近未来ファンタジーなゲームに転生したと思ったら俺が転生したのはモブだった 作:科学と魔術ってロマンでしかない
数々の頭がおかしい女達が登場する『君と彼女のラグナロク』
死ぬまで主人公に粘着するねちゃねちゃ女や呪いをかけて主人公を離れなくする激重女など、結構命に関わるレベルでやばい奴らが揃っているのがこのゲームだ。見た目はみんな綺麗なのが余計タチが悪い。
そんな中でも屈指のあたおかキャラとしてファンの間で認知されているのが、死天サリアだ。またの名をマジキチ詐欺メスガキ。
見た目は純朴で可憐な少女で、まるで何処かの良い家のお嬢様の様にすら見える。プレイヤー達にはその見た目に魅了されて二次創作を作るものすらいた。仕方ないとは思う、正直サリアは見た目は可愛いし仕草もあざとすぎる。
だが、それは人を騙す為の仮初の姿。
奴の本性は助けを求める人間と契約し、飽きたら蹴落としそれが転げ落ちていく様を嘲笑う正真正銘の悪魔だ。
サリアはその名の通り死という概念を冠する大悪魔であり、小さく見える体躯には想像を絶する程の力を保持している。設定集によれば、彼女は遥か古代から存在する悪魔らしく影響力は計り知れない。この世界に来る前にも色々やりたい放題していたらしい。見せたい相手にのみ姿を現し、人の欲望を刺激する。
ゲームのシナリオでも一国を支配したり飽きたら滅ぼしたり、この世をゲームとでも思っているのか巫山戯た事を繰り返すクソ野郎だ。
ストーリーでも当たり前の様に主人公に介入していき選択肢をミスれば直ぐに悪趣味な契約を結ばされ、永遠に彼女に隷属する最悪なエンドを迎える事でも有名である。まぁ、逆に彼女に真に気に入られれば強大な力を与えられて共に世界を滅ぼす事になるのだが。
そんな見た目清楚中身ドブなサリアだが、やはりプレイヤーからの人気は高い。
R18イラストも多いしシンプルなファンアートも多い。その理由は彼女の美しい見た目と傲慢が過ぎる性格だろう。濃すぎるほどに濃い彼女の性格は一部のプレイヤーの性癖を歪めたと言われている。途中でネットにて開催された人気投票ではメインキャラ達を押し退け見事上位入賞を果たした事もある。それ程彼女はプレイヤーから愛されていた。
まぁ俺もサリアは嫌いではなかった。
混沌を極めるこのゲームにて可愛い彼女はそれだけで目の保養になったし、主人公と仲良くなった状態なら会話も楽しく出来た。
だが、それはゲームでの話だ。
現実として彼女と触れ合うなんて溜まったものでは無い。下手したら、というが下手しなくても死ぬ。マジで機嫌を損ねるだけで消し飛ぶ。それぐらい彼女は力を持つ存在なのだ。彼女に抗う事は不可能では無いが、酷く非効率だ。こんなところで戦う必要は無い。
「んー、どうしたのお兄ちゃん。そんな顔して」
目の前で端正な顔立ちをした幼女が俺を見て不思議そうな顔をする。頭から垂れる艶やかな黒髪が揺れ、黒曜石の様な瞳が俺を覗き込む。
「……いや、別になんも無い」
若干震えながらそう答える。気持ちが顔に出ていたのだろうか。流石に勘弁して欲しい。なんでこいつがここにいるんだよ。
「そう?それにしては顔が引きつってるけどね」
「……大丈夫だ。それより、なんでお前がここにいるんだ?人に召喚されないと世界には出て来れない筈だろ。ましてや大悪魔なら世界の縛りはキツい筈だ」
内心震えながらサリアに堂々と問う。悪魔などはその力の強大さ故に自由に世界を出入りすることができない。人間から召喚陣を描かれ、入口を作られた時のみ自由の身になる。だが大悪魔などは滅多に現れることは無い。それは大きな代償が必要なのも理由の一つだが、彼らが自らに誇りを持っているからだ。矮小な人間如きに呼ばれて素直に向かうのは精々中位悪魔程度だ。もっとも、目の前の幼女の様な例外はあるが。
「……ふーん、やっぱりわたしを知ってるんだ。何で知ってるんだろ」
「いや、お前は思ってるより人間の間では有名なんだよ。お前は自分が幾つの国に干渉して滅ぼしてきたのか覚えてるのか?」
