近未来ファンタジーなゲームに転生したと思ったら俺が転生したのはモブだった 作:科学と魔術ってロマンでしかない
魔術、超能力、天使、悪魔。
そんな超常の存在が空想上の存在だったのは昔の話、この世界では当たり前のように身近にそれらはいる。
その切っ掛けになったのはある研究者の起こした事故だった。その研究者は重力に関する研究をしており、ある次元に関する実験をしていたそうだ。そして実験途中、彼は開けてはいけない扉を開いてしまった。次元の扉を引き裂いて現れたそれは、爆発を伴って次々とその世界に押し通ってきた。
今では神秘爆発と言われる現象は世界各地で起こり、様々な混乱を巻き起こした。ある国では革命が起き政権がすり変わり、ある国では国民全てが例外無く突然死亡し、ある国では大統領の迅速な対応によって民衆は沈められた。
ただの爆発ではそこまでの混乱は起きないだろう。何故ここまでの混乱が起きたのかといえば、ある存在が爆発と共に世界に現れたからだ。
その名は多過ぎて一つで括るのは難しいが、敢えて言うのなら、神秘。
悪魔や天使、妖怪、魔術、超能力。ありとあらゆる超常の存在が現実に現れた。
それは当然日本にも現れた。代表的な存在を言うならば、八岐大蛇や土蜘蛛など著名な妖怪たちが現れ次々と民衆に被害を及ぼした。
だが日本もやられるだけでは無かった。即座に神秘を保持した人間を招集し、多額の報酬で釣り戦場に向かわせた。
その結果は驚くべきもので、殆どが神秘相手に善戦してある程度の妖怪たちを退けた。日本政府は戦った人間たちを雇い上げ、新しく設立した省の公務員に組み込んだ。
その省の名は神秘省であり、組み込まれた人々の部隊の名は特殊神秘制圧部隊。そしてそれらは現代に続くまで活躍を続け、世界に名を轟かせる程強力な人員を備えている。
■
片手に持つ漆黒の銃の確かな重みを感じながら、前を見据える。全身を包む最新式のパワードスーツを煩わしく感じながらもそれを外そうとはしない。
深夜、遠くにある灰色の壁に囲まれた倉庫を確認した俺はすぐ様自らの首に手を当て、口を開いた。
「こちら如月、作戦行動を開始する」
首に巻き付いた簡易端末にそう告げる。闇に包まれた空間にホログラムが投射され、承認のメールが虚空に映された。白く浮かび上がる文字に溜息をつきながら、もう一度首に手を当て本部との連絡を絶った。
「……ちっ」
まじであいつらふざけてんのか。何で俺一人でやらせるんだ。他にも仲間は居るだろうに。俺を殺したいのか?
そんな愚痴を心の中で呟きながら暗闇を歩く。きちんと整備されたコンクリートの道路を踏み締める。
「ん」
手の中の魔術拳銃をくるくると遊ばせる。黒々とした拳銃が暗い輝きを放った。この拳銃は俺の相棒で整備は欠かせていない。当たり前だ、俺の命を文字通り預けなければいけないのだから。時折アサルトライフル等の長物を使えというやつもいるが、俺にはこいつが一番手に馴染む。
手で拳銃を回していると、目の前に灰色の倉庫が見えて来た。夜中でも中に人は居るらしく、窓からは明るい光が漏れている。
あれが今回の目標だ。今から逮捕をしに行く奴はあの倉庫を根城にしているらしい。
罪状は、神秘管理法違反。どこから持ってきたのか分からん証拠を高々と見せつけて俺に命令が来た。こんな監視社会全盛の国で何をしでかしたのかは知らんが、余計な事をしたせいで俺の仕事が増える。本当に勘弁して欲しいものだ。
そうして倉庫の中を覗き込むが、中には人っ子一人居ない。埃を被った木箱やビニール袋があるだけだった。確かに何者かが生活していた形跡はあるが、今は居ないらしい。
疑問に思い窓をぶち破り中に侵入する。直ぐに拳銃を構えて辺りを見渡す。だが周囲には人間らしきものは見当たらなかった。
「……出遅れたか」
既に標的には逃げられた後らしい。足跡一つ残さずに政府から逃げ切る手腕には素直に感嘆する。この世界で犯罪者が逃げる事は容易な事では無い。張り巡らされた監視カメラに、判別センサー、身体に埋め込まれたマイクロチップ。どれか一つでも反応してしまえば即豚箱行きだ。
辺りを見渡していると、倉庫の床に付いた模様が目に付いた。視野を広げて見てみるとそれは、五芒星の魔法陣だった。何らかの血を使い描かれている陣は幾何学模様を至る所まで描いており、ここにいた人物が何をしようとしていたのかが気になるところだ。
