世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第220話 思いの強さ

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 とはいえ焦らないのが大事。見の姿勢をとれば、偉業の王が試合開始のゴングを鳴らす。

 

「滅びよ、異邦人!」

 

 視界を覆ったのは滅びの概念を孕んだ毒々しい炎。ドラゴンの代名詞とも言えるそれを槍の一振りで断ち、頭上からの迫る気配を下がって躱す。

 眼前を通り過ぎる熱線は、さっきも見た圧縮した王の炎だ。

 

 上へ視線を向ければサマエレアの巨体が目に入る。私を影に入れない位置に留まっての不意打ちは、それだけ警戒されているってこと。

 持久戦に持ち込んで私がミスするよう少しずつ押し潰すつもりだね、彼ら。

 

 第一ラウンドより消極的な攻めだけど、その方が辛い。一人増えたからって強気で攻めてくれたなら、付けいる隙が増えただろうに。

 

 なんて内心でぼやいても仕方ない。口角の僅かに上がるのを自覚しつつ、飛んできた氷の槍たちをたたき落とす。術者は合流してきた赤髪の天使だ。

 

「そんな豆鉄砲じゃダメだよ、ユドラス君」

「くんっ……!? わ、分かっているとも!」

 

 おっと思わず。一応本人と話すときは君付けしないようにしてたんだけども。

 まあいいか。今更だ。

 

 それに、いいね。ちゃんと冷静で、自分の実力を分かっている。いつぞやのように激昂していない。

 

「あまり嘗めてくれるなよ、傲慢な異邦人」

「嘗めてはいないよ、ドラゴンの王」

 

 巨体に見合わぬ速度で振り下ろされるサマエレアの爪を下がって避け、背中を狙った光の矢は一瞥すらせず槍で弾く。若干の間を置いてサマエレアの陰から現れた触手たちは、斥力を発生させてはじき返した。

 

 惜しいね。もう一拍早ければかすり傷くらいは負ってたかもしれないのに。

 突くとしたらこれだね。ユドラス君との連携の練度不足。

 

 問題は、その隙を突かせてくれるかだ。

 

「合わせよ、天使!」

「異形の蛇に命令を許した覚えはないぞ!」

 

 なんて言いつつも彼はアバデアに合わせて魔法を発動する。顕現したのは無数のつぶて。岩と氷のそれが私を三百六十度囲む。となれば、次にどうなるかは火を見るより明らかだ。

 

「潰れろ、異邦人!」

 

 鋭利な突起を内側に向け、岩が、氷が、私を押しつぶそうと撃ち出される。これだけの質量と密度。逃げ場はない。

 

 打てる手は三つ。一つはこちらも魔法を放って全て吹き飛ばす。でもこれはあちらさんの次への対処が一手遅れかねない選択。悪手と言っても良い。二つ目の障壁による防御も同様。

 

 ならば取るべきはもう一つの手。魂力の情報中和による魔法現象の消失。半々くらいのまま膠着した支配域を少しばかりあちらに譲って、魔法が具現化させている情報を薄める。

 

「これはあの時の!」

「魔法をかき消しただと!?」

 

 ふむ。ドラゴン側も知らないか、この技術。王たちもあのレベルにしては支配力がイマイチだし、魂力に関する研究はあまりされてないっぽいね。

 大迷宮の守護者なら当然のように使ってきそうなものだけど、私らみたいに配信で攻略を共有してなかったら、固有の技だと思っても仕方が無いかもしれない。

 

 まあそんな推測、今は無意味だ。それより問題は、アレもかき消せるかどうか。

 

「燃え尽きろ。『アークブレイズ』!」

 

 はるか上空から吐き出されたのは、黄金に輝く炎。おそらくはサマエレアの切り札だろう王の息吹。その熱量ゆえか、周囲の景色を揺らめかせるそれは、都市の一つや二つ軽く吹き飛ばすだろう威力がある。

 

 第一ラウンドでも何かを狙ってる感じはしてたけど、どうやらこれだったらしい。

 

