世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第205話 開戦前夜に誘われて

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「ところでさ、この迷宮、やっぱり誰かが支配済みだよね?」

「あんたが言うなら確定やなぁ。私はそんな気ぃするってくらいやったけど」

「私も令奈と似たようなものですね」

 

 ふむ。まあ、魂力に関して特に敏感な龍の目でも注意しなければ違和感レベルでしかないからね。二人が確信を持てないのも仕方ない。

 

「たぶん、魂力をまともに扱えるレベルにないんだろうね。支配しきれてない感じがする」

「このクラスの迷宮を支配できるはずがない人が、どうしてか主となってしまっているってことですね。なるほど……」

 

 大人数で攻略したとか、もっと迷宮の若い頃に攻略したとか、色々考えられる可能性はあるから不自然な話ではない。

 ただ、天使の守る人間の領域にあるのは不思議だね。攻略されてるなら誰のものかに拘わらず、把握はしてるはずなのに。

 

 うーん、探ってみても誰の魂力か分からない。いや、なんとなく覚えがあるような気も……。

 

「とにかくグラシアンには報告しておかないとだね」

「もうやっといたで」

「ん、さすが」

 

 話が早くて助かるね。

 今の弱体化具合で強引に掲示板機能が使えてるところも流石ポイントだ。

 

「……ユドラスはんが報告忘れとったらしいで」

「ふぅん?」

 

 彼がね。

 たしかに彼のレベルなら、こんな有様になっててもおかしくないか。

 

 それはそれとして、別の懸念が色濃くなった。

 ちらっと二人に視線を向ければ、同じような目が返ってくる。意見は一致してるらしい。

 

「保険はかけておくよ」

「ほなええわ」

「お任せしました!」

 

 二人には余裕ないだろうし、私がどうにかする他ない。

 七割弱の力を使えるようになったと言っても、それは七割弱の戦力で戦えるようになったって意味じゃないからなぁ。

 

 自身の領域外に出たときにかけられる制限は魂力の支配力に関わる制限だ。厳密にはその領域全体を支配する意思と支配域の奪い合いをするのに使わなければいけない部分があることで生じているもの。

 

 その分演算能力だったり支配の出力だったりに影響を受けるから、一割の力を封じられたらその数倍の戦力が減じるわけだ。そして私らクラスの戦力は、基本的にはふるえる力に対して指数関数的に変化する。

 

 つまり、今の二人は全力の半分程度の強さすらあるか怪しいということになる。

 

 だから本当は、もういくつか迷宮攻略配信をして制限を緩めたいところなんだけど……。

 

「ほな、このまま帰ろか。すぐ作戦開始や」

 

 これ以上は、時間が許してくれない。

 二百十階層クラスってなるとさすがに数日かかっちゃったからなぁ。仕方ない。

 

 帰還用の魔法陣で外に出て、まっすぐヴェルサイユ宮殿跡の大迷宮に戻る。着いた時点でグラシアンが転移させてくれたから、こっちはすぐだ。

 

 そのままお風呂に行って汗を流した後は自由時間。各々与えられた部屋なり、書架なり、好きな場所へ向かう。私は、夜の散歩かな。

 

 城、特に西洋風の宮殿の中を歩く機会は無かったし、ウロウロしてるだけでも楽しい。こういう煌びやかな装飾は趣味じゃないにしても、美術的価値とか歴史的価値とかとなると別だ。なんなら素直に綺麗だとも思う。

 

 時折給仕や見回りの天使に会釈されながら当てもなく歩き回っていると、窓から星明かりが目に入った。

 これは、うちの迷宮と同じように空間歪曲で外の景色を映してあるんだろうか。それとも、庭園部分も作ったんだろうか。

 

 どちらにせよ良い景色だね。こういう空の下で紅茶でも飲みながら本を読むのも好きなんだよね。ときどき空を見上げながら物思いに耽ってみたりして。

 今考えるとしたら、色んな違和感、特に住人達のあれこれになる、かな。相変わらず触れるつもりは無いけど。

 

「ん? この気配は……」

 

 こっちか。どうしようかな。面倒くさいしこのまま回れ右してもいいけど、向こうも気付いてるよね? 少なくとも片方は。

 それに今は戦時中。諸々考えたら、ここで避けるのは良くはないか。

 

 仕方ない。顔出そう。

 

 幸い気配のある場所までは一本道だ。これなら私も、あんまり迷わない。昔一本道で迷ったときは写真撮るために立ち止まったのが敗因だし、今は目印になる景色もあるし、問題ない。

 

 微妙に重い足を見つけた二人の方に向ける。あっちも移動中みたいで、すぐに合流できた。シャンデリアの明かりに照らされているのは、金髪青眼の貴公子と赤髪赤目のウルフカットだ。

 

「やぁお二人さん。良い夜だね」

「ああ。これからユドラスと茶を飲もうと話していたところだが、ハロ殿もどうだろうか」

 

 ティータイムか。まあ、悪くない。

 なんだかんだ、グラシアンとはしっかり話す機会が無かった。

 

「私はいいけど……」

 

 ユドラスくんをちらっと見る。

 

「構わん。グラシアン様が仰るのなら問題ない」

 

 あらそう。じゃあお言葉に甘えて。

 

 グラシアンに案内されたのは、庭園と星空がよく見えるバルコニーだった。これだけ広いと空気の流れも生まれるようで、風が髪をさらう。

 そこにはティーテーブルと椅子が三つ用意されていて、既にお茶の準備も終わっていた。さっきここら辺で誰かの動く気配がしてたから、直前に用意されたものなんだろう。

 

 夜墨の分はさすがに無いか。たぶん、大半が襟巻きか何かだと思ってる。だってほとんど動かないんだもの。仕方ない。

 手持ちのカップを出すか視線で彼自身に問いかければ、一瞬だけ目が合ってすぐに瞼で遮られた。いらないらしい。

 

 じゃあいいか。

 

「普段からこんな時間に茶会なんてしてるの?」

「いや、今日はたまたまだ」

「さっきまで稽古をつけていただいていたのだ」

 

 ああ、なるほど。

 他の面々みたく移動しなくていいのかとも思ったけど、彼の持ち場は以前行った街だ。あそこは一番ドラゴンの領域に近いから、常日頃から準備は整った状態なんだろう。

 

「ハロ殿は何を?」

「ただの散歩。寝るにはまだ早いかと思ってね」

 

 なんなら寝なくてもいいんだけど、それはそれで暇だ。明日からそれなりの強行軍になる可能性もある。一応ちゃんと寝た方がいいだろうね。

 

「違いない」

「寝不足になどなるなよ。グラシアン様の足を引っ張ることになるからな」

「分かってるよ」

 

 ふむ。ユドラスくん、ずいぶん態度が軟らかくなったね? あんだけガルガルしてたのに。

 まあ、彼とはそれほど関わることないだろうし、なんでも良いんだけど。邪魔さえされなければ。

 

 それはそれとして、何を話そうか。明日の詳細について聞いても良いけど、それじゃあすぐ会話終わるよね。そもそもそんな空気じゃない。

 とりあえずカップに口をつけて誤魔化すが、ちょうど良い話題は思い浮かばない。

 

 どうしたものかと考えていたら、先にグラシアンが口を開いてくれた。

 

 

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