「悪魔召喚か……天使召喚か……はたまた妖怪か……。まぁ考えても仕方無いな」
諦めて足を出口の方角に向け、歩き出そうとした時。
『生体反応を検知しました。場所を表示します』
頭に成人女性の音声が響く。それと同時に付けていたコンタクトレンズに倉庫の一角が強調表示された。網膜が壁越しの人の姿を赤く映した。赤い人影は屈んだまま隠れるように動かない。
即座に狙いを定め引き金を引く。構えた拳銃からは政府規格の魔術が込められた弾丸が飛び出し、人影に命中した。
「……なぁ!?」
何者かの苦悶の声が漏れる。
バレていないと思っていた間抜けは痛みから復帰すると直ぐに飛び上がると倉庫の壁を破壊し、外に走り出した。凄まじい速度で駆け抜ける事ができているのは、奴が何らかの神秘を身体に宿しているからだろう。常人なら目で追うことすら叶わないだろう。追いつく事なんてもってのほかだ。
そう、常人なら。
それを直ちに追う為、足に手を当てる。
『特別科学魔術義足『淵天』。起動準備、アビスシステムオールグリーン……起動完了しました』
脚のパワードスーツから人工音声が発せられ、体のラインに沿って光の線が青々しく輝く。脚の裏からは魔術的紋様が浮かび上がり、この身体を対象に身体強化魔術を発動している。魔術工学部門と科学工学部門の二つの力を結集させ作り上げたこの脚は、恐らく世界でも有数の戦闘能力を発揮出来るだろう。
地面を踏み締め、機械の足を駆動させる。そして俺は全力で倉庫を駆け出した。その速度は前世の電車と比べても遜色ない程だ。
既に標的は姿を消しているが、俺は迷いなく倉庫を抜け近未来的な街並みを走り出す。奴が見えていないのに追えている理由は、先程射出した魔術の弾丸だ。
あの弾丸には政府の最先端技術が使用された魔術が掛けられており、命中した生物の反応を追うことが出来る。だがこれはまだ試作段階であり、データを入手するために上が俺に送ってきた物だ。前線勤務の人間にテストなんてさせるなよと思っていたが、正直使ってみてこれは大分助かる。早く全体に行き渡らせた方が良いだろう。
そんなこんなで光が溢れる街並みを駆け抜けていると、懐から血を流しながら走っている男を視認した。男は近付いてくる俺に気付くと、驚愕に顔を染めた。
「くそっ何で分かるんだ!?」
「黙れ犯罪者、大人しく捕まるか、さもなくば死ね」
「嫌だね!」
男は諦めずに街を駆け抜け続ける。それに追従する様に俺も走りながら拳銃を合わせ、男に照準を向ける。だが男はそれが見えているかのように放たれた弾丸を尽く躱し、街を縦横無尽に飛び回った。やはり奴の身体能力は異常だ。何かしらカラクリがある。
「死ねェ!」
男は瞬時に此方に振り返ると、拳を握りしめて俺の腹目掛けて振り抜く。たかがパンチと思うかもしれないが、その威力は身につけたパワードスーツによって超人的な物になっていた。最早人が放ったとは思えないほどの殴打を目で追う。右手を翳し、受け止める為に手の平を開いた。
「おっと」
ぱし、と軽い空気が抜けるような音がした。俺の手には男の拳が綺麗に収まっており、男は驚愕に顔を染めた。そんな隙を逃すことは無く、俺は瞬時に男の頭部目掛け足を振り抜いた。
瞬間。
轟音。
「が――――」
空気が吹き飛ぶ程の一撃を受け、男は口から血を漏らし街へ錐揉み回転しながら吹き飛んだ。だが手応えに違和感があった。恐らく咄嗟に頭を動かし威力を逃したのだろう。奴自身は素人だろうが、その能力は人知を超えたものらしい。
その予想通り、倒れた男はすぐ様起き上がると足に力を込め逃走を図った。逃す訳にはいかないので俺も後を追う。
「チッ!しつこいな!さっさと諦めろ、”炎の妖精は笑う、貴方に幸福を込めて”」
男は祝詞を詠唱しながら走る。すると男が通った空間が歪み、次元の隙間から炎が吹き出してきた。豪炎が飛び出し、あまりの高温でアスファルトの道路が溶けだす。その熱は俺まで届き、僅かにスーツが溶ける。多分スーツの惨状を見るにこの炎は概念的なものだ。触れるもの全てを溶かし、物体が二度と戻ることは無いだろう。
「面倒だな、まぁ関係無いが」
俺は溜息をつきながら、腕に着いている突起を押した。すると俺のパワードスーツの表面に力場装甲が出力された。その場の力場を歪め仮想の壁を創る力場装甲は放火などの衝撃の伴わない攻撃にはうってつけの防御手段だ。