「うーん、覚えてない!」
『……こいつ、イカれてますね』
サリアは無邪気に顔を歪めて笑った。
サリアはゲーム開始時点で既に約十個程の国を滅ぼしているらしく人類の間でもかなり彼女に対しての認知は進んでいる。そりゃ国家元首を殺せば嫌でも有名になるだろう。
「……まぁいいや。わたしがなんでここにいるのかだっけ」
サリアは気を取り直して口を開いた。
「そうだね、お兄ちゃんも見たでしょ。あのおじさん、あの人が理由だよ」
「……あの?」
「さっきお兄ちゃんが倒してたあの人だよ!わたしと契約してたの!あの人」
「……ん、もしかしてあれか?」
そう言って先程倒した黒焦げの人型を指さす。既に『彼女』が込めた光によって焼かれたあれは生前の姿すら分からないが、元は犯罪者だ。しかも、最後には悪魔と契約していた。
「そうそう!あの人に召喚されてね、力をあげる契約してたんだよ」
「あいつがお前を召喚したのか?」
「そうだよー、何だか強くなりたそうだったから契約を結んであげたの。良い感じの供物もあったしやってもいいかなって」
そう言ってサリアはニコニコと微笑む。彼女の笑みは子供の無垢な笑みだったが、その奥には邪悪な本性が見え隠れしている。
おそらく、契約を結んだ時点で彼女はあの犯罪者を見捨てる気しかなかったはずだ。契約と言いながら完全に不当な内容の物で、当然クーリングオフは効かない。とんだ詐欺師だ。しかも多分戦った感じ力も言うほど与えていない。精々彼女の爪先のカス程度の力だろう。いや、それすらも無いかもしれない。
そんな中で、俺は気になることがあった。
「……なぁ、お前。最近他の人間とも契約してないか?」
そう、最近の悪魔憑き騒動。犯人の正体は日本国に混沌を齎したい他国の工作員かと俺は考えていたが、目の前の化け物を見て思い出した。神秘こそ、人類に損害を齎す物だという事を。
目の前の悪魔は、まさにこれに当てはまる。人々の混乱を好み、悪意を持つ。その中でも死天サリアは別格にイカれている。塵芥のような人間に力を与え、その足掻く様や死に様を楽しむ。まるで映画を見るように人死を娯楽として捉えているのだ。
俺の言葉を聞くとサリアは悪戯っ子の様に笑った。
「そうだよー!よくわかったね、やっぱりお兄ちゃんは凄いなぁ!」
「……」
やっぱりか。
だが、だとしたらかなり面倒な事になる。出来れば辞めさせたいのだがサリアが言う事を聞くとは思えない。自由な気風な彼女が矮小な人の言葉を聞くわけが無いのだ。ましてや神秘の才能の気配すら感じさせない俺ならそうだろう。
だがまぁ、言って見なきゃ分からない。億が一に可能性もある。ほぼねぇけど。
「……なぁ、出来れば道端の適当な人と契約するのを辞めてくれないか。いや、出来ればでいいんだが――――」
「うん、いいよ!」
そんな予想と反して、サリアは意気揚々と肯定の意志を示した。
「は、ほんとか?」
「いいよ。だって雑魚と契約しなきゃいいんでしょ。全然おっけー」
聞き返したが、やはり返事は変わらない。正直意味が分からん。ゲーム時代の彼女ならこんな俺如きの言う事なんて聞くはずがない。もしや現実に変わったことによってバグでも起こったのだろうか。
混乱していると、ふとサリアの顔が視界に入った。
彼女は何故か、不気味に笑っていた。子供の様な小さな口の端を歪め、視界に俺を捉えていた。
ああ、嫌な予感がする。寒気がする。俺の事を地獄で生かせてきた勘が言っている、これは面倒な事になると。
「でも、代わりにやって欲しいことがあるの」
「……なんだよ」
サリアが口を開く度に冷や冷やする。この邪悪がどんな事を言うのか見当すら付かない。
彼女が思わずと言った様子でにやけ、口を開いた。
「その代わりにね、わたしと契約して欲しいの!」
「……」
『……は?』
サリアの言葉が空間に広がり静寂に響く。幼女の美声が言葉を紡ぎ、確かにそれは俺の耳に届いた。だが言葉の内容が最悪だった。今、契約して欲しいと言ったのか?
