世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~ 作:嘉神かろ
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うん?
「おっと」
大きく下がれば、すぐ目の前を黄金の炎が染める。サマエレアめ、あの爆発の中できっちり狙ってくるか。ウィンテの忠告がなかったら掠らせるくらいはしてたね。
その予兆を捉えられたってことは、あの血霧の内側はよほど強固かつ精密に支配されてるんだろう。これは私もうかうかしてられない。
「ハロさんごめんなさい、強引に突破されてしまいました」
「いや、あれは仕方ない」
同じく下がってきたウィンテの声には少しばかり悔しさが滲んでいる。ここまでやって、となると分からなくはない。さっき配信越しに聞こえた話に起因するのだろうし。
「魔竜には再生されたかな」
「でしょうね。でも、限界は遠くないはずです」
私たちみたく魂力に直接干渉できるわけじゃないし、魔力はしっかり消費しているはずだ。肉体に対する知識量からして体力も使ってるかな。
ふむ、そうなると……。
「ハロさん、私たちがアバデアさんを相手した方が良いかもです」
「同感。令奈! そっちはどう!?」
「意外と根性あんで!」
ふむ、まだかかりそうか。たしかに私と模擬戦したときより良い動きしてるし、魔法の腕も上がってる。手加減してる雰囲気なんて無かったし、準備期間の数日でグラシアンにそうとうしごかれたか。
「……あの魔法の使い方、ちょっとハロさんっぽいですね?」
つまり、私がお手本になったと。ふむ、色々見せすぎたかな……?
まあ、令奈なら誤差だよね、それくらい。うん、私は悪いことしてない。
「そんな風に開き直ってたら後で怒られますよ?」
くっ、なにも言ってないし表情も変えてないのにどうしてバレた!? この感じも懐かしいなちくしょうめ!
「あんたら、遊んどるんやったら手伝い!」
「え、いる?」
時間の問題でしょうに。
それに、これでも一応ドラゴンたちからも意識を逸らしていない。いつこの黄金の炎がこっちに向きを変えるか分からないし、アバデアの動きにも注意しないと。
「く、そっ! よそ者が! 邪魔を、するな! お前達には、関係のない、ことだろう!」
ほう、ユドラス君、まだ叫ぶ余裕があるか。
「否定はできないね」
「ならばなぜ! お前達も見ただろう! 人間どもの、他力本願で、無責任で、怠惰な振る舞いを! 愚かな姿を!」
それも否定できない。全てを天使たちに任せ、縋り付き、助けられることを当たり前とする姿。自らを助けようとはせず、生かされていることを良しとする人々。好きか嫌いの二択なら、嫌いと答える部類の人種だ。
ああいった人間の多くは、何かあったとき、自分たちの為に身を削った者を攻める。究極的にはどうでも良いけど、それを目の前で見せられたら、虫唾が走るのは間違いない。
「だから天使の多くを裏切ってドラゴン側についたと」
「裏切ってはいない! これはグラシアン様のためだ!」
グラシアンのため、ね。
「前に言いかけてたね。人間達があのザマじゃなければ、グラシアンはもっと偉大なことを成し遂げられるはずだって」
「そうだ! だから、俺は――」
「独りよがりやなぁ」
あら、聞く価値なしと断じたのね。一応攻撃の手を緩めてくれてたけど、もうええやろって流し目がこっちにも。
「うん、そうだね。その手の理想は、私ももう聞き飽きた」
「なっ、くっ……!」
令奈が攻撃の密度を戻す。いや、さっき以上に苛烈だ。もうユドラス君に喋る余裕は無い。
しかしグラシアンと言い、ドラゴン達と言い、ロマンチストの多いことで。ユドラス君だけはグラシアン個人が対象だから少し毛色が違うけど。
それに、令奈の言うとおり、独りよがりだ。自分勝手だ。まるで、彼の嫌う人間達のように。
そんなこと言っても無駄に怒らすだけだし、口にはしないけど。あまり煩くされてもめんどくさい。どうせ、あとは死ぬだけの相手なのに。
「令奈」
「……はぁ。まあええわ。どうせ戦争中や」
