貯金を出し尽くしたので、毎日投稿は一旦今日で終了です。
「何? カイザー・コーポレーションと手を結ぶべきだと?」
「はい。日本政府経由で秘密裏に判明した砂漠に眠る未知の物質然り、そもそもアビドス砂漠周辺の状況を詳細に把握していない状態で現地勢力といきなり交戦に持ち込むのは危険だと考えます。それに、キヴォトスは住人が銃火器で武装しており、価値観からも相手を刺激すれば銃撃沙汰になりかねません」
ホワイトハウスの大統領室。
そこに訪れていた国務長官が、大統領にそう提言する。
提言と言っても、その声色と表情はもはや懇願に近いものであった。
相手は異世界であり、地球の国家を相手するのとは事情が違う。
そう訴えかけているようだった。
その訴え掛けに、大統領も少しは意思を汲み取ったのか、耳を傾けていた。
「それは重々承知しているさ、国務長官。だが相手はたかが企業だぞ? それに、キヴォトスでは悪評の大い企業だそうではないか。武力で彼らの土地を奪っても、力で黙らせてやればいいのではないか?」
大統領の傲慢で状況を把握していない物言いに、国務長官は頭が痛くなるように感じた。
コイツ、何も分かっていないじゃないか、と。
「……大統領。良いですか? カイザー・コーポレーションは悪名高い企業であると同時に、キヴォトス経済に高い影響力を及ぼす大きな存在でもあります。それに、カイザーの土地は同時にアビドス自治区の土地でもあるのです。仮にカイザーとの問題を解決しても、アビドス自治区と事を構える事になるのですよ?」
「ううむ、確かにその通りだが……キヴォトス経済が崩壊した所で、我々に何の害があるのかね? アビドス高校とやらと対立するにしても、連中の領土は死に体らしいじゃないか」
ゲートで繋がっている以上、経済が崩壊したら害しかないだろ!と叫びたくなる気持ちを押し殺し、国務長官は大統領に問う。
「ふぅ、仮に害が無かったとして、貴方はキヴォトスをどうするおつもりですか? 経済が崩壊するということは連動して自治機能が崩壊することと同定義──そんな場所に兵を送っても、地獄絵図が広がるだけです。例えるならば、イラクの数百倍の地獄です。分かりますか?」
続けて国務長官は、大統領に対して如何にキヴォトス勢力とのファーストコンタクトが大切かを語った。
流石の大統領も、国務長官の熱量に押されたのか、アビドス自治区の土地利権の話はともかく、カイザーPMCとの戦闘については相手方と協議して出方を伺う方針となった。
つまるところ、全部を敵に回すくらいならまだカイザー・コーポレーションをコチラ側に引き付け、アビドス自治区単体と関係悪化する方がマシ、と考えたのだ。
国務長官では既に決定しているアビドス砂漠での米国の利権拡大、という破滅へ進む道を阻止する事はできないが、損を少なくすることはできると云う訳だった。
彼もまたアビドス自治区を敵に回す行為が如何に危ない橋であったかを理解していなかった。
だが、少なくともカイザーとアビドスを攻撃して連邦生徒会と敵対し、完全武装のゲリラ並みの抵抗勢力がそこら中から沸く、などという最悪の未来は回避されたのだった。
◆
大統領と国務長官が話し合っていた時、カイザー・コーポレーション内でも協議が行われていた。
勿論、内容はかのアメリカ合衆国についてである。
カイザー内での異世界に対する姿勢は、一筋縄では行かないほど複雑な物だった。
まず、プレジデント率いる融和派。
彼らはアメリカ合衆国と手を取り合う事でアビドス自治区やシャーレを牽制し、本来の計画をより円滑に進めようと云う意見を持つ派閥だ。
異世界から参入してくる勢力、ともなれば必ず未知の資源や新たな経済市場を求める。
これに漬け入れば、彼らの協力を得られるのは勿論の事、カイザー・コーポレーション系列企業の地球への参入を行う機会が得られるかもしれない。
ともなれば一先ずは融和姿勢で進めるが吉だろう、と云うのが彼らの見解だった。
一方で、ジェネラル率いる抗戦派。
彼らはアメリカ合衆国は勿論、地球国家の政治家を警戒し、いずれはカイザー・コーポレーションが内部から地球国家の傀儡勢力になってしまうだろうと危惧していた。
それを踏まえ、補給線がゲート頼みのアメリカ軍を勢力が広がる前に叩き潰すことが最善策だと主張している。
米軍のアビドス砂漠進駐以降、これらの派閥によるカイザー社内での対立が深刻化し、プレジデントや幹部陣営はこの対立を治めたいと考え、アメリカに対する最終的な姿勢を決定する会議を開いたのだ。
「プレジデント、今こそが攻撃のチャンスです。彼らは警告にも関わらず我がカイザー・コーポレーションの土地に居座り続けている……ならば正当性はコチラにあります!」
「そうですぞ! それに、今なら異世界の兵器や技術を鹵獲するチャンスでしょう!」
