近未来ファンタジーなゲームに転生したと思ったら俺が転生したのはモブだった   作:科学と魔術ってロマンでしかない

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みじかめ


第六話 東京遭遇

 

 「ん……」

 

 深い微睡みの中、意識が浮上していく。重い瞼を開けると、そこには東京にある自宅の寝室の天井があった。白い無機質な天井は朝夜毎日見ているものだ。

 

「今は……八時か」

 

 壁に立て掛けられた時計を見て時間を把握する。どうやら、未だ時刻は朝の様だ。カーテンから差し込む光が眩しい。

 

 このまま時間を無駄にするのもあれなので、ダルい体を解して立ち上がり朝の支度を始める。

 

「んーどうしようか」

 

『おはようございますご主人様。今日は休みですが、本日の日程はどうするのですか?』

 

「まぁ久しぶりの完全な休日だしなぁ……」

 

 そう、本日俺は仕事が休みなのだ。これまでは午後出勤や夜勤など面倒な事が多かったが、それとは完全に違う。一日丸ごと空いている。

 

「でもなぁ……マジでやることねぇわ」

 

 だが正直やる事が思い付かない。前世の頃はネットでゲームを買い漁ったりしていたが今世ではしてはいない。何故か趣味というのは一度途切れると腰が重くなってしまうなとつくづく思う。

 

『なら、一度外に出ることをおすすめします。何か外の物を回っていれば気分転換にもなるでしょうし』

 

「外か……うーん」

 

『ここ最近は厳しい任務続きだったので丁度良いと思います。それに……わ、私も居ますしね』

 

「んまぁ……悪くないんだよな」

 

 そう、悪くはない、寧ろ前向きに検討できる範囲だ。技術が発達したこの世界の東京ならより面白い物が揃っているだろう。

 

 だが、俺には渋るだけの理由があった。

 

 何故と言うと、東京を歩いているとどんな厄ネタに遭うか分からんからだ。主に首都東京は原作の舞台となる地だ。俺が想像すらしていない奴に遭う可能性も否定できないし、仕事ですらない私生活で面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 

 だが

 

「うん……うん。まぁ大丈夫だろ多分」

 

 このところ任務続きで気が詰まっていたところだ。これからの戦いに備えて休息を取るのもありだろう。せっかくの休日を家で潰すのも勿体ない。

 

 そう言い訳してさっさと支度する為に部屋を歩き回る。やはり休日というのは良いものだと実感できる。最近はやばい奴らと会いすぎて色々疲れたわ。ここらでリフレッシュするのも必要だ。

 

「よし、そうとなればさっさと行くか!」

 

『はい、ナビは任せてください。電子機器と魔力ラインを繋げてサポートさせていただきます』

 

「ありがと、久しぶりに遊ぶなぁ……楽しみだわ」

 

 そう言って俺は玄関の扉を開き、外に歩き出した。

 

 

 ■

 

 

 やっぱ出なきゃ良かったわ。

 

 今、俺は心底後悔していた。

 

「おや、どうしたのですか。そんな苦しそうな顔をして。まるで目の前に嫌なものでもあるみたいじゃないですかぁ、ねぇ?」

 

「は、はは……いやぁ、そんな事ないですよ」

 

 ひきつる頬を抑え、目の前の銀色の少女にそう答える。気のせいか先程口に入れた昼食の味がしない。

 

 何でここにいるんだよ……意味わかんねぇよ……

 

「ふふ、そう緊張しないでください。今は仕事ではないので楽にしてもらって大丈夫ですよ」

 

「そ、そうすか。ありがとうございます」

 

「いえいえ、私も如月と共に昼食を取れることは嬉しいです。やはり、貴方は特別ですから」

 

 そう言って笑う彼女はやけに妖艶で、瞳に俺だけを映していた。思わず身震いしてしまい手に持つ食器が震える。緊張と恐怖で食欲がすっかり引っ込んでしまい、今はただ机にある料理を眺めるだけだ。折角の休日なのに胃が痛い。

 

 なんで……こんな事に……

 

