近未来ファンタジーなゲームに転生したと思ったら俺が転生したのはモブだった   作:科学と魔術ってロマンでしかない

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第三話 金髪ヤンデレ大剣少女

 

 

 白い大理石が几帳面に敷き詰められた廊下を歩き、基地の食堂に向かう。窓からは日差しが差し込み白き床の廊下が宝石の様な輝きを放っていた。

 

 入口に料理の絵の看板が掛けられた食堂に着くと、中では至る所に沢山の人が山を作っていた。戦闘員や整備士など職を問わずここには部隊に携わる人々で溢れている。戦闘を行う者は戦いの合間の英気を養う場所として食堂を訪れ、後方支援の者は集中して作業を行うために一息つく休憩所としてここを訪れる。

 

 そんな多様な人混みの中を夜桜と共に歩く。長い艶やかな金髪を揺らして歩く彼女はまさに美少女と言って差し支えなかった。正直隣で歩くのは釣り合わないと思うが、彼女が望むなら仕方が無い。機嫌を損ねて死にたくは無いしな。

 

 一先ず定番のカレー定食を注文して受け取る。やはり慣れ親しんだ味が一番だろう。隣を見ると夜桜はサラダ大盛りを頼んでいたらしく、トレーの上には野菜が山盛りになっていた。ドレッシングがたっぷりとかけられた緑たちを夜桜は目を輝かせて観察している。いつ見ても不思議な光景だ、よくこんな食事で大剣を振り回せるな。そう思いつつ、目の前の料理を食べる為に席を探して歩き始める。

 

「あれ――もしかして――」

 

「――如月特務官――――何を――」

 

「夜桜――――官――――は」

 

 人が押し詰める満席の中席を探して歩いていると周りの人々がこそこそ噂しているのが分かった。特神部隊の制服を着た人や軍服を着た人などが顔を見合わせて話し合っている。もしかして歓迎されてないのだろうか、ちょっと傷付く。別に俺は静かに食べたいだけだから君たちの邪魔なんてしないのにな。

 

 澄まし顔で歩いていると、座っていた制服の男達が立ち上がりその内の一人が俺たちに話しかけてきた。

 

「あ、あの。もしかして席を探していますか?」

 

「ん、そうだけど……」

 

「なら席を空けますので良かったら使って下さい」

 

「え、良いのか?君たちまだ食べてるじゃないか」

 

「いえいえ!もう食べ終わるので。さあどうぞどうぞ」

 

 強引な彼に言われるがまま夜桜と席に着く。彼は集団に戻ると笑顔で俺たちに手を振りながら出口に向かっていた。

 

「俺やっと―――――すげぇよ―」

 

「あの悪魔殺し――――顔付きが――」

 

「隣の夜桜さん――――だな」

 

 顔を見合わせ彼らは廊下で騒ぎながら食堂を去っていった。そんな彼らには席を譲ったことを惜しむ様子は微塵もなく寧ろ嬉しそうにしていた。

 

「……?」

 

 良く分からん、彼は何がしたかったんだ。なんか嬉しそうだったけど席を譲ることが嬉しいのか?もしや彼は人に席を譲ることに快感を覚えるのだろうか。

 

 そんな事を考えながら彼らの事は気にせずに食器を取り食事を始める。ゲームの世界だからか、はたまた日本人の食事に対する意識の高さ故か、この時代になっても日本は基本料理を口から摂取している。

 

 もちろん技術が発展した分チューブ状の栄養補給剤や体内に流し込む注射など簡単な食事はあるがここでは昔ながらの方式が取られている。理由としては医学的に咀嚼という行為は人体に良い影響を与えると分かっているためか、特神部隊では基地内での食事は固形の料理を取る事が推奨されているのだ。

 

「はむはむ」

 

 隣では夜桜がサラダを口一杯に入れている。リスのように頬を膨らませて食べる姿は微笑ましい光景だが、彼女の恐ろしさを知っている俺は心からそうは思えなかった。一歩間違えば死ぬ事を知っているので苦笑いしか出来ない。

 

「どうしたの如月?食べない?」

 

 いつの間にか手が止まっていたようだ。気を取り直してカレーに手をつける。

 

「大丈夫だ」

 

『この女と接して疲れてしまったのですね。帰って少し休みましょう。私もお供させていただきます』

 