会議中、白熱した抗戦派の二人が声を上げる。
カイザーPMCアビドス旅団長と、カイザー・インダストリーの代表取締役の二人は抗戦派の中でも特に意見の主張が強く、度々プレジデントに米軍への即刻の攻撃を求めてきた。
その二人の言葉に、融和派の一人であったカイザー・コンビニエンスの取締役が反論した。
「お前達、先ほどから黙っていれば調子に乗りよって…!! 異世界の“国家”を敵に回すことが如何に社にとって重大な事か、分かっているのか!?」
「ふん、そんな事は重々に承知だ。だがな、今
カイザー・コンビニエンスの取締役の反論に、旅団長が鼻を鳴らしてそう応えた。
確かに、彼の主張もある意味では間違っていない。
米軍は進駐したばかりで、軍隊の命綱たる補給路をゲートに頼り切っており、普通の軍隊ならば叩き潰す事はそう難しくはないだろう。
ここで、沈黙を保っていたプレジデントが静かに口を開いた。
「……旅団長。君は本当に我々がアメリカ合衆国と戦争をして勝てると思っているのかね?」
「…は?」
プレジデントの言葉に、旅団長は困惑の言葉を漏らした。ついさっき、勝てる根拠を提示したばかりじゃないか、と。
だが、プレジデントはお構いないに言葉を続ける。
「勝って、その後はどうする? 君の作戦では基地に空爆若くは砲撃を叩き込む──つまり、相手方に確実に犠牲者が出る方法とっているが…仮にそれで勝てたとして、君は
プレジデントは知っている。
日本政府から齎された地球の歴史をいち早く手に入れ、地球に於ける『国家』がどの様なものなのか、彼らはどのような外交を行うのかを学んだ。
それを踏まえて、思う。
地球国家と全面的に対立して、自分達が成功する事は無いだろうと。
「彼の国は……アメリカはかつて、日本と戦争をした事があった。原因は複雑で一概に語る事はできないが──直接的な原因は、日本が仕掛けた『真珠湾攻撃』だ。今まで別大陸での戦争を傍観し、不干渉の立場を取り続けてきたアメリカだったが、自らに被害が出た瞬間に彼らは変貌した。本格的に国を上げた戦争体制に移行し、国家の全てが戦争に注ぎ込まれ……かつて一つの海を支配し、栄華を誇った日本を僅か数年で降伏に追いやったのだよ」
かつての日本は、強大な力を持つ国だったと聞いている。
技術水準の話は置いておいたとしても、戦力だけで言えば我々カイザー・コーポレーションを悠に壊滅に追いやれる程の力はあった筈だ。
だがその日本軍は、僅か数年で米軍に大敗した。
「アメリカは世論に左右される国だ。世論が政府の方針と近しければ、彼の国の力は全力に発揮される。今のアメリカの世論はあくまで『異世界の探査』を望み『現地勢力との衝突』を避けるべきとの声が大きいが……我々が手を出せば、どうなる?」
仮に局所的に勝利しても、最終的にジリ貧になるのはカイザー側だろう。
それに、先月のアビドス砂漠に於ける理事失脚やビナーによる対デカグラマトン大隊壊滅など、情勢がカイザー不利に働く要因が多すぎるのだ。
「……ですが、プレジデント…」
「もう良い、旅団長。ここはプレジデントの意向に従おうではないか」
それでも諦め切れない旅団長であったが、ここでジェネラルが旅団長に諭す様に言った。
もしプレジデントの言う通りになるならば、ビナーをほぼ射程外から一方的に完封できる戦力と火力を持つ軍隊と本格的に事を構える事となってしまう。
そうなれば、仮に地理的要因から講和や停戦に持ち込めたとしても、カイザーの衰退は免れないだろう。
「カイザー・プレジデント。この会議、我々抗戦派が身を引くという形で良いだろうか」
「構わん。では、アメリカ合衆国との話し合いの場を速やかに設けてくれ」
「「「了解しました!!」」」
こうしてカイザー・コーポレーションとアメリカ合衆国の間で、後に『アビドス合意』と呼ばれる会談が実施されるのであった。
◇
米軍がアビドス砂漠に進駐を開始してから6日後。
カイザー・コーポレーションとアメリカ合衆国連邦政府の合意の元で、アビドス自治区に存在するカイザーの施設で会談が行われた。
内容は、今後の両者の関係構築や領土・主権に関する取り決め、さらには協力関係を構築するにあたっての市場確保についてであった。
各項目について、詳しく追っていこう。
まず、両者の今後の関係構築について。
アメリカとカイザーは基本的に協力関係を構築することが合意され、特に軍事・経済面では互いに未知の市場や技術を得ることが出来た為、魅力的な話となった。
米軍がカイザー・コーポレーションの土地を不当に占領した事については、情報不足による不手際として謝罪のみで済まされ、賠償責任等の大きな問題には発展しなかった。
(この際、本来はアビドス自治区の土地である事を度外視して話を進めた事は地球国家とアビドス自治区の実質的政府機関であるアビドス高校廃校対策委員会との対立を深くする事となる)
