世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第208話 竜の王の住む城

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 雲を遙か下に見下ろしながらグラシアンの少し後ろを飛ぶ。そこらのドラゴンじゃ辿り着けない高さだ。

 仮にドラゴン達が侵攻を開始したとしたら一方的に確認できるだろう位置。しかし時折ある切れ間を覗いても、それらしい姿は見えない。

 

 けっきょく一度も見かけることはなく、日の暮れる頃に目的の大迷宮に辿り着いた。

 

「ここがやつらの拠点だ」

 

 目の前にあるのは黄色がかった石で建てられた城だ。どこの何かは私には分からない。でも地中海を越えたようだから、イタリアあたりかな?

 

 ここは、どういうモチーフで生み出された迷宮なんだろうか。歴史なのか、神話なのか。

 土地柄、どちらにも関係する何かの可能性も強い。黙示録はそういう神話のような形で実際にあった出来事を、分かる人が読めば分かる形で書いたものだと聞いたことがあるし。

 

 残念ながら私はその辺りに詳しくない。黙示録の獣だとか、その程度のことならぼんやり知ってはいるけど。

 

 おっと、思考が逸れてしまったね。いくら興味がない戦いだからといって、約束した以上はまじめにやらないと。でないと、矜持にもとる。

 

「一応転移陣を確認しよう。もうあちらも気が付いていようが……」

「使えたらラッキーだね」

 

 無言で頷くグラシアンのあとについて、城壁の、おそらく当時は門衛がつめていたんだろう部屋へ入る。埃っぽく薄暗いそこでぼんやりと光っているのは、よく見慣れた魔法陣だ。

 

「……使えるようだな」

「あらら。どうする?」

 

 さっきのは冗談のつもりだったんだけど、まさか本当に使えるなんて。

 罠っぽいなー。ていうか罠じゃない方が怖いよねぇ。

 

 いや、まあ、天使というか人間があれでも未だに戦争が続いてるんだ。その理由がこのわきの甘さならある意味納得できる。

 

「行こう。神は我らを見放しはすまい」

「了解」

 

 神のご加護とやらに命を預ける気はないけど、正面から突破してやればいいって意味なら同感だ。

 一応槍を取り出して、魔法陣に乗る。起動はグラシアンの役目だ。

 

「百五十階層まで跳べる」

 

 へぇ、そこそこ進んでたんだ。いつのことかは分からないけど、たぶんまだドラゴンと天使が争う前なんだろう。彼らに信仰が残ってると知っていたし。

 

 一呼吸の間があって、視界が暗転した。転移は無事成功したらしい。

 ここは、建物の中か。さっきまでいたのと似たような、石のブロックが積み上げられた部屋だ。

 

 壁にはかがり火が取り付けられていて、赤黄色い光に二人分の影が揺れる。十分な広さがあるのは、巨体を持つドラゴンが治める迷宮だからだろうか。

 

「以前と変わりないようだ」

「ふーん。外は?」

「平原が広がっている。魔物は兵士の格好をした二足歩行の蜥蜴と人型の影。その影も簡素な鎧と剣を持ったような形だ」

 

 そこに石の建物。ここはもしかして、砦の中かな?

 

「その二種族が鉢合わせたら戦いになる?」

「ああそうだ」

 

 やっぱり、戦争中をモチーフにした階層か。

 

「なんというか、凄く待ち伏せしやすそうな階層だね」

「ああ。だが戦ってる時間はあまり無い」

 

 それはつまり、王たちがいなくても天使達は負けるって認識してるってことだ。だからグラシアンはこんな無茶な奇襲作戦を実行に移した。

 

 神の加護を信じている彼だ。もしもっと戦力が拮抗していたなら、正面から総力戦を挑んでいただろう。

 

「方角は、太陽を背にしてまっすぐだ。もしやつらが待ち構えているなら、行く手を阻む者以外無視する。いいな」

「うん。それでいいよ」

 

 私も別に、雑魚には興味がない。本気を出す意味がない戦いになってしまうから。

 全力じゃなくてもせめて本気を出せる相手なら戦っても良いけど。

 

 とはいえ無駄にダメージを負う趣味もない。一応警戒もして、部屋の外に出る。

 そこには、遮るもののない真っ青な空が広がっていた。

 

「いない、ね」

「幸運とみるべきか、裏があるとみるべきか」

「もう出発してるって可能性も一応あるね。ドラゴンたちがどれくらい速く飛べるか知らないけど」

 

 まあ、いないならいないで良い。懸念は大いにあるけど、最終目標の達成が最優先なことには変わりない。

 令奈やウィンテっていう向こうにとってのジョーカーが上手く機能してくれることを祈ろう。

 

 そう決めて、太陽のある位置を確かめる。さすがの私も、そんな分かりやすい不変の目印があるなら迷わない。

 

「じゃあ行こうか。さっきよりもう少し速く飛ぶけど、大丈夫だよね?」

「当然だ」

 

 ならばよろしい。

 軽く地面を蹴って空へ上がり、少しずつペースを上げながら次の階層を目指した。

 

 向こうに動きがあったのは翌日の夕刻ごろ。何度目かの休憩がてら、夕食を済ませたり防衛組からの報告を確認したりしていたときだった。

 

「ん、ようやくお出迎えか」

 

 グラシアンの記憶にある範囲を超え、魂力を直接見る龍の目を頼りにやってきた二百三十階層の守護者をくだした直後だ。

 周囲の魂力が揺れて、無数の気配を知覚する。

 

 表れたのは、様々な色の鱗の空飛ぶ蜥蜴たち。彼らは魔に堕ちてはいないようだけど、姿形も一様ではなくて、異なる輝きの瞳で地面に座った私たちを見下ろしていた。

 

「こいつらがサマエレア様の言ってた侵入者かぁ? 弱そうだなぁ」

「おい、あの女、同族じゃねぇか?」

「あ? マジだ。そういやサマエレア様、こいつらのことは好きにしていいっつってたよなぁ? へへへ」

 

 ……思わずグラシアンの方に目を向けてしまった。だって、なんだか思ってたのよりずっと下品だったから。あと頭も悪そうだ。仮にも大迷宮をたった二人でここまで来てるのに弱そうって。

 

 まあたしかに、二十体くらいいるし、向こうに比べたら私らって凄く小さいし、強気になる理由はある。でもねぇ?

 

「……どうやら若い個体たちのようだ。こいつらは生まれながらの蛇。殺してもかまわない」

「あ、そう」

 

 こっちはこっちで信仰が怖い。この場にいるのちょっと嫌になってきた。

 それはそれとして、この場にウィンテや令奈が居なくて良かったね? 私に下卑た目を向けたら怖いよ、彼女たち。

 

 まあ、それは置いておいて、彼らを向かわせた理由はなんだろうか。強そうには見えないけど、特殊な能力でもあるのかな?

 うーん、情報が足りない。

 

 よし、とりあえず戦おうか。戦いながら情報を集めて、それから考えよう。

 

 というわけで、食後の運動開始だ。

 

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