俺からの反応が無いことにサリアは首を傾げる。
「ん?聞こえなかったの?あのね、わたしと――」
「いや、聞こえてる」
「そう、なら良かったぁ。じゃあ早く契約してよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか!まだどうするか決めてないんだよ」
「むぅ……分かったよ、でも早く決めてね」
サリアは頬を膨らませて可愛らしくそう言った。
その隙に俺は思考を始める。今、彼女は確かに契約して欲しいと言った。それは間違いない。
やべぇかもしれん。こいつに目をつけられたら今後かなり面倒だ。ボロ雑巾の様に使い捨てられるのはまだマシで、最悪だと彼女の永遠の奴隷になってしまう。それは死ぬよりも避けたいことなのだ。
「……いやー、やっぱりそれは少し難しいかもしれないな」
『そうです!こんな汚くて穢らわしい悪魔なんかとご主人様は触れられません!』
頭に彼女の声が響く。彼女は断固拒否といった様子で騒いでいる。それは彼女の種族を考えれば当然なのかもしれない。悪魔と彼女の相性は水と油のような物で、決して混じり合う事はない。
「……なんで?わたしと契約すれば力をあげるよ、しかも凄く強くなれるんだよ!」
「別にいらないな、強くはなりたいがお前に助けを求めるほどじゃない。それよりも、何で俺と契約したいんだ?他にもやらせたい事はあるだろ」
俺なんかと契約するよりも有意義なことはある筈だ。そう思い聞いたが、サリアは首を振った。
「ううん、お兄ちゃんと契約したいの。だって、凄く綺麗だから」
「……綺麗?」
こくりと、サリアは頷いた。その目は何処か熱に浮かされているようだった。
「さっきね、わたしお兄ちゃんとあの男が戦ってたのを見てたの。物陰からこっそり見てたんだけど、本当に凄かった!」
まるで英雄譚を語る様に言葉の節々に心を込め、サリアは漆黒の瞳を俺に向けた。その目は、底なし沼のようにドロドロとしていた。
「綺麗だったの、お兄ちゃんが戦う姿が。無い力を何とか人間の兵器で補って、義足を懸命に動かして、それでもゴミクズみたいな悪魔に立ち向かうのが綺麗だった。直ぐにわたしと契約を結ぶカスみたいなあの男とは違って、ちゃんと命を振り絞ってたのが凄かったの」
だからね、とサリアは続ける。
「わたしの物になってほしいの。ずっとずっと、永遠にお兄ちゃんを手元に置いておきたい。出来れば魔界まで付いてきて欲しい」
「……」
「大丈夫だよ!あんなゴミ男と結ぶ契約じゃなくて、結構力を上げるちゃんとした契約を結んであげるから安心してね。勿論、期限が過ぎたらわたしの所に来てもらうけどね!」
そう言ってサリアは笑った。それは、れっきとした邪悪な悪魔が笑っているように見えた。
「……」
『……やばいですね。ちょっと尋常じゃないです』
何でここまで気に入られるんだよ。聞いた感じ、ゲーム時代の主人公レベルで好感を抱かれてるみたいだ。理由もよく分からないし、勘弁してくれよ。俺は平穏に生きたいだけなのに。
「……すまんが、お前の期待には添えない。契約は結べないな」
「えー……」
サリアは肩を落として顔を俯かせた。かなり落ち込んでいるらしいが、流石にこれは受け入れられない。
「今の俺には要らないんだ。いくら俺に才能が無かろうと、それはお前との契約に縋る理由にはならない。楽な道に逃げるのは必ずしも良い事じゃないだろ」
