世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第213話 竜断つ狼煙

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 連絡を受けて少しした頃、二人の配信が始まった。速度は落とさず両視点を開く。状況は、まだ悪くはない。

 

 ドラゴン達はやはり拠点制圧よりも人間達を滅ぼすことに注力しているようで、どちらの視点でもパリの上空を埋め尽くすほどの軍勢が見えた。遠目からだと雨雲みたいだ。

 

 黒雲の中で一番目立つのはやはり、王の二体。始祖竜サマエレアと、名も知らない始祖魔竜。

 明らかに他のドラゴン達より大きいのもあるけど、最大の理由はそれじゃない。燃えるような紅蓮の鱗でも、正気を削られそうな悍ましい外見でもない。

 

 覇気が、威圧感が、まったく違った。戦いの中にあるからか、以前の宣戦布告の時よりもずっと強い。まるで、そう、伊邪那美さんのようだ。

 

 その下に見えるのはおそらく夜墨の張った結界。半透明のそれがパリの街、居住部から農耕部辺りまでを覆っている。でも、あの王達の前には頼りない。

 

 だからだろう。夜墨も天使達も結界の外でドラゴンを迎え撃っているようで、あちらこちらで閃光が瞬き、轟音が響いて戦いの激しさを伝えていた。

 

「防戦一方、というわけではないね。さすが夜墨さん」

「やなぁ。後ろ庇いながらよおやっとるわ」

 

 ほんとにね。大半はともかく、王や上位のドラゴンの攻撃は夜墨でも無視できない威力がありそうなのに。

 

 実際、降り注ぐ炎や雷、吹雪の嵐のどれか一つでも街に落ちたら、人口の数割は消し飛ぶだろう。彼がその身一つで無効化している弱い攻撃ですら、何百人が死ぬのか。

 

 当然、天使達も座して見ているわけじゃない。数人で編隊を組んでどうにか対抗してる。正直いないよりはマシレベルではあるけど、夜墨が攻撃に転じられている一因であることには間違いない。

 

「兵隊は天使の皆さんに任せて良さそう。私たちは指揮官クラスより上かな」

「やんな。やけどそん前に、ひとつ大きいのいったろか」

「オッケー。天使側の指揮官さんか、グラシアンさん、聞こえてますよね。エッフェル塔上空あたりを狙います。退避の用意を」

 

 ウィンテが手首を裂いて血を垂れ流し、令奈が扇を取り出す。

 これはつまり、今の二人の全力が見られる、かも。制限のかかった状態だし、こんな時ではあるけど、正直楽しみだ。

 

 コメント欄に了解と知らない名前が送信すると同時に二人が魔法の用意に入る。

 

 令奈が扇を広げ、舞い始めた。ウィンテが垂れ流した血を操り、宙に紋様を描いた。固有魔法を使うつもりなんだ。

 

 龍の目が二人の魂力の輝きを捉える。輝きは魔力となって膨れ上がり、身を震わせるような気配を彼方にいる私にまで伝える。

 

 なれば、すぐそこにいるドラゴン達が気が付かないわけがない。配信画面のずっと奥で騒めき、動揺し、或いは警戒して迎撃や防御の姿勢に入る雲。無防備なままなのは、若い個体だろうか。

 

 彼らは間もなく後悔するだろう。己の油断を。

 己の王達に倣うべきだった。すぐに反応し、攻撃を向けて夜墨に妨害された二体の王に。

 

 ウィンテ達が成すのは、外部情報による補完と魂力そのものに近しい吸血鬼の血を利用した効率化。技術の極みと才能の極み。その両者が、ドラゴン達へ牙を剥く。

 

 退避完了のコメントがあった。直後、まず形を成したのはウィンテの血魔法だ。生き物のように蠢めく赤が凍てつく氷に変じ、巨大な竜巻の如く渦を巻いて空を貫く。

 

 やや遅れて令奈が舞を終え、扇をドラゴンの軍勢へ向ける。

 

「災禍断て。『天羽々斬(アメノハバキリ)』」

 

 言霊に従い生み出されたのは巨大な光の刀。八岐大蛇を切った神剣だ。それが、扇の示すに従い、切先から凄まじいスピードで射出された。

 

 刀が竜巻に追いついた。そのまま氷を纏い、黒雲へ飛び込む。

 

 純粋に物理現象を具現化したウィンテの魔法がドラゴンの鱗を打ち砕き、巨体を巻き込んで、龍殺しの刃へ導く。例え物理攻撃に耐えても、高純度の概念情報を具現化した令奈の魔法が生存を許さない。

 

 氷と光の刀が彼方へ消えれば、残るのは黒雲にぽっかり空いた青い穴だけ。雲の如くあったドラゴン達の巨体は砕かれてほとんど跡形もなく消し飛んだ。

 

「良いね」

 

 凄く良い。

 今の二人が使えるはずの力から逆算すれば、どれだけ強くなったかよく分かる。天照さんと戦った時とは比べ物にならないくらいだ。

 

 しかも今、二人は神器の力を使っていなかった。新しいそれが攻撃に向いていないだけかもしれないけど、まだまだこんな程度じゃないってことには変わりない。

 

「まあまあやな」

「広範囲爆撃はできませんしね」

 

 ああ、惜しいね。天使達がいなければもっと凄いものを見られたかもしれないのに。

 まあでも十分だ。やっぱり流石だよ、二人とも。

 

 でも、それでも、だ。

 

「まだかかる⁉︎」

「ああ! このペースでも一時間以上は必要だ!」

 

 くっ、遠い。急がないと二人が死んでしまうかもしれないっていうのに。

 

 それくらい強いんだ。ドラゴンの王達は。サマエレアも、始祖魔竜も。

 

 ましてや街を庇いながらの乱戦。二人が互いの実力を見誤ることはないにしても、何があるか分からない。

 

 二人なら凌げるだろう。凌げるだろうけど……。

 

 お願いだから、間違っても死なないでよ、二人とも。

 

 

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