世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第216話 それぞれが守りたいもの

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 私のいたところと転移先の空間情報がそっくりそのまま入れ替わり、戦場の熱と怒号がこの身を包む。視界を無数のドラゴンや天使が埋め尽くして、足下に夜のような墨の黒が映った。

 

 眼下を覗けば夜墨の結界に覆われたパリの街が見えるんだろう。だけど今は、そんなことをしている暇はない。

 

 何キロも先の空にある異形のドラゴンが、あるべき場所の口にも、あらざるべき場所の口にも、その全てに街一つ軽く消し飛ばしてしまえそうな程の魔力を集中させている。込められた情報は、滅び。アバデアの名が示唆するとおりのそれは、ウィンテと令奈の二人へ向けられようとしていた。

 

 考える間もなく九割強まで戻った力をフルに使い、直前まで配信越しに見ていた座標までの魂力を一気に支配。と同時に、再度転移の魔法を発動する。

 

「ハロさん!?」

「嘘やろ!?」

 

 良かった。間に合った。

 魔法で迎え撃とうとしていたみたいだけど、あれは今の二人じゃ無理だ。街を守るために少しでも威力を削ろうとしたのは、分かる。でも、街なんかより私は二人に無事であってほしい。だから――

 

「ダメだよ。無茶したら」

 

 中国の龍王より受け継いだ耳飾りの力を呼び覚まし、純然たる再生の概念情報を魂力に込めた魔力を生む。収束するのは口内。つまりはブレスのチャージ。

 

 見せてあげるよ。ドラゴンと龍の違いを。

 

 パリの空が、白に染まった。やや遅れてドス黒い赤紫の光も昇る。

 数百メートルを隔てる距離を超え、春の陽気のような奔流と毒々しい破滅の炎とがぶつかった。

 

 滅びと再生。真逆のベクトルを実現しようとする二つの魔力は、互いに互いを打消し合い、溢れた余波で観客達を穿つ。

 情報がかき消えてただのエネルギーとなったものだ。物理的なエネルギーは確実に互いの兵へ被害を与えるが、気にするつもりはない。

 

 まあ、向こうにはそもそもその余裕さえなさそうだけども。

 

「ぬぅっ!」

 

 押し勝ったのは当然私。白のブレスを、アバデアは巨体を捻ってどうにか回避する。

 まったく、冷静に見極めればその必要はないと分かっただろうに。滅びという情報を打ち消すための情報しか込めていなかったから、当たってもダメージは無かったんだよ。

 

 二人は、うん、大丈夫そうだ。怪我は治してあるから分からないけど、少なくともどうにもならない何かは無い。

 

「あんた、どうやっ――最初に気配があった位置……。あんたまさか、夜墨はんの召喚を利用したんか!?」

「うん、そういうこと」

「無茶してるのはどっちですか! 下手したらそのまま……!」

 

 だって、二人にだけは死んでほしくなかったから。

 でもまあ、これはそうとう怒らせちゃったみたいだね。令奈も黙ってはいるけど、背後にゴゴゴって文字が見えそうだよ。

 

「まあまあ、ほら、この通り何かが欠けた様子もないし、結果オーライだよ」

 

 自覚できる範囲では、って注釈は付けないでおこう。分かってるだろうけど、口に出せば言及する口実になっちゃうから。

 

「何はともあれ、これでもう大丈夫。ほとんど全力に近い力を出せるようになってるからね」

 

 私一人でも、ドラゴンの王二人を同時に相手どれるくらいだ。苦しい戦いになる可能性はあるけど。

 

 ともかく改めて状況を確認する。状況は、劣勢。天使が押されてる。

 原因は二人や夜墨が王を相手しているからだから、気にするまでもなく逆転できる。夜墨の手が空くだけでも問題ない。なんなら二人も平ドラゴンくらいなら消耗なんて無視できる。

 

 グラシアンは、さっきの感じだと一時間から二時間ってところだろうか。迷宮の位置を確認してないからなんとも言えないけど、まあ、誤差の範囲。数時間くらいなら二対一でも余裕で粘れるね。

 

 とすると私のすべきことは、王の相手。可能なら首をとって、無理でもグラシアンや夜墨の手が空くのを待てば良い。うん、よし、決定。

 

「二人は他のやつらをお願い。夜墨、聞こえてるよね。サマエレアだったかも私が相手するから、二人の援護を。優先順位を間違えないように」

 

 もちろん、二人が圧倒的な最優先事項だ。

 

 なんて話してる間にアバデアも体勢を立て直した。いくらかドラゴンや天使を巻き込んだみたいだけど、あの巨体だから仕方ない。

 

「また、部外者がアレの味方をするか……」

 

 アレというのはグラシアンのことか。アレの言い方がどうにも憎々しげだけど、私には関係ない。

 

「アバデアよ、助力する。共にあの女を終わらせるぞ」

「サマエレアか。良いだろう。たしかにあいつは危険だ」

 

 夜墨が移動の牽制を止めてすぐ、ドラゴンの祖にして王がやってきた。やはり大きい。数百メートル離れていてこれか。夜墨には届かないにしても、肉弾戦を挑んでもギリギリどうにかなりそうなくらいの差だ。

 

 サマエレアが持つ深紅の鱗と翡翠の瞳が威容を放ち、私たちを威圧しようとする。二人同時に私に来てくれるなら好都合だ。

 

「二人は私のこと気にしなくていいからね」

「でもっ……!」

「それじゃ、行ってきます行ってらっしゃい!

 

 さて、まずはどう攻めようかな」

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