世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~   作:嘉神かろ

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第93話 戦の匂い

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「ふーん、ここは女王の側近がアイドル化してるのか。配信とかしてるのかな?」

「個人ではしていないようだな。聞こえる話からして、この街の者限定での配信を女王がしているようだ」

 

 ふむ。

 契約で民を定めてる感じかな?

 

 戸籍代わりにしてるのかもしれない。

 確かに、契約魔法をうまく使えば可能だろうね。

 代行者を立てる術式もたぶん作れるから、効率も悪くなさそう。

 

 仮に戦争が起きれば情報統制も必要だろうし、良い案かもしれない。

 

「ん、戦争の話してる。山梨の樹海に接する辺りが狙われてる、か。大迷宮狙い?」

「愚かな。その辺りの人間ではすぐに溢れさせるのが落ちだ」

 

 同感。

 

「長野の上の方にいるのが野心家なんだね。既にそこそこ勢力を広げていると。埼玉側の県境にいるのは、私が選んだ王の孫だっけ?」

「そのはずだ」

 

 ん-、あの子なぁ。

 平時なら名君だろうし、今も上手く発展させていってるけど、(いくさ)ってなるとどうかなぁ。

 ちょっと、優しすぎる気がする。

 

 ま、軍師でもいれば違うだろうし、私が口を出す事じゃないから何もしないけど。

 頑張ってーとは言っておく。心の中で。

 

 おっと、料理が来たね。

 鴨みたいな何かの燻製に出汁と醤油のジュレが乗っている。山葵で食べる感じらしい。

 

 それとサラダと、冷ややっこと、忘れてはならない、日本酒。

 二種類頼んで飲み比べ、という体で、グラスは二つ用意してもらった。

 

「ん、美味しい。魔物の肉かな? 思ったより濃厚」

「山葵が良い仕事をしておるな」

 

 この店は当たりだね。

 他もなかなか美味しい。

 

 食べながら盗み聞きの続きを……って、この気配は。

 

「ようこそおいでくださいました。どうぞ、奥の席へご案内いたします」

 

 他のお客さんに対するよりいくらか丁寧で、声音からにじみ出る敬意。

 なるほど、違う意味でも私は当たりを引いたらしい。

 

「もう少し真面目に気配消そうか」

 

 隣の個室に入るらしいから、油断してるとバレてしまう。

 

「……ふぅ、ようやく一息吐けるわね」

「お疲れ様です、お嬢様」

「もうそんな歳でも無いと言っているでしょう」

 

 お嬢様、か。

 エルフの女王も令奈さん系?

 

「では陛下。ご注文はいつも通りで構いませんか?」

「ええ。ああ、この燻製鷲鴨というのもお願い」

 

 あ、私が今食べてるやつ。

 

 ていうか陛下ね。

 女王とかって私が勝手に言ってるだけだったけど、本当に国として機能してるんだね。

 これからはエルフの国と呼ぼう。

 

 これから人間が起こそうとしてる戦争も、町同士の争いというよりは国、都市国家同士の争いって見た方が良さそうだ。

 それこそ、古代にポリス同士がしていたような。

 

「まったく、余計な憂いを増やしてくれる」

「中野の長ですか」

 

 中野の長、ふむ。

 

「野心のある男だとは思っておりましたが、まさかもう戦争を起こそうとは思いませんでした」

「そうね。想定よりも二十年早い。神奈川の方の食料不足による侵略が切っ掛けだと踏んでいたのだけれど」

 

 あー、そっちの方は食料がとれる迷宮が少ないって聞いたなぁ。

 環境が変わったせいか農業もイマイチだって話だし。

 

 あの辺は今少し人口が多いらしいから、このまま増え続けたらあっただろうね。

 

「一度ことが起きれば連鎖する事も考えられる。出来ればこちら側には来てほしくないのだけれど、どう思う?」

 

 ふむ、話の流れからして中野の長は長野の上の方にいる野心家さんで間違いないね。

 山梨の方以外にも狙ってるのが分かってるんだ。

 

「……あの男は、ダーウィンティー様にご執心です。手段は選ばない傾向が有りますし、北陸の方に手を伸ばすのではないでしょうか?」

 

 おっと、ウィンテさんが出てくるか。

 聞き捨てならないなぁ。

 とは言っても、吸血鬼たちがいるからなぁ。

 

 研究命の種族とは言え、まだ外の世界にも気をやっている。

 既に怪しいけど、今のタイミングならギリギリ対応するでしょ。

 

 正直、ウィンテさんが京都から戻るまでに仕掛けられたとしても問題ない。

 

「家族を人質に、くらいはするでしょうね」

「……ダーウィンティー殿は、家族や知人の為に北陸に行ったんでしたね」

 

 これはウィンテさん自身が当時、(おさ)専用の連絡スレで言っていたことだ。

 

「万が一、がありそうですね」

 

 うん、あり得るなぁ。

 十分な戦力がウィンテさんの大切な人たちを盾にしたら、吸血鬼たちは動けない。

 彼らは始祖であり女王であるウィンテさんに忠誠を誓い崇拝する種族だから、彼女の望まない結果は忌避する。

 ウィンテさんが直接眷属にした彼らは特にその傾向が強い。

 

「……止めましょう。今は食事、休息の時間です。聞き耳を立てている方もいらっしゃるようですし」

「!? 拘束しますか?」

「止めておきなさい。貴方の、いえ、私たちの敵う相手ではありません」

 

 おっと、バレテーラ。

 気配は十分消してたと思うんだけどなぁ。

 

「あ、この建物、生木だ」

「油断したな、ロードよ」

 

 本当にね。

 スパイに囲まれた状態だったわけだ。

 

 まあいいか。

 今の話、態と聞かせてくれたみたいだし。

 

 とりあえず、今の情報をウィンテさんと令奈さんに伝えておいてっと。

 

「そういえば、ウィンテさんの用事ってなんだろ?」

「さあな。まあ、大迷宮の最深部にいるのでもなければ問題なかろう」

 

 え、大迷宮の深部にいたら問題あるの?

 

「言っていなかったか? 魂力を介する関係上、神の支配する領域では一部の機能が使えぬ。五十年前の戦いでも、外に出るまで我々のコメントを確認できなかっただろう」

 

 ……確かに、最後の方は外に出たタイミングでしかやり取りしてなかった気がする。

 ん-、まあ、良いか。

 

 最悪でもワンストーンさんが対処してくれるさ。

 

 とにかく、次の目的地は決まった。

 このまま北上して、中野を経由して北陸に入ろう。

 

 

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