 何故か夜桜に当たりが強い彼女の声を無視して食事を進める。よく分からないが彼女は偶に周りに攻撃的になる時がある。こういう時は周りの人間に声が聞こえて無くて良かったとつくづく思う。

 

「……」

 

 微笑みながら野菜を頬張る夜桜はやはり美しく見えた。白い肌は光を反射しているし、大きな碧眼は宝石のような輝きを放っている。その整った顔は将来さらに彼女が美人になることが期待出来るだろう。

 

 夜桜が小さな口を開く。

 

「……今日、久しぶりに如月とご飯を食べれて良かった」

 

「そうか?なら良かった。俺も夜桜と会うのは楽しいしな」

 

 嘘です、会う時はいつもびびってます。嫌いじゃないけど好きでも無いです。

 

 俺が心にも無いことを言うと夜桜は頬を染めてむず痒そうに笑顔を作った。珍しい彼女の笑顔は見る人々を魅了するほど綺麗だった。

 

「やっぱり如月と一緒に居ると、何だか胸がぽかぽかする」

 

「…………は、そ、そうか」

 

 一瞬気を失いかけた。何か不穏な発言が聞こえたが大丈夫だろう。多分気のせいだ、部屋の気温が高かったとかそこら辺の筈だ。だってフラグなんて立てていないし彼女に思わせぶりな態度なんて取っていない。だから大丈夫、の筈。マジで手足切断監禁エンドはごめんだ。

 

 そうして手を進め昼食を完食した頃。俺は満足した食欲を感じながら考え事をしていた。果たして俺の選択は間違っていないだろうか、この先のフラグ管理は合っているだろうか。未来の自分の生死を左右するであろう判断を脳内で何度も確認する。

 

 俺が顎に手を当て考え込んでいると、突然夜桜が口を開いた。

 

「……ねぇ」

 

「……?」

 

 彼女は何かを閃いたように、または楽しい事を目前にした子供のように浮かれた雰囲気を醸し出していた。嫌な予感がした。こういう時は大体面倒な目に遭う。

 

「この後、模擬戦しよ」

 

 夜桜はまるで俺が断る事を想像すらしていないように自信満々に告げた。そう言えば忘れていた、彼女は戦闘狂の一面も持っている事を。

 

 原作ゲームで夜桜凛は特神部隊の強力な隊員として登場する。その小さな身体で魔術式が刻まれた大剣を軽々と振り回し、自らの背丈の何倍も高い敵を圧倒する。そんな芸当が可能なのは彼女の身体能力が優れているのも要因の一つだが、彼女が戦闘狂であることが大きい。時間があれば仮想空間に潜り、命のやり取りをしているなら嫌でも腕は上がるだろう。

 

 そして何故か俺は彼女から目を付けられている。恐ろしい事に会う度に模擬戦の誘いをしてくるのだ。この女俺を過労で殺したいのか?

 

「いや、無理」

 

 一切の迷いの無い俺の言葉を聞くと夜桜はむっと口を尖らせて不満を露にした。潤んだ唇が尖り、目を不満げにする。

 

「……なんで」

 

「普通に仕事あるし時間ないんだよ」

 

「むぅ……」

 

『当然ですね、ご主人様は忙しいのです。貴女に割く時間は残されていません』

 

 何かこいついつもよりうるさいな。一体どうしたんだ。

 

 隣の夜桜は俺の断りの言葉を聞いても諦め切れない様子で俺の服の端を掴んで断固反対の意志を示している。蒼の宝石の様な瞳が俺を見つめて離さない。

 

「ほんとに無理」

 

「……いや」

 

 すまんほんとに無理だわ。こんな化け物と常に訓練をしていては身体が持たん。頭も疲弊してしまうだろう。

 

 夜桜は俺の強さを見込んで誘っているのだとは思うし、確かに俺はこの世界でもまぁまぁ強い方だとは思うがその強さは文字通り作られた強さだ。元の身体の俺は強力な身体能力も魔術の才能も無い正真正銘の凡人だ。なんの取り柄もなく、ただ世界の知識があるだけの人間。

 

 だから強さを求め始めた当初の俺は思ったのだ。無いなら作ればいいと。

 

