──ホワイトハウス 大統領執務室
深夜、東海岸。
歴史ある机を挟み、合衆国の命運を握る男たちが集っていた。
話題はひとつ──
クロードを消し飛ばした白き機械生命体の討伐について。
「つまり、あの怪物は空軍の飽和攻撃で倒せると……そう考えているのだね、国防長官?」
テーブル越し、大統領が重く問いかける。
「はい。現時点の戦果報告では、ストライカーMGSによる105mm砲の攻撃がシールドに明確な亀裂を生じさせています。火力次第では突破可能です」
国防長官は、机の上に並ぶ複数の衛星写真とレーダーデータを指差した。映っていたのは、テキサス北部に静止し、地表をえぐりながら蠢く白い龍の姿。
出現から4時間。
ビナーは現地に留まり、周囲数キロの地形を破壊し続けていた。
既にテキサス州兵・第142歩兵連隊第2大隊は全滅。第940航空団の無人機も、すべて熱線によって撃墜されている。
「……このまま放置すれば、オースティンか、最悪ヒューストンに向かうかもしれない」
国家安全保障問題担当大統領補佐官が、鼻筋を指で抑えながら言う。
「移動を始めれば、損害は都市規模では済まない。──合衆国史上、最悪の災害になる」
大統領はしばし沈黙したまま、指先で机を叩いた。
やがて、冷たい声で問いかける。
「……ヤツは、どこから来た?」
その言葉に応じたのは、国防長官の隣に座る、白衣の男だった。
「我々の技術、兵器体系には一致するものがありません。おそらく、この世界の存在ではないと断定できます」
そう言って、彼はプロジェクターを操作した。
壁に映し出されたのは、エリア51の磁場観測データだった。
「こちらをご覧ください。ビナー出現と同時刻、ネバダ州ホーミー空港近郊で観測された磁場の乱れです」
映し出されたグラフは、まるで爆発のように波形が跳ね上がっていた。
「これは……磁場が崩壊しているのか?」
「一時的な異常拡張です。発生と同時に正常値へ戻りましたが……それでもベースラインからは逸脱しています」
「つまり──あれはゲートから来た異物だということだな?」
国防長官が静かに呟く。
大統領が椅子に背を預け、口角をゆっくりと吊り上げた。
「“向こう側”の存在か。なるほど……良いじゃないか」
「大統領、如何なさいますか?」
「もちろん──破壊が最優先だ。完膚なきまでに叩き潰せ」
そして、机上のインカムを取り上げ、次の命を下す。
「国防長官。第2海兵師団をノースカロライナから移動させろ。ホワイトドラゴンが片付いたら、すぐに現地に進駐させる」
「第2海兵師団を……了解。即時展開を手配します」
「もはや日本に遠慮する必要はない。
米大統領は悪びれる様子もなくそう言い切った。
「それと、日本経由で連邦生徒会に照会を。あのホワイトドラゴンがどういう存在で、何者が作り出したのか、可能な限りの情報を引き出せ」
その命令をもって、アメリカ政府は龍の討伐を決断した。
◆
──ネリス空軍基地 CHUMLF本部(未確認機械生命体対策司令部)
「作戦の概要は単純だ──圧倒的火力で捻じ伏せ、破壊する」
会議室の中央、総司令官が言い放つ。
集まったのは陸・海・空・海兵隊の作戦幕僚と将校たち。
目の前のスクリーンには、各戦力の配備状況と火力投射計画が映し出されていた。
●
○テキサス州兵
・第36歩兵師団
→第56歩兵旅団戦闘チーム
→第72歩兵旅団戦闘チーム
→第36師団砲兵隊
→第36戦闘航空旅団
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○第10空軍
・第301戦闘航空団
・第419戦闘航空団
・第442戦闘航空団
・第482戦闘航空団
・第917航空団
○
・第2爆撃航空団
・第7爆撃航空団
・第509爆撃航空団
・第91ミサイル航空団
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○第2艦隊
・第20任務部隊
・第21任務部隊
・第28任務部隊
●
○第2海兵遠征軍
・第2海兵航空団
以上が、今回の作戦に投入される米軍の戦力であった。
「作戦はこうだ」
総司令官が力強く拳を握り、机に振り下ろす。
「まずは海軍の駆逐艦部隊が、まずトマホークを投射。次いで空軍爆撃機群がB-52からJSOWを発射。この時点でヤツは迎撃を始めるはずだ。そこに戦闘航空団が突入し、空対地ミサイルによる飽和攻撃を実施。仕上げに、州兵砲兵隊のMLRSと榴弾砲部隊が陽動を継続しつつ、第2波の巡航ミサイルで畳みかける──これが『
司令部の空気が一気に緊迫する。
そのとき、通信室からの内線が鳴った。
受話器を取った総司令官の顔がわずかに変わる。
「……なるほど。了解した」
将校たちの視線が集まる中、司令官は低く告げた。
「たった今、ペンタゴン経由で情報が入った。あの存在はビナーと呼ばれ…異世界では神に等しい兵器だそうだ」
たった一言で、場に沈黙が落ちる。
しかし──司令官は、口元に笑みを浮かべた。
「神か……なら、俺たちは神殺しになる。合衆国に不可能はない。見せてやれ、“我々の神話”を!!」
12月7日。
米軍が『神殺し作戦』を発動したその日──世界は、新たなフェーズへと突入した。