息を短く吸い、炎の中を走り抜ける。力場装甲が炎で歪み、飛び散る光となって損傷を表していた。だが炎は突破してくることは無く、俺を避けるように道を開けた。
スーツが僅かに溶けたが動くのに支障は無いだろう。工学部門の連中は泣くだろうが知った事では無い。それよりも疑問が浮かんでいた。
「何なんだ、奴の能力は」
『日本国神秘省データベースに接続。照合中……十二件の近似した神秘を確認しました』
鬼ごっこを続けながら内から響く声とやり取りをする。だが十二件って多過ぎだろ。流石に対策のしようが無いわ。
「もっと絞ってくれ、せめて五件程度で頼む」
『うるさいですねご主人様は…………承知しました、二件まで絞込みが完了』
「詳細は」
『一つはウェアウルフ、西洋の神秘で俗に言われる狼男です。満月の夜に高い身体能力を獲得出来ます。もう一つは悪魔憑き、これも西洋の神秘で悪魔と取引をする事で強力な身体能力を手に入れることが出来ます』
「お前はどっちだと思う?」
『何故私が…………私としては悪魔憑きの可能性が高いと感じます』
「了解」
『それにしてもご主人様はいつも私をぞんざいに扱って、感謝というものは無いのですか。前だって――――』
話が終わっても小言をほざく彼女から意識を逸らし、目の前を走る男を見つめる。奴が悪魔憑きとするなら対処は簡単だ。悪魔に対する兵器は幾つも存在しているが、恐らくこれはその中でも最新の物だろう。
手に持つ拳銃からマガジンを抜き、胸ポケットにある日本国神秘省の判子が押された特別なマガジンを差し込む。一応スライドをして前の弾は抜いておく。
そして、アイアンサイトで狙いを定める。走り続けて揺れる身体だが、持つ拳銃だけは止まったようにブレることは無い。厳しい訓練の賜物だ。
眼の前の男は間違いなく油断している。これまで俺の弾を避けてきたという成功体験で判断能力が錆び付いている筈だ。
その油断の隙間を突く。
俺は拳銃の引き金を引いた。狙いは変わらず男の頭。
先程と同じ様に弾丸は奴の身体に突き進む。そして先程と同じ様に男はその射線から避けた。
いや、避けたはずだった。
「ぎっ!……あがああぁぁ!?」
弾が男を避けて通ろうとした時、弾が文字通り分裂した。
約二十の光の矢となった弾丸は男の身体を尽く焼き付くし、その苦痛に男は悲鳴を上げざるを得なかった。矢一つ一つが男の身体を貫き、光が全てを消し去る。
「やはり魔術工学部は良い仕事をする」
その光景を見て呟く。
先程差し込んだ弾丸は対悪魔用の取っておきの弾丸だ。開発した魔術工学部の奴らによると、あの弾丸には魔術的聖属性が付与されており触れた魔を焼き尽くすとか。あの陰気臭い奴らは嫌いだがその技術力は本物だ。嫌々関わっているが、あいつらことある事に俺の体で実験しようとするから出来れば会いたくないんだよな。
だが奴らの言葉に違わず、弾丸の効果は目の前の男を見れば一目瞭然だろう。
「あ……が……」
男は聖属性の光に焼かれ、全身を黒焦げにして道に倒れ込んだ。口からは絶えず呻き声が聞こえ、一応生きている事は確認できた。俺は満足気にその光景を見ながら首に手を当てると現れたホログラムを操作する。
「こちら如月、特殊任務完了。捕らえた対象はどちらに送ればよろしいか」
数瞬の後。
『お疲れ様です、如月特務官。流石の手腕でした』
ホログラムに現れた少女の顔を見て思わず眉を顰めそうになるが、何とかその衝動を抑えた。何でこいつが出て来るんだ。俺は所詮下っ端だろうに。
「……ありがとうございます。神楽部隊長」
その言葉を聞くとホログラムの向こうに座る銀髪の美少女はにこりと微笑んだ。
奴の名は神楽雫、この日本国神秘省直属の戦闘部隊。特殊神秘制圧部隊、通称特神部隊の長だ。流石に戦闘部隊の長とだけあり、彼女の実力は折り紙付きで他国にも名を轟かせている。日本の雪姫と呼ばれれば間違いなく彼女の事だ。クソ恥ずかしい呼び名だが、彼女もそう思っているらしく前にふざけて雪姫と呼んだらぶん殴られた。それから彼女の事は心の中でゴリラ女と呼んでいる。
『……何か失礼な事を考えていますね?』
「いえ!そんな事は有り得ません!隊長のことは尊敬しておりますので!」
やけになって大声で叫ぶ。何故人の心を読めるんだ、怖すぎるだろ。もうこの人には逆らえない。
隊長は溜息をつくと、その小さな口を開いた。