 まずは手始めに肉体改造を始めて薬物投与で筋力や神経を強化した。その効果は絶大で手足は素早く動くようになり動きの正確性が増して、さらに眼球の動体視力は飛躍的に向上し射撃訓練の成績は格段に上がった。次に右脚を切り落とし機械の脚に変えた。特にこれは効果覿面であり、俺の戦闘能力向上に貢献したといえる。脚の単純な馬力は何倍にも膨れ上がり、足先から刃を生やしたり炎を噴き出すことすら可能になった。また、『彼女』との契約で敵に追い詰められた時の保険すら手に入れた。

 

 それほど俺は死を恐れていた。なんなら死なないなら手足すらも犠牲にしたって構わなかった。いや、犠牲にしなければ生き残れなかった。

 

 ここまでしないとこの世界で生き残れない凡人たる俺が、原作でも屈指の強さを誇る化け物と訓練するなんて無理に決まってるだろう。

 

「……むぅ……分かった」

 

 いつになく真剣な俺の態度に夜桜も分かってくれたのか、彼女は渋々という様子で引き下がった。相変わらず目は俺に向けて残念そうな雰囲気を出しているが何も言うことはない。というか俺以外にも強力な隊員は居るはずなのに何故俺に拘るんだ?

 

「なぁ夜桜、なんで俺と訓練をしたがるんだ?他にも人は居るだろ」

 

 原作でも特神部隊にはゲーム時代で言うボスクラスの人間が集っており、それは俺が転生した世界でも変わらない。あらゆる魔術を極めた魔道士や剣に一生を捧げた求道者、どんな距離からでも目標を暗殺する狙撃手など豪華な個性たちが揃っている。そんな中から何故特出して強くは無い俺を選ぶのか余計気になった。

 

「……それは」

 

 俺の言葉を聞くと夜桜はぽっと頬を赤に染めた。もじもじと手をすり合わせて顔を伏せている。それでも俺から目は離さずに目と目が合う。

 

 ……こっわ、なんなんだ一体。もしや俺を捕まえるためなのか?まだ死にたくないんだが、フラグは立っていない筈だろ。

 

「貴方が……」

 

 口を開こうとした夜桜だったが、堪えられないとでも言いたげに途中で口を閉ざした。少女が頬を染めて口を固く閉ざした様子は殆どの人々の目には可愛らしく映るだろうが、俺からすれば恐怖しか感じる事が出来なかった。

 

「……やっぱり言えない」

 

「そ、そうか」

 

 こえぇよ……!頼むから殺さないでくれ。

 

 冷静に答えた俺だったが内心は嵐のように荒れ狂っていた。何よりも死を恐れる俺にとって前世で数々の主人公達を痛め付けていた彼女は恐怖の化身だ。自室に招いた主人公を薬で眠らせ、拘束してから手足を大剣で切り落としたシーンは一生のトラウマである。正解の選択肢を選べばヤンデレにはならないのだがそんなの全て覚えているわけない。確かに前世で俺は夜桜が普通な女の子ルートも見たのだが、膨大な量の選択肢があるこのゲームにおいてルートの全てを覚えることなど不可能に近い行いだ。

 

 目の前の彼女の反応がセーフなのかアウトなのか分からなかった。もしアウトなら俺はもう終わりだ。一生彼女の部屋に閉じ込められて人生を終えてしまう。

 

「じゃ、じゃあ俺はそろそろ仕事だから行くわ」

 

 そろそろ仕事の時間なのもそうだが、これ以上彼女と接していたら何か恐ろしい事が起こってしまいそうで怖くなり急いで席を立った。もし彼女が一途な普通の女の子だったなら、と叶わない願いを抱きながら。

 

「ん……またね」

 

 そんな俺を夜桜は相変わらずの無表情で手を振って見送っていた。その蒼の瞳は、食堂を出るまでずっと俺を視界に収めていた。

 

 

 ■

 

 

 急いで彼が少女の前から逃げ去った後、大剣を背負う金色の少女は一人、基地内の訓練所に向かった。

 

「……また、断られちゃった」

 

 少女は少ししょんぼりしながら廊下を歩く。彼と模擬戦を行うのは長年の夢でもあったが、何故か彼には断られてしまう。そこまで少女の事を嫌っている様子は見受けられないので恐らく本当に忙しいのだろうが、それでも悲しいものは悲しい。

 

「やっぱり、足りない」

 