 俺は痛む胃を抑え、何故こんな事になったのか振り返り始めた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 前世ぶりにしっかりと見る東京は随分記憶とは違って見えた。そりゃゲームの世界だから当然ではあるのだが。

 

 多種多様な人々が溢れる雑踏の中を歩き、天に聳えるビル群を眺める。ホログラムによって虚空に映し出された巨大な広告映像は、大手企業の宣伝映像が絶え間なく流れていた。行き交う人々はスマホでは無く簡易的なデバイスで通信を図っている。

 

 街には煌びやかな店が建ち並び、様々な流行の物を売っている。休日だからか人々も多い気がする。

 

「んと、この先には……電子機器専門店と……服飾系の店があるのか」

 

『はい、詳しく言うと電子機器の方は軍用に調整された物も販売されています。服飾の方は一般的な着飾る事を目的にした服が売られています』

 

「なるほど、うーん……電子機器の方に行くか。仕事でも使えそうだし」

 

『……分かりました。では、この道を真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がってください』

 

 彼女の案内に従い、人混みを歩く。もはや便利道具扱いをしてしまっているが許してほしい。だって便利だから仕方ないだろう。

 

 そのまま歩いて右に曲がると、道の奥の方に大きな看板を掲げた店があった。看板には電子機器の写真が見え、それが目的地なのだと認識できた。投影された映像には人受けが良い人間が笑顔で映っている。

 

 歩みを進めて店の前に立ち、扉を開ける。中に入ると機械製品特有の寂れた匂いがした。中にはある程度の人々がおり、それぞれのニーズに沿った商品を見ている。

 

「お、中々いいのが揃ってるじゃないか」

 

 中を歩き回っていると、情報通り軍用の商品が揃ったコーナーを見つけた。近づいて商品を見てみるがが中々どうして悪くない。おもむろにその内の一つを手に取って観察する。黒々とした光を放つそれは、何処か不気味な形をしていた。

 

『それは……東坂工業の第四世代空間認知デバイス、雲龍ですね。キャッチコピーは”あなたに空想の世界を”』

 

「中々洒落てんなぁ、見た感じ性能も悪くない……でも高ぇわ。俺の持ってるやつより全然何倍も高いわ。それなら今のままで良いな」

 

 空間認知デバイスとは、文字通りの意味で人間の空間把握能力をサポートする電子機器だ。主に頭にぶっ刺して使うので手術をしていなければ付けてもまともに効果は発揮出来ない。だからこんな店に置いているのだろう。

 

 空間認知デバイスを装備に付けると戦闘のしやすさが段違いだ。一ミリのズレもなく弾丸を発射でき、相手の銃口の角度すら精細に認識できる。頭をいじくったかいがあるというものだ。

 

『まぁ……空間認知デバイスは副作用もありますけどね。装備者の自己の完全性を失わせ、自我の崩壊を齎す。そんな例が幾つか確認されています』

 

「まぁ人間の感覚に異物を割り込ませたらそうなってもおかしくは無いわな。なんたって感覚を強制的に覚醒させんだから。つーかこんなん置いてるこの店やばいな。一般人じゃ簡単に使えないとは言え」

 

『……そんなものを日常的に使ってるご主人様は一体何なのですか』

 

「……?だって、俺は俺だろ。ずっと俺は地続きの魂で生きてるからな。そこに崩壊なんて無い」

 

 これは転生者である俺にしか理解出来ない感覚だろう。肉体に縛られた常人ではなく、魂を渡ってこの世界に来た俺しか分からない。

 

 肉体と精神は強く結び付いている。どちらかがバランスを崩せば必ず不調が現れる。そこで、肉体を無理やり外部の力で変容させたらどうなると思う?当然精神にも影響が及び、最悪の場合自我の崩壊まで至る。

 

 だがそんな例は俺には当てはまらない。

 

 俺は魂こそが人の本質であると分かっている。だから肉体の変容程度では俺の意識はビクともしないだろう。たかが入れ物の不調で魂は揺るがない。

 

