虚実の方舟:Re   作:Oh my PC

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第二章:方舟のアポカリュプシス編
予兆


 

「連中の動向は?」

 

「それが……どうやら、シャーレへの協力を取り付けたようです」

 

「ふむ…シャーレか」

 

 連絡員の言葉に、高級なスーツに身を包んだ人物───カイザープレジデントは、顎に手を当てながら呟いた。

 日本政府の警察組織がDU地区以外への干渉権を有していない事を見越しての計画だったが、超法規的組織であるシャーレが出るなら話は別だ。

 

 あらゆる利権的障害を無視して権力を行使する事が可能なシャーレなら、簡単に裏にカイザーコーポレーションが居ることを特定されるかもしれない。

 アビドスでの理事長の一件があった後だ。

 迂闊に行動するにはリスクが高すぎる。

 

「……計画は一旦中止だ。シャーレとニホン政府が落ち着くまで、下手な行動は控える」

 

「了解しました。では…?」

 

「アビドス砂漠の例の件を進めろ。必ずや古代兵器(・・・・)を見つけ出すのだ」

 

 プレジデントがそう言い放った直後。

 碌なノックすらされず、扉が乱暴に開け放たれた。

 

「た、大変ですっ!! プレジデント!!」

 

「何があった?

 

「あ、アビドスの調査部隊に───」

 

「落ち着け、冷静に説明しろ」

 

 異常な興奮状態にある部下を宥めながら、事情を伺う。

 部下はプレジデントの冷静な物言いに少し頭が冷えたのか、少し間を開け、息を大きく吐いてから話し始める。

 

「は、はい。先ほど、アビドス砂漠の調査部隊が砂漠中部での異常な磁場の乱れを観測しました。それだけなら良いのですが……どうやら、その磁場の乱れが癪に触ったのか、例の怪物が…」

 

「……ビナーか」

 

「はい。過去類を見ないほどに興奮状態になったと見られており、甚大な被害を撒き散らしながら砂漠を暴れ回っています!」

 

 プレジデントは頭を抱えながらも、冷静に分析にする。

 あれほどの怪物が本気で暴れたとなると、対デカグラマトン大隊だけでは戦力的に心許ない。

 

 そして、気になる点がもう一つ。

 

「君、先ほどビナーが休眠状態から目覚めた理由について『磁場の乱れ』と言ったな?」

 

「ええ、それがどうかしましたか?」

 

「D.U.地区にワームホールが出現した時。その時も、大規模な磁場異常を検知した筈だ」

 

「ま、まさか────」

 

「ククク。これは面白いことになってきたな。この磁場異常は連邦生徒会も察知している筈、急いでビナーを排除して調査に当たれ。戦力の出し惜しみはするな」

 

「り、了解です!!」

 

 プレジデントの言葉に、部下はそう返し、急いで部屋を退出した。

 

 

 

 

『F中隊壊滅!! 装甲車、戦車共に全滅しました!!』

 

『B中隊、消耗が激しい為撤退します!』

 

 アビドス砂漠中部──

 まばらに点在する廃墟の間を抜けた先、荒れ果てた砂の平原は、まさに地獄絵図と化していた。

 

 カイザーPMCが編成した対デカグラマトン大隊と、第三セフィラ──ビナーとの戦闘は既に大規模な蹂躙戦へと様変わりしていた。

 

 熱波で捻じ曲げられた戦車。爆風に吹き飛ばされたヘリの残骸。

 黒煙が空に爪痕を刻み、爆ぜた金属と燃えた油の臭いが大地を這っていた。

 

『こちらガンマ3。移動型電磁誘導砲、発射準備完了。いつでもいける!』

 

『アルファ1了解。標的の頭部に照準を合わせろ、回避の隙を与えるな!』

 

 砲身が静かに振動し始める。電磁駆動の軸から青白い放電が迸り、空気が痺れた。

 周囲の兵士たちが固唾を呑んで見守る中、砲塔の口がビナーの“顔”に向かう。

 

 だが、その高エネルギー反応を、ビナーが察知しないはずがなかった。

 

