虚実の方舟:Re   作:Oh my PC

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グッドモーニング・アビドス

 

 ──アビドス自治区・南東縁辺、ゲート出現ポイント周辺

 

 砂漠にぽっかりと開いた穴──

 それは地球とキヴォトスを繋ぐ、新たなゲートだった。

 

 空間が歪み、まるでそこだけを編集アプリで雑に別の画像を貼り付けたかの様な、異様な空間の裂け目。

 そこから姿を現したのは、USMC第2海兵師団・先遣偵察部隊。

 制式迷彩に身を包み、武装を整えた海兵たちが次々とゲートを通過してくる。

 

『全ユニット、着地確認。目標座標に到達、周辺に敵性反応なし』

 

『リコンチームからHQへ。周辺は低密度植生、砂漠地帯。小規模の廃墟を発見。通信、良好』

 

 隊長はゴーグル越しに辺りを見渡す。

 360度、茶色と灰色の世界。どこまでも続く砂丘と、風化しかけた建造物の残骸。

 

「──ここが、アビドス砂漠か」

 

 先遣隊の後方には、車列を組んだ装甲輸送車・HIMARS・工兵部隊のブルドーザー、そしてM777榴弾砲を牽引するトラック群が列を成していた。

 

 大規模な戦闘は想定していない。だが、もしもに備え、米軍は遠征基地の建設を最優先に進めていた。

 

『資材部隊、前進開始! 植生除去を急げ、30分以内にヘリポート敷設地点をクリアする!』

 

『こちら工兵小隊、発電ユニットの設置を開始。通信アンテナを5分以内に立ち上げる』

 

 素早く動く兵士たち。

 掘削機が地面を穿ち、仮設パネルが並べられ、トーチと溶接音が絶え間なく響く。

 

 開始から1時間足らずで、仮設基地の骨組みが立ち上がり始めた。

 大型パレット上には、コンテナ式の司令部・医療施設・無人機管制室が組み立てられていく。

 

 そこに、砂を撒き上げてCH-53が着陸。空輸物資と通信機器が降ろされる。さらにその後方では、M1A2エイブラムス戦車が空輸機から姿を現した。

 

 そして、やがて完成しかけの基地に一本の旗が掲げられる。

 

 50個の白い星に、青と白の横線──アメリカ合衆国の国旗である星条旗が、正式にアビドス砂漠に掲げられたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よこれ!! 意味分かんない!!」

 

 古びた教室を無理やり委員会室として使っている空間に、アビドス廃校対策委員会の一人、黒見セリカの怒声が反響する。

 机の上に開かれていたは、先日付近の住人により提供された一枚の写真。砂漠の一角に、米軍の軍用構造物が建設されていることが映し出されていた。

 

「これは…明らかに領土侵害です! アビドス自治区に対する不当な主権侵害としか思えません!」

 

 セリカの憤りに同調して、同じく対策委員会の一年生の奥空アヤネが叫んだ。

 

 確かに、連邦生徒会の公式声明やテレビのニュースを通じて、アメリカ合衆国という地球の国にビナーが出現し、多数の死者が出たことはこの場の全員が承知だ。

 だが、その国がなんの事前通告も無しに自分達の自治区に進駐し、あまつさえ武装した兵士を駐屯させるとは思わなかった。

 

 ただでさえ、カイザーへの借金返済で忙しいというのに。

 何故こうもトラブルばかりが生まれるのか。

 

「こんなの、許されるワケが無い! 力ずくでも追い払っちゃえば良いのよ!!」

 

 憤ったセリカが、机の脇に立て掛けられていた愛銃──シンシアリティを手に持ち、写真の米軍基地を指差し言った。

 

「そうですよ!! 先生に相談して、直ぐに立ち退いて貰うべきです!!」

 

「──ん。私ならいつでもやれるよ」

 

 対策委員会のメンバーが熱り立つ中、三年生の小鳥遊ホシノ一人だけが、神妙な面持ちで写真を眺めていた。

 

 相手は、自分達の正義を振り翳し、時には武力で無理矢理道理を押し通そうとする軍隊──悪い大人。

 これがカイザーなら、前の一件もあったし、直ぐにでも叩き潰していただろう。

 

 だが、相手はヘイローが無い人間のみでビナーを大破に追い込み、逃走させている。

 何をしてくるか分からない以上、迂闊に刺激することは、対策委員会の皆を危険に晒すこととなってしまう。

 

「……皆んな、落ち着いて」

 