『……それこそが、貴方がこの世界で生き続けている理由なのかも知れませんね』

 

「お、褒めてる?」

 

『微妙な所です。褒めてもいますし、貶してもいます』

 

「なんじゃそりゃ」

 

 少し笑いながら商品を眺めていく。やはり先程の装備と同様、棚には優秀な性能をした装備が置かれていた。これが東京の普通なのだろうか、と少し疑問に思いながら商品を吟味していく。

 

「これ良いな。安いし性能も良いしコスパ最高」

 

『良いですね。その種類の機器は替え時だったので丁度良いです』

 

「成程、じゃあ満足したし会計行ってくるわ」

 

 結果、幾つかの戦利品と共に店を出ることになった。だいぶ高かったが、戦場で使う事を念頭に置いたものだったので納得は出来る。命に金を掛けるのは重要な事だ。金はあの世まで持っていく事は出来ないからな。

 

「時間は……まだ昼か。そういえば飯食ってねぇな」

 

『昼食に良い店でも調べますか?』

 

「宜しく頼む。あー腹減った」

 

 この時間では人気な店は人で溢れているだろう。いい感じの空いてる店で静かに食べる事が出来れば良い。有意義な休日を送ることが出来そうで、俺は何処か満足していた。

 

 これから、厄災に出会うともに知らずに。

 

 

 

 ■

 

 

 

「この先か?」

 

『はい、この道を真っ直ぐ進んでください。そこの右にあります』

 

「了解。腹減ったわマジで」

 

 彼女の案内に従い、人で混み合う街路を歩く。時刻はまさにお昼時で腹を空かせた社会人や学生で溢れており、人にぶつからないように避けて歩く。どれだけ技術が発達しても、ここは変わらないと感じて少し安堵した。

 

 そうして目的地に近付いてくると、自然と足が重くなってきた。徐々に気分が重くなり、汗が垂れる。

 

「……」

 

『どうかしましたか?まさか、気分が悪くなったりしましたか』

 

「や、なんか……嫌な予感がするんだよ」

 

 虫の知らせというのか。何故か先程から嫌な予感が止まない。俺は自分の事を勘のいい人間だと自覚している。だからこそ、この勘が伝える何かに怯えている。ここまでの物は、戦場で荷電粒子砲に狙われた時ぐらいだった。

 

「……本当にその店大丈夫なんだろうな」

 

『私の検索結果を疑うのですか!?間違いなく一般的な料理店ですよ!口コミも好評でした!』

 

「ほんとかなぁ……」

 

『信じて下さい!』

 

 心労を抱え歩いていると、いつの間にかその店とやらに着いていた。

 

 だが、嫌な予感とは裏腹に外から見た感じでは普通のお洒落な料理店だった。中にも普通に客は入っているし、従業員にも不審な様子は見当たらない。

 

「なんだ……全然大丈夫だったわ」

 

『当たり前ですよ!私を疑うとはご主人様も落ちたものですね!』

 

「すまんすまん」

 

 抗議を軽く流して店に近づいて行く。それでも嫌な予感は収まらない。ここから早く離脱しろと本能が警鐘を鳴らしている。だがここまで来て帰る訳には行かないので、予感を振り切り店に向かう。途中で店の隣にある道も視界に入った。

 

「うーん、中はどんだけ混んでるか――――」

 

『……?どうしましたか』

 

「……」

 

 思わず口を閉ざし、目線をずらす。多分、見てはいけないものが見えてしまった。

 

 いや、多分人違いだ。ここにあの人が居るわけない。だってあの人は一応部隊のトップなんだ。

 

 そう思い込み、もう一度確認の為に目を向ける。

 

「……」

 

 変わらず、そこには街路の途中で歩きながら俺に手を振る少女が居た。

 

 銀色の髪を伸ばした美しい少女は、俺に上品な微笑を向けている。身につけた上等な衣服は、彼女がそれなりに稼いでいることが分かった。

 

 それはまさしく日本の特殊神秘制圧部隊の隊長、神楽 雫その人だった。

 

 

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