この小説は「もし地球とキヴォトスがワームホールで通じるようになったら?」という趣旨の小説です。
話の性質上地球国家間の戦争や学園と国家間での武力衝突のシーンが登場します。
流石にネームドキャラの死亡描写はありませんが、少なからず死者や怪我の描写はありますので、そういうのが苦手な方はブラウザバックをお願い致します。
また、個人的な事情により世界情勢を少しいじらせて頂きました。
(世界情勢とか知るかよ、という人は読み飛ばしていただいて大丈夫です)
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・ロシアによるウクライナ侵攻は、開戦前の西側諸国による積極的内政干渉により発生せず「2022年のロシア・ウクライナ危機」という形で収まっている。
ただし、緊張状態は継続中。
・欧米諸国は急激に成長するアジア国家を鑑みて、対アジア人の政策を促進している。
・日中韓は欧米の対アジア人政策に対抗する為に、相互で宥和政策を画作中。
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※筆者自身も政治関係には疎いので、明らかにおかしだろ!という点があっても見逃してくれると嬉しいです…
午前九時、東京・銀座四丁目交差点。
通勤客と観光客でごった返す歩道を、春の風がビルの谷間を抜けてゆく。
タクシーのエンジン音、歩行者の靴音、スマートフォン越しの外国語が交錯する中――それは、唐突に現れた。
交差点の真上。ビル群の狭間に、何の前触れもなく“それ”は浮かんでいた。
直径は約二十メートル、表面はまるで漆黒の鏡。
光を吸い込むように鈍く輝き、周囲の風景を、どこか歪んだ像として映し返している。
まるでそこだけが空間ごと切り取られたかのような、異質な存在だった。
「……なんだ、あれ?」
信号待ちをしていた中年の運転手が、ふとハンドルを握ったまま呟いた。
視界の隅に引っかかった異物を、脳が現実として処理できずにいる。
ラジオから流れる朝のニュースが、妙に遠く感じられた。
歩道でも、人々が次第に足を止め始めていた。
スマートフォンを空に向け、写真を撮る者。
何かの広告かと訝しげに見上げる者。
そして、目を見開いたまま動けなくなる者。
日常のリズムが、ゆっくりと崩れ始める。
突然、球体の表面が脈動した。
ゴォ、という低い音が空間全体を震わせ、球体が明滅するように輝いた。光というより、視神経を直接叩くような“刺激”。
その瞬間、交差点全体が真昼の光の中で白く染まった。
「眩しっ……!」
誰かが叫び、遮る間もなく閃光が爆ぜた。
空間がねじれるような感覚と共に、車のブレーキ音、叫び声、金属のきしむ音が重なって響く。
数秒後、光が収まる。
球体は、変わらずそこにあった。
ただ、交差点の中心にいたはずの観光客の一団が、跡形もなく消えていた。荷物だけが無造作に路面に残され、風に煽られて転がっている。
周囲は一瞬、凍りついた。
そして次の瞬間、爆発的な混乱が始まった。
「誰か倒れてる!」
「おい、あれ見たか!?」
「警察は!?」
「テロか!?」
スマホを握りしめたまま叫ぶ若者。
子供を抱えて走り去る母親。
まるで災害か戦争映画のワンシーンのような光景が、現実となって眼前に広がっていた。
タクシーの中で、運転手はしばらく口を開けたまま呆然と球体を見上げていたが、すぐに我に返った。
「こりゃダメだ、逃げなきゃ……!」
車列を縫うようにUターンしようとハンドルを切るが、すでにあちこちでクラクションが鳴り響き、路上は麻痺していた。
前方でパトカーが急停車し、警官が拡声器を手に降車してくるのが見える。
――銀座は、突如として戦場になった。
◆
異変発生から一時間──
混乱の只中にあった東京・銀座の目抜き通りは、今やほぼ完全に封鎖されていた。
千代田区北の丸公園に本拠地を置く第1機動隊による厳重な交通規制、陸上自衛隊第1普通科連隊の展開によって構築された検問、そして上空には第1飛行隊のUH-1Jや警視庁のヘリがホバリングを続け、報道機関のドローンさえ撃墜され兼ねない警戒態勢が敷かれている。
謎の“物体”が出現したのは、銀座四丁目交差点のど真ん中。
高さ約十五メートル、漆黒の球体。
その表面には星々のような微かな光が瞬き、まるで宇宙の欠片が現世に食い込んだかのようだった。
無音で、無臭。
触れることもできず、計測機器を持ってしても構造の一切を把握できなかった。
付近ではパニックによる転倒や自動車事故が相次ぎ、十数名の負傷者が発生したが、死者は出ていない。
それだけが唯一の救いだった。
政府は緊急対策本部を設置し、直ちにテロ被害及び災害派遣として自衛隊と特殊急襲部隊――SATを投入。
銀座四丁目付近に待機をさせている。
内閣総理大臣・
「……我が国に対する武力攻撃事態とは、現時点では考えにくい…か」
「はい。これほどの巨大な物体を人目の多い銀座に運び込むとなれば、それなりの目撃情報はあるはずです。しかし、今回はそれが全く無い。文字通り、全くです。基本的には警戒を怠らず、未知の異常現象としての対応を具申します」
事務机に肘を付き、顎髭を手で撫でながらそう呟く彼に、官房長官は諭すように言った。
彼の言っていることは全くもって間違っておらず、現にどの情報筋に於いてもあれが人為的に設置、または作成されたとする根拠となる情報が何も見つかっていない。
「そうだな。だが、いかなる偶発事態にも備えるんだ。各省庁は最悪のケースを想定して行動を行なってくれ。くれぐれも、諸外国に隙を見せるなよ」
そして事態は、世界中に衝撃を与える──
その数時間後、時空を隔てた異なる世界において、同様の異変が発生していた。
場所は学園都市キヴォトス。
D.U.シラトリ区、中央区のサンクトゥムタワー前交差点。
ここでも、突如として現れた漆黒の球体が空間を裂くようにして顕現した。
発見と同時に出動したのは、ヴァルキューレ警察学校。
同地区の治安維持を主任務とするこの学校の生徒たちは、即座に現場を包囲し、物理的な封鎖を行った。
「異常空間、確認。警戒レベルを4に引き上げます」
「周囲の民間人は速やかに避難済み。対象に接触したと思われる人物が数名……民間人です。ですが…彼等にヘイローがありません。もしかして、外部の方々でしょうか?」
「だとすれば、これは重大事だ。我々警備局がその場で対応して良いものではない。公安局の派遣を要請しろ、尾刃局長を呼んでくれ!」
キヴォトスの科学技術をもってしても、未知の物体の解析は難航していた。だが、明らかだったのは一つ。
この異変は、単なる天変地異でも、実験事故でもない。
──何かが、繋がりつつある。
やがて、日本の政府内にも、その動きが伝わり始める。
数日が経過した頃、漆黒の球体の表面には“ゆらぎ”が生じていた。まるで水面のように波打ち、光が反射し、ある瞬間には“向こう側”が垣間見えるような感覚すらある。
現場で監視任務に就いていた第1特殊武器防護隊のNBC装備に身を包んだ若き自衛官が、目の前の空間へ89式小銃の銃口を向け、呟いた。
「今、何か見えた気が……人影、か?」
その言葉と同時に、球体の“黒”が微かに光を帯び、低く震えるような音を発し始めた。
それは、始まりの兆しだった。
次回は物体に関する考察を行う連邦生徒会及び日本政府の視点でお送りします。