目先の力を追いかけて落とし穴に嵌るのは勘弁してくれ。まだ自由に生きてたいのだ。それに、まだ俺は強くなれる余地を残している。他の四肢のサイバネ化、さらなる薬の投与、最新鋭兵器の搭載など、未だやっていない事は多い。それらをやり尽くした時、やっと悪魔との契約も視野に入るだろう。『彼女』が騒ぐのでどうせやらないだろうが。
「……そっか」
サリアは俺を見て、そっと呟いた。
「うん……うん。分かったよ、そこまで言うなら仕方ないなぁ。お兄ちゃんと契約を結ぶのは諦める」
「……それなら良かった。じゃあそれ以外で俺に出来ることならやるから、他の人と契約するのは辞めてくれないか」
また力を欲している不審者と契約されては溜まったものでは無い。サリアを呼び出すにも相応の供物が必要だろうし、それを求めて犯罪が起きては困るのだ。
「いや、そんなのいらないよ。もう簡単に人間と契約するのは辞めるね」
「……え?そうなのか?」
「うん!もういいかなって思ったの。あんな汚い人達じゃ満足出来ないだろうし」
「……満足?」
何故か素直なサリアに困惑しながらも、彼女が良いならいいだろうと思った。何だか不穏な言葉も聞こえたがきっと気の所為だろう。どうせ酷いことにはならないはずだ。
「じゃあ俺はそろそろ仕事の報告をしないといけないから行くわ」
「うん、じゃあねお兄ちゃん!まだ会おうねー!」
もう会いたくないです……。
ぶんぶんと手を振るサリアを尻目に俺は戦闘で滅茶苦茶になった土地から歩き出した。
■
「うーん、どうしよう。どうしたらお兄ちゃんと契約出来るのかな」
黒い髪を伸ばした幼女は、深夜、戦闘によって荒れ果てた土地で佇んでいた。既に空には月が昇っており、辺りには月明かりが照らしていた。
「……やっぱり、欲しいなぁ」
あれ程綺麗なものは、彼女は今まで見たことがなかった。彼女にとって人間とは容易く楽な道に逃げて、欲に負ける愚かな生命だった。でも、彼は少し違って見えた。
「綺麗だった」
まるで宝石の如く、照りつける太陽の如く、光を放っていた。その戦いぶりが輝いていた訳ではない。彼の在り方が普通では無かったのだ。
身を削って、大事なものを捧げて、心さえ変えて、それでも生きたいと叫ぶ様な彼の体は芸術品のように輝いて見えた。彼は何処まで行くのだろうか。次は腕を削るのか、足を変えるのか、神経を強化するのか、想像するだけで身震いする。
「欲しい、欲しいなぁ」
どこまでも純粋な彼の気持ちは、汚い人々の欲望に触れてきた幼女の心に突き刺さった。生きるのは生物の原初の願いであり、須らく全ての生命が望むべし。それ故に彼は人間という生物を体現しているとも言える。
「あはは、でもいまじゃないね。まだ待ってもいいかな」
そう、彼と契約するのは今じゃなくていい。彼が望んでいないのもそうだが、何より未来の彼と契約するのもいいと思っているのだ。
果たして、彼は未来でどうなっているのか。極まった彼の願いは何処まで続くのか。そして続いた先の未来、彼はどんな姿をしているのか。多分、それはきっと――
「綺麗だろうなぁ」
幼女は、死天サリアは来たる未来に思いを馳せて笑った。
どこまでもただ一人に狙いを定め、混沌を望みながら。
割と主人公も頭おかしい寄りではある