虚実の方舟:Re   作:Oh my PC

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遅れてしまい申し訳ありません


エデン条約調印式(Ⅲ)

 

「キアハハッ! 殺すゥッ! 死ね死ね死ね死ねェッ!」

 

「こ、こいつ……! 止まらな――」

 

 狂気の叫びが、まるで雷鳴のように空気を震わせる。

 瓦礫を踏み砕き、アリウスの生徒とユスティナ聖徒会を蹂躙するツルギ。

 

 彼女の任務は明白――ヒナタ、ハスミ、そして負傷した先生の撤退を援護し、この地獄を生き延びさせること。それ以外に意味など無い。

 

「全体、ツルギに火力を集中!!」

 

「了解!」

 

 命令が響くと同時に、アリウススクワッドの部隊が陣形を整えながら、煙の中から姿を現した。複数の生徒が一斉に前へと飛び出し、瓦礫を跳ね越えて突進する。銃口から閃光が迸り、SMGと散弾銃が一斉に火を噴いた。

 

 空気が引き裂かれ、弾丸が唸りを上げて飛び交う――しかしツルギは怯まない。その身に銃弾が散っても、まるで鉄壁の装甲のように跳ね返し、ただ前に進み続ける。

 

 閃光の向こう、誰かが擲弾を放った。爆風が彼女を包むように炸裂し、辺りの瓦礫を吹き飛ばした。だが――

 

「――無駄だ」

 

 だが今のツルギは、少しの爆薬では傷一つ付かない。

 

 低く吐き捨て、ツルギが動いた。

 数メートル先の敵に向けて、跳躍。

 その一撃で、アリウスの生徒が三人、吹き飛ぶ。着地の衝撃で地面が割れ、周囲の影がぐらついた。

 

「ッ!! いける……今のうちに!」

 

 負傷した先生をヒナタとハスミが、先生を背に走り出す。

 背後で轟く銃声と、ユスティナ聖徒会の悲鳴とも言える金切声。けれども振り返らない。

 足を止めれば、それが命取りだと分かっていた。

 

 だが、その逃走の道にも影は現れる。

 

「駄目、囲まれてる……!」

 

 ヒナタの口から絶望の言葉が吐き出される。

 

 だが、次の瞬間、それらが一斉に爆ぜた。

 閃光と共に破片が四散し、吹き飛ばされた影の後ろから、紫色の閃光が走る。

 あらゆる方向から現れていたユスティナの幻影が、次々とその場から消滅していった。

 

「――先生ッ、無事!?」

 

「げ、ゲヘナの風紀委員長!?」

 

 瓦礫を踏み砕きながら現れたのは、愛銃“デストロイヤー”を脇に担いだ特徴的な白髪の少女――空﨑ヒナ。

 そして背後からは、会場の近郊で待機していたロシア陸軍第1親衛戦車軍隷下の第27独立親衛自動車化狙撃旅団第535自動車化狙撃大隊がヒナに続いて、瓦礫と化した調印式会場に雪崩れ込んでいた。

 

"……ヒナ?"

 

「先生……ひどい怪我。直ぐに手当しないと」

 

 額から血を流した先生が、目の前に現れたヒナの名前を呟く。

 その様子を見たヒナが、彼の額に手を当て、焦燥感溢れる顔で言った。

 

「――大佐、最寄りの野戦病院は?」

 

「確か、ここから2キロ離れた旅団本部にあった筈だ。衛生兵、先生の応急処置をしてやってくれ」

 

 ヒナがロシア軍の大佐に問うと、彼は手元の編成表を眺めながら言った。彼の合図と共に、AK-74を携えたロシア軍の衛生兵が先生の側に駆け寄り、軽い消毒の後、頭に包帯を巻いた。

 

 彼が他に身体で痛む場所が無いかを先生に質問し、大丈夫な事を確認した後に言った。

 

「傷は深刻ではありません。ですが、ミサイルの直撃を喰らったとなると、思わぬ症状が出る可能性があるので、病院で治療を受けた方が良いかと」

 

