世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第207話 奇襲と布告

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 翌朝、一人で会議室にやってくるとグラシアンとユドラス君が険しい表情で待っていた。トラブルがあった、というわけではなさそうだ。戦前(いくさまえ)の緊張と昂ぶりが表れてるだけなんだろう。

 壁際には令奈もいるが、こちらはいつも通り涼しげだ。ウィンテは、もう出発したのかな。

 

「おはよう。待たせちゃったかな」

「いや、我々もちょうど準備を終えたところだ。ハロ殿の方はどうだ?」

「私も大丈夫。いつでも出発できるよ」

 

 グラシアンは一つ頷くと、ユドラス君、令奈と順に視線を向ける。

 

「では転移する。各自備えてくれ」

 

 直後景色が切り替わって、最前線の最寄りの迷宮に移動した。入り口に直接飛んだようで、青い空が見える。少し雲が多いけど十分に明るい。まあ、紛れて飛ぶにはちょうど良いかな。

 

 そのまま町に向かえば、門で物々しい雰囲気の天使達が出迎えてくれた。いつドラゴンたちが攻めてくるかも分からないから、というよりは今回の奇襲作戦が原因の緊張かな。浮足立ってると言っても良い。

 

 これ、大丈夫かな? お相手さんに気取られない?

 

「出発前に兵達に挨拶したい。少しばかりつきあってもらえるか」

「了解。私のことは気にしなくて良いよ」

 

 別に焦るものでもないし。

 

 門をくぐり町の中に入る。人間達は、変わった様子がないね。日常を過ごしてる。

 天使達の様子を不思議がってる人も見えるけど、それくらいだ。

 

 まあ、彼らは何も知らないからね。当然と言えば当然なのかもしれない。

 

 平和に影が差したのは、そんな町の中央に向けて歩いているときだった。

 

「うん?」

 

 グラシアンとユドラス君が同時に何かに反応した。特に気配らしい気配もないから、スレッド機能で何か連絡があったのかもしれない。

 

「……どうやら、ドラゴンの王たちが配信を始めたようだ」

「へぇ?」

 

 どれどれ。

 ……これか。ちゃんとタイトルもつけてあるね。私サボって後で付けることが多いのに。

 

「『天使と愚かなる人間どもへ』ね。見なくてもなんとなく内容が分かるね」

「せやな」

 

 まあ見るんだけど。

 こんなこと中国でもあったなぁなんて思いつつ、配信を開く。表れた画面に映っていたのは、これぞ竜の王といわんばかりの威容のドラゴンと、ドラゴンの形をした何かだ。

 

 竜の始祖と魔竜の始祖だろう。

 前者、竜の王は燃えるような紅蓮の鱗を持っていて、紅玉にも似た硬質さを覚える。信念か何かに強く輝く瞳は翠玉を思わせ、英雄覇道をいく者の覇気を宿していた。

 

 対して魔竜の王は、酷く禍々しい。冥府魔道にある者のようだ。毒々しく暗い紫の鱗は一度溶けて固まったかのように歪で、片翼が触手の束に置き換わっている。更には背から虫の足が何本も生えていて、腹には無秩序に牙が並ぶ口があった。

 

 尾も、あれはなんだろうか。胞子嚢(ほうしのう)のような謎の球体がいくつも付いて糸を伸ばしている。さらには瞳がトンボのような複眼となっていて、ぎょろりと血色に光っていた。

 

 王たちは迷宮の底だろう石の部屋に並び立ち、画面の向こうを睨む。画面越しには何モチーフなのかは分からないけど、カーペットやタペストリーを思うに、城の謁見の間あたりだろうか。

 

「忌々しき天使達よ、愚かで怠惰な人間達よ」

 

 竜の王は低くよく響く声で静かに語りかけてくる。

 

「我が名はサマエレア。貴様らが忌避するドラゴンの王なり。地を這いずる虫たちよ、貴様らの時代は間もなく、終焉のときを迎える」

 

 サマエレアは一度言葉を句切り、重苦しい静寂を作る。周囲で表情を強張らせているのは、この配信を見ている人だろうか。

 

「友へ別れを告げ、家族と最後の夜を過ごせよ。二度目の日の出と共に、我らは人を終わらせる。その怠惰を悔いよ。改むる時は、もう与えられない」

 

 配信画面がすっと暗くなって、向こう側の石畳を映した。短い配信だった。短い宣戦布告だった。それでも、始まりを告げるには十分すぎるものだった。

 

「それで、どうするの?」

 

 険しい顔で地面を睨む天使二人に視線をやる。

 

「……すぐに出発する。ユドラス、兵達に祝福あれと伝えてくれ」

「間違いなく」

 

 まあ、そうなるか。二日後の朝には戦端が開かれるんだから。スピード勝負だ。

 

 向こうの拠点にヴェルサイユ宮殿跡ほどの戦術的価値があるかは分からないにせよ、頭を討ちたいのは一致した思惑。なら、ドラゴンたちが出発する前に迷宮に侵入できたら、少なくとも王たちは待ち構えてくれるだろう。自分が有利な領域で戦えるんだから。

 

 問題は、人間達が恐慌状態にならないかだ。そうなれば背中から撃たれるに等しい状況になりかねない。

 

 ちらりと周りへ目を向ければ、予想に反して彼らの表情は穏やかだ。配信の前の日常と変わらない。

 

「神の子らよ! 邪悪なるドラゴンどもは、我ら天使が必ずや討ち滅ぼす! ただ、それまでは不自由を強いることとなろう! 備え、そして屋根の下で日常を過ごせ!」

 

 人間達は目をキラキラとさせ、口々に感謝の言葉を述べる。それは確かにグラシアンへ向けた言葉なんだけど、中には両手を組んで祈る姿を見せる者もいて、まるで神に向けているかのようでもあった。

 

 彼ら彼女らの姿を見るユドラス君の目に熱は感じられない。以前この町で兵士姿の男を助けたときと同じ目だ。

 なるほど、あれはやはり人々に向けたものだったのか。

 

「そういうわけみたいだから、行ってくるよ」

「一応気ぃつけやて言うとくわ」

「ん、ありがと」

 

 雑に手を振って地を蹴り、グラシアンと共に空へ上がる。高く昇るほどに、日常を過ごす町の様子がよく見えた。

 

 特に打ち合わせはしていないけど、雲に隠れるべきなのは共通の見解だ。どんどん近づいてくる白へ顔を向け、懸念を一つ共有する。

 

「なんで二日後だと思う?」

「奴らなりの慈悲だろう。咎人といえど信仰心は捨ててはおらぬようだからな」

「信仰からくる慈悲、ね」

 

 本当にそうだろうか。

 私はヨーロッパの風俗に詳しいわけじゃないから言い切られたら否定できないんだけど、でも、引っかかる。あっちはあっちで時間が欲しいんじゃないかとすら思う。

 

 まあ、何かあったときの保険はもうかけてあるんだけど。

 

「時間が惜しい。遅れてくれるなよ」

「もちろん」

 

 さて、久しぶりの長距離自力飛行だ。寒さ対策だけいつもより念入りにするのを忘れないようにしないとね。

 

 

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