『……まぁ良いです。それでは直ちに拠点に帰還する事。捕獲対象は法務省の方にでも放り投げておきなさい』
「了解しました。それでは」
『ちょ、待ちなさ――――』
話が終わったので即座に端末に触れ隊長との通信を切る。何か言っていた気がしないでもないが、多分大丈夫だろう。所詮下っ端の俺に、部隊の長である彼女が言うことなどあるまい。
基地に帰投するためにまずは黒焦げになった男を掴み、街の中を引きずる。時々通行人が目を丸くして見てくるが、全て無視をして歩き続ける。
「……なぁ」
歩いていると、引き摺られている男が突然口を開いた。
「何の用だ、死にたいのか?安心しろ、多分お前は死ねるさ。魔術か、科学的実験を身体に施されてな」
「違ぇよ……あんた、如月隼人だろう?あの特神部隊の……」
「……!」
どうやら俺も有名になったらしい。特殊部隊の人間の名前が知れ渡っていることにも思う事がないわけでもないが、軍人が有名になることで犯罪が減ることもあるらしい。現にうちの隊長がそうだった。隊長の時は元の時から神秘犯罪が約二分の一になったらしい。やっぱりあの人はすげぇわ。
「そうだが……何の用だ?」
「別に何もねぇよ……ただ知りたかっただけだ。あの有名な如月がどんな奴かってな」
「犯罪者如きが偉そうだな」
「……黙れ、政府の犬が。お前らは上からの指示に従っているだけのゴミだ」
男は呟いた。それから彼は口を開く事は無かった。この様子を見るに恐らく彼には犯罪に手を染めざるを得ない理由があったのだろう。金の為か、あるいは家族の為か。
まぁ、どちらでもいいが。
犯罪者の行く末なんて考える必要は無い。俺が考えるべきなのはこの仕事との付き合い方だろう。
正直俺は犯罪とか神秘とかどうでもいい。もっと言えばこの国の事すら考えるに値しない。
俺の願いは一つ。
折角転生したのだ、二度目の人生をこの終わった世界で生き残る。『ゲーム』の筋書きなんて全て無視する。誰が死のうが知った事では無い。
ただひたすら、生きていたいだけだ。
■
日本国首都東京、その中の高層ビルの一角にて。
「ちょ、待ちなさい…………切れましたか。もう、まったく」
頂上に値する階層で、銀色の少女は豪華な椅子と机に座っていた。机の上にはホログラムを発する小型機械と、山積みの書類が置かれている。
目の前のホログラムから通信が切れたとの通知を受けるが、少女はそれを飛ばして今回彼に任せた任務についての詳細に目を通す。
法務省の方から託されたこの依頼は、特A級の危険任務だった。対象はその身体に神秘を宿しているとされ、さらにどこから入手したのか軍用パワードスーツを装着している。特神部隊だろうと一介の隊員では為す術もなく肉片にされるだろう。任せたのが彼以外なら複数人の部隊を編成し、対処に当たらせる所だ。だが彼は、如月は一人で対処しきった。それも対象を生かすという余裕まで残してだ。途中でよく分からない武器を使っていたが、それも含めて彼の実力だ。
「やはり、彼は素晴らしい」
銀髪の少女は思わずといった様子で言う。
如月隼人、恐らくこの国の中で屈指の実力を持つ戦闘員。特神部隊の中でも彼の実績は飛び抜けている。単独でのソロモン七十二柱の大悪魔の討伐、大妖怪八岐大蛇を他の隊員と協力して撃退。どれも世間に広く名が轟いている化け物ばかりだ。
その戦闘能力の源となっているのは彼自身の天才的な戦闘技術だろう。先程の戦闘映像でもあったが、卓越した格闘センスに地道な努力が為す正確無比な射撃技術。どれを取っても他の隊員とは一線を画す能力を持っている。魔術すら使わずに身一つで超常を圧倒する姿に憧れた隊員も多いらしい。
何より彼が特別なのは、彼自身が神秘と同一存在という事だ。詳しい事は彼に聞かなければ分からないが、如月の体には特別な悪魔や天使が宿っているらしい。魔術工学部は血眼になって彼に実験を迫っているが尽く断られているのは特神部隊の中では有名だ。
「……ふふ」
笑いを噛み殺し、少女は微笑む。
昔から退屈だった。この高みまで上り詰めてから。
誰も追いつく事は無い。誰も追いつこうとしない。
でもやっと来たらしい、白馬に乗った王子様が。現実は銃を片手に持った人殺しだが、そんな事少女にはどうでもよかった。
「待っていますよ、如月」
銀色の少女は、瞳に粘着質な感情を宿らせ妖艶な笑みを浮かべた。