「そうか……風紀委員長、先生は我々のトラックで野戦病院まで輸送する。迂回ルートを使えば敵にも捕捉され難い筈だ」

 

 衛生兵の報告を聞いた大佐が、ヒナに向かって言った。

 それに対し、ヒナが答える。

 

「分かったわ。その代わり…私も護衛として先生の側に居る」

 

「無論だ。仮にあの幽霊共(ユスティナ聖徒会)が襲撃してくれば手も足も出んからな。ゲヘナの最高戦力が傍に居れば安全に先生を輸送できる」

 

 そう大佐が言うと、瓦礫の隙間を縫って赤十字の記されたZIL-131トラックが現れる。

 その中から降りてきた兵士が負傷した先生を担架に乗せ、速やかに車内に収容する。

 

「風紀委員長、貴方は我々と共に護衛車輌へ」

 

 そう一人の兵士がヒナに話しかけ、ヒナとその兵士はBPM-97装甲車に乗り込み、車列が動き出す。

 

「ゲヘナの風紀委員長――先生を任せましたよ」

 

 ハスミが、車内のヒナに向かって言う。

 

 最大戦力のツルギは奥で単独でミサキ率いるアリウスの部隊を抑え、会場に派遣されていた正義実現委員会の戦力は壊滅。

 たった今目の前に現れた大隊規模のロシア軍を以てしても、ユスティナが波のように押し寄せれば、いつまで持ち堪えられるかは分からない。

 

 つまり今自分がすべき事は、先生とゲヘナの風紀委員長が撤退するのを支援すること。

 例え嫌いなゲヘナと組んだとしても、先生を守る為にはこれしかない。

 

 静かに頷いたヒナを見たハスミは、再び調印式会場の方に向き直り、隣に立っている大佐に話しかける。

 

「ええと……」

 

「マキシム・メドヴェージェフ大佐だ。大佐と呼んでくれ」

 

「分かりました――大佐、現在の会議周辺の状況は?」

 

 ハスミが大佐にそう問い掛けると、大佐が手元の端末を開く。

 彼は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

「調印式会場内の部隊は全滅、周辺に展開していた部隊も爆風や衝撃波で多くが打撃を受けてる。現状無傷なのは我々第535大隊とドイツの第212大隊だけだ。連中を押さえ込むには、些か不安な戦力と言える」

 

 現状、無尽蔵に出てくるようなユスティナ聖徒会とアリウスの部隊を相手取るには、火力支援を受けられない2個大隊では押さえ込むにはあまりにも心許ない。

 これは、ゲヘナで治安維持作戦を展開していたロシア軍だからこそ分かることであった。

 

 と、その時。

 

「――ぁがッ!!」

 

 ハスミと大佐の前に、ガスマスクが割れ、身体中から血を流したアリウス生が一人、空中から地面へと突き刺さった。

 大佐や周りのロシア兵が反応する間もなく、地面に突き刺さった彼女の隣に人影が着地する。

 

「ツルギ…!!」

 

「ハスミ、このままだと不味い。あの沸いてきているユスティナの信徒…あれは際限が無い」

 

 着地した人影――剣先ツルギが、歯軋りをしながら言った。

 

 ツルギはユスティナ聖徒会の群れを一瞥し、肩を回すとゆっくりと立ち上がった。

 

「押し返せるうちに動く、ハスミ、ヒナタ――今のうちだ。私が前を引き受ける」

 

「はい……私も行きます!」

 

 ヒナタが自動小銃を構え、荒い息を吐きながらも決意を秘めた瞳で頷いた。

 

「今は止まれません。先生のためにも、私たちが今ここで食い止めます」

 

 ハスミの言葉を聞いた全員が、その場で小さく頷いた。

 

「聞いたか!? これより先生が旅団本部に到着するまでの間、我々で奴等を食い止める! 総員戦闘配置!!」

 

 大佐の叫び声と共に、ロシア兵たちがその周囲を囲い、各自の配置につきながら次なる交戦に備える。

 PK機関銃が三脚に据えられ、RPGが瓦礫の隙間から狙いを定める。

 瓦礫の間隔が広い場所には、第27旅団戦車大隊のT-80Uが2輌展開し、敵の方向へ125mm滑腔砲の照準を合わせていた。

 