 まったく、地上で使う技じゃないよ。夜墨が守ってなかったら今現在私に届いてる余波だけでパリの街は消し炭だ。

 しかも左手からはアバデアも切り札の用意をしている気配がする。

 

 下手に大技で返したらアバデアの攻撃を受ける。かといってあの黄金の炎はテキトウに受けて良いものじゃない。

 上手く凌いだとしても、ユドラス君の妨害次第では反撃に移れない。

 

「ふふ、面白い。やっぱりこれくらいはしてもらわないとね」

 

 わざわざ首を突っ込んだんだから。

 

 とにかくまずはアレの威力を落とそう。

 意識を魂力の支配にまわし、黄金の炎を生み出す情報を抜き取っていく。しかし流石の威力。高純度、高密度の情報は、多少薄めたところで十分な威力を保ったままだ。

 

 これ以上はアバデアの攻撃を無防備に受けることになる。

 威力の軽減は諦めて熱伝達を遮断する結界を展開、ドラゴンの息吹という概念が持つダメージには障壁を展開する。

 

 そのまま空を蹴り、上へ。輝く黄金に向けて、まっすぐ突っ込む。

 

 視界が目の眩みそうな一色に染まった。障壁がきしみ、そして砕かれる。

 結界で防ぎきれなかった熱が肌を焼き、エネルギーの奔流が鱗を貫いた。

 

 かまわず進めば、数度瞬いた後に再び陽の光が降り注ぐ。そして眼前には、赤い鱗と翡翠の瞳。ドラゴンの王のご尊顔だ。

 

「やあ、サマエレア。ハロハロ、そしてさようなら」

 

 槍を大上段に構え、振り下ろす。驚愕に見開かれた脳天へ範囲拡張までした全力の一撃を叩き込めば、硬質な音が響いてサマエレアの巨体が流星となった。

 

 今ので仕留めるつもりだったんだけど、とっさに防御を高めたらしいね。叶ったのは吹き飛ばすのと鱗を砕くことだけ。感触からして、身を切り裂くには至っていない。飛び散った鱗の破片に混じる赤は私の血ばかりだろう。

 

 ユドラス君の方に向かうって予測してただろうに、なかなかやる。

 

「くっ、よくもサマエレアを……! 疾く滅べ!」

 

 足下から迫るのは、まるで黒曜石のような輝きを放つ炎。怒りに任せ解き放たれた、切り札だろう破滅の息吹。

 アバデアならそうくると思ったよ。だから、私も準備していた。

 

 自らの治療を後回しにして行ったおよそ五秒のチャージ。混ぜたのは、青帝青龍王より受け継いだ生命を生む力。それが白の閃光となって解き放たれる。

 

 白と黒とがぶつかった。色だけを並べれば夜墨のブレスとぶつかっているような光景。だけど、結果はまるで違う。

 拮抗したのは一瞬だけ。白は確実に黒を押し返す。

 

 なるほど、まともに受けていたら腕の一本でも犠牲にしないと受けきれなかっただろう。純度の高い滅びの概念は私がこれまで見てきた中でも抜きん出た殺傷力を持っている。

 

 でも残念。私は正反対の概念を得意とする神器を持っていて、そもそもの出力も上だ。なら、負ける道理は無い。

 

「くそっ、化け物め! 貴様さえいなければ!」

 

 ユドラス君が心外な言葉と共に火球を飛ばしてくるけど、二つのブレスがぶつかる余波に巻き込まれて届かない。打ち上げ花火はずっと下の方で爆発して終わり。何にもならない。

 

 彼にもっと力があったなら、今の攻防であちらに軍配が上がったかもしれない。

 それ以前にこの戦争じたいもっと違う状況になっていただろう。今とどう変わるかは知らないけど、少なくともユドラスはもっと多くの選択肢を与えられていた。

 

 つまりは、まあ、私のせいにされても困る。

 そういう責任転嫁も君が人間達を嫌いグラシアンを裏切った理由の一つでしょ?

