世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第206話 月の下のお茶会

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「ハロ殿、改めて礼を言いたい。そして謝罪したい。我らの戦いに巻き込んでしまったことを。すまなかった。そして、ありがとう」

 

 真剣な眼差しで頭を下げるグラシアン。これにはユドラスくんも何も言わない。私が、私たちが完全な部外者であることは間違いないと分かっているんだろう。

 こちらとしては、曲がりなりにも受けようと考えるだけの事情はあったから、別に気にしなくて良いと思う。なんなら首を突っ込んだことを怒られても仕方ないような事情だし。

 

 若干ばつが悪くなって、そっと視線を逸らす。

 

「受け取るだけ受け取っておくよ」

 

 頭を上げさせるためにそうとだけ言っておく。

 このまま話が続くのも面倒だし、話題を変えようか。正直彼らにはさほど興味がないけど、まあ、社交辞令的なアレコレも含めて質問を考える。

 

「そういえばさ、二人はどうして天使になったの?」

 

これならそれなりに話も続くでしょ。

 

「単純な話だ。それが神の思し召しであり、そうして天使となって人々を守ることこそ、我に与えられた使命だと悟ったからだ」

「俺もだいたい同じだ。変化可能な種族の中にあって、神の啓示だと思った。これなら、俺自身の手で世界をより良くできると考えたんだ」

 

 大仰だね。まあ、神の啓示というのはある意味間違ってないと思うけど。

 

「故に、我ら天使はこの身に代えても、正義のため人々を守らなければならない。ドラゴンたちの思うままにはさせられない」

 

 ふーん。理解はした。理解はしたけど、納得も共感もできないね。

 この盲目さは、少し怖い。そして危うい。自分が正義と信じて疑わないその姿は、きっといつか、何かを犠牲にするんだとおもう。

 

 まあ私には関係ないことだけど。いや、ドラゴンとの諍いの原因かもしれないって意味では関係あるのか?

 何にせよ、この件にはあまり触れない方が賢明かもしれない。

 

「貴様はどうなのだ。日本では龍は神に数えられると聞くが、それが理由か?」

 

 ユドラスくんから質問してくるなんて意外だね。まあ、ちょうど良いから乗っかろうか。

 

「違うよ。迷宮を攻略した後、気が付いたら龍になってたんだ」

 

 厳密にはコアルームにいきなり放り出された、が正しいんだけど。正しい意味での攻略はしてない。

 

「ほう、そのような事があるのだな。その方法で天使となった者は聞かんが……」

「あの時は色々条件が重なったみたいだからね。詳しくは知らない」

 

 こう言っておけば深くは追求してこないだろう。

 案の定、そうか、とグラシアンの返してきた以上に言葉は続かない。彼らからすれば気の毒なこと、なんだろうか。分からないけど、その方が都合が良い。例え聞かれても、令奈とウィンテ以外には基本話すつもりはないし。

 

 この話はここで終わりかな。ちょっと触れにくい方向にばかり広げられちゃった。思った以上に続いていない。どうしたものか。

 

 こっそり悩んでいると、宮殿の中から天使が一人やってきた。彼女はグラシアンに耳打ちをすると、そのまま下がっていく。

 

「すまない。少々呼ばれてしまったようだ。この場は好きに使って構わんぞ」

 

 うん、私はかまうよ?

 ユドラス君と二人で何を話せばいいんだ。三人ですらあんなに苦戦してたのに。

 

 若干恨めしい炎を瞳に浮かべながら、離れていくグラシアンの背中を睨む。ウィンテと令奈くらいにしか理解されない程度に。むしろ二人はどうしてああも色々分かるんだろうか? 不思議だ。

 

 いや、今更か。

 なんて考えていたら、不意にグラシアンが振り返った。

 

「ああ、一つ言い忘れていた。明日以降だが、仮にドラゴンと戦うこととなっても、極力殺さないでほしいのだ。彼らも元は、守り導くべき神の子。悔い改める機会を与えたいのだ」

「……まあ、善処はするよ。私もかなり戦闘力を削がれてるわけだし、保証はできないけど」

 

 グラシアンはそれで満足したのか、一つ頷いて宮殿の中に消えていく。正直なところを言えば、何を言ってるんだか、という感じだ。それで収まる規模の戦闘じゃなくなってるのに。

 これは戦争で、禍根はもう互いに深く刻まれている。平和に解決するには血が流れすぎた。時が経ちすぎた。

 

 全てを守ろうなんて虫が良すぎる。夢物語も甚だしい。

 それでも彼は、その理想を捨てられないんだろう。あの他と隔絶した力だってそのために得たんだろうし。

 

 冷めた心を温めるように紅茶に口をつける。話始めてそれほど経っていないから、まだまだ熱いくらいだ。

 ユドラス君はどう思ってるのかとふと気になって彼へ目を向けると、何かを言いたげの視線がそこにあった。私と目が合ったのに気が付いたからか、真っ赤な目が伏せられる。

 

「なに?」

「……いや、すまない。お前はどう思っているのかと思ってな」

「さっきのお願い?」

 

 そうでないなら端折りすぎだ。令奈やウィンテに対するような信用は君には無いんだよ。

 

「ああ」

「君は?」

「そう、だな。お前からしたら、本音は言いづらいか。いや、俺も分かってはいるのだ。グラシアン様の理想は、凄まじく潔癖な、綺麗事だと」

 

 ふーん。正直意外だ。

 彼はもっとこう、グラシアンのことは全肯定してるものだと思ってたのに。

 

「安心したよ」

「……やはりお前もそう思うのだな。ただ、分かってほしい。あの方はその理想を本気で叶えようとしておられる。己の身を犠牲にしてでも人間達を守り、ドラゴンたちにすら慈悲をお与えになろうとしておられる。それがより良い世界を作ると信じておられるのだ」

 

 だから侮蔑はしないでほしい、とでも言いたいのだろうか。

 

「あの方ほどの力があれば、高潔な精神があれば、もっと偉大なことも成し遂げられるだろうとは、俺も思っている。人間達が他者に頼るばかりでさえなければ……いや、今のは忘れてくれ。とにかくだ」

「大丈夫だよ」

 

 切実な思いを言葉にしようとするのを遮る。なんだか苦しげだったから。

 その理由にもなんとなく想像はついてるけど、触れはしない。ユドラス君はユドラス君なりに前へ進もうとしてるのは分かったから。

 

 そういうがむしゃらさは嫌いじゃない。

 愚かだとは思う。彼がどこに向かおうとしてるのだとしても、私からすれば愚かだ。けどその愚かさを、愛おしく思ってしまう。

 

 これは傲慢だ。自覚はしてる。人間だった頃なら何様のつもりだと言われただろう。でも残念なら、今の私に向けられることはまずない。

 

 色々と過った感慨を無表情の裏に隠して、ユドラス君に彼の望む言葉を返してやる。

 

「別に、あの理想をどう思おうと、私のやることは変わらない。約束通り戦うし、グラシアンを死なせることもあり得ない」

「そう、か。ならばいいのだ。……ありがとう」

 

 素直に向けられた小さな感謝は聞こえなかったふりをして、もう一度ティーカップへ口をつける。薫り高く甘さすら感じるそれは、若干の苦さも孕んでいて、私の好みにバッチリ合っていた。

 

 

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