『敵、熱線チャージを開始!!』

 

『全火器、集中砲火開始! 撃たせるな、止めろッ!!』

 

 戦車部隊が一斉に砲撃を始める。

 衝撃波が地面を揺らし、閃光がビナーの顔部を包む。金属の甲殻が火花を散らし、熱線チャージの光が一瞬鈍る。

 

「……い、今しかない!」

 

 砲手がモニターに浮かんだ【チャージ率100%】の文字を見て、叫ぶ。

 

『電磁誘導砲Mk.II──発射ッ!!』

 

 大気が一瞬押し潰されるような低音とともに、鋼鉄の砲弾が光の壁を突き破って発射された。

 音速を超える破壊の塊は、逃げ場のないビナーの顔面へ直撃する。

 

「やったか……!?」

 

 指揮官が双眼鏡を握りしめ、砂煙の向こうを凝視する。

 周囲に漂う静寂と砂塵。空気が一瞬、重く、止まったようだった。

 

 だが──

 

『ぎゃぁぁぁあああああッ!?』

 

 砂塵を切り裂いて放たれたのは、灼熱の光線。

 ビナーの開口部から放たれたオレンジの熱線が、地面を薙ぎ払い、兵士も砲台も、文字通り溶かしていった。

 

 A中隊──壊滅。

 切り札だったはずの電磁誘導砲──消失。

 

 指揮官は声を失い、がくがくと震えながら双眼鏡を取り落とした。

 落下した双眼鏡が、砂の地面に転がる。

 

「ば、化け物め……」

 

『こちら大隊本部、ビナーへの攻撃は失敗! 電磁誘導砲の効果認められず、戦力はほぼ壊滅状態!』

 

 無線越しの叫びは、絶望そのものだった。

 

 ビナー。

 かつてのそれとは、まるで異なる存在に変化していた。

 

 かつては不定期に出現し、何かの拍子で暴れるだけの存在。だが、今回は違う。

 怒り──あるいは目的を持っていた。

 

 従来の火力投射では押し返せていた。だが今回は、

 熱線の発射速度は異常なほど速く、背面の垂直ミサイル発射機(VLS)はフル稼働、さらに全身には常時展開された電磁シールド。

 

 さらに──上空を飛ぶ無人偵察機や、周辺を飛ぶ渡り鳥すら攻撃対象に含まれていた。

 

 まるで何かを“探している”ようだった。

 

 そのとき、ビナーが突如として方向転換する。

 顔部を大きく旋回させると、重低音のような咆哮を上げ、爆発的な推進音とともに砂漠の奥へと姿を消した。

 

『……ビナー、撤退しました』

 

「何なんだ……何がしたい……アイツは……ッ!!」

 

 指揮官が自暴自棄のように叫ぶ。

 部下をほぼ全滅に追い込み、勝利したかと思えば、そのまま撤退。理屈も、感情も、読めない。

 

 だが彼はまだ知らない。

 今ここで終わると思っている“異常事態”は、まだ序章に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカ合衆国 テキサス州クロード郡

 

 テキサス州北部、都市アマリロから少し外れた場所にある、小さな街。

 人口わずか2000人。ガソリンスタンドとモーテルが数軒、州道沿いに連なる、ありふれた田舎町。

 

「ん? ……おい、なんか揺れてねぇか?」

 

「どうせまたダンプ車の振動だろ、気にすんなって」

 

 昼間から酒を煽っていた男たちは、最初は笑っていた。

 だが、グラスが揺れ、天井の照明が微かにきしみ始めた頃──誰もが異変に気づく。

 

「……いや、これはダンプの振動じゃねぇ」

 

 揺れが強くなる。グラスが倒れ、テーブルが軋む。

 立っていられないほどの横揺れに、店主が青ざめた顔でカウンターから身を乗り出した。

 

「全員外へ! 地震かもしれん、すぐ避難を──」

 

 その瞬間だった。

 

 白光。

 轟音。

 そして──静寂。

 

 ルート40沿いにあった街が、地図から忽然と消えた。

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