世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

36 / 232
第36話 暇つぶしに足元を

㊱

「ふむ、朝か」

 

 そっか、朝かー。

 とりあえず、今読み終わった本を本棚に戻しましてっと。

 

「どうしよう夜墨、徹夜しちゃった」

「別に問題なかろう」

 

 ……確かに。

 人間の感覚でちゃんと寝ないといけない気になってたけど、龍的には一日や二日、まったく問題ないね?

 

 とは言え、やることが無い。

 寝るのは寝るので好きだし、このまま寝てもいいんだけど、今布団から出ちゃったからなぁ。

 

 配信、の気分じゃないなぁ。

 もうひと月半はしてないけど、気分にならないから仕方がない。

 

「早朝の散歩でも行こうかな」

 

 そうと決まれば着替えねば。

 いつもの黒の着物で行くか、人化して無難メンズファッションで行くか……。

 

 んー、偶には服も増やす?

 スカートも試してみたいし……。

 

 そう思って交換できる服の一覧を見てたら、時間が溶ける溶ける。

 何でも似合いそうなんだから仕方ないね、うん。

 

 色々交換したけど、これからの服に選んだのは白の着流しだ。

 流れる雲の柄の可愛いやつ。

 帯は、紺。

 

 本当は紫色も好きなんだけど、瞳の金に合うか不安だったから。

 普段は黒い瞳の時が多いとは言えね。

 

 けっきょく着物系統かとは言ってはいけない。

 

「じゃ、行くよ」

「ああ」

 

 マフラーの如く夜墨を首に巻き、いざ外へ。

 行き先は決めていない。

 

 とりあえず、駅の方に歩く。

 

 二車線のそんなに広くない道をのんびり。

 以前のこの道は交通量も多くて、反対側に渡るのに苦労したけど、今はど真ん中を歩いても問題ない。

 

「この辺の家の人は、大体どこかの集団に合流したみたいだね。全然気配がない」

「獣の気配もないのでは生活出来んだろう。食い物はドンドン高騰しているのだ」

 

 そうなんだよねぇ。

 世界変容から二か月経って、近場にある食料は大概腐ったか消費された。

 今通り過ぎたコンビニも、空の棚が並ぶばかり。

 

 か弱いただの人間が、多くて二、三人の集団で暮らすには、少々厳しい。

 皆近くの避難所なりに集まって共同生活をしている。

 

 この辺りだったら、高校か大学か、大きな公園。

 人数で言えば、渋谷の駅周辺が最大規模かな。

 

 今の状況を歴史に当てはめるなら、邑(むら)が乱立していた頃に近い。

 それか古代ギリシアのポリス。

 

 色々違う部分はあるけど、これらの集団の中で小さな社会が出来て、いずれは国になるかもしれない。

 かつてのポリスのように争って、吸収しあってね。

 

 環境は人を変えるから、現代人の価値観がどこまで残っているか。

 

「右か左か」

「右」

「おっけ」

 

 何にせよ、これから先この世界は、旧世界と似て非なる道を進むことになるのは確かだよ。

 技術的に、同じようには発展しない。

 人類の歴史からすれば歪な発展の仕方をする。

 

 その未来が楽しみだけど、この景色が消えてしまうのは、少し寂しい。

 配信をすれば残せるけど、それでこの辺りを探し回られても面倒だし、今は写真に撮るくらいで留めておこう。

 

 カメラは無いけど、原理は分かっているから、それを魔法で再現すればいい。

 

「ぱしゃり」

 

 暫く聞いていない効果音を口で呟いて、記録する。

 私の生きる時を考えたら、電子媒体じゃあダメだろう。

 とりあえず紙媒体に残しておくけど、別の方法も考えておく。

 

「このまま行ったら渋谷か。また市場にでも行く?」

「気乗りしないと顔に書いてあるぞ」

「バレたか」

 

 あそこは人が多いから。

 

 わき道にそれてもいい。

 でも、そうだね、丁度いい。

 

「あの辺を仕切ってるヤツのとこ、行ってみようか。なんかマトモそうだったし」

 

 今度は何も言わない。

 夜墨が私の目的に反する結果になる時以外に反対してくることは無いから、気にせず歩みを進める。

 

 下はヤバいやつらだったけど、そうで無いならいい加減、私との関係性をハッキリさせておいた方がいいでしょう。

 ビクビクしてそうだし。

 

 そういう訳で、渋谷に向かう。

 どこにいるかは知らないけど、歩いてたら向こうから声をかけて来るでしょ。

 

 渋谷まではそれなりの時間歩いた。

 歩いてきたのは初めてだったけど、散歩が主目的だから問題ない。

 

 やっぱり最大規模の集団がいるだけあって、それなりに人ともすれ違った。

 けど意外と皆話しかけてこない。

 

 彼ら彼女らから向けられる視線は、好意だったり、憧憬だったり、恐れだったり、妬みだったり。あとは好奇。

 何にせよ、私の地雷、逆鱗はしっかり周知されているみたいだ。

 

 時折話しかけようとしてくる人がいたけど、連れの人が止めていた。

 そういう時は止めた人にむけてサムズアップしておいたよ。

 

 それだけでも喜んでくれてたみたいだし、ファンサービスとしては十分かな。

 

「申し訳ない、お時間よろしいでしょうか」

 

 お、来たね。

 黒いスーツでガタイの良い男二人。

 少し怯えてはいるけど、明らかに堅気の人間の気配や動きじゃないね。

 

「ん、いいよ。案内して」

「こちらへ」

 

 強面じゃないのはあちらさんの配慮か。

 怖がらせられるとは思っていないだろうから、単純にそういう意思の表示をしてきたって事でしょう。

 

「話が出来そうで良かったよ」

 

 小さくつぶやく。

 

「何か」

「いや、何も。ほら、ボスが待ってるんでしょ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。