世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第4話 渋谷へ走る

「さむっ……」

 

 迷宮のある建物の裏口から外に出ると、不意に木枯らしが吹いて黒い着物の裾を揺らした。

 

 この着物はダンジョン探索用に新しく交換したもので、丈夫な上に動きやすく、尻尾を出す穴もある。

 五万spもしたけれど、昨日の今日で稼ぎが急に悪くなるとは思えないし、良い買い物だったと思う。

 

 しかし、本当に寒い。

 早く魔法で温めたいところだけど、その前に確かめたいことがあるんだよね。

 

「……うん、ちょっと怠いけど、思ったより大丈夫そうかな」

 

 人型とは言え、龍って爬虫類のイメージがあるから、寒さに弱いんじゃ無いかと思ったんだよね。変温動物だし。

 

 問題ないと分かったのでさっさと魔法で体温を上げ、いざ出発。

 えっと、目撃情報があったのは……。

 

「そこの駅ビルと、渋谷のデパート……。駅ビル、だと近すぎるか。時間掛かるけど、渋谷まで行く?」

 

 住んでる地域がバレるのは流石にめんどくさいし、そうしよう。

 たぶん、今の身体能力なら走ればすぐだし。

 

 えっと、こっちかな。駅の位置的に。

 

「うわっと、ジョギング感覚でも自転車よりスピード出るのね」

 

 びっくりした。迷宮内で走る事は無かったから、こんなに早いなんて思わなかったよ。能力値Aでもかなり凄いね。徐々にスピードを上げるつもりだったけど、このままでも良いかな。

 

 ちなみにだけど、尻尾と角は魔法で隠している。目立っちゃうから。

 

 走ることしばらく。そろそろ渋谷には入っているはず。

 目的地は駅の近くだから、もう少しかな。

 

 あんまり疲れてはいないけど、これから迷宮に潜るんだし一応休憩しておこう。食材や燃料を使うような調理設備のある建物は拠点にしている人が多いって話だから、外れの方の公園みたいな所がいいかな?

 

「それにしても、これだけ人の気配が少ない渋谷は初めてだなぁ」

 

 周囲を見回して思う。

 一応人は居るんだけど、渋谷って考えたら驚くほどに少ない。

 

「ん、戦ってる音……。人間優勢ぽい。ていうか、なんかガラの悪そうな人たちね……」

 

 暴言ばっかり聞こえてくる。近づかないでおこう。

 たしか、声と反対方向、あっちの方にちょっとした広場があったはず。

 

「ここでいいか。水……げ、二百sp」

 

 ここ、そんなに水が手に入りづらい? 人が多いから?

 まあ、今なら気にせず交換できるからいいんだけど。

 

「ん、下品な笑い声……。この辺、そういう人が多い? まあ関わらなければいいか」

 

 どうせ迷宮に潜っているんだし。

 さて、何か新しい情報はあるかな?

 

「……少なくとも配信スレッドを使ってる人の中に入った人はいないか」

 

 まあ昨日の配信を見た後じゃあ準備もなしに入る気にはならないよね。こういう場を使って情報交換をするような人の中には。

 考えなしの人はいくらでもいるから、そういうのは知らない。

 

 あ、渋谷の話が。

 ふーん? ヤのつく人たちが駅周辺を牛耳ってるんだ。その庇護下でやんちゃな人たちが暴れて無法地帯。さっきから聞こえてる声はそれかなぁ。

 

 ……屋根の上を行けないかな? なんか行ける気がする。

 変なのに会っても面倒だし、そうしよっと。

 

「ほっ。二階建の屋根なら頑張らなくても跳び乗れるのね。Aって凄いな」

 

 評価と評価の間には結構大きな差がありそうだね。レベルアップでちょっとずつは強化されてるんだろうけど、人間が順当に私の域になるには時間がかかりそう。

 

「んーっと、どこだろ。建物が消えてて分からん」

 

 看板とか、目立つビルだったからなぁ。全国的にも有名だったはず。

 駅まで行けば分かるけど。

 

 たぶん、あの辺。あそこだけビルがない。

 私のマンションと同じなら、幾らかの範囲が更地になってるはずだし。

 

「よっ、とと。跳びすぎた。危ない危ない」

 

 飛び越えかけちゃったよ。もう少し軽くていいか。

 これくらい? うん。

 

 ははっ、これ楽しいし快適。一直線で目指せる。

 最初からこうすればよかったかな?

 

 なんて調子に乗ってたら、すぐ建物が高くなっちゃう。そろそろ徐々に高い建物に飛び移っていかないと。

 

「うん? 悲鳴?」

 

 あっちは、大人のお店がたくさんある方か。んー?

 指で望遠鏡を作って覗いてみる。魔法にしたから、本当に拡大できるやつ。

 

 うわ、こうやって見るとけっこうあちこちに血痕がある。死骸も放置されてるのが多い。あの大鼠とか、大きな痩せぎすの猫とか。殺された人間は、魔物に食べられてるみたいで、あまり死体は見えない。

 今も食べられているのが見えたけど、もう半分以上食べられているから悲鳴の主ではなさそう。

 

「あ、いた。女の子と、ガラの悪そうな若い男が数人……」

 

 路地裏に地下のお店に引きずり込まれて行く女の子が見える。

 人の死体を見るより胸糞悪いのは、今の体が理由?

 

 分からないけど、見てしまったものは仕方ない。

 これくらいで面倒な(しがらみ)も出来ないでしょ。

 一応龍の半面を交換して、顔を隠す。

 

 魔力での強化もして、思いっきり跳ぶ。乗っていた屋根が崩れたけど、気にしない。新幹線を超えるスピードで一直線に。

 時折他の建物にくっきりと足跡を残しながら、着地。関節全てを使って衝撃を和らげる。

 

 物陰に血を流す男の人の死体が見えた。あの女の子と似た顔だ。

 冷たく昂る心を落ちつけて、無意味に威圧してしまわないようにする。

 

「ここか。おあつらえ向き、ね」

 

 店に降りていく螺旋階段の壁にはR指定の文字。降りきると、裸の女性のポスターも貼られていた。

 

 

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