 ホシノの冷静な声が、火の着いた彼女達の心に沁み、視線がホシノに集まる。

 

「皆んなの意見には半分賛成──まずは先生を呼ぼう。どうするかは先生と話し合わなきゃ、皆んなを危険に晒すことになっちゃう」

 

「じ、じゃあ何!? 今は私たちの土地に基地が建てられていくのを、黙って見てろって言うの?」

 

「……うん。悔しいけど」

 

 ホシノの意見に再びヒートアップするセリカへ、再びホシノが俯きながらも、そう応えた。

 その返答に、セリカは一瞬、言葉を詰まらせた。

 その眼差しには怒りと葛藤、そしてほんの少しの迷いが揺れている。

 

「……なんでよ。何で、私達が我慢しなきゃいけないの……」

 

 セリカが声を落としながら呟く。

 その様子を見たアヤネが、不安げに口を挟んだ。

 

「セリカちゃん……?」

 

「だって……私たち、ずっと頑張ってきたじゃない。借金返すために、必死に動いて……それでも、まだ……」

 

 言葉が震えた。

 こらえていた感情が、少しずつ溢れてくる。

 けれどその横顔を見て、ホシノは優しく微笑む。

 

「分かってる。私達は、もうずっと耐えてきた。でも、今ここで無理に動いて、何かあったら──それこそ、今までの全部が無駄になる」

 

 ホシノの言葉は、決して強くはなかった。

 でも、それだけに説得力があった。

 その静かな口調に、セリカは──ようやく頷いた。

 

「……分かった。でも私、絶対に納得してないからね! 先生がどう言うか、ちゃんと聞いてやるんだから」

 

「うん。それでいいよ。今は、それが一番大事」

 

 ホシノが微かに笑いながら言い、机に手を伸ばす。

 

 その瞬間、皆の視線が集まった。

 

「じゃあ、呼ぼっか。──先生を」

 

 静かな空気の中で、ホシノが端末を開き、モモトークを開く。

 表示されたのは、ただ一つの名。

 

【先生】

 

 画面を押す指に、迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──アビドス南部・カイザー拠点周辺

 

『前方に建造物群、機械式ゲートと熱源反応複数。民間施設の様式ではない』

 

『ライノ1-1より全隊へ、目標地点へ接近中。接触時は交戦を避け、映像と音声を記録せよ』

 

 M-ATVを先頭にした米軍の偵察部隊が、カイザーPMCの駐屯地へと向かっていた。空からはRQ-11レイヴンが旋回し、奇襲攻撃を警戒している。

 

 こうして進軍していた偵察部隊の前に、遂にカイザーPMCの基地の入り口が姿を現した。

 黒く塗装された高い壁にはサーチライトや自動砲座を始め、様々な設備が装備されており、その上には武装したPMCの兵士が巡回している。

 

 M-ATVの車列が門へと近づくと、警備兵の銃口や自動砲座の照準装置が一斉に車列へ向けられ、スピーカーを通じて警告が発せられた。

 

『ここはカイザーPMCの私有地となります。これ以上の前進は我が社に対する敵対行為と見做し、即刻攻撃を開始します』

 

 その警告に、米軍の先頭指揮官──海兵中佐が車内のマイクを手に取り、備え付けのスピーカーから言った。

 

「アメリカ合衆国は、当区域において異世界起源の脅威に対する自衛活動を展開している。貴社が現在活動している拠点について、情報開示を求める」

 

『要請は上層部に伝達しますが、現段階でお答えできることはありません』

 

 にべもなく断られる。だが、米軍もここで引くつもりはなかった。

 

「こちらは地球国家としての安全保障行動を行っている。現地の統治体制との協議中であり、付近に於ける武装勢力の展開を無視する事はできない」

 

『繰り返し申し上げます。我々は正当な手段を踏み此処に展開しており、貴方達と敵対するつもりもありません』

 

 スピーカー越しの睨み合いが数秒、続く。

 

 米軍側はM2機関銃を構えた兵士がM-ATVの上だ睨みを効かせ、カイザー側もまた、建物の屋上から複数のライフル銃の照準を向けていた。

 

「なるほど……これ以上は、現場で話すことでは無いようだな。後日、正式に交渉団をそちらに派遣しよう。そこで話を付けようじゃないか」

 

『……良いでしょう。我々も、交渉の準備は整えておきます』





なんだかこれでは、アメリカが身勝手なとんでもない暴論を振り翳すならず者国家に見えてしまいますね…

え?元からそうだって?
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