 訓練所に着くと少女は自らの体程ある背中の大剣を持ち上げ、虚空に振りかざした。何度も持ち上げ、そして振るう。空気を裂く音が激しく響き周りの人間の注目が集まるが知った事では無い。

 

 そこに在るは、無心。

 

「……」

 

 数刻の間、全力で大剣を何度も振るうが少女の思い描く軌跡を成すことはなかった。目標よりも剣の速度は欠伸が出る程遅いし剣筋は未熟の域を出ない。ただの凡庸な剣筋が空間を刻むだけだった。

 

 やはり届いていない。未だ彼の輝きにはかすりすらもしない。あの時の生命を燃やした様な彼の輝きと比べればこんなもの路傍の石に過ぎない。

 

「……っ」

 

 余りにも眩い彼の姿を思い出し思わず身悶える。彼の事を想うと頬が熱くなり、その事で頭が一杯になってしまう。

 

 肉体の負荷を一切考慮しない薬の投与、四肢すらも取り払う程の異常な精神。確かに現代では手足をサイバネティクス化するのは至って普通の事ではあるが、それは事故や戦争で失った例が殆どだ。自ら切り落として機械に変えるなんて聞いた事がない。何処までも死を恐れるその精神は、かえって彼の武器となっている。その身に死が近づくほど動きが素早く正確になるのは彼の戦闘ログを見れば明らかだ。本能は危険を察知して警鐘を打ち鳴らし、相手に突き刺さる殺気は純化され殺意へと変わる。

 

「また、会いたいな」

 

 彼女の眼にはずっと戦場での彼の勇姿が刻まれている。死地でこそ本領を発揮する彼はこんな平和な訓練では満足できないだろう。だからと思い模擬戦を誘っているのだが余り反応は芳しくない。だが勘から彼との模擬戦は素晴らしい物になるだろうという予感がしている。それは彼が強者であるのも理由の一つだが、少女が彼を心から求めているのが大きい。

 

「……」

 

 少女は天才だ。大剣に関することならあの『剣姫』にすら負けないと自負している。重厚な見た目に反して天才的な技術を大剣で再現し敵を打ち倒す彼女は、故に他者を見限っていた。凡人を寄せ付けない才能を持つ彼女は弱者を心の底で舐めていたのだ。この世の摂理は才有るものは強者であり、才無きものは弱者であると。

 

 だが、彼は違った。少女が作り上げた論理に反する存在であった。

 

 肉体は脆弱で、魔術や超能力の才能すらない。直接戦えばただの悪魔が相手ですら敗北するだろう。

 

 だが彼はそこで終わらなかった。自らの弱さを握り潰す方法を模索した。そして自らの身体の改造と言う答えを見付け、実行した。

 

 そんな彼の姿に少女は感激した、一目惚れしたとも言える。多分自分には到底出来ないから。そして戦場での彼の戦いぶりは格別であった。弱い筈の存在が強きものを打倒する光景は少女にはどこか神聖な物に思えた。ただ一人戦場で佇む彼の姿に少女は見惚れた。本能から彼を刻み込まれてしまったのだ。

 

「……あんな女達に、渡したくない」

 

 そんな考えはいけないと分かっている。彼を独占するなど不可能で、彼自身が望んでいないと分かってはいる。だが理性は理解していても感情はそうはいかない。早く彼を自分の物にしろと本能が叫ぶ。叶わない現実と美しい妄想の境目に少女は居た。

 

「それでも、今は別にいい」

 

 そう、今は我慢しよう。彼が誰と恋をしようが耐えよう。彼が誰かと結ばれようが祝福しよう。

 

 でも。

 

「最後には私が貴方を連れていくから」

 

 そして、幸せになろう。彼が望むことを何でもしよう。金を求められば財産を渡そう、体を求められれば喜んで与えよう。

 

 少女は頬を染めて可愛らしく微笑んだ。花が咲く様に美しく、それでいて粘着質に。

 

「だから、いつか一緒に幸せになろうね。如月」

 

 そう呟く少女の目は大海を思わせる様な美しい碧眼をしていながら、まるで深海のような曇った闇が浮かんでいた。

 





かっこいい武器や魔法も好きですが、それと同じくらい重い女の子も好きです

面白いと思って頂けたら高評価、お気に入りお願いします。


追記
日間二位&オリジナル日間一位ありがとうございます
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