世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第224話 命を削って

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 槍を構え直す。と同時に、眼前にサマエレアの爪。

 速い。今の私じゃ目で追い切れないレベル。

 

 槍で受け、爪の隙間に体をねじ込めるよう受け流す。若干腕が痺れたのは、それだけ膂力も上がっているってこと。

 

 いいね。さっきまでとは別人みたいだ。

 それも納得で、龍の目が映す彼の内の魂力は見て分かるくらいのスピードで減っていっている。魔力に変じたものではなくて、純粋な魂力。つまりは命を燃やす類いの強化ってことだ。

 

 このまま反撃、とはいかせてくれない。爪をやり過ごしたばかりだっていうのに、もう尾が来ている。

 腕を振り抜く勢いを活かしたなぎ払いは範囲も威力も十分。全開の私なら兎も角、今の力で避けきるのは難しい。

 

 さっきみたく体をねじ込める隙間もない。なら、作れば良い。

 

 純粋な切断力を生み出す魔法を合わせ、技術の粋を持って白槍を振り上げる。空に描いた白の軌跡が燃えるような赤の尾を断ち、私を通す。

 

 一対一なら、ただ戦うだけならこれくらいの余裕はある。さらに追撃、と振り向けば、面白いものが目に入った。

 

「いいね」

 

 固まりがちな表情筋が大きくゆがみ、三つの弧を作ろうとする。仕方ない。だって、あれだけ再生が覚束なかった彼が、今の一瞬で尾の再生を終えてしまっていたんだから。

 

 おそらくは身体強化にともなう細胞の活性化、つまりはドラゴンの肉体が持つ再生力を最大限まで高めた状態で、魔法的な現象とは別だろう。その分体力も使うだろうけど、それはいい。

 

 斬ってもすぐに再生するなら、それだけ彼の耐久力が増したと言うこと。純粋に強くなったということ。

 

 戦闘でもボードゲームでもなんでも、全力を出せる、いや、出さなきゃいけない状況っていうのはやはり心躍る。

 

 それにどうやら私は、ああして足掻き何かを目指す、命の輝きというものが好きらしい。始まりの聖戦と呼ばれるあのスタンピードの時もそうだった。己の最善を尽して戦う彼らが、いっそ愛おしくさえ思えた。

 

 そして今、歩み続け、足掻く彼の輝きを引き出しているのは、私だ。あの日のスタンピードの立場に、私はある。

 

 ならしっかり立ち塞がらなければならない。もっと輝きを引き出さなければならない。彼の言う、神の与える罰の化身として。

 

「いくよ」

 

 無数の白雷を生み出し、雨の如く叩きつける。我神なりと称するように、敬虔なドラゴンの王に威を示す。

 ただ純粋に彼を打ち砕くことだけを考えて発動した魔法は、種々様々な意図を孕んださっきまでのものよりずっと強力だ。確実に紅玉の鱗を砕き、鮮血を蒸発させて肉を焼く。

 

「ヌルい!」

 

 だけどそれすらも意に介さず、彼は雷のほとんど全てを巨体で受け止めながら牙を、爪を向けてくる。

 

 さらに数度の攻防。彼の刃は届かないままに、私の槍が、魔法が、紅蓮を断ち鮮血を舞わせる。

 塞がるのは一瞬。それでも痛みはあるだろうに、怯む様子は見せてこない。この白い鱗を引き裂こうと絶え間なく、神速の一撃を何度も振るってくる。

 

 目で追えない、しかも当たり幅の広い攻撃をこうも続けられては、さすがに大変だ。とうとう二、三度爪の先が僅かに掠り、鋭い痛みに襲われる。今大地を染めた赤は、間違いなく私のものだ。

 

 これで調子に乗ってくれるなら話は簡単だった。しかしそんな愚図ではない。確実に、堅実に、私を追い詰め肉を貫こうとこれまで通りの攻撃が続けられる。

 

 火花を散らす顎門を下がって避け、吐き出される炎を空間歪曲で受け流す。あの強化状態になって初めてのブレス攻撃だ。一応警戒して空間断絶による防御を選んだはずなのに、それすら越えた熱が肌を焼いてくる。

 

 やはり同じくリュウの音を名に与えられた存在か。物理現象に完全には縛られない。

 そういうブレスを混ぜてくるならこちらも少しやり方を変えよう。

 槍を持ち替え、魔力を込めて、周囲を覆うこの超常の炎の向こうへ投げる。

 

 一筋の線となるそれは私の意思に従って巨大化し、炎を突き破る。手応えは、あり。炎が途切れ、再び視界に戻ったサマエレアは、左翼の膜に大穴を開けていた。

 

 忌々しげに睨み付けてくる彼だが、その傷もどうせすぐに塞がるのだろう。同時に寿命も削れるとは分かっているけど、時間切れだなんて決着は、認めない。

 

 一瞬のフェイクを入れて彼の視界から消え、顎の下に潜り込む。そして拳を握りしめ、アッパー。巨体を打ち抜き浮かせる感覚は、しかし想定よりも軽い。

 

「良い反応だ」

「ぐぅっ」

 

 力を上に逃がされた。思惑よりも僅かに離れた距離は既に蹴りの届かない範囲。仕方ない。さっきのお返しをしておこう。

 

 すなわち、勢いをそのまま利用した尾の一撃だ。

 

 太く強靱な彼のそれと違って、私のは細く長い。遠心力が加わりムチのようにしなる白尾は、むしろ斬撃に近い傷を与える。

 

 下顎から鼻にかけてが長くすっぱりと裂け、大量の血が噴き出した。横面を殴りつけた衝撃は彼の脳まで揺らしたのか、一瞬、翡翠の瞳が白目を剥く。確かなダメージ。それこそ瞬く間に回復される程度のものだけど、大きな魔法を発動するには十分すぎる隙が生まれた。

 

「抜け出してごらんよ」

 

 生み出すのは、全てを飲み込む大渦。雷、ブレスト並んで、私の代名詞たる海の力。

 陸地のど真ん中に現れた渦潮は、山と見紛うほどに巨大なサマエレアすらも飲み込み、捉えて閉じ込める。

 

 途端もうもうと立ちのぼり激流の轟音を隠した煙は、サマエレアの熱に触れて蒸発した海水だろう。曲がりなりにも龍であった中国の皇帝もここまでの熱は生み出せていなかったはずだ。

 

 それでも、渦から逃れるのは叶わない。残念だけど、これで終わり、これ以上は輝かせてあげられない。

 

「それじゃあね、ドラゴンの王。あなたの考え方は嫌いじゃなかったよ。だけど、戦争だから」

 

 チャージ時間は、およそ十五秒。地上で使うには強すぎる長さだけど、夜墨がきっとどうにかしてくれる。

 

 大きく息を吸い込み、そして吐き出す、その瞬間だ。渦のそれとは違った水しぶきの音がして、左腕の感覚が無くなる。

 

「ふふ、及第点だ」

 

 私がブレスを放つ瞬間、その最後の隙を狙って飛び出した下手人は、悔しげな表情を浮かべながら再び渦へ引きずり込まれる。

 きっと、片腕しか食い千切れなかったことが無念なんだろう。でも十分だ。よく頑張った。油断しているつもりはなかったのに、避けきれなかったんだから。

 

 じゃあ、今度こそさようなら。龍の吐息で、お眠りなさい。

 

 直後、世界が白く染まった。

 

 

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