世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第215話 越えていく!

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 考える間にも戦況は変化する。二人とも相変わらず再生力を越えた攻撃はできないみたいだけど、突然の強化に魔竜の王が警戒しないわけがない。アバデアのいっそう激しくなった攻勢に、ますます傷が増える。ますます最悪が近づく。

 

 制限の解除が裏目に出てしまった。この結果は予想して然るべきだった。

 いや、横槍が入った場合を考えたらさっきよりはマシだ。

 

 あー、もう、転移でもできれば手っ取り早い、の、に――

 

「……転移、転移か。ぶっつけ本番だけど、やるしかないよね」

 

 成功すれば逆転。失敗しても、最悪で私が死ぬだけ。なんだ、案外悪い賭けじゃない。

 

「何をする気だ」

「逆召喚、かな。夜墨を召喚する時の魔法を反転させて転移する」

「……なるほど、それならば転移魔法の課題をクリアできるかもしれないな」

 

 転移に必要なのは現地と転移先両方の情報と、転移先の魂力支配。情報は配信ごしにでも観測できたら得られるから、まあ無理矢理なんとかできる。

 問題なのは後者。支配可能範囲を超えた何百キロも先の魂力なんて、普通どう頑張っても支配できない。召喚は召喚先が自分側だからできてたことだ。

 

 その召喚を応用して、転移先の魂力支配という問題を解決する。

 

「そう。夜墨との魂の繋がりを介して支配する。難易度は段違いだけど、理論上は十分可能だよ」

「だが上手くいく保証はないのだろう?」

「そうだね」

 

 失敗すれば時空間断裂で全身粉々、色んな時間と場所にバラバラに、なんてことになることも考えられる。そうなったら今の私でもさすがに再生できない。

 

「でもやる」

 

 でないと、二人が死ぬかもしれないから。

 

 これが迷宮に挑んだ結果だとか、二人自身の目的のためとかだったらまだ納得できた。仕方ないと思えた。

 でも今は違う。手段でしかない。手段として思い入れがあるわけでもない誰かの目的に力を貸した結果、不可抗力ではなく死ぬ。そんなの、許せるはずがない。

 

「スピード落ちるから、気にせず進んで」

「ああ。分かった」

 

 彼ごと飛べるかは分からないし、失敗してただ到着が遅くなるだけなんて結果は避けたい。どうせどちらか一人が間に合うだけでも状況は良くなるんだから、保険だ。

 

「それじゃあ始めるよ」

 

 まずは眷属召喚の魔法を起動、魂の繋がりをより強める。

 向こうの魔法行使に多少の影響があるだろうけど、夜墨にはもう連絡してある。上手く合わせて対処するだろう。

 

 この繋がりは配信なんかと同じく地脈を介したものだから、互いの情報をやり取りするだけなら難しくない。このまま魔法の発動を続けるだけで、半自動的に向こうとこちら両方の情報を取得できる。

 

 さあ、ここからだ。

 意識を魔法構築に集中する。こうなるともう、深く考え込みながら歩いているようなものだ。無意識のうちに飛行速度は落ちていって、グラシアンの気配がどんどん離れていく。

 

 しかしそれも徐々に意識できなくなって、感じられるのは周囲と私の内に満ちる魂力、そしてその繋がる先である夜墨の魂力ばかりになった。

 その内に自然と取り込まれる情報を読み取れば、少しずつ周囲の景色が脳裏に浮かぶ。真っ黒なキャンパスに絵の具を広げるようにして世界が広がり、だんだんと鮮明になっていく。

 

 それでもすんなり映せたのは、この目に見えるのと同じ景色と、夜墨ばかり。周囲は分からない。これは夜墨の周囲にある魂力を支配できていないからで、転移のためにはそれを支配しなければならない。

 

 一度深呼吸をして、いつもするように、でもいつもよりも集中して、支配域を広げていく。なかなか思うとおりに進まず、得られる情報もガビガビしている。まるで厳島で魂力支配を覚えたばかりの頃のような感覚だ。

 

 遅々として進まない支配拡大。こうしている間にもウィンテ達はダメージを受け、体力を削られていく。天使の数が減れば有象無象の攻撃も増えてより危険な状況になるだろう。

 

「焦ったらダメ。焦ったら救えない」

 

 言い聞かせて、もう一度深呼吸を挟む。そして確実に景色を広げていく。

 そうしてどれほど経ったのか。気が付けば目視できる範囲にグラシアンの姿は無くなっていた。

 

 こめかみがじんわりと湿っているのを感じる。たった私一人分の領域を確保するだけでこれだ。気軽に使えるものじゃない。

 頑張った甲斐はあって最低限は支配できたけど、でもまだダメだ。まだ安定はさせられていない。映せた景色は未だに不鮮明で、ずっとは見ていられないものだ。

 

 この状態で無理矢理転移したら、それこそ最悪の結果になってしまう。ここで命を賭ける意味はない。

 

「もっと、純粋に。もっと正確に……」

 

 いらないものをそぎ落とし、必要な情報だけをどうにか支配した魂力の内へ招き入れる。不要な物はシャットアウトして、情報の質を高める。

 そうするうちに見える景色ははっきりしていって、支配もしやすくなってきた。

 

 もう少しだ。もう少しで、転移できる。

 

 ちらりと配信画面を見れば、ウィンテの左腕が吹き飛んだところだった。目の前が一瞬真っ赤に染まりかけて、向こうの魂力支配が乱れる。しかしすぐに再生してくれたおかげでどうにか完全には崩さずに済んだ。

 

 大丈夫だ。追い打ちは霧になって避けた。まだまだ死なない。

 

「集中しろ……」

 

 実現しかけた嫌な未来を振り払って、意識を魂力支配に戻す。

 そうして数十秒。とうとう準備は整った。

 

「ぷはっ。よし、安定した! 転移!」

 

 無意識に止めていた呼吸の再開と共に魔法を発動。瞬間、肉眼の捉える一切のものが無くなった。

 

 

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