 

 ブレスを吐いてさえなければそう突きつけてあげたんだけどね。

 

 代わりに出力を上げ、アバデアの炎を押し返す勢いを増す。このまま彼を落としたら、この戦いは終わりも同然。楽しい時間も、それまでだ。

 

「ぐぅ……」

 

 さようなら、心優しい異形のドラゴン。違う形で出会えてたら、杯を酌み交わすこともあったかもしれないね。

 

 もうあと数秒で私のブレスが彼を貫く。そう確信した刹那だった。

 直下から紅蓮の柱が立ちのぼった。全身を灼熱が包み、焼けただれていた肌が炭化しはじめる。

 

 ブレスは途切れ、視界の赤に黒が混じる。どうにか防御を固めるも、ブレスに思考力も魔力も割いていたせいで防ぎきれない。

 

 身を包む熱が消えたとき、全身の感覚はほとんど無くなっていた。

 

「アバデアの黒炎を受けてまだ意識があるか」

「だが満身創痍には違いあるまい。畳みかけるぞ」

 

 これは、本気でピンチだ。サマエレアの頑丈さを見誤っていた。

 急いで再生を進めるけど、残留した滅びの概念が邪魔をする。普段の半分以下の再生速度だ。

 

「悪いが、グラシアン様のため、死んでもらう!」

 

 いつの間にか同じ高さまで昇ってきたユドラス君がいくつもの火球を放つ。かき消すのは、この状況だと意識を集中しすぎることになって危険か。

 仕方なしに飛ぶのをやめ、自由落下で躱す。

 

 左方から迫る触手が見えた。体を捻り、遠心力を乗せた槍で叩いて受け流す。

 その触手ごと焼き尽くそうとしてくるのはサマエレアの火炎だ。黄金の炎には遠く及ばないにしても、今受けるのはマズい。

 

 角度を付けた障壁で方向を逸らし、最低限の力でやり過ごす。

 その間に炭化した皮膚のほとんどは再生できた。あとは内側。せめて槍と体術で凌げるくらいまでは回復しないとじり貧だ。

 

 こういう時こそ思考を止めてはいけない。観察をやめてはいけない。

 三人の猛攻を魔法で捌きながら活路を探す。

 

 そして気が付いた。満身創痍なのはサマエレアも同じだ。その体を動かしているのは、思いの強さゆえか。

 

「その状態で捌くか。敬意を払うべき研鑽が見えるようだ」

「同じ言葉を返しておくよ、っと」

 

 考えてみれば当然だ。彼らは自身の理想を実現するために戦争まで起こしてるんだから。

 それに比べて私の動機の軽さと言ったらない。少しばかり頑張ったのは、ウィンテと令奈の命がかかっていたから。それももう大丈夫となれば、気持ちの面ではどうしても一歩遅れてしまう。

 

 それを敗因にするつもりはさらさらないにしても、伊邪那美さんを討ったときほどの底力は発揮できないだろう。少なくとも、こんなことを頭で考えている時点で無理だ。

 

 飛んでくる炎を、氷を、触手を、爪を、持てる技術の限りを尽して捌く。

 実を言えば一発逆転の一手はある。こんな状況でも魂力の支配領域は私の方が広いくらいだ。全力の魔法を放てば、彼らは防げない。

 

 でもそれは同時に、地上もめちゃくちゃにする一手。力の大幅に制限された夜墨では防ぎきれず、パリは更地となって、ウィンテと令奈も無事であれるか怪しい。

 

 つけたままになっていた二人の配信画面へ視線を向ける。どうやら夜墨に引き留められていたらしい彼女らは、障壁ギリギリまで寄って私の戦いを見ていた。

 

「あれは、私らのこと気にしとるな」

「うん。じゃなかったら、たぶんもう終わってる」

 

 ああ、やっぱり、二人にはバレるか。そうと見せないようにはしてるつもりだったんだけど。

 

 一度耳に入った二人の声は、なかなか意識の外にはやれない。

 

 

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