 その静けさの中、地鳴りのような低い振動が伝わってくる。

 アリウスの部隊の影、そしてユスティナ聖徒会の幻影が、再び姿を現した。

 

「来るぞ!」

 

 ツルギの一喝と共に、戦場は再び地獄へと転じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリウスめ…まさかここまで……」

 

 アビドス東部砂漠のアメリカ合衆国軍駐屯地の一室。

 

 米軍の高官が、如何にも不機嫌といった様子で呟いた。

 彼の目線の先には、燃え盛る条約調印式会場と、現場のロシア及びEUの政府関係者の行方不明を伝える報道テロップがモニターに映し出されていた。

 

「裏切りは想定内でしたが、まさかゲヘナとトリニティだけではなく、ロシアと欧州諸国にも全面戦争を仕掛けるような真似をするとは…」

 

「ああ、これは不味いぞ」

 

 隣で同じ報道を眺めていた米陸軍第4歩兵師団のピーター少将が、信じられないといった具合に言う。

 彼の発言に、高官も同調した。

 

 現在キヴォトスに進出している四大地球勢力のうちの二つに喧嘩を売るなどという愚策をアリウスがするとは、流石のアメリカも想定はしていなかった。

 

 そしてこの現状は、アメリカとカイザーにとっては非常に不味い状況である。

 まず一つ目として、両者がアリウスに対して燃やしていた領土的野心が回収できなくなる可能性が浮かび上がったということ。

 二つ目は、自分達がアリウスに対して軍事的支援を行っていた事が大々的に晒しあげられる可能性があり、その『罪』…つまりは、アリウスに支援を行っていたという行為が、アリウスによる無差別攻撃という結果によって、重罪になってしまったということ。

 

 この状態でロシア軍や欧州統合軍がアリウス自治区を制圧し今は稼働状態ではない――訓練不足による――アメリカ製やカイザー製の兵器が発見された場合は、只事では済まないだろう。

 

「少将、直ぐに統合作戦司令部に繋いでくれ。グリーンベレーとデルタフォースを出す。直ぐにアリウスに繋がるポイントを確保し、橋頭保を築くんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリニティ郊外。暗く濡れたアスファルトを、二輌のロシア軍車列が滑るように走っていた。

 先行するのはZIL-131トラック。赤十字のマークが擦れた塗装の上に浮かび上がっており、荷台には担架に固定された先生の姿。

 その後方、BPM-97装甲車には護衛部隊が搭乗し、ヒナもそこにいた。

 

 ヒナは手にした暗視双眼鏡で周囲を確認していたが、次第に瞼が重くなっていくのを感じていた。

 深手を負い、戦場を走り抜けた肉体はすでに限界を迎えつつあった。

 

 しかし、その刹那。

 突如、ZIL-131の運転手の頭部が弾けた。

 短く乾いた破裂音。血液と脳漿がガラスとダッシュボードを染め上げる。

 

「うそ、ここで敵襲――!?」

 

 ヒナがデストロイヤーを構えながら装甲車の上部ハッチを開けた瞬間、ユスティナ聖徒会の白い影が路地から躍り出てきた。

 その異様なまでの静寂と、溢れんばかりの数に、搭乗していた兵士たちが一瞬怯む。

 

「敵襲だ!! 護衛班、降車して応戦しろ!!」

 

 四人のロシア兵が車外へ飛び出し、AK74Mを構える。

 たが、その身体は次の瞬間に、ユスティナ聖徒会の放った銃撃によって弾け飛んだ。

 

「クソッ!! 側面からも来て――ガッ!?」

 

 ヒナと同じくハッチから身を乗り出し、PK機関銃を構えていたロシア兵が叫ぶ。

 と同時に、サプレッサー音が鳴り響いた。

 ヒナが振り返るより早く、その兵士の頭部が貫かれ、鮮血を散らしながらゆっくりと車内に崩れ落ちる。

 

