世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第211話 チェック

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 開けた視界の先にいたのは、予想通りの相手。扉に描かれたのと同じ存在。

 真っ赤で巨大な体に七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっている竜。ヨハネの黙示録に出てくる竜だ。

 

 真ん中の頭だけ角が四本あるから、見せかけでなければあれを落とせば終わりそう。ヒュドラみたいに全部落とさないといけないなんて話でなければ。

 

「黙示録の赤い竜に再生能力なんてなかったよね」

「そのはずだ」

 

 獣たちが現れたのは赤い竜が致命的な傷を治すまでの間だった気がするし、そうだよね。何かのときに一部だけ流し読みしただけだから、あまり自信ないけど。

 

「とりあえず真ん中狙おうか」

「良いだろう。ゆくぞ!」

 

 先手必要。守護者の間に入ると同時に練り上げた魔力を解き放ち、白く輝くブレスを向ける。巨体があってなお広く感じる部屋全体が白く染まり、空間を揺るがし、赤い竜を飲み込もうとする。

 

 対するは紅蓮の炎だ。七つの首全てが灼熱の吐息を吐き出して私の白を迎え撃つ。

 普段はしないズル、侵入前の十秒チャージまでして放った攻撃が炎に受け止められ、しかし見てわかる確かな勢いで押し返していく。

 

 悪いけど、今回は楽しめない。力を引き出してやれない。時間がないし、グラシアンもいるから。

 

 白が竜を飲み込んだ。直前で障壁を張るのが見えたから、無事ではあるだろう。光がおさまれば案の定、原型を留めたままの竜が現れる。

 しかし全身が焼けこげて煙を上げ、鱗のいくらかも溶けている。その向こうの肉も露出しているから、相当の痛みを感じているはずだ。

 

 それでも赤い竜の戦意は衰えない。ドラゴンの王たちが宣戦布告をした配信と同じ背景で、二つの玉座の前で、ギラギラと輝く七対の瞳を細くしながらこちらを睨みつける。

 

 記憶にある通りなら、こいつも元は王であるのだろう。だけど、だからこそ、広い視野を持たなければいけない。

 

「私だけ見ていていいの?」

 

 金色(こんじき)に染まった。私のブレスとは全く違う質の光が赤い竜を中心に床へ十字架を描く。為したのは、竜の頭上で三対の翼を広げ剣を握った神の使徒だ。

 

 竜がただ守護する者であれば、もしかしたら天使の剣を向けられることは無かったかもしれない。しかし彼らは牙を剥いた。天使たちの守る世界へ侵攻し、滅ぼそうとした。黙示録でこの竜がそう描かれたように。

 

 もちろんそれは天使たちから見ればという話でしかないけれど、グラシアンにとっては、それが唯一の真実だ。

 

 金光が消える。あまりに苛烈な裁きが終わる。

 神を冒涜する竜は神を崇める剣に切り裂かれ、地を舐める。

 

 四つ角の首の半ば近くまでを断たれ、他の六本も四本が消失した。

 それでもまだ竜は死んでいない。残る二つの首が目を光らせ、四つ角の首を癒す。再生能力ではなく、魔法の力で。

 

「しぶといね」

 

 魔法なら妨害は容易い。魂力の支配を奪いとるだけで、その望みは叶わなくなる。

 下手人が私ということは分かっているらしい。竜の目に憎々しげな色が宿って向けられた。

 

 まあ、終わらせてあげよう。単独で大迷宮を攻略できる戦力二枚相手じゃ、ちょっと可哀想だし。

 

 選ぶのは(いかずち)。神の鳴らす光。

 依頼主が裁きを望むなら、私はそれに応えるまで。

 

 三度玉座の間が照らされた。白、金に続く青。一条の閃光が瞬いて四つ角を穿つ。鼻をつくのは濃いオゾンの刺激的な臭いだ。

 

 炭化し完全に断たれた首が音を立てて落ちた。残った二つの首も沈黙する。そして山のような赤は光に変じ、あっけなく魂力へ還った。

 

 少しばかり警戒を続けたけど、何かが転移してくる様子はない。

 

「……これで残すは、王達だけだね」

「ああ。コアルームの入り口を探そう」

「それも見えてるから大丈夫」

 

 コアは迷宮内に溢れ外の世界に拡散する魂力の源流。粒子としてのそれを認識する龍の目には、泉の如く湧き出す様がハッキリ映る。

 

 ドラゴンサイズの玉座の裏へ周ると、片側の背に妙な線を見つけた。適当に弄ってみればスイッチが現れる。

 これ、あの巨体で押すのは面倒そうだね。普段は転移で行き来するだろうから関係ないけど。

 

「ここを押したら入り口が開くんだと思う。対処よろしく」

 

 開けると同時に攻撃が飛んでくるかもしれないから。

 

 これは杞憂に終わって、地響きを立てながらスライドした玉座の下から炎や雷が飛び出してくる気配はない。いや、誰かがいる気配すらない。

 

「やられた、かな?」

「一応降りてみよう。奴らに限って無いとは思うが、息を殺してるだけやもしれぬ」

 

 現れた坂を降り高原のようになったコアルームへ入り、手分けしてぐるっと回ってみる。しかし何もいない。コアのある中央の山の頂ももぬけの空だ。

 

「やっぱりやられたね」

「まさかこの好機をやつらが捨てるとは……」

「そもそもの目的が見当違いだったってことかな」

 

 グラシアン達は邪魔な天使達の排除もドラゴンの望むところだと思っていると聞いた。この作戦じたい、それが前提だ。

 

 だけど多分、ドラゴンたちは人間さえ滅ぼせるならそれで良い。いや、彼らの言い方や異種族の集落のことを思うと、怠惰な人たちがある程度消えさえすればいいのかもしれない。

 

 何にせよ、私たちは見事、幻の餌に釣られて箱罠の中に囚われてしまったってわけだ。

 

「迷宮の支配権を奪う方法は知ってる?」

「支配者を殺すか、同意を得た上でコアに触れる」

「そう。でも今この場には支配者がいない。さっき赤い竜を倒した時も、帰りの転移陣は出てこなかった」

「ぬぅ……」

 

 これは単純な作戦ミスというよりは、彼の盲目さが招いたすれ違いだろう。

 あれだけ戦力差がある中で戦争がまだ続いていたのも、ドラゴン達の思想が想定とは違うところにあったからだ。

 

 彼らは、人という生き物の未来を考えていた。だから人間達が改心することを期待して、そのチャンスを与えた。

 でも、人間達は変わらなかった。怠惰であり続けた。だから、排除することにしたんだ。

 

 ドラゴンたちは何人(なんびと)であろうと、思い描く未来の障害になるならば排除する。例えそれが同族であろうとも。

 

 わざわざ私達にやらせた理由は、まあ今はいいか。それよりだ。

 

「戦場はどうなってるの?」

「少し前に戦端が開かれたと連絡があった。数日は保たせられると報告を受けている」

 

 数日か。それなら地道に戻っても間に合う。

 行きで飛ばした浅い階層なんて一瞬だし。

 

「なら、急いで戻ろ――」

「待て。……主は尚も我らに試練を課すべきとお考えのようだ」

 

 貴公子のような顔が歪む。

 

「ヴェルサイユに、後方に蛇の王達が現れた」

 

 

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