世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第209話 理解し難い一手

209

「ヒトのこと気持ち悪い目で見ていないでさ、かかってきたらどう? 私のこと好きにしたいんでしょ?」

「へへへ、それもそうだなぁ! じゃあまずはそこの羽虫から始末するかぁっ!」

 

 ドラゴン達の初手はグラシアンに向けた火球ブレスの一斉掃射。彼らの口内に魔力が集中し、朱色の炎が生じる。

 威力は、まあそこそこ。ドラゴンの名を汚すことはない程度には強力だ。

 

 ただ。

 

「まだ冬は来てないよ」

「なっ⁉︎」

 

 槍を一振りして全ての火球を打ち消す。

 魔法的な現象だし、魂力支配で中和しても良かった。でも、こっちの方が分かりやすい。

 

「こいつ、意外とツエーぞ!」

「で、でもこっちの方が多いんだ。負けるわけねぇ!」

 

 ふむ。言葉の割にはおよび腰。

 戦力把握能力は低め。さっきの火球以上の特殊な切り札がある気配もない。

 

 基本的な戦闘力もドラゴンの下限に近そうだし、見られてる感覚も無いし、威力偵察や足止め要因ではなさそうだ。ましてや消耗を狙ったわけでも無い。

 

 グラシアンの実力は把握してることやこの階層に配置したことを考えると、パッと思いつくような意図は全て否定されるね。

 

「ほんとに、なんでこんな奴らを当ててきたのやら」

 

 金髪の貴公子が私を追い越してトカゲの数匹を切り裂く。一切の容赦が無い。惨殺と言っても良い。

 

 普段とは別人のような苛烈な攻めだ。

 これがドラゴンに変じた元人と、初めからドラゴンとして生まれた者への対応の差か。

 

 まあそれはいいや。迷宮じたいの方にも特に何も仕掛けはなさそうだし、私も働こう。

 

「よっ、と」

 

 一番集まってる位置に向け、槍を投げる。巨大化はさせない。

 それでも数体のトカゲが避け切れずに肉片を撒き散らした。

 

「ヒッ……」

 

 思わず漏れたような声はどいつかの悲鳴だろう。それに続くように叫び声が木霊して、守護者の間に阿鼻叫喚の図が描かれる。

 

 弱い。本当に弱い。

 まさか、疑心暗鬼にさせて思考や侵攻速度を鈍らせるのが狙い?

 

 そんなわけないか。グラシアンのこの様子を知ってるなら、わざわざ同胞の命を使い捨ててまでとる策じゃない。

 

 一応観察は続けながら魔法を行使、雷の雨を降らせる。彼ら風に言えば神の裁きたるそれを、翼の生えただけとトカゲ達は避けられない。防ぐことも叶わない。

 

 次々に打たれて炭人形へ生まれなおす。

 

「これで終わりだ」

 

 グラシアンが大上段に剣を振り上げ、最後の一匹を真っ二つに切り裂いた。

 

 静寂が戻り、石の広間にドラゴンだった肉片が散乱する。鉄とオゾンの臭いが肺を満たし、若干の不快感を覚えさせた。

 

 少し待ってみても何も起きない。やはり罠の類では無かったらしい。

 

 本当に、何のためだったのか。

 いや、思い当たる節はある。あるんだけど、日本人の感覚的には理解しがたいものだ。

 

 それを言えばグラシアンの行動もそうなんだけど。

 

「増援が来る気配は無いな。行こう」

「了解。雰囲気からして、次の次で最後かな」

「悪くない知らせだ」

 

 つまりあと二十階層。このペースなら開戦前に最下層にたどり着けそうだ。

 

 空の広い階層が多かったおかげでかなり短縮できた。地形を無視して飛べるのはやはり早いね。

 

 なんて考えたのがフラグにでもなったのかね。石の階段を下り、二百三十一階層に降りると、まず目に入ったのは大きなブロックを積み上げた壁だった。そこに掲げられたかがり火の揺らめきを辿れば、すぐにまた頭上の壁にぶつかる。

 

「屋内迷路、か。どうやら神は更なる試練を課すおつもりのようだ」

「一応道は分かるけど、まあ時間はかかるね。飛ぶよりも、確実に」

 