 目の前で人が殺された驚きと怒りでヒナが装甲車から飛び出し、周囲を見回す。

 その時、ヒナの胸部に衝撃が走り、声が漏れる。

 

「カハッ!?」

 

 ヒナは若干仰け反りながらも、撃った相手を特定する為に周囲を見渡す。

 ぐるりと一周見渡したところで、その張本人と思われる人物が、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「ミサキとヒヨリは――例の地球国家の部隊と交戦中か。予定通りだな」

 

「お前…は……うぐッ!?」

 

 その足音の方を向こうとしたヒナに、再び銃弾が襲い掛かる。

 今度は胸部ではなく頭部に直撃し、体力的に限界を迎えつつあったヒナはその場で倒れ伏した。

 

 ヒナは頭部を抑えながら、何とか身体を起こそうとする。

 脳に刺すような痛み。視界がぐらつく。

 だが、彼女の耳には、重い金属が擦れるような衣擦れの音と、ズズ……と濡れた地面を引きずる音が確かに届いていた。

 

 そして──その姿が、瓦礫の先から現れる。

 

 アリウススクワッドのリーダー、錠前サオリだった。

 

 帽子の下から覗く冷たい目、無数のユスティナ聖徒会を引き連れ、その中心で少女は無言のまま歩みを進めていた。

 彼女の左手には、血に染まり、服がずたずたに裂かれたままの男――先生の身体が、無造作に引きずられていた。

 

 意識は戻りかけていたが、抵抗できるほどの体力はなく、先生は半ば気絶したまま地面を滑っていた。

 軍用担架から無理矢理引きずり下ろされたのだろう。

 彼の右肩には血が滲み、皮膚にはアスファルトの黒ずみが張り付き、呻くような息だけがかすかに漏れていた。

 

「……やめろ…」

 

 嗄れた声を絞り出すヒナ。

 その言葉に、サオリは視線を向けることすらせず、ただ足を止める。そして、先生の身体をその場に落とした。

 

 ごつりと、湿った音を立てて横たわる先生の身体。

 

 サオリは無言のまま、腰から拳銃を抜いた。

 光の乏しい雨天の下、その金属は濡れて鈍く鈍色に光る。

 

 彼女はそれを、ゆっくりと、まるで舞うような手つきで持ち直し、銃口を地面に向けたまま、セーフティを静かに解除した。

 

 カチリ。

 

 その音だけで、ヒナの心臓が跳ね上がった。

 

 サオリは一歩、また一歩と先生へと近づき、しゃがみ込む。

 そんな彼女に対して、先生は死にそうな声で問い掛けた。

 

"何が目的、なの……?"

 

 ヒナは既にユスティナ聖徒会に抑え込まれ、弱り切った彼女は抵抗できる状態ではない。

 先生の問い掛けに、彼女は暫し黙り込んでから口を開いた。

 

「トリニティとゲヘナ――連中をこの地上から消し去る」

 

 アリウス分校は数百年前、トリニティで開かれた第一回公会議で他の派閥により争いの火種――鎮圧対象と認定され、厳しい弾圧の対象となった。

 弾圧を受けた彼女達は自治区の端へと追いやられ……やがて、そこで終わりのない内乱や混乱に苦しめられる事となる。

 

 トリニティとゲヘナ、そしてその両者と組む地球国家らに思い知らせる。

 数百年に渡って積み上げられてきたアリウスの憎悪を。

 

「だが、その前に……シャーレの先生。貴様を処理するとしよう」

 

 その言葉と同時に、銃声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルギー王国・ブリュッセル、 欧州連合理事会事務所会議室。

 

 壁の大型スクリーンに再生されたのは、トリニティの調印式会場が閃光に包まれた瞬間の記録映像。

 爆発の瞬間、画面全体が白く染まり、続いて激しい衝撃波がカメラを破壊する音が響く。

 断続的に途切れる通信ログの波と、救難信号のデータが映し出されるたびに、EUとロシアの首脳陣らの表情が険しくなる。

 

「……これが、エデン条約の末路か」

 

