもしれないけど。

 

「ほれ、食べな。塩はこれ、好きなだけかけて」

 

 ではでは私も。いただきますっと。

 うん、美味(びみ)

 

 炊き加減完璧だね。ちゃんとお焦げもできてる。これがあるとなしとじゃだいぶ変わるからね。

 小口ネギも良い香り。どこの迷宮で採ったやつか忘れたけど、ちゃんと覚えておけば良かったなぁ。

 

 お米は出雲大迷宮産のいつも食べてるヤツ。しっかり甘くて、今回の卵にも負けてないね。さすが、我が故郷のお米。かつて新潟に並ぶ米所だなんて言われてただけはあるよ。

 

 ファウロスも夢中でかきこんでる。これは、おかわりが必要かな?

 たくさん作ってあるから好きに食べたまえ。

 

「ハロさん! なんですかこの卵! こんな濃厚で美味しい卵、食べたことないですよ!」

「それは仙鶏卵(せんけいらん)ってね、神獣一歩手前くらいの鶏の卵」

 

『あれか、伊勢の大迷宮にいたやつ』

『え、あれの卵?』

『前仕入れてみようと思ったら一個五万spくらいして諦めたヤツだ、、、』

 

 へぇ、そんなにしたんだ。あ、ファウロスがむせちゃった。さっきのコメント見ちゃったみたいだね。

 ほれほれ水飲みなー?

 

「そんなわけで栄養満点だから」

「は、はい」

 

 そんなに慎重に食べなくてもいいのに。おかゆだよ?

 あ、そうだ。忘れるところだった。

 

「ほい、これも飲んどき」

「これは……、白ワイン、ですか?」

「そう。さっき戦ってた守護者の間にあったやつ」

 

 わお、すんごいジト目。これは勘違いされてるね。

 

「美味しいよ?」

 

 あ、呆れられた。ちょっと遊び心を出しただけなのに。まあ、ちゃんと説明しようか。

 

「真面目な話をするとね、こういう強い力を持ったお酒はそれだけで多少ステータスが上がるんだよ。ここから先、ちょっとでも楽になった方がいいでしょ?」

 

 そんな何度も効果のあるものではないけど、その酒の内の概念なのか、魂力そのものなのかが影響するみたいなんだよね。

 ステータスのベースになる魂の器の強化と、ステータスとなっている力そのものの強化が同時に行える便利アイテムだ。

 

 大蛇の火酒クラスになると、ちょっと飲める人が限られちゃうけど、これくらいならまだ大丈夫。迷宮の壁から無限に湧き出してる程度のものってことなんだろうね。

 

「分かりました。いただきます」

 

 お、良い飲みっぷり。ファウロス、さてはいける口だな?

 

「……凄いですね、これ。体が熱くなったのを感じます。それに、体力と魔力が一段階上がってる」

 

 ふむ、彼程度だとそんなにはっきり変わるのね。

 まあ、ステータスってランクが上がる度に、次までの幅が大きくなるし。そのせいで私の体力、いまだにSのままなんだよね。

 

 私が龍としては貧弱すぎるだけってのはそうなんだけど。そうなんだけども。

 

「それ食べ終わったらそのまま二百十階層を目指すから。たぶん、最終階層」

「最終……。分かり、ました」

 

 そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。全部上手くいくというか、いかせるから。

 イリニちゃんはちゃんと助けるさ。約束だからね。

 

 さて、私ももう少し食べておこうか。たぶん、残り十階層じゃ大して制限解除できないだろうし。

 

 食事を終え、百九十階層台と同じような階層を十階層分抜けたら、二百十階層だ。お酒のバフのおかげか、今朝ほどファウロスに気を付けなくて良かったから、予定より早く着いた。

 

 二百十階層の前室は、ヘパイストスのときと同じ、白大理石の小部屋だった。ただし葡萄の蔓草を模した黄金の装飾に覆われていて、壁からは例の白ワインが流れ落ちている。酒の匂いを感じないのは、わざわざそういう仕掛けが施されてるってことだろう。

 前方の扉は真鍮色の金属のようで、ゴブレットに山羊か何かの角が生えたようなレリーフが施されている。その周囲を囲うのも葡萄だね。

 

 どれもこれも、ディオニューソスを象徴するものだ。

 

「やっぱりここが最終階層で間違いなさそうだ」

「そうみたい、ですね……」

 

 ただまあ、大迷宮のように、迷宮の遮断機能を貫通するほどの気配は感じない。オリュンポス十二神に数えられることもある神とはいえ、大迷宮の主にはさすがに劣るか。肌がぴりぴりとする感覚はあるけどね。

 

 普段なら作業感覚で終わらせる程度。でも今は、全力の六割出せるかどうかってくらい。死闘になるのは、間違いないだろう。それでも負ける気は微塵もしてないんだけど。

 

 妙に緊張しているファウロスの背中を叩いてやり、扉へ向かう。

 

「ここでしっかり見てるんだよ。私がディオニューソス神を倒すところ」

 

 さ、それじゃあ、ご対面といこうか。この迷宮の主人に。

 

 

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