 この辺りは日本より明るい時間が長い。さっき確認した報告の通り今が夕方で、この時期なら八時くらいかな。

 

 日の出までは十時間ってところだ。大迷宮の最深部で各階層三十分。

 

「間に合うか?」

「そうだね、構造次第かな。走るよ」

 

 魂力の濃い方へ向けて地面を蹴る。幸い通路は広い。ドラゴンがどうにか通れるほどだ。これなら戦闘に支障は無い。

 

「約三百メートル先の角、曲がった先に四体」

「立ち塞がるならば切りすてるまでだ」

 

 ほいほい。

 

 この階層クラスになると雑魚的も魂力を支配しようとしてくるけど、私とグラシアン二人分の支配力には抵抗できない。

 角を曲がる前にサクッと攻撃を封じ、視界に入ると同時に切り捨てる。

 

 いくつかの獣が混ざり合ったような頭部が宙を舞い、人型に近いの兵士の胴ばかりが残った。

 直立不動のそれはすぐに支えを失い倒れるだろう。けど、私たちがそれを見ることはない。

 

 背後に肉の倒れ込む音を聞くことすらなく、広く薄暗い通路を一気に駆け抜ける。

 

 今のやつらばかりじゃない。獣の騎士も、異形の獣も、翼を持つ異形も、その全ての死に様を視界に映さないままに切り捨て、走る。

 

「次で二百四十階層、守護者の間!」

「一撃で落とす!」

 

 なら私が足を奪い守りを剥がそうか。

 

 階段をほとんど飛び降りるようにして駆け下りながらいくつかの魔法を準備する。

 扉の前に着地した一瞬、左右で線となっていたオレンジの光が炎の姿を現した。

 

 しかしそれもすぐにまた、瞬く間に後ろへ流れる。

 

「いくよ」

 

 返事は待たない。魔法で扉を開き飛び込む。

 

 そこにいたのは、羊のような角を持った巨人だった。

 聖職者の法衣を纏い金属の杖を持ったそいつは人のような顔をしているけど、瞳孔は横長で、頭も前後に長い。

 

 身長は三メートルくらいだろうか。家ほどの体躯の人型偶蹄目だ。

 

 鼻をつく獣臭に若干顔顰めつつ、一気に魂力の支配権を奪う。

 

「崇めよ……」

「へぇ、喋れるんだ」

 

 まあそんなこと関係ないけど。

 

 私たちに落ちた影は頭上から振り下ろされる異様に巨大な手が作るもの。みるみる迫るそれは、こちらから手を伸ばしても届かないような高さで動きを止める。

 

 原因は、壁から伸びる蔓の束だ。

 青く太い蔓が何本も巨人に絡みつき、その動きを封じている。

 

 今回は急ぎだから、神器の力を使わせてもらった。

 生命に干渉するこれは中国で青帝青龍王を討った時に得たもの。おかげで、私自身の演算能力をほとんど割かずにこのクラスのボスを拘束できる。

 

 おや、まだ完全には足りないらしい。巨人が力を込めるにあわせ、蔓の繊維が引きちぎられる。

 

 じゃあ追加だ。用意していたもう二つの魔法を具現化する。

 

 一つ目の魔法が生んだのは眼前のボスすら飲み込めそうな海水の蛇だ。蛇は巨人に絡みつき、そして二つ目の魔法でその身を氷へと変じる。

 

「じゃ、あとはよろしく」

「ああ」

 

 羊もどきの巨人の正面を譲れば、光を纏った熾天使が舞い降りて、そして宿し高めた熱が解放される。

 

 剣が十字を描いた。その軌跡は光となり、羊もどきの巨人へ迫る。

 巨人に足掻くことは許されない。氷の蛇に封じられたまま、光の十字架に刻まれ、焼かれ、そして灰となる。

 

 あとに残ったのはドロップした杖ばかり。毛の一つとして残らない。

 無防備な状態でチャージに集中していたとはいえ、なかなかの威力だね。さすがと言うべきか。

 

 まあ、少なくとも今かける言葉はそれじゃない。

 

「よし、それじゃあ行こうか」

「ああ。残り十階層だ」

 

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