 フランス共和国大統領アラン・モローは椅子から身を乗り出し、冷えた声で呟いた。

 その視線は、隣に座るロシア連邦の国家安全保障会議書記ニコライ・ヴォルギンへと向けられる。

 

「ニコライ書記。我々は、もう待つつもりはない。ロシア連邦がゲヘナとの関係を深め、両者の政治的な紛争を恐れていることには理解を示すが……今日の件は、もはや黙認できる段階を超えている」

 

 ニコライは無表情で映像を見つめ続けたまま、腕を組んだ。

 

「我々も同じ意見だ、モロー大統領。すでに第4独立親衛戦車旅団の一部部隊をトリニティ東部の国境地帯へ再配置した。今回の攻撃がアリウスによるものであることは明白。我々はアリウスを学園としては扱わず、テロ組織と認定することを決定した。今後、頃合いを見て対テロ戦争(・・・・・)を開始するつもりだ」

 

 静かに、だが重い口調で語られるその言葉に、会議室の空気がさらに引き締まる。

 

 EU理事会議長であるヘルマン・クラウスが席を立ち、部屋の照明を落とした。

 スクリーンには最新の衛星写真が表示される。

 トリニティ自治区南東の地形、被害を受けた調印式会場周辺の戦力配置が示されていた。

 

「我々は既に欧州統合軍即応コマンドの展開準備を完了している。調印式会場は既に独仏合同旅団と独軍第1装甲師団、仏軍第3機甲師団及び西軍サンマルシャル機甲師団が完全な包囲網を敷き、仏軍戦闘機空軍旅団もいつでも発進可能だ」

 

 図上演習を思わせるマーカーが、次々にスクリーンに現れ、指揮官の声に合わせて移動する。

 

「ロシア軍との境界を維持しつつ、トリニティ中心部――調印式会場周辺の安全確保を最優先とする。目標はアリウス自治区に対する限定的制圧作戦だ」

 

 フランス軍統合参謀本部から派遣されたラフォージュ将軍が頷き、補足するように言った。

 

「トリニティの情報部は、攻撃の直前にアリウススクワッドの一部隊が調印式会場近くで活動していたことを突き止めた。さらに、ユスティナ聖徒会と呼ばれる謎の戦力が現場で多数目撃されている……ただの幽霊などとは思っていない。科学的・戦術的根拠は薄いが、あれは明確な殺傷兵力と見なすべきだ」

 

 ドイツ内務省代表が問いかける。

 

「それで、アリウスを制圧した後の統治計画は?」

 

 クラウスは、躊躇なく答えた。

 

「EUとロシアの共同管理下に置く。それ以外に安定した統治は望めまい」

 

 ニコライ・ヴォルギンが低く笑った。

 

「そのための条件はある。我々ロシア軍は、EU軍の包囲に同調して数個旅団を中心とする攻撃部隊を展開する予定だ。だが、アリウスへの攻撃開始の決断は、今回の件を国際的テロと見なすことを正式に宣言することが前提だ」

 

「問題ない。ブリュッセル宣言として採択し、直ちに国連に提出する」

 

 議長クラウスの言葉が落ちると同時に、各国の代表者たちは一斉に頷いた。

 

「……本物の戦争を知らんガキ共が。我々を舐めた事を後悔させてやる」

 

 ニコライが低い声でそう呟いた。

 

 この日、ブリュッセル宣言と呼ばれるアリウスに対する非難決議、そして対テロ戦争の幕開けを告げる採決が国連で可決された。

 

 あの時、調印式会場に居た数百人の兵士や政治家、マスメディアの職員達。

 彼らには、家で帰りを待っている家族や恋人が居た。

 

 だが、無惨にも彼らはミサイルの爆風に呑まれ、銃で惨殺された。

 

 国連でブリュッセル宣言が電撃的に可決された後、欧州統合軍及びロシア連邦軍は、キヴォトスに於いて適応されていた武器の使用制限を解放。

 この日、アリウス――いや、キヴォトスの全学園が、地球国家の本気の殲滅戦を目の当たりにする事となる。

 

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