世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第223話 私達のターン

「まずは、見下ろすのをやめてもらおうか」

 

 もう万が一に備える必要もないから。

 

 空を踏み締め、一気に加速する。目指すは赤い竜、強靭な巨躯を誇るドラゴンの王。

 左右の動きは二人が潰してくれる。

 

「その二人に止められる我ではないわ!」

 

 まあ意図は察するよね。これだけ分かりやすく攻勢に出たんだから。

 

 アバデアの触手が伸ばされる。瞬く間に距離を詰めるアレはこのまま行けば間違いなく、私を捉えるだろう。

 

 それでも、回避動作は要らない。

 

「もうっ、急に人使いが荒いんですから!」

「そない嬉しそうに言うもんやないやろ、それ」

 

 明るい声と呆れた声が聞こえた。赤が氷塊となって撃ち出され、暴風が吹き荒れる。

 

 結果は、ほら、問題ない。

 すぐ前を通り過ぎた気色悪い束に口角が上がる。

 

 ユドラス君が慌てて魔法を撃ったようだけど、残念、もう君は完全に戦力外だ。

 

「くそっ、いったいどうなっている! なぜ魔法が消える⁉︎」

 

 魂力の性質だと教えてあげることはたぶんもうできないだろう。グラシアンは兎も角、他の連中が彼を許すとは思えない。

 

 それ以前に、この場を生きて切り抜けられるかも。

 

 まあそんなことはいい。今すべきは、上で待つ彼に一太刀入れること。そのために槍に込めた強化魔法は今日一番の出力だ。

 

「いくよ!」

 

 肉薄し、鋭く息を吐きながら愛槍を振るう。

 対するはその先端ですら私より巨大なドラゴンクロー。互いにしっかり準備した斬撃が打つかり、衝撃で大気が震える。

 

「くっ……!」

「おっと」

 

 戦果は、爪一本。粉々に砕いたそれが舞い落ち、サマエレアの巨体が大きく吹き飛ぶ。

 追撃、と行きたいところだけど、私は私で軽く後退させられた。

 

 蟻と象の差を完全に覆すにはまだ足りないか。やはり魔法はほんの少しの差が大きい。

 

 ともかく更に上昇すれば、サマエレアの上がとれた。ウィンテと令奈も追いついたから、これでもう向こうの攻撃が地上に流れることは無い。

 

 上まで来たのはアバデアもで、異形のドラゴンがやや下にいるサマエレアを庇うように立ち塞がる。ユドラス君は、遅れているか。

 

「やっぱり今の私たちだと苦労しそうです。鱗が硬い」

「だろうね。あれは私も雑な魔法じゃ無理だ」

 

 二人よりはずっとそっちの演算に頭を使えるんだけどもね。

 だから槍主体で戦ってた。でも、今なら二人がカバーしてくれる。

 

 一瞬の会話を終え、丁寧に魂力に引き起こすべき現象の情報を加える。

 

 ユドラス君が光の矢を打ち上げてきた。無視。ウィンテの鎌の一振りで全て掻き消された。

 

 アバデアも続けて闇色の玉を放つけど、令奈の風に阻まれる。

 よし、完成。この一秒強がようやく作れた。

 

「痺れるよ」

 

 生み出したのは青い稲妻。四条のそれは、アバデアを避けるようにサマエレアへ向かう。

 普段ならノータイムで発動できる程度の魔法にこの時間。ウィンテや令奈はやっぱり相当頑張ってる。

 

「させん!」

 

 アバデアの身体が稲妻の通り道を塞ごうと動く。体勢を立て直したばかりのサマエレアだ。避けきれないと判断したんだろう。

 

 でも甘いね。魔法発生の予兆を感じとったんだろうけど、遅い。今からじゃ間に合わない。

 

 一条の光が片腕に阻まれ、三条がすり抜ける。

 

「ぐぁあぁっ⁉︎」

「くっ……!」

 

 異形の腕が、ドラゴンの鱗が、炭へと変じる。オゾンの香りに混じって肉の焦げた臭いがして、普段以上に丁寧に作った魔法の成果を知らせる。

 

「本当に頑丈だ」

 

 口角が上がる。片腕を失ったアバデアに対して、サマエレアは三箇所、それぞれ人ひとり分ほどの小さな範囲を炭化させただけ。まったく、本当に頑丈だ。

 

「くっ……。はぁ、はぁ、はぁ」

 

 アバデアが炭化した己の腕を食いちぎる。再生のためだろう。反撃に放たれた氷塊を切り捨てる一瞬で彼の姿は元に戻る。

 こっちは違う意味で頑丈だね。無限に再生できるわけじゃないだろうけど。

 

 物理的に頑丈な方が下へ回る。対処は、ウィンテが行くらしい。令奈はユドラス君か。彼をさくっと片付けて、ウィンテに合流するつもりかな。

 

 なら私はこっちだ。

 

「ほら、休憩してる暇はないよ」

 

 一足飛びにアバデアの懐に潜り込む。サマエレアに比べれば小さいけど、それでも十分巨大。並の使い手ならこんな腹の内にまで入り込んだところで大したことはできない。ましてや腹にも巨大な口を持つ魔竜相手なら。

 

 なんて常識が、私に味方する。

 

 彼の中に生まれた一瞬の虚。この槍を振るうには十分すぎる間だ。

 

「ふっ」

 

 横に一文字。異形を、腹を境に上下に分かつ。

 

「おまけだよ」

 

 傷口に向け青白い雷を続け様にぶちこむ。何重にも重なった轟きはアバデアの悲鳴を掻き消して、再び肉の焼ける臭いを届けた。

 

 少し遅れて下の方でも轟音が響く。見れば視界に映るのは、血霧の赤と爆発の光。

 やるね、ウィンテ。足止めに振り切ったようだけど、傍目にはそうは見えない苛烈さだ。

 

 ていうかあの威力と範囲をこの精度でって、全開の私でも多少集中しないとなんだけど?

 

「まったく、苦労したのが馬鹿みたいだ」

 

 ここまでくると無事なサマエレアを褒めるべきだろうね。

 

 令奈の方は、うん、ユドラス君が可哀想になる。彼の攻撃は全て扇一本でさばき、反撃に息継ぎの間すらないような無数の魔法を返す。言葉にすればこれだけだけど、彼よくまだ生きてるな?

 

 それはそれとしても。

 

「呆れた生命力だね。ここまでやってまだ生きてるなんて」

「ぐぅ……。異邦、人、め……」

 

 いくら魔族でも異常なレベルだ。ここまでのやつには初めて会う。ゼハマあたりはもしかしたら似たような感じかもしれないけど。

 

 これは最低でも頭を吹き飛ばすくらいはしないとダメかな。

 

「ハロさんっ、下です!」

 

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