令奈が扇を一振りするに合わせて無数の火球が現れる。それらは次々と爆発してユドラス君を襲う。どうにか躱しているようだし、彼自身そう思ってるんだろう。だけどそれは違う。
「くっ、よし、抜け、た……」
「いらっしゃい、ユドラス君」
あまり抵抗されても面倒だからね。しっかり準備して出迎えさせてもらったよ。わざわざ令奈にエスコートしてもらってね。
「蛇がぼぁっ……!」
生み出したのは極小範囲の渦潮。重く絡みつき、彼の言う蛇の如く、獲物を逃がさない海水の檻。ただただ楽がしたいだけで張った罠だ。
「それじゃ、さよなら。違う形で会えてたらもう一回くらいはお茶する機会もあったかもね」
くることのない返事を待つ必要は無い。魂力に雑に情報を込め、多重の雷を生む。彼程度ならこれで十分だ。
雷撃で生じた水蒸気が晴れると、案の定、ユドラス君の姿はどこにもなかった。
「これで、あとはドラゴンの両王だけ」
「ハロさんっ、そろそろ限界です!」
途中からアバデアも抑えてくれてたしね。あれだけ力を抑え込まれた状態で流石としか言えないね。
「出てきたところを吹き飛ばす。アバデアは」
「宮殿に誘導します」
「それがいいだろうね」
あそこが一番頑丈だ。
「来ます!」
具現化するのは一方向への力。ただただ純粋な力。ベクトルのみを追求した魔法。
三人分のそれが、血霧を突き破って出てきたドラゴンの王たちを襲う。
「くっ……!?」
「ぐぅっ!?」
うん、タイミングバッチリ。二つの巨影がまったく別の方向に吹き飛ぶ。
抵抗してきてるのはサマエレアだけか。アバデアも最初はしてたけど、すぐに止めた。こちらの意図を察して好都合と捉えたかな。
「それじゃ、頑張って」
「はい!」
「あんたもな」
離れていく二人の背中を見送る。不安は、とっくに捨てさせられた。二人らしいやり方で。
なら私は、私の役目を果たすだけ。
サマエレアは、あそこか。待たせたら悪い。転移しようか。目視範囲なら簡単だ。
「やあ、殺しに来たよ」
「……友は良いのか? 死ぬぞ」
揺さぶりか。彼は気付いてるんだね。あの二人の変化に。
「あなたが心配すべきは、自分の首でしょ?」
薄く笑ってみせればサマエレアは一瞬、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「神よ、これはあなたの罰か……。ならば友のため、礎となりましょう」
なるほど、敬虔なことだ。たしかにアバデアが勝つ可能性もある。でも自分があっさり負けて私が合流すれば、まず間違いなく彼も死ぬ。なればこその覚悟と、祈りか。
「せいぜい力を尽すことだね。少しでも長く、生きていられるように」
そうしないと、君の友人も私が殺さないといけなくなってしまう。私たちはこの戦争に勝つために助力を依頼されてるからね。意味もなく傍観するつもりはない。もう二人は十分すぎるほどに力を見せてくれたわけだし。
こうしてわざわざ思惑に気が付いていると教えてあげたのは、サマエレアがまだ何か隠し持っていそうだったから。もしそうでないなら、天使とドラゴンの争いが始まる以前、あの大迷宮を攻略してから今日まで、何をしてきたんだって話になってしまう。
だけど彼らの思想なら、違うはずだ。高みを目指し続けていたはずだ。
「ああ、そうさせてもらおう」
だから、彼の真っ赤な鱗が、よりいっそう赤く、明るくなっていくのを見たとき、口角が上がるのを抑えられなかった。歓喜を隠せなかった。
「この命の、燃えうる限り……!」
ドラゴンの王の周囲が歪む。空間そのものを燃やしているがごとく、凄まじいとしか表現できないような熱と、魔力が、あらゆる物を焼きつくさんとばかりに放出される。
やはりそうだった。彼は、歩み続けるものだった。ウィンテや令奈を初めとする各地の長達、そして始まりの聖戦と呼ばれるあの時に未来を勝ち取った勇気ある人々と同じく、価値ある者だった!
その命をこの手で摘み取らないといけないなんて、残念だ。だけど、仕方ない。そういう約束だから。私が人間らしくあるためだから。
だから――
「その炎、さっくり消してあげるよ」