次に、領土・主権に関する取り決めについて。
この取り決めではアメリカがカイザーと協力関係を構築し、キヴォトスに於いて影響力を広げていく為には橋頭保が必要だと主張する米政府の意見を汲み、ワームホールが開通した地点から半径10キロメートルに渡る土地を米政府主権下に置く事が決定付けられた。
一見するとカイザー側に不利な取り決めに見えるが、これは後述のカイザーPMCと米軍の協力関係に関する取り決めで必要事項となる為、社内からも反対の声は殆ど無かったとされる。
次に、協力関係の具体的な取り決めについて。
こちらではカイザー・コーポレーション──その中でも特にカイザーPMCとカイザー・インダストリーに焦点が充てられた取り決めとなった。
この二社と米軍は軍事的に深い協力関係を構築する事で合意され、カイザー側は異世界の高度な戦術兵器やドクトリンなど、米軍側は弾薬や兵器のハードルが低いキヴォトス製の安価な兵器や小型レールガンなどのオーバーテクノロジーを得られると云う利点があった。
特にカイザー側はアメリカ製の高性能な砲兵技術(MLRSや着弾観測の優れた情報技術など)に加え、戦闘機や爆撃機と云った軍事航空機の技術が渡るのは大変魅力的であった。
それは米軍にも言える事で、キヴォトスは銃や弾薬などの流通価格が地球と比べて圧倒的に低く、弾薬規格も差異は無かった為、軍事費の大幅な節約が期待された。
更に、パワーローダーやレールガンなどの地球には存在しないテクノロジーも米軍高官の関心を多く引き付けた。
最後に、協力関係を構築するにあたっての市場確保について。
両者は協力関係を構築するにあたって互いに新しい経済市場を獲得する事になったが、これらについては条件付きでの経済的進出が認められた。
カイザー・コーポレーション及びその系列企業は合衆国連邦政府の連邦直轄地であるワシントンD.C.に限定して進出することが許され、アメリカの企業はカイザー・コーポレーションが経済地区と定めるD.U.シラトリ区とゲヘナ第4外輪地区、トリニティ第21外輪地区の敷地内に事務所や倉庫を建設することが許された。
他にも詳しい細かな取り決めが成されたが、それは割愛する。
こうして、カイザー・コーポレーションの代表たるプレジデントと米国務長官の握手にて、アビドス合意が締結されたのであった。
◆
「大統領、これから如何しますか? カイザー・コーポレーションは水面下でアビドス砂漠の部隊の大幅な強化を進めているらしく、技術供与を対価に支援を求めてきていますが…」
「ううむ…そうだな、一先ずは連中との関係強化に努めるとしよう。それと国務長官、くれぐれも連中の動きを見逃すんじゃないぞ。仮に我々合衆国に盾突くような動向があれば直ぐに報告しろ」
「了解しました」
大統領はそう言い、机上にあるマグカップを撫でた。
アメリカとカイザー・コーポレーションが『アビドス合意』を締結──つまり実質的に協力関係を構築した事は、地球は勿論、キヴォトス中に衝撃を与えた。
特に、既にカイザー・コーポレーションがアビドス砂漠で良からぬ事を企んでいると察していたシャーレやアビドス高校廃校対策委員会はこれに猛反発。
既に内部からズブズブの汚職関係に染め上げていた連邦生徒会でさえも苦い顔をする始末だ。
だが、そんな事は知った事ではない。
問題は、中露などの地球国家である。
連中はアビドス合意発足発表の数時間後に外交ルートを通じて猛反発して来た。
もしアメリカにのみゲートが開通したのなら、その反発を軽くあしらっていただろうが…問題は、そのゲートがロシアや中国にもいずれ開通する可能性があると云う事だった。
米国各地の研究機関によればゲートの開通条件は不明で、日米に開通した以上、ここ数ヶ月以内に地球のどこかにゲートが出現してもおかしくないとの研究結果が通達された。
つまり、アメリカは中露を始めとする仮想敵国がキヴォトスに参入する事を仮定して動かなければ、異世界に於ける競争に敗れ、
それだけは絶対に避けなければいけない。
「国務長官、ペンタゴンに伝えてくれ。カイザーには旧式の兵器や米軍式の教義を幾らかくれてやるから、速やかに新技術の提供の要求と軍事的協力関係の構築を急げと」
「…よろしいのですか?」
「学園都市を裏から牛耳る企業など確かに胡散臭いが…ロシアや中国に比べればマシだ、それに日本にキヴォトスの経済市場を独占されても困る。できる限り影響力を広げ、連中との協力体制を固めるんだ」
こうしてカイザー・コーポレーションとアメリカ合衆国は、企業と国家と云うには表し難いほどに深い関係を築いていく事となる。
ここまでアメリカが身勝手だとマジで悪役じゃん、と思いつつこの小説はアメリカが悪役(予定)と思い出してこの方がおもろいしいっか! と思ってしまった…